芸術学事始め - 宇宙を招くもの (中公叢書)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120046674

作品紹介・あらすじ

人間の芸術は自然の再現であるとはいえ、単なる自然の模倣ではない。人間は、自然の造形が持つ均衡や調和、リズムや運動という自然の造形を形象化しながら、本質を抽出しようとする。自然の動と静、あらゆる形から本質を取りだし、抽象化するのである。ところが現代芸術は、抽象を推し進めるあまり、自然から離反してしまった。二一世紀の芸術はどこに向かうのだろうか。

感想・レビュー・書評

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  • 芸術学事始め 宇宙を招くもの
    2020.5.9読了

    小林氏は一貫して、「芸術制作とは世界の中で世界を再現すること」であると主張している。

    世界を再現(本質の再現)するためには、世界の中に自らを投げ出し、世界の語りかけを掴むこと、その特徴を引き出し、それ以外の省略を極めること(抽象化・象徴化)を挙げている。

    以上の意見を芸術の起源、表現の本質、制作の立場、鑑賞者の役割の点から述べ、最後の章では現代アートへの批判的考察を行なっている。

    現代とは原始〜近世にかけて存在した世界像が失われた時代とし、現代アートは以上の章で小林氏が述べた「世界」と乖離しすぎているとする。
    そのため、奇抜さと珍奇なものを求めて、あらゆる試みをし尽くして終焉した感があると述べる。

    たしかに産業革命以降、人々の価値観が大きく変わりニーチェの有名な言葉にあるように「神は死んだ」世界となった。
    つまり、小林氏が述べる「世界」とは、産業革命以前の世界、自然もしくは神話的世界をのみ指しており、近代の人間生活の営みが含まれていないと考えられる。

    そのため、ピカソやダリ、デュシャンやウォーホルといった、人間生活に即した作品に批判的であるのではないだろうか。

    小林氏のように「世界」を自然や神話的世界に限ることは望ましくないのではなかろうか。情報化が進みまさに日々変化する世界において、人間の営みを無視することはできない。昔はよかったと回顧することは簡単であるが、荒波のように変化する現代を乗りこなそうともがく芸術も芸術であるし、私はそんな現代アートが好きである。

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著者プロフィール

小林道憲(こばやし・みちのり)
1944(昭和19)年 福井県生まれ。
1972(昭和47)年、京都大学大学院文学研究科博士課程修了。
現在、福井大学教育地域科学部教授、
麗澤大学比較文明文化研究センター客員教授。
専攻は哲学・文明論。

主な著書
〈哲学研究〉
『ヘーゲル「精神現象学」の考察』『生命と宇宙』
『複雑系社会の倫理学』『宗教とはなにか』
『宗教をどう生きるか』『複雑系の哲学』
『生命の哲学—〈生きる〉とは何かということ』(人文書館)
〈現代文明論〉
『欲望の体制』『われわれにとって国家とは何か』
『近代主義を超えて』『20世紀を読む』
『二十世紀とは何であったか』
『不安な時代、そして文明の衰退』
『対論・文明のこころを問う』(共著)
〈比較文明論・日本研究〉
『古代探求』『古代日本海文明交流圏』
『文明の交流史観』等がある。

「2008年 『生命(いのち)の哲学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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