廉太郎ノオト (単行本)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120052316

作品紹介・あらすじ

廉太郎の頭のなかには、いつも鳴り響いている音があった――

最愛の姉の死、厳格な父との対立、東京音楽学校での厳しい競争、孤高の天才少女との出会い、旋律を奏でることをためらう右手の秘密。

若き音楽家・瀧廉太郎は、恩師や友人に支えられながら、数々の試練を乗り越え、作曲家としての才能を開花させていく。そして、新しい時代の音楽を夢みてドイツ・ライプツィヒへと旅立つが……。「西洋音楽不毛の地」に種を植えるべく短い命を燃やした一人の天才の軌跡を描き出す。

時代小説家最注目の俊英が、ついに新境地・明治へ!

感想・レビュー・書評

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  • 東京音楽学校で知り合った姉妹に幸田延と幸がいてこの二人は幸田露伴の妹たちだったとか。日本の西洋音楽の先駆けになったそうで、「鳩ぽっぽ」「お正月」を作詞した東くめと幸は親友で滝廉太郎とも親しかったとか。勿論作曲は滝廉太郎ですね。
    優秀な人材が東京に集められ各方面で活躍が期待されていた時代。ビッグネームがうじゃうじゃいてそのつながりを想像するだけで嬉しくなりました。
    そしてその中の音楽分野の第1線に幸田姉妹や滝廉太郎がいて互いの才能を開花させるために切磋琢磨した日々が輝いてみえました。結核にかかり23歳の若さで世を去った廉太郎の無念、関わった人たちが彼の未完の想いを繋げようと頑張っていく姿にビビってきました。
    100年越えて、いまだに名が覚えられてるのは教科書にでてきた人物くらいになるんだなあとゆうところでした。
    小説読んだことないのに幸田露伴とかの名前は知ってたりするところが歯痒かったりです。

  • 絵師を描くことが多い谷津さんにしては珍しい類の作品かも。『廉太郎』とは滝廉太郎、『ノオト』はノート(楽譜?)と「の音」を掛けているのかと勝手に想像。

    滝廉太郎と言えば「花」「荒城の月」などの教科書に載るような有名曲の作曲家、そして若くして亡くなったことくらいしか知らなかった。この作品では作曲家というよりはピアニストとしての成長が多く描かれていたので新鮮で興味深い内容だった。

    23歳という若すぎる死をまるで予見したかのように十代半ばで頭角を表し、その後も駆け抜けるようにピアニストとしてそして作曲家として階段を駆け上がった廉太郎。
    しかしついに『天井』を突き破る前に病が彼を連れ去ってしまった。

    『天才とは、他の人が諦めてしまった天井に挑み続け、ついには破ってしまった人間のことだ。だが、そうした人間にはさらなる天井が現れ、そのたびに自分なりに答えを出していく。傍から見れば天井がないように見えるが、それは違う。己の頭上にある天井に果敢に挑み、破り続けているだけだ』

    ここに描いてある滝廉太郎青年は一般的にイメージする天才型ではなかった。ピアノの奏法や座学など、飲み込みの速さという点においては才能はあったのだが、その先にある、人に響く演奏という点においては常に悩みなかなか思うようにならなかった。
    そして彼の前には常に天才バイオリニスト・幸田幸(幸田露伴の娘)がいた。幸はいわゆるツンキャラなのだが、彼女の叱咤により廉太郎が伸びたことは間違いないだろう。

    他にも幸の姉で恩師の幸田延を始めとする教師たち、ピアノで一皮剥かせてくれたケーベル師、廉太郎を役人にさせたい父から庇って音楽の道に行く助力をしてくれた叔父・大吉などたくさんの協力者や仲間たちがいた。

    何よりも廉太郎が音楽に触れる原点となった亡き姉・利恵は常に彼の心にいた。
    廉太郎は幸のように自分が全面に出るタイプではなく、ピアノ演奏も作曲も誰かと和を奏でることを求めていた。それは幼い頃の利恵との琴の演奏が原点にあったのかも知れない。

    彼の死が結核によるものだっただけに、当時としては仕方のないことかも知れないが遺品のほとんどが焼かれてしまったというのは残念。せっかく集めた楽譜や資料も自身の手で焼却されてしまった。未発表の楽譜もあったかも知れない。
    しかし子どもたちに西洋音楽を馴染ませたい、それもただ西洋音楽を押し付けるのではなく日本人にも馴染める音楽をということで子どもたち向けに作った作曲集は今でも残っている。
    『もういくつねるとお正月~』のあの曲も彼によるものだとは知らなかった。
    遺作の『憾(うらみ)』はどんな思いで書いたのだろう。作中では早逝することへの恨みではないと書かれていたが、やっぱりお姉さんと同じ病で自分も早逝するなんてと天を恨んだ気持ちもあるのではないだろうか。

    この時代、結核が死の病でなければもっともっと活躍出来たであろう方たちはたくさんいたので彼に限ったことではないのだが、やはり23歳は若すぎる。

  • ピアノの前に立つとき、たしかに一人。
    重奏であっても、鍵盤を弾くのは自分しかいない。
    怖くて怖くて、打鍵が自信のなさの塊になって、心身が劣等感の塊になる。
    廉太郎のように、自分自身の天井を破りたい。

    姉を追っていたら、自分が音楽を好きだと気づいた廉太郎。
    そこに気づくことは幸せだなと思う。
    「こんなに楽しいこと、やめられない」と。
    気づけて本当によかった。

    馴染みのない人だった瀧廉太郎を
    少し近くに感じた。

    いつ終わるかわからない命。
    取り組めるこの日々がありがたい。
    精一杯やろう。

  • 瀧廉太郎、この作品を読むまで、こんなに若くして亡くなった人とは知らなかった。
    (教科書のモノクロ写真は、私には何故か皆年配者に見えていた。)

    廉太郎の、音楽と共に生きる日々が読みながら胸にすっと入ってくる。
    同じ道を行く同志や師との関わりも描かれ、芸術の道を進む熱さ、厳しさ、美しさに引き込まれていく。

    「天才とは、他の人が諦めてしまった天井に挑み続け、ついには破ってしまった人間のことだ。だが、そうした人間にはさらなる天井が現れ、そのたびに自分なりに答えを出していく。」
    音楽に限らず、高みを目指す姿は本当に心惹かれる。

    読み終わり、「憾」を動画で聴いた。素晴らしかった。

  • 瀧廉太郎の作曲『荒城の月』がとても好きだ。
    哀調の調べが美しいし、今は石垣だけとなっている城が当時の姿を取り戻し、楼閣で酒を酌み交わす武将たちの姿が月光の中に浮かび上がるようだ。
    傾ける盃に、夜桜の花びらがはらりと落ちる。
    まさに日本の叙情の世界。

    「クラシックTV」のメンデルスゾーンの回を観ていた時のこと、彼が作った音楽院に入って勉強した日本人がいる、それが「瀧廉太郎」!
    と聞いてびっくりした。

    そしてこの本を手に取った。
    23歳の生涯はあまりにも短い。
    明治は、「鎖国」の間に日本が取り逃していた世界の文化を貪欲に吸収すべく、各分野が活動に励んだ時代。
    音楽に関しても、西洋音楽を取り入れようと力を尽くした人たちがたくさん居た。

    子供の頃、教科書に載っていた唱歌。
    『荒城の月』以外にも好きな歌はたくさんある。
    何も考えずに歌っていたけれど、あの美しいメロディーは、西洋の音楽と日本の心の融合だったのだなあと思う。
    もちろん、廉太郎はまだやりたいことがたくさんあったし、早すぎる死は無念だったと思う。
    しかし、彼の作った歌は今も生き続けている。素晴らしいことだ。

  • 滝廉太郎の音楽に取り組む姿勢、若くして亡くなる間に残した作品の数々に心打たれた。
    人生を知った後、曲を聴くとまた違って聴こえそうです。
    幸田幸との関係が、作中を貫く軸になっていて、二人の奏でる協奏曲のように絡み合って味わい深い。
    久々に心打たれた作品でした。

  • 今年の感想文コンクールの、全国の高校生部門の課題図書。読み出しは何だか味気なくて、遅々として進まず。でも音楽学校に進学したあたりから、廉太郎の苦悩や特に成長ぶりに目を奪われ、思ったよりも早く読み終えることができました。「花」や「荒城の月」でしか知らなかった、滝廉太郎の夭折するまでの生き様が分かると同時に、西洋音楽が日本にどう根付いていったのかを知ることも出来ました。

  • 瀧廉太郎というと真っ先に浮かぶのが『荒城の月』と『花』。他には?と言われたら、この作品を読むまで分からなかった。こんなに身近な歌を世に送り出した人だったのかと再認識。
    他の方の感想で青春小説と書かれていたんだけど、それもその筈、享年23歳では生涯のほとんどが青春だ。
    序盤で亡くなったお姉さんの影響で楽器を演奏するようになる廉太郎だが、お姉さんは楽器(琴)が好きだが才能がない。私もお姉さん側の人間だからそのあたりはよく分かった。
    才能に恵まれた廉太郎は東京音楽学校に入学する。いろいろな壁にぶちあたりながらも、良きライバルや同級生たちと研鑽を積みながら少しずつぶち破り、ついには海外留学することになる。しかし、西洋音楽の本場でさらに上を目指そうとした矢先、終わりがあっけなくやってきた。
    短くて儚くて、でもそれゆえに濃密だった人生が廉太郎の奏でる音楽と共に綴られている。そして、廉太郎の原風景の一部となっている水琴窟の音色、これもまた廉太郎の人生を表した描写となっているのかなと思った。
    蛇足ですが、奏でる音楽を文字で表している(音の強弱や技術の程度、そこからにじみ出る気持ちなど)、小説なので当然なんですけど、素人小説を書いている身からするとプロの作家さんて凄いなと脱帽。

  • ひたすら真面目に描かれている廉太郎
    でも音楽を介した仲間たちとの友情が魅力的
    共通するものに向かっていくのはいいですね
    自分も一人じゃない事を幸せに思って
    何とか乗り越えて行きたいです

    音楽モノは蜜蜂と遠雷以来かな
    文字に表現するっておもしろい(^^)

  • 大分の小藩日出の国家老の家柄、御一新で藩がなくなってからは政府に出仕した厳格な父の元に生まれた、名家・瀧家の跡取り息子・廉太郎。庭の水琴窟が奏でる音、姉の弾く琴の音色とは別に、廉太郎の心の奥底にはいつも流れ続ける音があった・・・

    20歳にして労咳で亡くなった姉・利恵が、死の間際に廉太郎に託した音楽への夢。その夢に寄り添うように音楽への道を進む決意を固める廉太郎。音楽がまだ道楽とみなされていた時代、「男が芸人になるなどけしからん!」と反対する父を押し切り、日本唯一の音楽学校であった東京音楽学校を目指した廉太郎は、その狭き門を突破し最年少で入学を果たす。

    幸田露伴の妹・延(のぶ)に師事し、めきめき頭角を現す廉太郎。学友と語りあう将来の夢、廉太郎に激しいライバル心を燃やす延の妹・幸(こう)との斬り合いのような重奏シーンなど音楽学校の日々が生き生きと描かれる。友情の温かさ、ライバルの存在があってこその成長、支えてくれる人々への感謝、そんなものの全てが盛り込まれている。これぞ青春!

    努力を重ね、ピアノ演奏のみならず作曲にも才能を発揮、23歳でドイツへの官費留学を果たし、まさにこれからという廉太郎を襲った病・・・。順風満帆な船出を果たしたそのタイミングでの不幸。結果が分かっていながら、そこに到達することを拒む気持ちが抑えられない。
    どれほど悔しかったろう、どれほど無念だったろうそんなことを思いながら、終盤はもう涙なしには読めなかった。

    滝廉太郎と言えば音楽室にあった肖像画と「荒城の月」のメロディくらいしか思いつかなかったけれど、日本の音楽の黎明期に大きな一歩をもたらした作曲家だったんだとしみじみ。今の子供たちはもう廉太郎の作った唱歌を歌わないよね・・・。時代とは言え少し寂しい。

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著者プロフィール

1986年東京都生まれ。2012年『蒲生の記』で第18回歴史群像大賞優秀賞を受賞。2013年『洛中洛外画狂伝』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』で第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。演劇の原案提供も手がけている。他の著書に『吉宗の星』『ええじゃないか』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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