コロナ・ショックは世界をどう変えるか-政治・経済・社会を襲う危機 (単行本)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (141ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120053191

作品紹介・あらすじ

グローバリゼーション、国家間関係、統治のあり方などに関して突きつけられた深刻な問いを浮かび上がらせ、新型コロナウイルスCOVID-19による危機がもたらした5つのパラドックスを指摘する。

感想・レビュー・書評

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  • 権威主義体制は危機の対処には有効でない

  • 著者はブルガリア出身の政治学者でニューヨーク・タイムズにも寄稿しているイワン・クラステフ。ヨーロッパに焦点を絞り、COVID-19後のEUについて分析している。パンデミックはEUを分裂させ、脱グローバリゼーションを加速させ、自由民主主義をゆっくりと終わらせるというが、クラステフは両義的な見方をしている。世界中の人々にとってアフターコロナは未知の世界、という一点のみ共通している。勉強不足で政治の話についていけなかったのが悔やまれる。


    p10
    重なりあった一二の円が描かれていて、そのひとつひとつがよく知られたディストピアを示している。有名なものはすべてそこに含まれていた-『一九八四年』『すばらしい新世界』『侍女の物語』『時計じかけのオレンジ』『蝿の王』など。そして、すべての円が交わる小さな空間に「現在地」と書かれている。

    p12
    COVID-19のパンデミックは、典型的な“グレー・スワン”の出来事だった-グレー・スワンとは、起こる可能性がきわめて高くら世界を根底から覆す力がある出来事のことであり、実際にそれが起こると大きな衝撃を与える。〔金融危機や自然災害など、予測不可能で大きな影響を与える出来事のことを“ブラック・スワン”という〕。

    p13
    感染症の流行は戦争や革命と同じように世界をリセットするが、戦争や革命がわれわれの集合的な記憶にくっきりと跡を残すのに対して、これはどういうわけか記憶に残らない。イギリスの科学ライター、ローラ・スピニーが名著『ペール・ライダー』(Pale Rider、未邦訳)で示すように、スペイン風邪は二十世紀で最も悲惨な出来事だったのに、すでにほとんど忘れ去られている。いまから一〇〇年前に、世界人口の三分の一にあたる五億人がこのパンデミックに襲われた。最初の感染例が記録された一九一八年三月四日から一九二〇年三月までのあいだに、五〇〇〇万から一億人が亡くなっている。ひとつの出来事による死としては、第一次世界大戦(死者一七〇〇万人)と第二次世界大戦(死者六〇〇〇万人)のいずれよりも多い。両大戦の死者数を合わせたのと同じぐらいの人が死んだ可能性もある。それにもかかわらず、スピニーが言うように「二十世紀最大の惨事は何だったかと尋ねられて、スペイン風邪と答える人はほとんどいない」。

    p14
    どうして戦争や革命は記憶されるのに、パンデミックは忘れられるのだろう-戦争や革命と同じぐらい、経済、政治、社会、都市建築を根底から変えてしまうにもかかわらず。

    p20
    ベルリンの壁崩壊によって生まれた自由主義社会が終わるということだ。すなわち、民主主義と資本主義の地球規模の広がりを特徴とし、アメリカとヨーロッパの同盟諸国の力と意思によってかたちづくられた世界が終わるということを意味しているのである。

    p24
    クラインフェルドの分析によると、COVID-19ウイルス拡散防止の成否を左右するおもな要因は、過去に同様の危機に対処した政府の経験、共同体のなかにある社会信頼レベル、国家の能力である。クラインフェルドの考えでは、台湾、韓国、香港、シンガポールは、政治体制はさまざまだが、二〇〇二年から二〇〇三年にかけてのSARS(重症急性呼吸器症候群)流行から適切な教訓を得ていた。そしてウイルスに対して先手を打つために、新型コロナウイルスが広がりはじめた直後に迅速な検査をできるようにした。これらの国にはすべて非常事態法があり、国が感染者個人を追跡することを特別に認めて、個人情報の保護の程度を緩めて情報を広く拡散し、ウイルスにさらされた人にそれを知らせて検査を受けるよう促すことができた。また、厳しく隔離を実施してウイルス拡散の速度を緩めることができた。
    COVID-19の広がりを効果的に食い止めた国はすべて、人びとが国の制度に高い信頼を置いている。政府が社会
    うまく管理できるか否かは、強制ではなく人びとが自主的に政府に従うか否かにかかっているのだ。中国、シンガポール、韓国の政治体制はそれぞれ大きく異なるが、政府への国民の信頼度らどの国も世界で一〇位以内に入っている。それに、政府が国民に信頼されていなければ、厄介なロックダウン(都市封鎖)をうまく維持することはできない。

    p29
    「人間は想像力の弱さによって支配される」

    p33
    おそらく最も大きな打撃を受けるのは、南半球の発展途上国だろう。WFP(国連世界食糧計画)の警告では、深刻な食料不足に直面する人びとは二〇二〇年の終わりまでに倍増し、二億六五〇〇万人に達する。

    p38
    経済の減速によっておもに被害を受けるのは、おそらく南半球の発展途上国だろう。天然資源の価格は急落し、送金の価値はおよそ二〇パーセント下がると見こまれている(二〇〇八年の金融危機のときは五パーセントだった)。

    p54
    最近アメリカで出た驚くべき報告によると、新型コロナウイルスの感染拡大によって四十五歳未満の人の五二パーセントが失業、休職、勤務時間の短縮を強いられている。

    アメリカの研究者たちはいま、「C世代」について語りはじめている。「C」はコロナウイルスのことだ。現在、生まれたばかりの赤ん坊でも、子どもでも、大学生でも、最初の仕事についたばかりの人でも、今回のパンデミックによってかたちづくられるのがこの世代だ。

    p58
    文学では、感染症は自由の喪失と権威主義のはじまりを表すメタファーとしてよく使われる。マキアヴェリにとって疫病と病気は、悪政と腐敗がはこびる国家を示すものだ。また、カミュの『ペスト』はファシズムの寓話である。

    p84
    民主主義にとって致命傷になりかねないのは、パンデミックに直面した政府が過剰に反応することではない。経済を守りたいがゆえに、新型コロナウイルスの脅威を控えめに見積もろうとすることだ。

    p122
    たとえば、ともにハーバード大学の大学教授であるスティーヴン・レビツキーとダニエル・ジブラットは、『民主主義の死に方』と題する共著の中で、現代世界で「合法的な独裁」が増えつつあり、民主政が内部から腐食して崩れつつあることを示している。

    p127
    (前略)現代の世界では自由に国境を越えて移動できる高学歴でマルチリンガルなコスモポリタンと、自国にとどまることを強いられて豊かな生活を享受できないナショナリストに分断される。

    p138
    コロナ危機は、危機が感染症そのものよりも、各国の国内政治によって生じることを明らかにした。感染症がもたらす変化は、政治を通した社会変容の形で起きる。社会における優先順位が変わり、外部からは非合理的でしかない手段が選択される。

    p139
    コロナ危機に突入した時点で、政府、企業、家計ともに全体的にレバレッジ(借入などを利用して利益率を高めること。自己資本な少ないままで消費や支出を増やすこと)の度合いは高かった。経済的なダメージに関してはリーマンショック時をしのぐような分野も出てくるだろう。

  • 東2法経図・6F開架:KW/2020//K

  • 世界の枠組み、国家のあり方、生活様式までも揺さぶる「見えない敵」。パンデミックが炙り出した課題や難問を明快に指摘・分析する。

  • 中国の独り勝ち?

  • コロナ禍に翻弄されている現代に対する短い本、または長いエッセイ。
    一番気になったところは、以前のものを破壊するのではなく、増幅するもの、という点。
    現在の社会的な問題点が増幅された場合、どのように過ごすのか、生きるのかを考えたいと思う。

  • 100頁に満たない、短いエッセイだけれど、
    多くの示唆を含んでいる。

    この本はヨーロッパをメインにポストorウィズ・コロナを
    考えているので、島国である日本とは関わりがあったりなかったりする内容が一部あるが、同じ民主主義・資本主義国家として、共通する部分も多い。
    だから、なんとも複雑な読後感を残す。

    「選挙は死に似ている」という文章から始まる一節が
    特に印象に残った箇所だった。そんな捉え方があったとは…

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著者プロフィール

1965年生。ブルガリア出身。ソフィア大学卒。ヨーロッパとデモクラシーを研究する政治学者。ソフィアの「リベラル戦略センター」理事長、ウィーンの「人間科学研究所」常任フェロー。『ニューヨーク・タイムズ』に定期的に寄稿。TEDtalkにも登場。著書に、『アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか』(岩波書店、2018年)など。

「2021年 『模倣の罠――自由主義の没落』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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