台湾漫遊鉄道のふたり (単行本)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120056529

作品紹介・あらすじ

炒米粉、魯肉飯、冬瓜茶……あなたとなら何十杯でも――。
結婚から逃げる日本人作家・千鶴子と、お仕着せの許婚をもつ台湾人通訳・千鶴。
ふたりは底知れぬ食欲と“秘めた傷”をお供に、昭和十三年、台湾縦貫鉄道の旅に出る。

「私はこの作品を過去の物語ではなく、現在こそ必要な物語として読んだ。
そして、ラストの仕掛けの巧妙さ。ああ、うまい。ただ甘いだけではない、苦みと切なさを伴う、極上の味わいだ。」
古内一絵さん大満足

1938年、五月の台湾。
作家・青山千鶴子は講演旅行に招かれ、台湾人通訳・王千鶴と出会う。
現地の食文化や歴史に通じるのみならず、料理の腕まで天才的な千鶴とともに、
台湾縦貫鉄道に乗りこみ、つぎつぎ台湾の味に魅了されていく。
しかし、いつまでも心の奥を見せない千鶴に、千鶴子は焦燥感を募らせる。
国家の争い、女性への抑圧、植民地をめぐる立場の差―――
あらゆる壁に阻まれ、傷つきながら、ふたりの旅はどこへ行く。

感想・レビュー・書評

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  • 一大事。全然小説を読めていない。本棚の偏りを防がなくては…!

    しかしフィクションとなると、いつもレビューの書き方に悩まされる。
    面白かったはずなのに、読後脳内には感想のカケラも残っていない。(これは最大の謎!) 重大なシーンに触れたりしたら、ネタバレになりかねない。
    そんなこんなで、トライアンドエラーを繰り返しながらキーボードを叩いていました…。

    時は昭和13年。
    流行作家の青山千鶴子(以下、千鶴子さん)は、ベストセラー本の講演で台湾に招聘される。そこで本島人(台湾人のことを指す)通訳の千鶴(以下、千鶴ちゃん)と運命の出会いを果たし、講演旅行の傍らで千鶴ちゃんとの台湾食巡りを決行していく。
    台湾グルメに加え、東西の言い回し(漢詩や西洋文学など)を交えた、教養高き2人の会話も見ものである。

    「住み慣れた場所を離れて別の土地で暮らして、この世に生きる新鮮な感覚を取り戻すの」

    千鶴子さんが台湾で過ごした1年を12章でまとめた構成。各章のタイトルはキーポイントとなる料理名になっている。
    これは大食いの青山千鶴子女史じゃなくてもお腹空きますって。。画像はない分料理の解説・調理工程が詳細に記されているから、ガイドブックとセットで持っておきたい!(現代でも味わえる料理を取り扱っているのが嬉しい)

    九州女児 千鶴子さんの、千鶴ちゃん自身に対する押しが強く、図々しいのでは?と思うことも正直あった。(千鶴子さんのモデルが林芙美子だと、あとがきで知って大いに納得。あの豪胆さは相通じすぎている笑)
    「千鶴ちゃんと本当の友達になって、一緒に台湾を食べ尽くしたい」
    千鶴子さんの不器用ながらもまっすぐな好奇心は、シンプルに大好きな台湾や千鶴ちゃんのことをもっと知りたいという想いの表れなのだろう。おかげで物語のキーが次々と明らかになったが、付かず離れず人間の自分はあそこまで踏み込む勇気はないなーと、どうしても思ってしまう^^;

    千鶴子さんは2人の関係を「ワルツを踊っているよう」と例えていたが、それを大柄な千鶴子さんと華奢な千鶴ちゃんに当てはめると、まさに少女歌劇(当時の呼び方に合わせてみた笑)そのものである。
    どんなに千鶴子さんがリードしても本心を明かしてくれず、するりとかわしてしまう千鶴ちゃん。微かなすれ違いを見せながらも、2人を繋いだのはやはり料理だった。

    日本の占領下にあった植民地が舞台ではあるが、目に余るような悲惨な光景がなくて少し安堵していた。でもそれは、大切な内地人(日本人のこと)客として厚遇されている千鶴子さん目線だったから。
    日本によって淘汰され、馴染みの風景が消えていくのは死ぬほど辛い出来事だろう。窮屈な思いも数えきれないくらいに味わったことだろう。

    自分は大学の卒業旅行で一度訪台しているが、関わった老若男女が皆親日であったこと、そして美味しい料理に感動していた。
    あの時の自分も本当のことはちゃんと見えていなかったのかもしれない。しかしあの時育んだ出会いと美味しい記憶は、千鶴子さん同様真っ先に信じていたい。

  • 祝!翻訳大賞ノミネート。すばらしかった。読めて良かった。本当に。
    読んでいて感じたこと、思ったこと、悩んだこと、悲しかった、嬉しかったことはすべて、あとがきにかかれていた。盛大に頷きながら…答えの出せないことだということも。だからこそ、小説が書かれるのだということも。本当に素晴らしい方々だ。"台灣漫遊錄"のあとがき、日本版あとがき、翻訳者あとがき…さいごまで、本当にすばらしかった。

    ここからは自分語りで 大学時代、教授にくっついて観光学を学んだり、学会に出たりした時期がある。観光やら、万博やら、の歴史なんかを学んだりもして、なんて、なんて傲慢な、植民地主義的な行動なのだろう…!と、嫌悪感を感じたりもした。民俗学と、民族学、社会学なんか、いろいろ知ったかぶって、民俗学的に、知るんだ見るんだ…と。青い,青い…(照)そうして色々試行錯誤した、でも結果、"お客さん"でしかなかった自分。その後開き直って中央アジアや台湾へ旅行もしたが、やはり自分は"旅行者"でしかなくて。それにもどかしさや、さみしさや、言葉を覚えられない自分への苛立ちや…千鶴さんと、千鶴子さんと旅することで、あの時感じたような、自分の、理解っていなさ、のようなものと、あたらめて対峙した。そしてその自分をなんだか、ぎゅっと抱きしめたくなった。

    でもなんで、たべものの名前がずらずら、並んでいるだけでお腹がすくのだろう?それもそのはず…池波正太郎大先生を参考にしたとか。なるほど、うまい。彼の食のエッセイが好きすぎて、学生時代、読み漁ったことも、思い出した。ぐうぐう。小説は一編しか読んだことがないのに…エッセイはほぼ、読んだ。なんでだろう?

    そうして、懲りずに、また旅に出たくなった。
    絶対に、台湾へ行き、食べます。鹽酥雞を!

  • 1930年代末、作家の青山千鶴子は執筆や講演のため、通訳の王千鶴と台湾各地をめぐり見聞を広げていく。そんな中、千鶴子は千鶴との距離を縮めたいと考えるが、思うようにはいかない…。

    本作の魅力の第一は何といっても台湾食文化の詳細な記述である。著者はあとがきで、現存するものも、しないものもあると記すが、読めば食べたくなるものばかり。主人公の食に対する強烈な執着についてはその理由も語られ、何とも切ない。

    次に興味深いのは日本人千鶴子と台湾人千鶴の関係性である。政治的に支配、被支配の関係にある中で、千鶴子は自分が思い描くような友情を、千鶴との間で育むことができるか、という問題だ。終盤で千鶴が千鶴子につきつける本音は、今を生きる自分たちにも刺さる言葉である。千鶴の言うところの「いい人」である千鶴子にも、支配する側の傲慢さが知らず知らずのうちに沁みついていて、指摘されなければ分からないままだった。彼女は決して鈍感なのではない。むしろ繊細で敏感な人だと思う。だからこそざっくり傷ついたのだ。

    ところで千鶴子の執筆活動をコーディネートする立場として、台中市役所勤務の「美島」という男性が登場する。台湾で生まれ育った「湾生」の設定だろうか。千鶴子目線で描かれる彼は、中盤までぱっとしないが、終盤で俄然存在感が増してくる。千鶴子が気づかなかった台湾を、彼は切々と語る。すると彼の立場や胸中が、読む側にも迫ったくるのだ。

    本作では二人が戦後直接会うことはない。千鶴子が再び千鶴に謝って再び交流が始まる、といった生易しいものではないと著者は考えるのだろう。しかし彼女たちの経験が無駄ではなかったことも、しっかりと描かれている。私は前半のグルメ編よりも、終盤の戦後、彼女たちの下の世代が活躍する場面の方にくぎ付けだった。

  • 昭和初期、台湾を訪れた日本人作家と台湾人通訳のやりとりを通して台湾と日本の関係を考える。美味しそうな食べ物がたくさん。複雑な台湾の民族を反映して食文化も様々。

  • あとがきまで一気に読み終えた。
    昭和13年の台湾を舞台に日本女性作家と通訳の若い女性との交流が前編、食べ物をメインに明るく享楽的で読んでる間中空腹感に苛まされる。一転後半は日台の重苦しい実情が描かれる。が私は後半の方を好ましく読んだ。しかも次の世代迄を描く事で読後感もとても良かった。

  • 昭和13年。台湾。
    日本人作家と台湾人通訳。
    台湾縦貫鉄道で旅しながらの次々と出てくる台湾料理に台湾へ行ってみたくなるのだけど、歴史的な台湾と日本の関係や、国の関係によっての内地人・本島人の関係性。
    作家・千鶴子と通訳・千鶴の関係もまた当時の台湾と日本の関係性のように対等にはなれずもどかしい。
    ただ台湾料理を食べ歩くストーリーではなく、様々な人間模様が見られ、植民地時代の台湾の情景がとてもよく描かれていたように思う。
    そして……台湾料理、おいしそう(ㅅ´꒳` )

  • 作品の構造がお見事
    あとがきの最後の最後まで読むべき作品

    実際に旅をしているような気持ちで読み進めました
    出てくる料理が馴染みのないものでどんなものかなと想像しながら読むのが楽しかったし、恵まれた立場の人間のダブルスターダードや無自覚の傲慢さに身に覚えがありキュッとなったりも

    良い読書体験でした

  • 通訳千鶴さんの考えていることは、わたしも青山先生同様、台中市役所美島さんに説明されるまで、うまく推察できませんでした。本島人と内地人の関係性は、阿盆師が登場し「日本人のために料理しないよ」(250頁)のセリフと、賭けで負けた時のルールは守り、手のこんだ12品の宴席料理を完璧に提供したあたりで汲み取れても良かったように思いました。美島さんの「この世界で、独りよがりな善意ほど、はた迷惑なものはございません」(311頁)あたりで、大変面白く読んできた青山先生の台湾滞在記は、ハラスメントへの気付きとその後悔、それでも残る思い出でいっぱいの話に受け止め方が変わりました。

  • 物語の舞台は昭和13年、日本植民地下の台湾。講演旅行で台湾へ渡った日本人の若い流行作家の青山千鶴子は、博識で美しい台湾人通訳、王千鶴と出会います。妖怪並みの胃袋を自認し、食への並々ならぬ情熱をもつ千鶴子と、実は天才的な料理の腕前をもつ千鶴。そんな二人の女性が、台湾を鉄道で旅する物語は、庶民の食卓から屋台飯、伝説の女性料理人がつくる、究極の宴席料理まで、豊かで奥深い台湾料理の世界へ読者を誘います。
    もっとも、この小説は美食を味わうだけではありません。千鶴子は台湾の地で、日本の植民地政策の欺瞞、傲慢な日本人の意識、台湾人への様々な差別や偏見を目にすることに。そうした歴史を知る時、読者も一抹の苦さを覚えることになるはずです。

  • 2024年2月21日図書館から借り出し。2月24日に読了。久しぶりに残りページが少なくなって、もったいなくて読み残すということを味わった。
    著者は台湾在住の双子の姉妹、残念ながら妹さんは2015年に30歳の若さで癌で亡くなったが、現在もなお楊双子という筆名を使っているようだ。
    台湾というと、東日本大震災時の多大な支援で親日国と思われているようだが、日清戦争後の下関条約により1895年に日本の植民地とされ、1945年の敗戦まで約半世紀にわたって日本の占領を受け、言葉も宗教も押し付けられた歴史があるので、複雑な思いがあることを台湾人の同級生からずいぶん昔に聞かされたことがある。
    この小説は、昭和13年に台湾を訪れた日本の女流作家と通訳として同行した女性の食べ歩きの旅行記の体裁を取っている。二人とも知的素養は高いので、二十代とは思えぬセンスのある会話を続けながら美食を楽しむ。
    作家はリベラルな考えの持ち主で、帝国主義日本の植民地政策には反感を持ち、通訳の台湾人に対する差別的な扱いには憤慨し、二人は友達だと信じ切る。
    しかし、それは占領者の傲慢に過ぎなかった。
    日本の植民地経営により台湾は豊かになったという日本人も多くいるが、「善意からの援助であっても、基本的にはただの傲慢にすぎない」、「この世界で、独りよがりな善意ほど、はた迷惑なものはございません」。
    もう一方で、作家と通訳の女性二人は深い友情でつながっていて、訳者あとがきでは一種の百合小説ともされている。戦前の女学生の間では女性同士の恋愛というか憧れみたいなものをエスと言っていたようだ。その言葉は、母親と女学生時代の同級生の家に連れられていったときに聞かされ、あなたのお母さんは、下級生からいっぱい付け文をもらっていたのよと言われたことを思い出した。現在のレスビアンといった過激なものではなかったとは思うが。
    なお、この翻訳は三浦裕子さんと言う方の卓抜した日本語で、極めて読みやすいものとなっていることに触れておかなくてはいけない。日本語能力が極めて高い方と感心する。

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著者プロフィール

台湾の小説家であり、大衆文学とサブカルチャーの研究者。「楊双子」は双子の姉妹「楊若慈」と「楊若暉」の共同ペンネーム。これまでの出版作品は撈月之人』『花開時節』『花開少女華麗島』『臺灣漫遊錄』及びアンソロジー『華麗島軼聞:鍵』。

「2022年 『綺譚花物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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