都市の論理: 権力はなぜ都市を必要とするか (中公新書 1151)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121011510

作品紹介・あらすじ

現在、世界は未曾有の繁栄を享受する一方で、歴史上かつてない膨大な飢餓人口をかかえている。しかも、第一次産業への就業率の高い国ほど食糧事情が悪化し、都市化した国ほど飽食するという傾向は顕著である。食糧を消費する側の都市より生産する側の農村が飢えに苦しむというパラドックスはなぜ生じるのか。本書は、食糧という人類の根源的課題を軸に、権力の鏡としての都市の可能性と役割を斬新な視覚から問い直す試みである。

感想・レビュー・書評

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  • ○食糧を生産しているにもかかわらず農村は真っ先に飢え、食糧を生産していないにもかかわらず都市はなかなか飢えない。ここには農村と都市の奇妙な逆説が存在します。この逆説を作り出す見えない力が権力です。

    ○そこで本書は、都市と権力のそれぞれについて説明をしたあと、国家と都市、都市と農村の権力的な関係がどのようになっているのかということについて論じています。

    ○おおざっぱに都市の成立をまとめれば以下のようになるのでしょうか。(1) 自給自足的な村落から都市・農村が分離してゆき、権力関係が成り立つ(本書には書かれていませんが、これは、権力の確立によるという見方と、余剰生産物の発生によるという見方がありますね)。(2) 人々の生活を保障するという目的をもったとき、(3) 膨大なモノ(そして労働)の集中と人々の合意(実はこちらのほうが難しい)というきわめて難しい要因をクリアして、政治・経済・宗教といった諸機関を統合した都市が成立する。

    ○感想としては、一部、図の分かりづらさ(p. 43の図が分からないんです。ごめんなさい。涙目)が気になりました。ですが、権力という視点から都市・農村そして国家などをみる手短な本としては、関心がある方には面白いのではないかなと思います。

    疑問:「農民が生み出す物の価値を相対的に低下させようとする」新しいルールに対して抵抗するから農村は「保守的・閉鎖的」だという話がありましたが、反対に、農村が生み出す物の価値の向上を求めて「革新的」になることはないのか。農村は「あきらめ」ているというだけだと、少しわかりにくい気がする。


    * メモ *

    ○国家の権力は都市・農村を支配しようとすると同時に、人々に(安全や十分な生活などの)幸福をもたらすという正統性によって支えられる。

    ○みずからをまかなうだけの食料を生産できない都市は、農村で余分に生産された食料(余剰食料)を調達することによって維持している。しかし都市は、農村の収穫量に関わらず、その余剰を作り出す権力をもつ(p. 21-)。その権力は、人々の幸福な生活という目的によって正統性を得る(p. 55-)。

  • 都市は権力の集積場。

    政治権力(軍隊)は、統治される人々が必要。
    宗教権力(寺社)は、信じる人々が必要。
    商業権力(問屋)は、売る人々が必要。

    "そういった、人々が多く集まる都市には、必然的に権力も集中する。"

    そして、その権力は農村にまで及ぶ。

    --

    最初と最後読んだ。 20130829

  • 都市に関する一般向けの書としてはそれほど新しいわけではないが、権力の網の目と我々が生活しそれに依存し享受している都市との関係を、多様なエッセンス、雑学を交えながら考察して行く一冊。
    主題は、都市が、都市への食糧供給を可能にし、また未来にも安全と生活を保証しうるもの、つまり権力によって成り立っているということである。
    切り口は面白いが、話があっちゃこっちゃいく。著者は話し上手なんだろう、なんの話をしてるのかわからないような論の進め方でも、楽しく読める。

  • 都市の対極は農村である。それは農業従事者とそれ以外の民の境界線でもある。歴史的に農村は飢えることはあっても、都市は飢えることがない。単純には農村が食料を生産し、都市は生産しないのであるから、先に飢えるのは都市であると考える。しかし、都市はただの家屋や商業の集積場ではない。それは権力の集積場である。

     政治権力(軍隊)、宗教権力(寺社)、商業権力(問屋)などは、権力の拠り所として都市を必要とし、都市は権力を拠り所にして存在が可能になる。権力の集積場である都市は農村に対してさえ、その食料を政治的宗教的商業的に強制して徴収することが可能になる。

     世界レベルでも、第一次産業従事者の割合が高い国ほど飢饉で苦しむ確率が高く、割合が低い国ほど飢えることが少ないという。

     都市がいかにその権力構造をして形成されていくかは興味のあるところであるが、残念ながら著者は都市の専門家でありながら都市の本質を究極まで追究することには成功していない。恐らく、もっと精密に分析をした都市論が他に可能であるはずである。

  • かつて城壁によって都市が守られていた時代から、現代における国境が作り上げられる時代に至るまでの変遷や、都市と農村との関係についてダイレクトな表現によって書かれている部分が興味深い。

    また都市において農村で作られた野菜などが、どのように人々によって処理されていくのかといった流れについても、都市の悲しい実情が記されている。

    しかし読む人の立場によっては、非常に辛い内容の箇所がいくつか見られるかもしれない。

  • [ 内容 ]
    現在、世界は未曾有の繁栄を享受する一方で、歴史上かつてない膨大な飢餓人口をかかえている。
    しかも、第一次産業への就業率の高い国ほど食糧事情が悪化し、都市化した国ほど飽食するという傾向は顕著である。
    食糧を消費する側の都市より生産する側の農村が飢えに苦しむというパラドックスはなぜ生じるのか。
    本書は、食糧という人類の根源的課題を軸に、権力の鏡としての都市の可能性と役割を斬新な視覚から問い直す試みである。

    [ 目次 ]
    序章 都市と人類の発展―人間の鏡としての都市
    第1章 都市とは何か―都市と権力の概念と論理
    第2章 都市の建設―都市形成の論理と権力
    第3章 都市の威容―舞台としての都市
    第4章 上演されるドラマ―人間・国家・秩序
    第5章 都市の思想―都市的人間と反都市主義
    終章 都市論の新たなパラダイムを求めて―都市へのもうひとつの視角

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    [ 参考となる書評 ]

  • 都市と農村の関係は切っても切れない。

    都市では食物を生産していないにもかかわらず、飢餓が生じないのはなぜか。それは、農村で生産されたものが都市へと流れてきているためである。農村からそのように都市へと流通しているのは、農村が都市によって形成されたものであることに要因がある。農村が農村足りえるのは、都市という存在がある為である。

    都市は農村から食物を搾取するものであり、そうした面で権力を有しているといえる。ただ、権力論で見るように、権力にも様々な形が存在する。都市が有している権力は、暴力的側面ではなく、同意の側面のものである。農村は、都市に搾取されることに同意しているのである。都市有する権力の正当性はどのように担保されるのか。都市は搾取の変わりに、文化などを農村に提供している。

  • 権力論にかなりのページが割かれているけれど、内容はさらっと読めて面白いですよ。

  • 藤田弘夫は写真から都市社会学したり、問題意識が大衆寄りでおもしろい。

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