能力構築競争-日本の自動車産業はなぜ強いのか 中公新書 (中公新書 1700)

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  • Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121017000

作品紹介・あらすじ

日本の自動車産業は、製品の品質、世界市場でのシェアなど現在も世界トップレベルにある。またカンバン方式、TQCなど日本発の生産システムが「グローバルスタンダード」となっている。これほど国際競争力があるのはなぜなのか。その強さの秘密に、企業が生産・開発現場で総合的な実力を競いあう「能力構築競争」という観点から迫り、長期不況下にあって自信喪失に陥っている日本企業の再生に向け、明確な指針を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • 学生時代

    すり合わせ能力

  • 105円購入2011-10-06

  • トヨタの「マニュファクチャラーとしての能力」がいかに優れているか、それがどのようにして構築されてきたのかについて非常に深い考察を重ねる。この能力は、創発的なアプローチのたまものであり、能力を構築する能力の高さに帰着できることを喝破。非常に参考になる。製造業のマネージーのみならず、すべてのビジネスマンへ。

  • 2003年刊行。戦後日本の躍進を支えた製造業、特に自動車製造にかかる日本のモノ造りの特色と長所(特にトヨタ方式)を、史的経緯・システム構築などの面から解読し(「能力構築競争」に由来する)、現在低迷する他の製造業者や自動車製造業者の処方箋の一助にしようとする意欲作。重複が多く、よりシンプルに圧縮できたとは思うが、内容は充実。特に、偶然など要因が明快でない試行錯誤から製造方法の暫時改善がなされた(創発的革新)点、日本をキャッチアップしようとした欧米メーカー、果ては将来像まで広く叙述。少し古いが参考になる。

  •  「日本の自動車産業は、なぜこれほどまでに強いのだろうか?」以前から、私の頭の片隅に漠然と存在していた疑問が、本書を読むことで氷解した。

    本書は、わが国の自動車産業が、国際競争でもトップレベルを維持し続け、なぜ世界シェア30%を占めるまでに至ったのか、そして、なぜ21世紀に入った現在も最高益を更新し続けているのかについて、主にトヨタ自動車をケースとして取り上げ、「もの造り経営学」の視点から競争の本質について分析した、興味深い書である。

    著者は、能力構築競争とは、「企業が経営の質を高めるために切磋琢磨し、組織能力を改善することによって深層の競争力レベルで競い合うこと」だと定義し、企業・産業の長期的な発展パターンを、この「能力構築競争」という視点から分析している。

    著者はこの視点を軸に、自動車企業の長期的反映の重要な要件として、①顧客や株主を満足させることのみでなく労働者に人気があること、②地域社会への貢献が認められていること、③サプライヤーと長期的に共存共栄できることを要件とし、従ってこの用件を満たすことにより、わが国の自動車産業は強さを誇ってきたと述べている。
    そこで私は、今日の競争力の形成にあたって必要な条件として、企業の社会的責任(CSR)の徹底を、④として提案したい。なぜならば(①~③にも当然含まれていると思うが)、現代企業に求められる社会的な責任は、従来の経済的あるいは法的な企業の責任を大きく超えた概念にまで広がっているからである。特に欧米を中心として、CSRは広く浸透しており、社会的責任投資というスタイルまで確立されている。CSRは競争力強化のためには、もはや不可欠の要素となっている。

    つまり、「法令順守やコーポレートガバナンスなど、倫理面や経済性への配慮」を含めた①~④が競争力の重要なポイントになる。その結果として、「リスク・マネジメントの強化」、「ブランド価値の向上」、「優秀な人材の確保」、「市場からの評価」といった企業の長期的な安定性や成長性のための要件が確保されるのではないかと考える。

    また、本書では、自動車産業の光のあたる部分だけでなく、もの造り能力と戦略能力のアンバランスなど、能力構築競争によって生じた影の部分にも触れており、製造業の現状分析として、誠実に向き合っている。

    以前、トヨタ自動車のグループ企業に勤務していた私にとって、「QC」「かんばん方式」などは日常的に実践していたことであり、本書の内容は、非常に身近に感じることができた。実際、トヨタ企業では、製造ラインは勿論、情報システムや経理、営業に至るまで、品質向上や環境対策などの「カイゼン」意識が従業員に広く浸透している。その意味においては、現場において競争力は今現在も常に向上しているのである。

    「もの造り」は平成不況とともに評価は低くなり、悲観論がささやかれてきたが、実は自動車産業においては、いまだ競争力は強さを維持し続けていることが、本書を読むことによって理解できた。企業にとっては、業種・規模を問わず、「深層の競争力レベル」の維持・向上が、共通、しかも今日的な課題になっているのではないだろうか。その解決のためのヒントが、本書では述べられていると思う。

  • 日本のもの造り産業における企業の組織能力に関する1冊。自動車産業を例にしており、とても分かりやすかった。
    日本のもの造り(特に自動車産業)では深層の競争力が高く、すり合せ製品と日本の組織能力はとても相性がよい。深層の競争力とは、顧客が目で見て評価しにくいものである。例えば、開発リードタイム、生産性など。藤本氏は競争を表層の競争力と深層の競争力とに分けられると考えている。表層の競争力は収益につながる。しかし、表層の競争力は深層の競争力によって実現し、高い企業組織能力があって、高い深層の競争力を実現できる。日本の高い組織能力の例として、フロントローディングなどがあげられていた。だが、過剰な能力構築だといわれるようなこともあり、確かにそうだとも言える。しかし、もの造りにおいて、組織能力を構築することが大切。それを活かす戦略に日本は弱さを持っており、欧米などを手本に見習う必要があると藤本氏は指摘。
    深層の競争力が強くなったことを過去の歴史と共に説明していて、とても分かりやすかった。創発によって企業の組織能力は高められるが、それは必ずしも意図した経路からは生み出されない。結果的によかったといった事後的に合理的なこともある。どのプロセスをたどろうが、進化しようとする意志がなければ、組織能力は高まらないと思った。これは日常生活でも同じように感じる。運がいいとか悪いとか関係なく、そのときのチャンスをものにするのは日々の努力。運を引き寄せる努力を日常からすべきだと感じた。

  • 日本の競争力を考えるうえで外せない本。「自動車産業は他の産業と、どこが、なぜ違っていたのか」とう問題意識にこだわり索引まで含め406頁も新書であります。

  • この論考。誤った使われ方をしてしまった。擦り合わせ型のアーキテクチャ礼賛に使われた。これは間違い。
    モジュラー型の威力を強調すべきであった。

  • 以前読んだ「トヨタシステム」と違う、日本自動車産業界の学術的研究書だった。だからといって小難しい理論をこねまわしている訳ではなく、非常に論理だった読みやすい書物だった。本書を読んでみると「擦り合わせ型アーキテクチャー」という産業形態はTプロにもあてはまり、偶然による能力構築という点(ねばり強さ、転んでもただではおきない)ではなるほどと思わせる類似点が見受けられた。(S畑・S三兄弟事件、T-USAの失敗、ST主義)。こと、品質的な面からいえば、ISOの取得はトヨタでいうところの職人的技術の平準化の段階と言えなくないのではないか。そう考えれば、まだまだ品質管理などは始まったばかりであり、品質意識の低さを嘆く余裕などないほど課題は山積み。焦らず弛まずゆっくりと。

  • [ 内容 ]
    日本の自動車産業は、製品の品質、世界市場でのシェアなど現在も世界トップレベルにある。
    またカンバン方式、TQCなど日本発の生産システムが「グローバルスタンダード」となっている。
    これほど国際競争力があるのはなぜなのか。
    その強さの秘密に、企業が生産・開発現場で総合的な実力を競いあう「能力構築競争」という観点から迫り、長期不況下にあって自信喪失に陥っている日本企業の再生に向け、明確な指針を提示する。

    [ 目次 ]
    序章 もの造り現場からの産業論
    第1章 自動車産業における競争の本質
    第2章 能力構築競争とは何か
    第3章 なぜ自動車では強かったのか
    第4章 もの造り組織能力の解剖学
    第5章 能力構築の軌跡―二十世紀後半の自動車産業
    第6章 創発的な能力構築の論理
    第7章 紛争―脇役としての貿易摩擦
    第8章 協調―競争を補完する提携ネットワーク
    第9章 欧米の追い上げと日本の軌道修正
    第10章 能力構築競争は続く

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著者プロフィール

早稲田大学教授,東京大学名誉教授

「2024年 『工場史 ポスト冷戦期の日本製造業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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