ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書 2138)
- 中央公論新社 (2011年11月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121021380
作品紹介・あらすじ
東日本大震災のさい、人々は互いに譲り合い、整然と行動した。自分を犠牲にしてでも弱い者を救った。これは、決して見返りを期待しての行動ではなく、絆や他者への信頼、思いやりの表れであった。このような絆や互酬性の規範をソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という。ふだんは目に見えない、しかし、教育や健康等に大切な役割を果たしている社会関係資本をどう育み、活かすのか。第一人者が理論と実践を紹介する。
感想・レビュー・書評
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ソーシャル・キャピタルって、「つながり」とかいうけどなんだか漠然としているなぁ、よくわかんねぇなぁ…という迷える子羊に。いや結局ソーシャル・キャピタルはこれだ!と定義できるようになるわけではない。(一義的に定義するものではないとわかりました)しかしそれがに何とつながっているか、特に経済学などとの関連が、偉大なる先生方がなぜソーシャル・キャピタル棒を振りかざして走り回っているのか、なるほどこういうことね、くらいは思えるようになった。結論:イイ感じに入門書。
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ソーシャルキャピタルは、簡単に言うと、人と人、社会との相互信頼や絆としてのネットワークであると解釈した。それを強めていくことが人との人との関係性、仕事の中での生産性、教育、政治経済、といった自分を取り巻く大きな範囲までその影響をうけることから、その重要性について理解できた。ソーシャルキャピタルが強く形成されていればそれは好転するが、弱い、または、ない状況には社会問題や経済に悪い影響を及ぼす。
また、時代の変化により、ソーシャルキャピタルが希薄化し、格差社会によりその溝がさらに深まっていく悪循環の恐れがある。資本主義経済において、今後の世の中で格差社会をなくすことはできないと考える。格差を格差と感じさせない、表面的には格差がある上でもソーシャルキャピタルが築いていけるような人との関係性、地域との関係性を作っていくことが重要であり、それが好循環化、社会の好転に繋がっていくことも理解できる。問題は、どのようにそのような社会を作っていくか。
個人としては、日常での人とのつながりや長い人生を考える上で、人との関わり方、自分の幸せを感じられるような生き方と振る舞いを意識して生活していきたいと思う。
メモ
・社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)とは、その定義には実にさまざまなものがあるが、わかりやすく言えば、人々が他人に対して抱く「信頼」、それに「情けは人の為ならず」「お互い様」「持ちつ持たれつ」といった言葉に象徴される「互酬性の規範」、人や組織の間の「ネットワーク(絆)」。おおざっぱに言えば、これらの社会関係資本によって、集団としての協調性や、「ご近所の底力」といった、市場では評価しにくい価値が生み出される。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685436 -
紀要資料オーテピア
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配置場所:2F新書書架
請求記号:361.3||I 51
資料ID:C0032971 -
開発目標10:人や国の不平等をなくそう
摂南大学図書館OPACへ⇒
https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99362004 -
目的:
人とのつながりが、なぜ重要か、社会科学的に理解するため。
感想:
ソーシャル・キャピタルの入門として良書。
わかりやすく、コンテクスト、先行研究がまとめられている。ソーシャル・キャピタルとは、一般的に人々に協調的行動を促す「信頼・規範・ネットワーク」だと定義される。
特に、社会関係資本が不平等によって毀損されるという議論が面白い。筆者は、社会関係資本を豊かにすることが社会に不可欠であると論じており、そのためには不平等の改善が急務であるとまとめている。
また、社会関係資本のダークサイドとして、悪いネットワークや規範の強制の議論が見られる。この部分は、人間的に成長することが不可欠だと思う。 -
デジタル化で私たちの人間関係がどう変わるか、興味があります。よく考えたら、その前にそもそも絆とか社会的関係をよく知らないと思い、本書を読みました。
基本的な知識を得るには十分な内容だと思います。 -
ソーシャル・キャピタル(以下SC)の概説本。
渡辺京二の戦国→江戸論や、イースタリーやスティグリッツの開発経済学での順序が大事論や、テキヤ稼業と地域社会との関係性や、たまたま最近はSCが気になるワードだった。SCみたいなものが大事だね、というところまでは直観で分かるが、その先の分析的な研究の様子が知りたかった。
ソーシャル・キャピタル、または社会関係資本は「信頼」「規範」「ネットワーク」の3つの要素からなる。著者はこれらに「心の外部性」を伴った、というちょっと分かりにくい定義を付け加えている。たしかに、人の心の中での認識と切り離せないが、敢えて「心の」と銘打つことによって、むしろ曖昧で分かりにくくなっている。本書全般に言えることだが、何がSCを形作り、SCは何に影響を与えるかが分析されるものの、相関と因果の見極めも難しく、因果関係のメカニズムについてはっきりと仮説が提示されるわけでもない。何となく話はわかるが、モヤモヤ感がつきまとう。パットナムにも同様の批判があるそうなので、研究分野自体の未発達を反映しているのだろうが。
井伏鱒二の小説で、働く旅館によって全然ちがう扱いを受ける番頭さんの話をSCの一例にあげる。フィクションなのがイマイチだが、SCが個人でなく社会・ネットワークに帰属するという主張を解説するには面白い。
SCの「心の」外部性の特徴
・人が認識してはじめて意味を持つ
・市場に内部化できない(人の好意にカネを払えない)
・他者の存在が必要
・社会の中での相対的位置で左右される、クローズ/オープンネットワーク、橋渡し型/結束型
・波及効果が高い
→敢えて言う価値がありそうなのは2点目、4点目くらい?
私的財→クラブ財→公共財
→私的財は人脈みたいなものか、ある意味当たり前。公共財のSCが興味深い。
SCの効用
経済、地域社会安定、健康、教育、政府の効率(パットナムですな)に役立つとして、様々な研究が列挙されるが、逆の結論が出る場合もあるし、因果関係やメカニズムは全くはっきりしない印象。難しいって事だが。
SCの測定
NPOの数や寄附金額、献血者数などの客観的データと、調査票による主観的データの両方で測定する。著者は測定方法は進歩しているというが、どこまで信頼性がありそうなのかは本書の記述では伝わらず。山岸俊男の本にもあった、「他人をどれだけ信頼できますか?」というパターンの質問が定番だそう。定番の質問があれば、国や時系列での比較ができるわけで。
長野県須坂市での調査。古い農村の区が残り、「助け合い起こし」・保健婦・産婦人科医の招致など、地域社会レベルの活動が盛んな土地柄。調査の結果はso what感があるが、人助けだけでなく、助けられた方を表彰するというエピソードが面白かった。たしかに助けられる側の抵抗感は普通あるだろう。表彰することでそれが低減できるかどうかはよく分からんが、目の付け所がよい。
SCには男女差がある。男性の方がSCが少なく、特に退職後の近所づきあいへの転換が難しい。でも、これも世間知の範囲を全くでない。
経済的格差(所得&資産)がSCを破壊する。因果的には逆ルートが強そうな気もするが。ここの議論も通俗的で、ハッとするところはない。
SCはしがらみにもなりうる。そりゃそうだ。 -
ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)についての良質な入門書。
仕事の資料として読んだものだが、とてもためになったし、読み物としても面白かった。
ソーシャル・キャピタルは社会学・政治学・経済学・予防医学・社会疫学など多くの分野にまたがる学際的概念だが、著者は経済学者(日大法学部教授)であるため、本書は経済学的側面のウェートが高い。
ただし、ほかの分野にも十分目配りがされている。ソーシャル・キャピタルをめぐる学説史、おもな論点などが手際よく紹介され、バランスの取れた概説書になっているのだ。
「3・11」の約半年後に刊行された本であるため、当時注目された日本社会のソーシャル・キャピタルの再評価(被災地でも略奪のたぐいが起こらず、被災者たちが高い秩序を保って助け合ったことなど)に、ある程度の紙数が割かれている。
たとえば、当時「絆」が称揚された一方、「『絆』という言葉の濫用は気持ちが悪い」などという反発もあったわけだが、研究者の間では、ソーシャル・キャピタルにそのような正負両面があることは常識になっているという。束縛につながるなどの負の側面は「ダークサイド」と呼ばれるとか。
とはいえ、刊行から6年を経たいま読んでも、十分示唆に富んでいる。ソーシャル・キャピタルを毀損する最大要因は格差拡大であり、その点ではいまの日本社会にこそ、ソーシャル・キャピタル重視の視座が必要であるからだ。