飛鳥の木簡―古代史の新たな解明 (中公新書) (中公新書 2168)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021687

作品紹介・あらすじ

かつて日本古代史は、『日本書紀』『古事記』や中国の史書に頼らざるを得なかった。だが一九九〇年代後半以降、三万点以上に及ぶ飛鳥時代の木簡の出土が相次ぎ、新たな解明が進み始める。本書は、大化改新、中国・朝鮮半島との関係、藤原京造営、そして律令制の成立時期など、日本最古の木簡から新たに浮かび上がった史実、「郡評論争」など文献史料をめぐる議論の決着など、木簡解読によって書き替えられた歴史を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 木簡は、何かが書かれた形跡(墨痕)がある木の板またはその破片、削りくずなどを指すものらしい。

    中国では紙が普及する前に竹簡が使われたが、日本においては紙と木簡が併用された。
    そのため、木簡に記された内容は文献資料と照らし合わせて検討することができるものがある。
    ただ、その種類は非常に多彩であり、呪術の人形から荷札、字の練習やスケッチ、らくがきのようなものもある。
    本書は豊富な図版も随所に載せて、木簡からわかる古代の日本の姿について丁寧に解説している。

  • 飛鳥で発掘されている木簡から判明した日本古代史における最新知見を新書にて学べます。主に本書の該当年代は7世紀半ばのいわゆる「大化の改新」から8世紀初頭の大宝律令制定直後まで。木簡は壬申の乱後の天武期に飛躍的に多く発掘されているとのことです。
    この時代の日本側史料としては政治的意図がこめられた「日本書紀」「続日本紀」がどうしても中心となってしまうため、膨大な量の木簡に書かれた文字を解きほぐすことによって、新たな発見や補強が可能となるということでとても興味がありました。
    そもそも木簡はその特性上、下級官人による一時記録やタグの扱いがほとんどで、何度も削り再利用されるものとのことで、最後に大量に捨てられたものが発掘されてくるようです。別用途に再利用されることも多く、再利用の結果、籌木(クソベラ)になっているものも少なからずあるとは驚きです。発掘で出てきても触りたくないなあ。(笑)
    本書では、それら木簡の文字を復元することで浮かび上がる、王宮の場所や配置、交通・輸送や官人勤務の実相、生産工房や飛鳥寺の活動、大宝令制定後の実態など、様々な切り口でこの時代の政治・経済・文化空間を再現してくれて興味深かったです。
    だが、本書の醍醐味はそうした細かい様相の再現だけではなく、東アジアにおける政治の大きなダイナミズムとともに、旧来の論争の行方も示唆しているところでしょう。乙巳の変後の「改新の詔」に疑問を呈することになった「郡評論争」が、天智期には「国-評-五十戸」の行政区分ができていた可能性があり大化の改新の再評価に向かっているとは面白い。また、藤原京が天武末期から造成され始めたという話も興味深いですが、百済滅亡後に新羅と親交を深め、そして、その後の唐への接近という政治・外交方針の転換が、親朝鮮半島路線から新中国路線へ変更である平城京造成・大宝律令制定などに代表される変革であったという話はとても面白かった。藤原京は中国式都城を造成するには不向きな土地だったのですね。701年は大宝律令制定、遣唐使任命、そして翌年に持統の死去という古代史における大転換の時代であったということがよくわかりました。
    木簡発掘作業には興味があるのですが、「あとがき」を読むと作業自体は大変そうだなあ。お疲れ様です。(笑)

  • 飛鳥の木簡についてよくわかります。

  • 主に飛鳥・藤原京出土の木簡から、日本古代国家の形成過程の歴史を描き出しています。木簡を研究するということは、『日本書紀』などの編纂史料を相対化し、より正確な史実を浮かび上がらせる作業です。また、日本古代国家の形成過程に朝鮮半島から強く影響を受けていることも、木簡の解読からわかります。文章も読みやすく、サクサクと読み進めることができました。

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB09459690

  • ☆物証だな。

  • 出土した飛鳥時代の木簡の研究により判明したことを解説した書。木簡研究の面白さが伝わってくる。『日本書紀』は特定の政治的立場から編纂されたものだから、史料批判が必要とされる中で、木簡は当時の人々の日常の生活又は公務で使用されたものだから、意図的な改変はまずないとして、信頼できる史料として注目されているらしい。職業柄、興味深いのは、天武天皇の時代から木簡が急増するというもので、理由としては、行政組織の発達により、より多くの木簡が必要になったとのこと。なるほど、現代では、メールや紙の文書で施行するところを、飛鳥時代は木簡に記して施行したのだなと思うと、感慨深いものがある。

  • P209 円形の板の片側に墨で同心円を描いたもので、矢が刺さった痕跡を示すものもある。

  • まず口絵に木簡のカラー写真が載っている。これが木簡だと視覚的に了解出来る。暦木簡、墨画木簡、戯画木簡、天皇木簡、漢詩木簡、万葉歌木簡、音義木簡…この本には写真、地図、系図などが豊富で、絵本好きの私としてはたまらない。満足な造りだ。博物館などで木簡や土馬などの実物を何度も見た経験はあった。
    日本人として恥ずかしいことに古代の日本人が書いていた木簡が読めない。真似して書くことも出来ない。古代はもちろん近世の古文書や現代の書も読めない。読めないから辞書も引けない。
    そんな自分にとって木簡初体験と言えるぐらい近しいものに感じられるようになった。
    読めないから遠い、から、少し近しい気分にさせてくれたのは、さすがホンマもんの専門家だと著者に脱帽。

  • 読売新聞(2012年8月12日)朝刊に、
    三浦佑之氏による書評。
    (2012年8月12日)

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著者プロフィール

1971 年生まれ。大阪大学大学院文学研究科・日本史講座・准教授
(主要業績)『飛鳥藤原木簡の研究』(塙書房、2010年)、『すべての道は平城京へ―古代国家の〈支配の道〉― 』(吉川弘文館、2011 年)

「2016年 『グローバルヒストリーと戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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