欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書 2405)
- 中央公論新社 (2016年10月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121024053
作品紹介・あらすじ
EUは崩壊するのか、それとも…?一九九三年に誕生し、単一通貨ユーロの導入などヨーロッパ統合への壮大な試行錯誤を続けてきたEU(欧州連合)。だが、たび重なるユーロ危機、大量の難民流入、続発するテロ事件、イギリスの離脱決定と、厳しい試練が続いている。なぜこのような危機に陥ったのか、EUは本当に崩壊するのか、その引き金は何か、日本や世界への影響は…。欧州が直面する複合的な危機の本質を解き明かし、世界の今後を占う。
感想・レビュー・書評
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ユーロという統一通貨に対して統合的な財政政策がうまく機能しないことに端を発したギリシャなどの財政危機、シェンゲン協定に対して保安上の情報が国家間で共有できないことに伴って生じた、テロリストや難民・移民の問題といった欠陥を詳説し、今後の行く末を占った一冊。EUそのものに対して民主制で選ばれた主体という正統性が未だ確立されていないことが問題の本質にあるよう。最終的にはやはり言語や民族の壁を乗り越えることがまだまだ困難なようである。
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コロナ禍前から欧州はずーっと波乱続きだと読みつつ思い出し、各国の国政に携わる方々は本当に大変だとしみじみ。。
それでも、たくさんの課題と共に、一定の結束を続けるEUのしぶとさについても言及。
中身がみっちり詰まった充実の1冊でした。 -
本書は、2010年代に欧州政治を襲った複合的な危機について、その内容と特徴を多角的に分析し、欧州政治の今後を展望する本である。著者は欧州統合研究の専門家であり、EUという観点からも危機の本質に迫ろうと試みる。EUの安定性を考える上で示唆的な点も多々あった。
EUをめぐった昨今の危機は複合的なものであることは言うまでもない。ギリシャ発のユーロ危機、シリアからの避難民、テロリズム、英国の離脱などから構成されている。EUにはそうした危機に対処するだけの能力が備わっていない。それに加えてEUの民主的正統性に対して、主に労働者層から疑義が投げかけられている。
そもそもまヨーロッパ統合は、ヨーロッパの人々が望んだものというより、冷戦下のアメリカの後押しありきだったと著者は指摘する。そう考えると、アメリカの権威が落ち、ポピュリズム勢力が台頭している今、EUは限界をむかえているのかもしれない。しかしながらEUはしぶとく生きている。著者はその要因としていくつか挙げているが、もっとも大きいものは、個々の国家がもつことの出来ない規模の権力をEUが有していることだそう。
とりわけ面白いなと思った指摘は、欧州におけるドイツの役割である。著者はドイツの権力行使が必要と述べている。 -
■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001093854
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第一次世界大戦前のバルカン半島が「ヨーロッパの火薬庫」であったように、今ではウクライナが現代版「火薬庫」になっていますね。
この本を読んで、今現在、進行しているウクライナ情勢の背景を垣間見ることができました。
しかし、ロシアの思惑ばかりが進行しているとは一概に言えず、EUをはじめとする国々の利害が錯綜していると思われました。
それはともかく、早く戦闘が終わることを願っています。 -
ユーロ危機、欧州難民危機、ウクライナ危機やパリ同時テロ事件といった安全保障上の危機、イギリスの国民投票によるEU離脱決定という、2010年代のEUを襲った複数性、連動制、多層性を持った危機を「欧州複合危機」と捉え、EUが大きな分岐点にあることを指摘した上で、それぞれの個別の危機を振り返るとともに、欧州複合危機の背景や構造を歴史的、政治学的に分析し、今後の展望を示している。
本書では、歴史的には、EUは、ドイツ問題と東西冷戦の解決の手段として形成されてきたが、現在のEUは「問題解決としてのEU」から「問題としてのEU」になってしまっていることが指摘される。そして、それを読み解くキーワードとして「アイデンティティと連帯」、「デモクラシーと機能的統合」、「自由と寛容」、「国民国家の断片化/再強化」が挙げられている。特に、複合危機に対処するためには、機能的にEUを強化する必要があるが、それを支えるEUの民主的正統性が稀薄であるために、機能強化が進まないという悪循環に陥っていることが強調されている。一方、危機に見舞われても生き残るEUのしぶとさについても、EUの権力性の点などから言及されている。そして、EUのインナーを中心とする同心円的な再編を展望するとともに、欧州複合危機が現代の先進民主国に通底するものであることを、〈グローバル化=国家主権=民主主義〉のトリレンマという観点から明らかにしている。
本書は、必ずしも読みやすいものではないが、複合的な危機に見舞われている現在のEUを理解するために有益な、骨太の内容だと感じた。 -
問題の解決するために生み出した制度が、新たな問題を引き起こすという全体構造がよく理解できる。
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東2法経図・6F開架:B1/5/2405/K
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20世紀に戦火にまみれた欧州を国境を越えて統合する壮大なイニシアチブは、ユーロ・ギリシア危機をはじめとして、シリアからの難民や、テロ、そしてはたまたBREXITと、2010年代に入って次々と困難に渦に飲み込まれることとなります。
PWCの予測ではEU加盟国が世界のGCPに占める割合が10%未満へ低下する、としています。そうした中、欧州はアメリカそして今後より成長していく新興国(中国、インド、ロシア、ブラジルなど)に伍していくために、より一層バーゲニングパワーを結集させていく必要があることでしょう。著者は、そうした競争的側面から、EUは存在意義があることを本書の後段で述べています。
一方欧州共同体が、パリ協定など環境基準や人権問題などで、世界的なスタンダードの構築にリーダーシップを発揮している分野も多岐にわたることも事実です。欧州が、今の危機を乗り越えて統治のモデルを提示し続けることができるかどうかが、欧州各国の首脳(政治だけでなく、経済や文化各界での)たちの双肩にかかっていると思いました。