人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書 2590)
- 中央公論新社 (2020年4月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121025906
作品紹介・あらすじ
古くはペストやコレラ、現代でもエボラ出血熱や新型肺炎など、人類の歴史は病との闘いである。天然痘やポリオを根絶に導いた背景には、医療の進歩のみならず、国際協力の進展があった。しかし、マラリアはいまだ蔓延し、エイズ、SARS、エボラ出血熱、そして新型コロナウイルスなど、次々に新たな病が人類に襲いかかっている。喫煙や糖分のとりすぎによる生活習慣病も重い課題だ。人類の健康をめぐる苦闘の歴史をたどる。
感想・レビュー・書評
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コロナ禍以降、感染症関連の書籍や記事をいくつか読んできた。それらの多くは、感染症の歴史を俯瞰したタテの視点を提供してくれた。本書は、グローバル化社会にあって重要な国際関係、ヨコの視点を提供してくれる。
本書が扱うのは、ペスト、コレラ、マラリア、エイズ、新型コロナ等の感染症に加えて、タバコ問題、糖尿病等の生活習慣病、そして国力の違いがもたらす健康格差と幅が広い。本書を読むと第一次大戦後、いかに国際社会が協調して健康問題にあたってきたか、はたまた逆に、国同士のパワーバランスがいかに健康問題の解決を遅らせてしまったかがよくわかる。
かつては英国と米国、ソ連が、今は米国と中国が世界のトッププレイヤーだろう。WHO設立の立役者である米国が自国主義を掲げて、そのWHOからの脱退を表明したことも、中国が情報を隠蔽し、国際協調を軽視して自国のプロパガンダに走ることも、百害あって一利なしであることが示される。
実は日本も両国を笑う立場にはない。タバコ問題にあっては足を引っ張る側にあると国際的に指摘されているという。もちろんそれらの影には経済的な利得が見え隠れする。
WHOの定義では、健康とは「身体的・精神的、社会的複利のことで、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」とされる。すなわち、健康とは守られるべき基本的人権なのである。
病は国境を容易に越える。コロナ関連の本では、今、本書は一番読まれるべきものかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
社会学者女性やジェンダー論女性の書いた情感豊かな文章ばかり読んでいただめ、大変失礼ながら、あとがきで筆者が女性であったことを知り驚いた。
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ペスト、コレラ、コロナ
人類史は病との戦いだ -
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【本学OPACへのリンク☟】
https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/652436 -
国際政治の動きという観点から、人類がどのように病と闘ってきたのかを論じている本。
何となく、世界史の副読本を読んでいるような感じだった。内容的には、なるほどと思わせるようなことが多い。
結局のところ、
「病に関する国際的な取り組みは、しばしば政治状況に左右される」
という点に集約されるのかな、と思う。
世界から天然痘が根絶されたのは、感染者が比較的分かりやすいという病気の特徴であったり、ワクチンが比較的作りやすかったという要因もあるが、マラリア対策で国際的なイニシアチブを取っていたアメリカに対し、ソ連が天然痘根絶プログラムを提唱したという要因も大きかった。そしてベトナム戦争で国際的信用が失墜したアメリカがそのプログラムに賛同したことで、根絶に向けた動きが加速したのである。
或いは、生活習慣病や喫煙への対策についても、砂糖業界やたばこ業界などのアクターから圧力を受けるという話は、よく聞かれる。
医薬品アクセスについても、特許との関わりによって発展途上国では十分にアクセスできない問題があったり、先進国では注目されない「顧みられない熱帯病」といった病気への対策も、その時々の政治状況によって、動きが緩慢になる。
新型コロナウイルスの初動対応を巡ったWHOへの批判についても、そもそもこうした保健機関も政治のアクターの一つである以上、避けられない事態ではあるのだろう。逆に、そうした状況への理解・関心こそ重要なのだろう。 -
■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001167708
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感染症との戦いの歴史、生活習慣病への介入と対立する自由
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【琉球大学附属図書館OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB30261944