デジタル化する新興国-先進国を超えるか、監視社会の到来か (中公新書 2612)

著者 :
  • 中央公論新社
3.46
  • (15)
  • (24)
  • (39)
  • (9)
  • (2)
本棚登録 : 441
感想 : 36
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026125

作品紹介・あらすじ

デジタル技術の発展は、新興国・途上国の姿を劇的に変えつつある。中国、インド、そしてアフリカ諸国は今や最先端技術の「実験場」と化し、スーパーアプリや決済などで先進国を超える面すら生じている。一方、デジタル化は良質な雇用を生まないのでは、権威主義国家による監視が強化されるのでは、と負の側面も懸念される。技術が増幅する「可能性とリスク」は新興国をいかに変えるか。そして日本はどうすべきなのか。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • コロナ禍でデジタル化に取り残された吾国の体たらくぶりを見続けてきたので、「デジタル化する新興国」というタイトルはとてもキャッチーでした。配車サービスに始まって、電子商取引、物流システムや金融などさまざまなデジタル化が経済の活況を生んでいます。でも、新興国には物流するには道路などのインフラが整備されていないとか、教育水準が低く有為な人材が不足しているとか、所得が低いのでマーケットが小さいとか問題がありそうです。一足飛びの飛躍は難しそう。ここに日本が介在してWIN-WIN というけど、そもそも自国のデジタル化がこれでは介在できません。一方で、心配なのはコロナ禍で露呈した民主主義国の退潮と権威主義国の隆盛です。コロナのコントロールに成功した中国が売り込むデジタル化の粋 監視システムの売れ行きは上々。21世紀はどんな世紀と言われるのでしょうね。

  • 現在の新興国各国の現状をリポートした書です。
    新興国では、インターネット+PC よりも、スマホが爆発的に普及が進んでいる。そのことをデジタル化といい、その影響を考察していきます。
    世界の潮流はアメリカから中国へというのが流れだと感じました

    デジタル化の特徴

    ・売り手と買い手の「情報の非対称性」の削減:価格の透明性の確保
    ・試行錯誤の回数を多数のベンチャー企業によって増やす仕組み 技術革新⇒社会革新へ
    ・デジタル化がもたらす3つのリスク ①説明責任の欠如した情報統制、②技能教育なき自動化とそれによる不平等、③競争の欠如による独占
    ・新興国の発展を加速度化する仕組み、「後発性の利益」:先進国で確立した技術や経営方式を導入できるがゆえに、より急速に事業を成長させ、先進国を追いかけることができる
     ⇒固定電話の時代なしに、いきなり携帯電話の時代に入ることができた。
    ・デジタルが生み出す雇用 ①IT人材、②デジタル・クリエイター人材、③ラスト・ワンマイル人材
    ・ドローン、空撮の民主化とともに、空爆の民主化も

    ■新興国発展の論点 発展途上国は4段階で発展を行う

    ①南北問題の時代 1970年代
      発展途上国VS先進国、宗主国との関係、構造主義(国の構造が違うという論)
    ②工業化の時代  1980~1990年代
      新興工業国VS先進国、外向きの成長政策(労働集約的な製品生産の輸出)、後発性の利益
    ③市場の時代   2000~2010年代
      デジタル新興国VS先進国 人口が多い国の経済成長
    ④デジタル化の時代 2010年代~

    ■信用経済の創造:リスク管理と信用の創造 プラットフォームがもたらす信用
    ・供給の精度や取引先の選定、シグナリングの提供
    ・仲介者を介在させることによって取引を担保する
    ⇒ 通信会社の口座を使うことで銀行口座を持たない信用取引の成立
      少額ローンといった金融サービスの提供

    ■中国の台頭
    ・QRコード決済
    ・ラストワン向けの物流管理システムの提供
    ・アメリカにもない仕組み:スーパーアプリ:統合的スマートフォンアプリの存在
    ・川底の石を触りながら川を渡る(計画経済が川の手前、市場経済が川の向こう岸)
    ・中国の監視システムをシステムごとと他の国に販売する。強権的な政治体制がデジタル技術を駆使した監視や検閲を通じて行う統治:デジタル権威主義
    ・米中新冷戦時代 既存の権威アメリカに対して、一帯一路構想の中国

    ■東南アジア
    ・カンボジア、ラオス、ミャンマーはITは中国の影響下に、製造業貿易分野は日・米・欧に
    ・人口が多い国、ブラジル、メキシコ、コロンビア、アルゼンチンがインタネットの利用時間が多い

    ■ナレンドラ・モディ政権の「デジタル・インディア」プロジェクト
    ・個人生体認証、IDの発行と証明書発行の電子化
    ・政府調達の透明化とIT化
    ・初等中等教育向けの遠隔教育サイトの整備
    ・農業関連技術の透明化と発信
    ・Eガバメント

    ■アフリカの発展
    ・テックハブ インキュベーションセンター、コワーキングスペース、アクセラレータの提供 ナイジェリア、南アフリカ、エジプト、ケニア等

    ■南米
    ・ベネズエラ:ビットコイン消費世界第3位

    ■SDGsとデジタル化との関連

    目標9 強靭なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進およびイノベーションの推進を図る。
    目標5 ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児の能力強化を行う
    目標8 包摂的かつ持続可能な経済成長およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する

    目次は、以下です。

    序章 想像を超える新興国
    第1章 デジタル化と新興国の現在
    第2章 課題解決の地殻変動
    第3章 飛び越え型発展の論理
    第4章 新興国リスクの虚実
    第5章 デジタル権威主義とポスト・トゥルース
    第6章 共創パートナーとしての日本へ
    あとがき
    参考文献

  •  前半では、中国、インド、アフリカ諸国等新興国の、後発性の利益を活用し、一部では飛び越え型(リープフロッグ)発展まで至っているデジタル化の急速な進展状況を具体的な事例により紹介している。 
     後半では、雇用への負の影響があるかどうか、またテクノロジーによる監視国家化への憂慮など、リスク面にも考察がされている。

     単に事例が紹介されているだけではなく、開発経済学的なフレームワークなどに依拠した議論もされており、勉強になる。

     デジタル化の遅れが言われる日本における今後の在り方や、これらの国々との立ち位置はいかにあるべきかといった問題を考える上で参考になると思われる。


     

  • 新興国の方が真っ白なキャンバスに近いのでデジタル施策がダイナミック且つ頻回に行えるというのは分かりやすい。歴史的には西洋文化が最高とされていた19世紀辺りの文化流入みたいな感覚に見えるがスピード感も持って市民が変革させていくのは現代ならではと思う。
    他国を通じて今の日本と自分がどう生きていくべきか考えされた。

  • 今、中国、インド、東南アジア、アフリカ諸国がデジタル最先端技術の実験場となっている。
    先進国のデジタル化を凌駕する一方、雇用の悪化、監視システムの強化など負の一面もある。
    そのなかで、日本はどう関わるべきか考えさせられる本。

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/660334

  • 本書でいう新興国の代表としては、中国とインドを思い浮かべればよいかと思います。
    また、新興国のうち、とくに中国については、近年は、ITやAIなどのデジタル化技術によりGDPが伸びているわけですが、その光の面と闇の面を丁寧に説明した本だと思います。

    中国をはじめとする新興国では、金銭やビジネスのやりとりにおける不正や不確実性の抑制が長年の課題だったわけですが、ITはそれらの解決に大きく寄与し、それゆえ、国民にも受け入れられていき、その結果、新興国のGDPは今でも伸びているわけです。
    しかし、その裏には、これまたITを利用することで、個人情報をはじめとする、様々な情報の管理や統制があるわけで(表題にある「監視社会」の側面があるわけで)、中国(をはじめとする新興国)の表の面であるGDPの伸びだけに目を奪われると、それら国の本当の姿は見えてこないと思います。

    また、中国をはじめとする新興国が近年大きくGDPを伸ばしている背景には、それまでの社会に、インフラや制度が整っていなかった点があります。
    その結果、インフラや制度にしばられることなく、ITを活用できたため、大きな経済成長を遂げているわけでして、いわゆるリープフロッグが起こることで、新興国となり得たわけです。

    そういう意味では、これまでの先進国は、既存のインフラや制度に縛られてしまうため、新興国と同じようにITを活用できるわけではないですし、同じように発展できるわけではありません。
    先進国の発展には、先進国にふさわしいITの活用が必要になるわけです。
    とはいえ、一から活用方法を考える必要はなく、新興国での活用に、いろいろなヒントがあるはずですから、それらを活かしつつ、先進国に役立つITの活用を模索・実現していくことが、今後は求められていくものと思われます。

  • デジタル化は私の社会を、ウーバーなどの新しいサービスで良いものに変えることが出来る。
    その反対に、フェイクニュースの蔓延や政府による監視が容易になるなど悪いものに変えることが出来る。
    この変化の振れ幅は、先進国よりも新興国のほうが大きい。
    悪い方向に行かないためにどうするのが良いのか、考えさせられました。

  • デジタル化する新興国は、高度経済期の日本のような気がする。その熱気と技術力は、アメリカなど欧米諸国を席巻した。今の日本は、1970年代のアメリカのようだ。そのことがよくわかる新書だった。

    ただ、日本が取るべき戦略として提唱されているのは、新興国に学び、ルール作りに積極的に参加ましょうというものだ。
    ・好奇心と問題意識のアンテナを広げ、日本の技術や取り組みを活かす
    ・同時に新興国に大いに学び、日本国内に還流させる
    ・デジタル化をめぐるルール作りには積極的に参画する
    ・民間企業が新興国の新分野で協業を広げるための支援を行う

    学ぶのはいいのだが、キャッチアップばかりではレッドオーシャンに飲み込まれるばかりだ。日本が官民をあげて、ルールづくりの主導、デジタル化を主導することようにしないといけない。そのために日本は、戦略を立て、予算を割き、デジタル化と抵触する法制度との調整を早急に検討すべきだ。今日本に必要なのは、何より危機感とスピード感だと思う。

  • ・新興国でのデジタルアプリの展開には驚いた。

全36件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

伊藤亜聖(いとう・あせい)
一九八四年東京都生まれ。東京大学社会科学研究所准教授。専門は中国経済論、アジア経済論。慶應義塾大学経済学研究科博士課程修了。
主な著書:『デジタル化する新興国』(二〇二〇)、『プロトタイプシティ―深圳と世界的イノベーション』(共著、二〇二〇)『現代中国の産業集積―「世界の工場」とボトムアップ型経済発展―』(二〇一五)『現代アジア経済論―「アジアの世紀」を学ぶ』(共著、二〇一八

「2022年 『アジア経済はどこに向かうか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

伊藤亜聖の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×