モチべーションの心理学-「やる気」と「意欲」のメカニズム (中公新書 2680)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 43
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  • Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026804

作品紹介・あらすじ

「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」。人間の場合はなおさらでやる気がない人にいくら無理強いしても無駄である。そもそも、やる気はどう生まれるのか。報酬を与えるのか、口で褒めるのか、それとも罰をちらつかせるのか。自分の経験と素朴な理論で対処しても、うまくいくとは限らない。本書は、目標説、自信説、成長説、環境説など、心理学の知見からモチベーションの理論を総ざらいする。

感想・レビュー・書評

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  • 本書に興味をもった方にまずご紹介したいのは、終章の冒頭にある著者の言葉だ。

    「残念ながら、モチベーションの問題に関しては、いつでも、どこでも、誰にでも通用するような「ハウ・ツー」は存在しないのである。本書で明らかにしてきたように、「やる気」や「意欲」は一般に考えられているよりも、ずっと複雑で微妙な現象だからである」

    概要と導入にあたる第1章と2章につづき、第3章~7章では「目標説」「自信説」「成長説」「非意識説」「環境説」に分類して、様々な心理学上の観点からモチベーションを分析する。目次や巻末の注釈を除いても350ページほどあり、新書としてはかなりの紙数となっている。

    序文で「本書は、モチベーション心理学の入門書である」と宣言するとおり、モチベーションに関わる多岐にわたる知見が詰め込まれている。入門とはいえ基本は学術的なアプローチに基づいているため、登場する専門用語の数も多く、読み物としての面白さや特定の読者を対象にするというよりも、正確性や網羅性に重きを置いた著作といえそうだ。かつ、先述の終章の言葉にあるような、モチベーションを単純化しない認識もあって、本書に「ハウ・ツー」的な役割を期待する読者にとってはまだるっこしく、歯切れの悪い印象を受ける可能性はある。

    各章で解説される、モチベーションにまつわる様々な要素への解説についてはわかりやすく、内容にも納得させられる。とはいえ、全てを興味をもって読めるかといえば必ずしもそうではなく、所々でいまの自分にヒットする箇所については特に引き込まれるという形になる。逆にそれ以外については読み飛ばしてしまうことも少なくなかった。先に触れた本書の性格上、全てを熟読できる読み手は限られているのではないかとは思う。

    個人的に面白いと感じたのは「第4章 成功と自尊心――自信説」と、「第7章 場とシステム――環境説」だった。第4章は、モチベーションとの関係を探る過程で、人間の自尊心についての認識を深めてくれる。自尊心が低すぎることはもちろん、過剰であることも人としては差し障りが多く、「優越感」とは似て非なる「本来感」こそが重要だという捉え方と、自尊心を高めることを自己目的化した実践への警鐘に共感する。

    第7章は本書のなかで最も長い90ページ近い章となっており、あとがき相当の短い終章を除けば実質的な最終章ということもあって、著者が個人的な見解を覗かせる機会も増える。本章でとくに多く触れられるのは、「北風型アプローチ」と「太陽型アプローチ」の比較、そして、会社組織を中心とした、組織におけるモチベーションの引き出し方といったところで、一般にも興味をもたれやすい話題でもある。とくに目を引くのは、日本の某大手企業を参考として、成果主義にもとづく目標管理の導入が大失敗に終わった事例だった。日本でも成果主義が浸透して久しいが、心理学的な研究の世界ではすでに半世紀以上前に、この手の考え方が人間にとっての満足感につながらないことは指摘されていたという。

    通読して、「やる気」「モチベーション」といった自己啓発の話題として扱われやすい対象に関して単純化することなく、むしろその多様性や扱いにくさを認める姿勢を正しいと感じる。終章の結論にあたるくだりや、そこで紹介されている『夜と霧』の著者であるフランクルによる言葉の選択にも好感をもった。

    改めて、会社などの組織におけるモチベーションの問題については、第7章にて、ある研究者による「「組織」と「人間性」は本質的に折り合わない」という言葉に同意する。私個人としては、一定の短期間であればともかく、どう工夫したところで、特定の組織で個人が数十年モチベーションを保つのはそもそも無理があるのではないかと思う。

    ちなみに、帯文で目を引く「ほめれば本当にやる気が出るのか?」の問いについては、第7章、P281あたりに答えが書かれています。

  • 新書系は大体星三つを付けるのですが、この一冊はオススメの気持ちを込めて五つです。

    教育心理学というか鹿毛先生を既に知っている方には、もう大体分かってるよ、という部分もあるかと思うのですが。
    これから「(学習)意欲」系の勉強を始めようとしている人は、このお値段で、かなり見通しが立ちますよ!と言いたい。

    最初から自律された動機付け、やる気を身につけるのは難しくとも、どんな段階があって、どんなアプローチがあるかというのを知るだけでも、声かけや条件設定を工夫出来ると思うし。

    何より「やる気なんて気持ちの問題でしょ」の、気持ちがどんなメカニズムを指すのかを知ることは面白い。

    内容がかなり広いので、ポイント絞ったレビューが難しい。今ちょうど『独学大全』を並行読みしていて、重なる部分も多いので、アイディア生まれるといいなぁ。

  • やる気と努力、意欲の違い、モチベーションという学術用語、外発的・内発的動機っけ、欲求理論(白い巨塔の例)、目標説など用語は難しいがなんとなくわかるレベル。目標にもパフォーマンス目標とマスタリー目標がある。意味への欲求(それをやることの意味は?という問い)、没頭するには興味が重要であること。モチベーションは達成することであれば、達成=成功となるがそうではない。居る意欲(変わらずに居る)、すなわち誠実さを求めることがモチベーションである。
    きっと理解しきれてないけどどこか頷けた。
    182冊目読了。

  • いろいろやる気に関して書かれた本の理論が体系的に整理される。収まるところに収まった感じ。

  • 2022/1/19発売!!
    <中公新書 心理関連 モチベーション>
    結論: 中公新書のデビューとして、ぜひ読みましょう!

    個人的に最も硬派な新書のイメージをもつ中公新書。
    相変わらずのボリュームに専門用語の多様、歴史上の人物・正確な年代を細かく書くいつものパターン。
    カーネマンのファスト&スローなどの先行研究を交えながら、心理学の基礎単語を学べた。

    よくわからない学者の説が永遠に続くわけではなく、日常生活で
    「オレ、試験前だけど全然勉強してないわ〜」
    ①何故言うのか?
    ②メリットとは?

    といった本当に身近な例も交えてあって面白かった。
    ボリューム多くてノートにまとめてみたいくらい単語とその関連単語が多かった。
    (まあこれも中公新書あるある)

  • 心理学に、またモチベーションに興味あるのでこの本を読み始めた。とにかく、心のシステムというものは非常に難解で、やる気を起こす、起こさせるということは簡単にはできないということであった。とりあえず、経験的に知った動機付けということが心理学的に正しいことはわかったので、これまでの頭の整理ということ意味では本書は役に立ったが、質・量ともにボリュームがあるので、読み終えることは大変であった。

  • 人は多様性・多面性。そんな中、個人のモチベーションをどう確保するのか。自律性を促す仕組みを構築がまず一歩。具体的にはこれも多様で多面で。そのやり方の手がかりになる内容がたくさん書かれてて、やってみたいとかんじた。

  • とても学問的

  • ( ..)φメモメモ
    モチベーション2.0は「賞罰による行動」の中で不快な緊張状態があり、それを避けるためにモチベーションが生じるというもの。
    このような外発的動機づけのほうが社会では多く、自明視されている。

  • モチベーションは、非常に複雑で多様な要素で成り立っていることを示してくれる。「これをすればモチベーションが上がる」などという特効薬はないことを教えてくれる(邪な心持ちで本書を手に取った自分に反省・・・)。
    一方、これらの要素のうち、いくつかでも心に留めおくことは日々の生活を送る上でとてもためになると思われる。例えば、「報酬システムは外発的な動機づけに過ぎない」といった説は私にとっては目から鱗。

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著者プロフィール

慶應義塾大学教職課程センター教授。教育心理学。
『モティベーションをまなぶ12の理論―ゼロからわかる「やる気の心理学」入門』(編著,金剛出版, 2012年),『子どもの姿に学ぶ教師―「学ぶ意欲」と「教育的瞬間」』(教育出版,2007年),『教育心理学の新しいかたち』(編著,誠信書房,2005年)。

「2013年 『教育心理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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