入門 開発経済学-グローバルな貧困削減と途上国が起こすイノベーション (中公新書 2743)

著者 :
  • 中央公論新社
3.56
  • (2)
  • (2)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 121
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121027436

作品紹介・あらすじ

21世紀に入った今でも世界は悲惨さに満ちている。飢餓、感染症、紛争などに留まらず、教育、児童労働、女性の社会参加、環境危機など、問題は枚挙にいとまがない。開発途上国への支援は、わたしたちにとって重要な使命である。一方で途上国自身にも、ITを用いた技術による生活水準の向上など、新たな動きが生まれつつある。当事者は何を求めているのか、どうすればそれを達成できるのか、効果的な支援とは何か――これらを解決しようと努めるのが、開発経済学である。その理論と現状を紹介し、国際協力のあり方、今こそ必要な理念について提言する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 戦後はじまった先進国から途上国への援助が、その理想に向かってどのように変わってきたかをコンパクトにまとめている。ただ最近の「自国中心主義」「SDGs」に現れる反理想傾向に熱く憂いていて共感できる。

  • 【請求記号:333 ヤ】

  •  1970年代、80年代に学生時代を過ごし(学舎も同じ)、その後、アジ研等を経て、現在、立命館アジア太平洋大学で教鞭を揮う著者。
     専門は、開発経済学。開発途上国が、現状を回復し、物質的に豊かに、社会制度的に高度に発展するよう、その仕組みを開発し、その開発上の諸問題に応えていく学問が国際開発論、その中で経済的なメカニズムに着目するのが開発経済学だそうだ。
     とはいえ、開発途上国が独自に豊かに高度になる仕組みを開発というより、先進国からの援助、支援を如何に効率よく行うか、富の再分配の効率化によって底上げを図る有効な手段を探る学問と言っても良さそうだ。

     同年代の著者が、その分野に興味を持った時代的背景も良く判る。
     1970~80年代、イケイケどんどんの日本社会に育ち、我々日本は、貧困国に援助をする立場、という思いが身に染みている。

     1960年初頭に日本は、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)に加盟、当時の自由主義陣営の援助供与国(ドナー)の仲間入りを果たす。当初は、アメリカの25分の1程度の援助額だったが、1990年代に世界1位の援助国となる(1993年~2000年までTOPドナー)。そういう時代を過ごし、日本政府からの援助が、どのように使われ、如何に対象国の発展に寄与したのか(あるいはしなかったのか)を検証する、そして、より効率化を求める研究は、楽しかったに違いない。

     が、その開発経済学も、役目を終えた(by ノーベル経済学賞のポール・クルーグマン)というワケではないが、ひとつの岐路に立っている感はある。ゆえの、このタイミングでの本書執筆なのだろう。敢えて、「入門」と冠し、その歴史、過去の功罪を含めて振り返ってみたもの。そして、今後の開発援助の行方、有り方を探る好著。

     昨今、気になるのは、中国の政府援助は是か非か? 西側目線では、質の悪い高利貸し、マチキンの類で、いずれ身ぐるみはがされる、みたいな議論をよく耳にするが、「中国政府による開発途上国への公的資金供与は、融資条件は比較的厳しいものの、規模が大きいという特徴がある」と、冷静に分析している。
     あと、かつての国際援助は、今やSDGSという言葉に置き換えられているという実態。そのことで、開発の側面が弱まり、環境保護や、独自開発が奨励されるようになったが、果たしてその効率、有効性はどうかと疑問を呈する。目標が多岐にわたり、なんでもSDGSだということにも、著者は異を唱える。
     また、南北縦方向の援助の難しさの指摘は面白い。ヨーロッパが均一に発展してきたのも(もちろん差はあるが)、東西、すなわち横展開は、技術も伝播しやすいという側面がある。一方、南北アメリカ大陸の格差、アフリカや南アジアへは、いわゆる西側諸国が蓄えた、技術、智恵、あるいは農業で使ってた種、品種でさえ、縦ほうこうへ伝えていくには、新品種の改良や技術の開発、刷新が必要となるなど、いっそうハードルが上がる。なるほど。

     そうした、東西、南北の貧富の差、技術力の差、時差を含め、あらゆるギャップを利益の源泉としてきた時代に社会人生活を送ってきた身としては、今後の世界の在り方は如何に!?と、ついつい考えてしまう。その為の、基本情報を整理して伝えてくれている。

     あとがきにある、著者が今の学生に感じる意識の差が、面白い(2108年から立命館アジア太平洋大学@大分県別府市に勤務)。

    「学生たちはしばしば、「現実」が常に優位に立つと思い込む。また国際協力の実務者の側も「理想だけでは多くの人々の意見の一致(コンセンサス)が得られず、物事が前に進まない」という経験則を振りかざし、理想の意義を相対的に低めるメッセージを発しがちである。」

     これに対し、本書で言いたかったことは、「理想こそが、すべての原動力であった」と強調する著者。右肩上がりの時代を駆け抜けてきた著者の思い、大いに同意できるが、それを、ストレートにぶつけても、停滞の四半世紀を過ごしてきた若者には伝わりにくいのかなとも思う。
     が、今、時代は、ひとつの岐路にあると思う。これからは、「現実」がこうだからと、停滞していては時代に乗り遅れるのかもしれない。「理想」を掲げ、猪突猛進する時が来ているのかもしれない。

  • ふむ

  • 333-Y
    閲覧新書

  • クルーグマン「開発経済学は役割を終えた」
    二重経済論=支配する国と支配される国に分ける。
    発展段階論=国内総生産に占める投資の割合が5%から10%に増加することが、離陸の条件、とした。
    ガーナなどは、輸入代替工業化戦略をとった。
    二重為替レート制度。加工度が上がると税率が上昇する関税制度をとった=クリフエスカレーション。
    韓国や台湾は、輸出志向工業化で成功した。
    「ワシントンコンセンサス」=IMFの指導によるコンディショナリティ。構造調整貸付の条件となったが、緊縮的財政運営を強いたため、成功した国は少ない。

    国際貧困線は一日1.9ドル。貧困比率は低下している。
    ジェンダーとは社会的に作り出される性差のこと。

    キャッチアップ=後発性の利益。
    経済成長は、技術進歩と資本蓄積で決定される=貯蓄率と生産性。
    緑の革命=品種改良で技術進歩があった。逆に穀物メジャーが種子を独占している。
    ケニアのMペサ=携帯電話による送金サービス。
    経口補水塩療法=下痢のリスクから救った。
    マラリアの新しい薬。キニーネに対する耐性菌を治癒する。

    ヨーロッパは東西に広がっているため技術が伝播しやすい。アメリカは南北のため新品種、技術が変わる必要がある。
    シュンペーターの技術革新論。
    アローの技術革新論
    リーフブロッキング現象で、既存のインフラが充実していると革新が起こりにくく、なければ先に最新技術が発展する。
    バングラデシュの電気自動車=中国製の小型電気自動車の改良型。LNGが北西部には届いていなかった。

    為政者は技術革新を奨励しない=中国の例、イギリスで産業革命がおこったことの背景、など。

    HIVの薬は、ドーハ宣言で、特許保護が弱められて途上国に広がった。特許保護を強めるか弱めるか。ワクチン買取補助金事前保証制度で、その均衡を図る。

    中国のコロナワクチンは第三相試験の結果を公表していなかったので世界には受け入れられなかった。
    コロナワクチンの需要減で、南アフリカのワクチン工場は不振。

    援助の必要性=貯蓄投資ギャップ=投資するお金がない。外貨がない=外貨ギャップ。
    投資支出原則=援助は投資支出に限定する。
    外貨原則=国外から調達するものに限る。
    要請主義=要請された場合のみ援助する。
    アンタイド化=日本製に限らない原則。

    中国の援助は、商業借款に近い形。融資条件が厳しいが額は大きい。
    中国の援助には罠がある。
    返済の行き詰まりには、パリクラブで調整するが中国はパリクラブに加盟していない=差し押さえを実行する。
    新開発銀行、アジアインフラ投資銀行、などで主導権を握っている。

    MDGSからSDGSに変わったことで国際開発の側面が弱められ、環境保護、自国の開発の面が強まった。
    目標が17に増えたことから、どれかに該当すればよくなった。
    SDGSには価値追求型と手段追行型が混在している。2030年の期限切れでは、価値追求型に統一すべき。

  •  貧困で苦しむ中で特に不利な状況の人々、国際経済、政府開発援助のルールと現状など、包括的ながら分かりやすい。途上国での技術革新導入や、また東・東南アジア及び一部のアフリカ諸国における先進国へのキャッチアップを見ると、被援助国であれ、もはや単に遅れた国とは見なせない。ワクチンの知的財産権などは先進国内の課題でもある。著者は、先進国と途上国の完全な二極分化は必然的ではない、とする。
     著者は、20世紀に比べ、現在は国際開発において批判や理想が後退し、国益や現実がより全面に出ているとの方向転換に柔らかい筆致ながら批判的。この指摘が最も強調すべきことである、とすら述べている。著者の批判自体への当否はともかく、興味深い方向転換だ。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/563223

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ジェトロ・アジア経済研究所

「2015年 『テキストブック開発経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山形辰史の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×