関東軍――満洲支配への独走と崩壊 (中公新書 2754)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 204
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121027542

作品紹介・あらすじ

関東軍は、一九二八年の張作霖爆殺事件や一九三一年の満洲事変など、日本政府・陸軍の統制から外れて行動し、多くの謀略に関与したことで知られる。今や「独走」の代名詞として悪名高いが、なぜそのような組織になったのか。これまでの戦史・外交史研究に、中国側の史料も踏まえ、組織制度、軍人の個人的特性、満洲の現地住人について分析する。関東軍の誕生から崩壊までを、日本そして中国東北部の視点から迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 関東軍という目線からその思惑と出来事が記録されている。
    似た書籍があるが著者の個性的な表現もあり、追求されたい方にはとても良質な書である。

  • 関東軍の成立から解体までの概要、同軍を取り巻く環境、幹部の思惑などをまとめた本である。関東軍研究の書籍として、かなり前に中公新書から一冊出ていたようだ。本書は近年の研究成果も含まれていると思われる。

    張作霖や徳王に接近していた背景、支那通とは何か、関東軍の組織的特徴など、知らなかったことが書かれていた。中央を無視した暴走が印象的な関東軍であるが、司令官に梅津が就いたことでその傾向が落ち着いたことは気になる点だった。

    悪くいえば教科書的記述だが、誠実な書き手であり、信用に値することがよく分かる。世間的にあまり知られていない関東軍を勉強したいのであれば、最初の方に読むべきであろう。

  •  前史から終戦まで、関東軍を細部も含め包括的に網羅。そのため細部は自分にはやや消化不良だった。また、関東軍をメインとしつつも、満蒙の状況(革命、国民国家って何だろう)、陸軍内派閥、諸々の事案での天皇の意図など、この時期の全般動向も見え隠れする。
     本書のメインはやはり関東軍が関東軍らしい張作霖爆殺から華北・内モンゴル工作の期間。ノモンハン事件から終戦までは物悲しい。
     ただその前、1920年代前半から既に、不干渉との政府方針に反し張作霖に武器を供給していた。このような関東軍の謀略は確かだが、関東軍のみの責とも言えない。著者は、謀略はそもそも陸軍の常套手段で、また張作霖への兵器供給には陸軍中央も関与していたと指摘。その後も、関東軍の行動に陸軍中央も政府全体も徹底した対応を取れなかった。天皇も基本的には自らの強権発動には抑制的で、進行中の事象(河本大作行政処分、熱河作戦)を止めようとまではしない。
     何が関東軍をそうさせたのか。終章での組織論的な指摘が面白い。出先軍司令官は制度上は天皇直隷。片倉衷のように(今村均もそうか)陸軍中央と関東軍それぞれの所属時のセクショナリズムに基づく行動。成績優秀な作戦参謀の影響力と、自身をアピールするための支那通情報参謀の強硬策主張。本庄繁はじめ参謀に任せるタイプの司令官と、理性に徹して参謀の言いなりにならない梅津美治郎。

  • 及川琢英著『関東軍 : 満洲支配への独走と崩壊
    (中公新書 ; 2754)』(中央公論新社)
    2023.5発行

    2023.1.30読了
     関東軍といえば、日本史で必ず習うあの事件の首謀者として悪名高い。
     張作霖爆殺事件は関東軍参謀の河本大作らが、満洲事変は関東軍作戦参謀の石原莞爾らが起こした謀略として記録されている。
     陸軍中央や政府の命令を無視して独断専行で動き、そのことがむしろ奨励されるような風潮を生み出し、その後の日中戦争や太平洋戦争の遠因となった。
     先行研究としては、島田俊彦氏の『関東軍』をはじめ多くの研究があるが、これまでの研究では、関東軍自体の組織的特性や満州国との関わりが十分に明らかにされてこなかったという。
     そこで、本書では、特に関東軍の組織的特性や軍司令官の個人的特性、満州現地勢力と関東軍の関わりについて筆をさいている。
     例えば、関東軍が誕生する以前から、日本軍と満洲現地勢力との間には密接な関係があり、互いに利用しあう関係にあった。謀略レベルにおいては、関東軍成立以前から陸軍中央や政府の方針に背く工作が行われていた。
     また、関東軍の行動を制度的に抑える手段が奉勅命令(あるいは臨参委命)しかなく、関東軍の実際の統制は、軍司令官の手腕にかかっていた。本国から送られてきた軍司令官が、強硬論を唱えるエリート参謀らをいかに統率していくかが重要だった。しかし、中央の方針と違っても、作戦が成功さえすれば出世できるという風潮が軍司令官による統制を困難にさせていた。
     本書は以上のような問題意識を出発点にしているため、日本の外交や戦争の展開と関連付けた記述は少ない。
     事実だけを淡々と記述していくような文体もあって、感情の起伏に乏しい、やや面白みにかける部分があるのも確かだが、膨大な史料に裏付けられた信頼ある研究であることは間違いない。今後の関東軍研究の基本書になっていくことだろう。

    https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I032810199

  •  戦前の日本による中国大陸統治の象徴ともいえる組織機関「関東軍」に関する概説書。関東軍というと「謀略」や軍事組織として見られることが多く解説等もその流れのものが多いが、この本は中国(満洲)や日本の政局とも絡められており、単純に軍事組織のものを期待して読むと困惑すると思う。
     著者は満洲国軍について研究をしている。満洲の歴史とくに張作霖等の有力者が群雄割拠していた事に関する分野に詳しいため、その方面については詳しく書かれている。対して支那事変以降の関東軍については割かれている分量も少ない。もう少し満ソ国境紛争について書かれていたと思った点がちょっと残念。
     とはいえ、関東軍創設期について知りたいと思う方には、最初の入り口としてもいい良書である。より詳しく知りたいと思ったら、巻末の参考文献を利用して他書を当たればいいと思う(私もこれを活用したいと思った)。

  • かなり細かく、関東軍の成り立ちから崩壊、それを取り巻く状況を述べていただいている。

    ので、お腹いっぱい。

    「真面目に」読み込む価値あり。なのだが、ちょっとそこまで興味のあるものでもなかったのでかなり飛ばした。
    やばい時に国益優先でないこともよく分かった。省益、利権、利害。

    悲しい。

  • ノモンハン敗北があったとはいえ、梅津が司令官になったら独断専行が収まったというのは、考えさせられます

  • 政府もしくは軍すら統制が効かなかった1930年代の関東軍だが、なお悪いことには、関東軍自身さえ、どこに向かおうとしているか確たる戦略が無かった(方針が統一されなかった)。一種、大陸東北部に突如あらわれた半独立のエネルギーが、台風のようにふらふら動き周辺と軋轢し、結局現地の日本人を護る任務も果たせないまま、日本敗戦と共に雲散霧消したという、(体裁と裏腹に)とても近代の軍隊とは思えない存在に映る。いっそ満洲国に同化し、日本と縁切れておれば、日本の敗戦があろうが無かろうが、今日の東アジア情勢は随分変わっていたかもと想像したくなる。関東軍は、下剋上のモラル崩壊を内包した旧日本軍の双生児というべきで、その暴走は、強力な指導者が国内に居なかったゆえの必然、の観があった。

  • 【請求記号:396 オ】

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著者プロフィール

及川琢英
1977年北海道生まれ.2009年北海道大学大学院文学研究科博士後期課程修了,博士(文学).2010年から2014年まで中国・東北師範大学,吉林大学で外教専家(外国人教員)として勤務.現在,北海道大学大学院文学研究院共同研究員,星槎道都大学兼任講師.著書『帝国日本の大陸政策と満洲国軍』(吉川弘文館,2019)

「2023年 『関東軍――満洲支配への独走と崩壊』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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