建国神話の社会史-虚偽と史実の境界 (中公選書 102)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121101020

作品紹介・あらすじ

天照大神の孫が高天原から降臨し、その孫である神武天皇がヤマトに東征、橿原宮で天皇の位に就く――『古事記』『日本書紀』に記されたこれらの神話が歴史的事実ではないことは、戦前の普通の々にとっても当たり前のことであった。史実ではないが、史実として扱い、そう振る舞っていたのである(こうした「建前と本音」的なものは、現代の私たちにも心当たりがある)。


神話の「史実」化には、天皇による統治を正当化するという明治政府の政治的目的があったのはもちろんだが、一方で民主化(神々の話合いは「万機公論」の根拠とされた)や経済振興の手段でもあったことは、今ではあまり知られていない。もっとも、「神話」を「史実」として受け止めることには、さまざまに無理も生じる。とくに教育現場における混乱は、いくつもの「笑えない」笑い話を残した。


本書は、幕末水戸学の尊王攘夷思想という建国神話重視の発端から、昭和天皇が「人間宣言」によって事実上、建国神話を否定するまで(そもそも、昭和天皇は科学者でもあった)、日本社会に起きた悲喜劇をエピソードたっぷりで描き出し、近代とは何か、歴史とは何か、国家とは何かを問い直す。



目次より

序 章 虚偽と史実の境界

第一章 神話が事実となるまで

一 日本の建国神話とは

二 なぜ「事実」になったのか?

三 教科書で「事実」とされたのはなぜか?
 
第二章 「事実」化の波紋

一 学校の外ではどうだったのか?

二 学校の中ではどうだったのか?

第三章 建国祭と万国博覧会

一 政治にどう利用されたか?

二 経済にどう利用されたか?

第四章 満州事変の影響は?

一 教室外でも始まる建国神話の「事実化」
  
二 建国神話教育への影響は?

第五章 日中戦争期の社会と建国神話

一 紀元二千六百年をめぐって
  
二 社会はどう受け止めたか?

第六章 太平洋戦争期とその後

一 国史教育のその後

二 効き目はあったか?

三 その後
 
終章 「建国神話の社会史」の旅を終えて

感想・レビュー・書評

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  • 皆さんは「神話」と歴史をごちゃまぜにしていないだろうか?第二次世界大戦前の日本では、『古事記』『日本書紀』に記された「神話」が歴史上にあった「史実」として語られていた。このありえない状況の背景には明治政府や社会の要請からの様々な理由があった。本書は、その理由を解きほぐしながら、我々の認識自体の危うさを問い直している。「歴史学」受講者には特におすすめ。(町田祐一)

    日本大学図書館生産工学部分館OPAC
    https://citlib.nihon-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=1000288133&opkey=B169881813556864&start=1&totalnum=1&listnum=0&place=&list_disp=20&list_sort=0&cmode=0&chk_st=0&check=0

  • 2冊ある。

  • 「記紀」は天皇制や古代国家体制の正当化が目的。「古事記」は文芸作品や歴史書ではなく「祭政一致氏族政治時代の国家統治上の口詔的伝承を組織した」「今日の憲法、行政法の如きもの」。「日本書紀」も「律令官僚制の基礎をなす氏族制的な政治体制の中で、各氏族の家記の神話を正史という枠のなかに取り込み王権への従属性を強める意図があった」「奈良時代の支配層にとって現代の王権の根本としての神話である」というものである。
    このような神話が、その作られた目的やその後どのように時々の政権に利用されてきたのか時代に沿って分析している。

  • 東2法経図・6F開架:210.6A/F93k//K

  • 「天壌無窮の神勅」による「天孫降臨」をはじめとする建国神話が近代日本社会においてどのように扱われ、どのような意味を持ち、どのような影響をもたらしたのかということを論じている。
    戦前においても建国神話を巡る状況にはいろいろと変遷があり、昭和戦中期に近づくにつれてファナティックなものになっていったということがよくわかった。多くの人が建国神話は事実でないとわかっていながら、事実として扱わないといけなかったことによる教育現場をはじめとする苦悩にみちた対応が興味深かった。それらはある意味滑稽に感じたが、天皇機関説事件など建国神話を否定したとして社会的地位を奪われるなどの事態も起きており、笑ってはいられない酷い状況であると思った。
    本書で明らかにされている建国神話の社会史は、現代社会にとっても非常に教訓的である。おかしいものにはおかしいと言うことの大切さを感じた。

  • 読みやすくて面白いです。

    先生、そんなの嘘だっぺ!

    尊氏か!と言われ木刀で殴られる

    笑ってしまいました。

    虚構である神話を史実として扱った結果、わかったのは 嘘 はいけないよということ。

    正義とは何か
    多くの人々にとっては教育と時代の雰囲気によって得られるまったく異なる価値観である。
    準拠すべき別の選択肢が用意されない、また別種の情報から隔離される、ことによって恣意的に人々は利用された。

    ただし衣食住足りて、人間は人間として活動するという通り、飢えや生活の不自由さ、命の危険の蓄積が限度を超えれば、こうした教義による抑圧や支配は万民に通用しなくなるという現実も知らしめた。

    本居宣長によって再発見された 古事記 
    建国神話が注目され、古事記、日本書紀の研究が進み、作為性が気づかれたのにも関わらず、日本書紀に異説として記されていた 天壌無窮の神勅 が社会の安定化のために 天皇を絶対化する根拠 として 発見 された。
    すなわち天皇の意思に従うことが正しいという流れ。

    建国神話の中の神々の語らいを議会制の起こりとして捉えた、議会制民主主義の維持への提言や経済発展、国際協調への役立て、またはエンターテイメントとして捉えた初期の式典くらいの位置付けとして、神話と付き合って行けたら昭和という時代は違う結果だったのでしょう。

  • 建国の神話がいかに第二次大戦に向けて悪用されてきたのか、その経緯が明らかにされている。
    今も、この日フィクションを未だに喧伝する、方々は何を意図して、どこに向かおうとしているのか、注意が必要だ。

  • ふむ

  • 建国神話という虚構がどのように学校で教えられたか、日本社会に受け入れられていたかについてで、万博やオリンピックなど、日中戦争が泥沼化していく中での日本人の空気感というのもわかって面白かった。
    古事記と日本書紀の神話は当時の政治体制を正当化する意味があり、一種の憲法のようなものであった。それが本居宣長の国学、水戸学を経由して尊王攘夷思想に、そして1930年代の国家主義にも影響を与えた。対外的な危機に庶民を動員する思想の根拠として建国神話は事実という建前で教室でも教えられた。建国神話を国民に押し付けざるをえないほど昭和初期の日本は正当性の乏しい行動をとっていたが、この原因は荒唐無稽な虚構が日本人に通用すると考えていた明治期藩閥指導者たちの愚民観に行き着く。

  •  明治維新から戦争で壊滅するまでの約80年弱、農業を中心としていた小さな国がそれなりの工業基盤を持つ国へ、この短期間の間に成長していくところで、精神的な支柱として持ち出されたのが神様の子孫である天皇陛下という存在。天孫降臨神話と実在の天皇は、実際に人々の心で結びついたのか、その理解の紆余曲折がなかなか興味深い。
     日本人の精神構造に対して影響を与えてしまったことは間違いない。

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著者プロフィール

古川隆久

1962(昭和37)年東京生まれ。1985(昭和61)年東京大学文学部国史学専修課程卒業、1992(平成4)年東京大学大学院人文科学研究科国史学専攻博士課程修了(博士(文学))。広島大学専任講師、横浜市立大学助教授などをへて、日本大学文理学部教授。専攻は日本近現代史。著書に『昭和戦中期の総合国策機関』(吉川弘文館 1992年)、『皇紀・万博・オリンピック』(中公新書 1998年)、『戦時議会』(吉川弘文館 2001年)、『戦時下の日本映画』(同上 2003年)、『政治家の生き方』(文春新書 2004年)、『昭和戦中期の議会と行政』(吉川弘文館2005年)、『昭和戦後史』上・中・下(講談社 2006年)、『あるエリート官僚の昭和秘史』(芙蓉書房出版 2006年)、『大正天皇』(吉川弘文館 近刊)などがある。

「2020年 『建国神話の社会史 虚偽と史実の境界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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