ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書 290)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121902900

感想・レビュー・書評

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  • 日銀で20年勤めた銀行マンが、国際通貨基金の頼みでルワンダの中央銀行総裁になり、国の経済を立て直すノンフィクション

    ノンフィクションにもかかわらず、異世界ものの内政チート俺TUEEE小説に思えてくる不思議
    大統領との会話とか、特にそう感じる


    IMFからはルワンダの通貨の安定化を指示されていたが、赴任してみると通貨の安定どころか、国家財政の赤字、コーヒーに依存した外貨獲得構造の崩壊、そもそも国に物がない、外国人が優遇されすぎていて国民には重税等々、本来の仕事よりも手を付けなければいけない事が満載

    世界的にコーヒーが過剰供給されている中で、産業の中心はコーヒーが主流だが原産続き
    内陸国のために輸出には輸送費がかかり、他地域よりも不利という状況

    通貨の平価切下げに関して、関係者は自分の利益の事のみ考え、本質的な問題に関しては一切知識がない
    二重為替相場制度という宗主国から押し付けられたような歪な制度の是正が必要だが、平価切下げだけで全てうまくいくようなものではない
    国内の経済の安定のため、自らの職権をフルに活用して取り組む服部さんの自叙伝



    平価切下げの何たるかがわからない大統領
    外国人顧問からのアドバイスを聞いても、切り下げが本当にルワンダのためになるか分からない

    「それは顧問が間違っています。達成すべき目的、つまり政治は、門番を屋根にのせることです。この方法が技術で、梯子で上がるか、飛び上がるか、ヘリコプターで上げるか、木に登って飛びうつるかは技術なのです。屋根に飛び上がれというのはすでに命令者が不可能な技術をとることを指定していることになるのです」

    「通貨は空気みたいなものです。それがなくては人間は生きていられません。空気がよごれておれば人間は衰弱します。しかし空気をきれいにしても、人間の健康が回復するとはかぎりません。空気は人間に必要なものであっても、栄養ではなく、人間が生きるためにはさらに食物をとり水を飲むことが必要なのです。通貨改革をすることは空気をきれいにすることです。財政を均衡させることは生きていくに足る栄養をとることです。しかし健康を回復するためには、栄養の内容が重要になってきます。経済でいえば財政の均衡の内容とその基礎になっている経済条件が、国民の発展に合うようになっていなければならないのです」


    経済に明るくない大統領へのわかりやすい説明に、同じく経済について知らない私も納得

    まぁ、そんな事で信頼を得たがゆえに、大統領からは「全面的に信頼するし実行するのは自分なので、経済再建計画の立案は任せた」(意訳)と丸投げされるんですけどね
    そして後には政治家達も「日本人が作ったから」という理由で納得して帰っていくというね

    外国人に話を聞けば、有能な外国人が無能で怠惰なルワンダ人を導いてやっているという感覚
    そして、給与で得た資金を二重相場を利用して増やして本国に送金しするというのがまかり通っている

    そんな中、服部さんはルワンダの人と直接話をして実態を掴み始める
    実際のところ、外国人たちは既存の制度に乗っかってバックにある資本で儲けていて
    ルワンダ人も実は合理的な判断力を持っている
    しかし、現在の安定しない経済事情がルワンダ人の自給的生活を余儀なくされているだけである事を認識する


    ルワンダの恒久的発展には、ルワンダ人の手によるものでなければならないという信念


    ルワンダ人商人に対する評価のズレも同様
    ルワンダ人には商売はできないと言う外国人達の方が先が見えてなかったというエピソードもよい

    インド人商人によるトラフィプロ(スイスの生協のようなもの)との値下げ競争は正になろうでありそうな展開だと思う

    商業銀行、市中銀行との交渉も実になろうっぽい
    何故、現在こうなっているのか?よりも、今後どうするのか?を重視することで、過去の事は追求しないので今後は協力しろという言葉が見え隠れ
    何ならこっちでやってもいいんだぜとハッタリを効かせるあたりもね


    服部さんの成果の一部
    ・二重為替相場制度の廃止
    ・平価切り下げ
    ・外国人優遇税制の是正
    ・市中銀行の誘致
    ・物価統制の廃止
    ・輸出用倉庫の建設
    ・必要な物資のための流通ルールの整備
    ・ルワンダ人商人の育成
    ・バス会社の設立援助

    中には「はたして中銀行の総裁がすべき仕事なのか?」と疑問に思う事もあるけれども
    国内の経済の安定化のためには必要な事だし、その影響力も説明されれば納得できる

    困難な状況で、自分の任務をどう果たすかという使命を果たした人なんでしょうね

    なので、正論だけではなく清濁併せ呑む側面もある
    理論値や理想論を前提とするだけでなく、目的のためには目をつぶったり情報を公表しない必要性もあるのも理解できる


    途上国の発展が遅い理由をこう分析している
    富を持ったものが富の再生産ではなく消費に使うのと、既得権者による競争の阻害が最大の要因
    国内で生産された富は外国人の手によって国外に流出する
    昔の日本は貧乏な家の子でも勉強して一流大学に入学でき、一流の大学ほど学費が安い

    現代社会において、明確な身分はないけれども、富めるものは次代も富みやすい構造になっているなぁと思い返す

    「努力すれば幸福を手に入られれるようにする」ことが政治の正しい役割
    現代の日本でも同じことが言えるはずなんですけどね

  • すごい!自分自身は国際経済、開発経済学の知識は無いし、そもそもあまり興味がない分野だし、海外での業務経験も無いにも関わらず、著者の凄さは圧倒的に感じたし、様々な人がいる組織の中でお互いを理解し、働くという点では多くの学びがあった。

    著者のすごいところは、もちろん元々の知識量の多さもあるのだろうが、それよりも、知識を机上の空論にせず、ルワンダ人と会話を重ねながら、外国人技術者達が作り上げた不平等かつ複雑怪奇なルールを撤廃し、ルワンダの現状に合ったルールをゼロベースで作り上げていく点にある。膨大な知識がベースにあっての、持続可能なシンプルなアウトプットというのが最強なんだと思う。
    トラックの値決めや車種の選択一つ取っても、実際にルワンダ商人と会話し、彼らの行動や行動原理を理解しないことには、持続可能なルールづくりはできなかっただろう。それは、今までルワンダで、誰もできていなかったことだった。
    また、彼の毅然とした態度も格好いい。ルワンダ大統領にも、ルワンダ商業銀行のバックにいる欧米のトップ銀行のお偉方相手にも、外国人技術者にも、インド人商人にも、ルワンダ商人にも、ルワンダ農民にも、「ルワンダ人によるルワンダの持続的な発展にとってプラスとなることをすべきである」という強い信念を持ち、同じスタンスで接し、辛抱強く説明し、理解してもらい、信頼を得る。ただ優しく接して「仲良しになる」のはもっと簡単だろうが、見知らぬ環境の中で、自分の信念を貫き、結果を出し、現地の人々から信頼を得ることはとんでもなく偉大なことだと思う。
    また、初期の段階からかなり著者に権限が集中しており、割と独断的に行った政策も多い中で、その結果に対する責任は重い。使命感の強い著者だから尚更、一人で背負うプレッシャーはものすごいものだったと思う。それでも、外国人技術者らに頼り切り、ルワンダ人自身すら信じていなかったルワンダ人大衆の潜在的な力を信じ、強い信念と自信を持ち続け、改革を実現できたのは、著者の将としての器の大きさだろう。
    本の結びには、著者が信じる「戦に勝つのは兵の強さであり、戦に負けるのは将の弱さである」という言葉が載せられている。
    こんな日本人が、戦後間もない中で存在し、遠い異国の発展を主導したということが、同じ日本人として嬉しく誇らしく感じた。

  • 平積みになり、まさにリバイバルという形で、手に取ってみたら、やはりなかなかよかった。6年間で行った数々の規格が、今も生きているということだろう。人ができることは、大きく一国を変えていくこともあるということがわかる。良い仕事には愛情が伴うものだと思う。

  • 約50年も前のお仕事について書かれた本ではあるが、情報あふれるこの時代に示唆的な内容であると感じた。

    著者の方は、日本中央銀行で約20年、その後も国際的金融機関で輝かしいキャリアを積まれた方だが、人から聞いた話を鵜呑みにせず、ヨレヨレのランニングシャツを着たようなアフリカ小国の名もなき一般人とも直接お話をされる方であったようだ。ご本人の卓越した経験、スキルの力もあるだろうが、結果的に今まで誰もなし得なかった一国の経済を立て直す大仕事を成功されている。

    翻って今日の日本、自分が触れている情報は信用に足るものだろうか。人から聞いた、教えてもらった情報や考え方を鵜呑みにしてはいないだろうか。そっと我が身を振り返った。

  • ルワンダ経済再建の舞台裏を垣間見る事ができる貴重な本です
    経済の成長も阻害も人次第、そういう人材を育成する大切さを再確認させられました

  • 内容は非常に重厚で盛りだくさんであるが、読みやすく一気に読了した。実務家として、様々な相手に説明する機会の多かった著者の性格が現れているよう感じた。

    1965年からの6年間、ルワンダ中央銀行総裁として、財政赤字の改善、通過改革、そして国際収支の均衡という大仕事をどのように達成したかが示されている。

    著者は、途上国の持続的な発展を基本理念として、一次産業を中心に現地の人々に寄り添った政策を実施してきた。途上国支援の方法論は様々な論があるが、本書のように、当事者として、どのように考えどのように意思決定を行ったか、詳細に描かれたものは見たことがなく新鮮であった。

    支援として、人を育てることがどれだけ大切で困難なことか、ルワンダ内情を通じて、最も考えさせられた。

  • 内容は難解だが、もの凄いことを成し遂げた話であることは良く分かる。
    理論と実践が見事に噛み合い、アフリカの貧しい小国の近代化を、中央銀行総裁として日本から派遣された日銀マンが現地民の懐に飛び込んで様々な障害を乗り越え進めていく。何が凄いって、国の実状を把握し、経済学の諸理論を駆使して具体的な施策を立案し、これを実施して行くところ。その施策はこれまで当然にように国際機関や海外からの技術者や行ってきた物とは大きく異なり、現地ルワンダ人の能力を信じ、彼らの努力を引き出し、自らの力によって国内経済の基礎を築き、発展させてゆく。
    日本人らしくもあり、日本人の底力を感じる。

  • 最近の本かと思って借りたら
    予想外に古く、硬い本だった。
    難しかった。

  • 話題の本だったので。

    この本に書かれていることは1964年から1971年であること。
    隣国のコンゴでは、直近に内乱があり白人が暴徒化した黒人に凌辱、虐殺されていること。
    インターネット、携帯電話はもちろんのこと、国際電話でさえままならない時代であること。
    ルワンダはこの時独立したてで、アフリカで最も貧しく、国土も狭く産業も育っていない国であること。

    そんなルワンダの中央銀行(日本で言えば日本銀行)に総裁として世界通貨基金の要請で派遣されることになった。

    独立しても旧宗主国に搾取され続ける仕組み。
    理解できないことがあっても人に聞くと「それがアフリカですから」ですまされることが多い中、服部氏はある意味「郷に入っては郷に従わなかった」人である。

    将来の夢が「ユーチューバー」とか、「eスポーツプレイヤー」とかインドア系をめざす人、新しいことにチャレンジできない人には是非読んでほしい。

  • 自分自身で情報を掴みに行って、事実を確認する。
    理論値にこだわらない。現状からのなだらかな移行を考慮することも忘れてはいけない。
    経済のテクニカルな部分ははっきり理解できないところが多い。
    ただ、おおまかでも、何のためにどんなことをやろうとしているのか、それが理解できれば読み進めることができる。

    当時、1965年当時、宗主国ベルギーから独立したばかりのルワンダの財政は混乱していた。国際通貨基金からルワンダの中央銀行総裁をやってくれと依頼される。
    服部氏は日銀に長く勤め、パリにも3年ほどいて各地在留経験がある、語学堪能。

    中央銀行総裁といっても、日本銀行のそれとは違い見なければならないところ、改善しなければならないところが多い。
    通貨為替が二重になっていた。自由相場と固定相場の2つがあったのを固定相場1本にする。この通貨改革はいつやるのか、相場はいくらで実行するのか。


    税制を見直す。関税やら人頭税やら。
    貿易もルワンダの発展が進むようにしなければならない。主な農産業はコーヒー。
    錫の掘削も主な輸出品だが、これは技術的に外国資本の力が必要。そこは融通をきかせる。
    国際通貨基金以外にも外国各国に資金援助を頼まないといけない。真摯に助力を請わねばならない。
    国内の市場の活性化も必要だ。市場銀行は1つでいいのか。金利はどうするのか。国債の発行はどうするのか。
    国内の商売で不当な利益を得ている外国人、それにも対処しなければならない。外国人だけが得られる優遇を廃止する。そして、ルワンダ人がもっと商売できるようにしなければならない。
    国内の公共交通インフラ、バスももっと走らせた方がいい。

    とにかく、やることがたくさんで、実行した詳細はいろんなサイトで見られるでそこを見れば良い。
    服部氏は自分で現場を見ることを重視し、それをもとに自分自身で判断した。
    そして、理論から改善策を出すが、盲目的にはそれを実効しなかった。どこかで現場の人達が・現状がそれになじむように融通を利かせることを忘れなかった。
    無理に外国資本をいきなり全部排斥することはできないのだ。
    結局、公平な制度にすれば、特権待遇に甘んじた高慢怠惰な外国人を退席し、懸命な人々がそれにとって代わる。その健全な競争はルワンダ人にチャンスを与えることになる。

    ルワンダの人達をバカにする、他の外国人とは一線を画し、実際のルワンダ人がどのような人達なのか、常に対等につきあった。これは服部氏が帰国する際に外国人が語った「服部氏は、ノーと言ってもルワンダ人と友人になれることを外国人に教えてくれた」という言葉にもある。これは媚びず蔑まずということだろう。

    なんでも独立させればいいという考えはよく聞かれるが、
    なんでも早く独立させればいいというわけではないのではないか、ともある。
    独立というと聞こえはいいが、独立前は宗主国の責任下にある。
    未成熟なままの独立では、結局宗主国をはじめ外国人にカモられる。しかし、独立しているので責任は対応出来ない独立国そのものにある。こういうことを言いたいのだろうか。


    服部氏は海軍の情報部出身で、阿川弘之氏の上官だったという。
    あらためて軍部情報部のインテリジェンスのすごさを思い知った。

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