流れる星は生きている (中公文庫 M 23)

著者 :
  • 中央公論新社
3.83
  • (5)
  • (1)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 34
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122003033

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 昭和20年夏、満州。母子4人の満州脱出行

    読了日:2006.02.19
    分 類:エッセイ
    ページ:324P
    値 段:686円
    発行日:1949年5月日比谷社出版、1971年5月青春出版社、1976年2月発行
    出版社:中公文庫
    評 定:★★★★


    ●作品データ●
    ----------------------------
    テーマ :満州引き揚げ
    語り口 :1人称
    ジャンル:私小説
    対 象 :一般向け
    雰囲気 :ノンフィクション、戦争
    Art Direction:吉田 悟美一
    Disign:山影 麻奈
    ----------------------------

    ---【100字紹介】----------------------
    昭和20年8月9日、ソ連参戦の夜、
    満州新京の観象台官舎―。夫と引き裂かれた妻と
    幼い愛児3人の、言語に絶する脱出行がここから始まった。
    敗戦下の悲運に耐えて生き抜いた1人の女性の、
    苦難と愛情の厳粛な記録。
    ----------------------------------------


    戦後しばらくのちに大ベストセラーになり、映画化もされたという、ノンフィクションです。内容は、終戦直前から満州脱出行。出発は昭和20年8月9日夜、途中に難民生活が続き、1年1ヶ月のちにようやく帰郷するまでの記録です。

    この脱出行を困難にした最も大きな原因は、夫と別れての道程であったことと、その上に6歳、3歳、1ヶ月の3人の子どもを女ひとりで守り抜かなければならなかったところでしょう。道中、そのせいで様々な不利な立場に立たされます。子供を泣かせるな、という文句を幾度となく言われ(でも子どもは泣くものですけどね)子どもは汚すから、と掃除当番は多く回ってくる、しかし子どもへの食料の配給は通常の半分量であるし、子どもを置いて働きには行かれないから周りより支出は多くても収入は少ないなど。しかしその分、著者の「生き抜こうとする力」は強い。途中、何度か死にたくなったり、子どもを減らしたくなったりするわけですが、そのたびに子どもから力を分け与えられるのですね。自分が死ねばこの子たちは誰からも守ってもらえない。また夫が傍にいないせいで、むしろ頼るべきは自分だけだという思いも強く、これが母の愛というものですか、と思わされます。

    戦争の話か、と言われると、実はそうではないように思います。何しろ、終戦してからの記録の方が長いですから。著者らは終戦の日にすでに、都市から南下しているのがよかったようで、最後まで特に大きな襲撃にあうことなく、北緯38度線まで到達できています。

    むしろ戦争の悲惨さ、というより「人」が描かれています。勿論、非常事態での「人」です。人、特に人と人とのつながりというのは恐ろしい。善人が最後まで善人ではないし、悪人も悪人のままではない。とてもいい人が有事には平気で人を騙すし、子どもを殺してしまった人が、本当に困ったときに人の子どもを助けてくれたりするのです。著者が始終悩まされたのは、襲撃への漠然とした不安と、同じ引き揚げの日本人同士のトラブルでした。特に女性だったことが大きいのかもしれません。人間関係に敏感なのは女性の特徴ですから。

    著者自身だって、人を騙して得をしたし、人を脅したり、理不尽なことだってしていますし考えています。生き抜くためには綺麗事だけでは生きられない、これがノンフィクションですね。作り話ではない、迫力とリアリティです。

    そうやって誰もが生き抜こうとして、そしてある者は無事生き残り、ある者は悲しい末路をたどりました。著者はその努力と幸運で、ついに家族全員無事に帰郷したわけですが、沢山の人々が途中で亡くなっていったことが描かれています。本作は彼らの鎮魂歌でもあるのかもしれません。それを目の当たりにしつつ、ラストの帰郷の場面まで到達し、「まあ、てい子」「おう、てい子」と両親が飛び込んでくるときにはここまでの長い長い苦難の道を思い返して、思わず涙がにじむはずです。


    著者の夫は、のちに作家としてデビューする新田次郎氏。直木賞作家です。3歳の子どもとして登場する次男はお茶の水女子大数学教授で、現在活躍する藤原正彦氏。また1ヶ月の赤ん坊だった長女の藤原咲子氏も、新田次郎氏、藤原てい氏に捧げるエッセイを刊行しています。

    本作で、彼らがどれだけ苦労して生き抜いてきたかを目の当たりにした読者としては、立派に成長していった各人の著作も是非、読んでみたくなりますね。


    こんな時代もあったのか、こんな人々がいて、こんな苦難があったのかという歴史的記録として、またひとつの人間の真実の姿を活写する作品として特に若者にお薦めの1冊です。




    ●菜の花の独断と偏見による評定●
    ---------------------------------
    文章・描写 :★★★
    展開・結末 :★★★
    キャラクタ :★★★★
    独 自 性 :★★★★
    読 後 感 :★★★
    ---------------------------------



    「わらびって積分記号、あひるって微分記号のことよ」
    (藤原 てい)

    うーん、似てるっちゃ似てるか…?

  • 第1部 涙の丘
    第2部 教会のある町
    第3部 魔王の声

  • 母は強し。

  • 母は偉大なり。
    幼い子供を連れ、満州から引上げる体験記。
    すごいよ。まじで。

全4件中 1 - 4件を表示

藤原ていの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×