- Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122019850
感想・レビュー・書評
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1993年(底本1942年)刊行。
著者は元朝日新聞記者で「暗黒日記」などで著名な人物。
外交官大久保利通。江戸時代の幕藩体制において、藩を超えた関係性・交渉が外交の性質を有し、そこで揉まれたことが類稀な外交官の資質を育んだのか。
一般に内政中心主義とされる大久保が現実の外交で力を発揮したのが、1874年の台湾出兵の後始末としての日清間の交渉である。
本書はアジア太平洋戦時下の日本にて、困難な交渉を平和裏にまとめた事績を世に示した書とも言える。
正直言うと、本書自体、書簡や報告書をそのまま掲載している箇所は多い。また現代の視点ではさほど意外な内容でもない。司馬遼太郎著「翔ぶが如く」の元ネタ?と思えるほどだ。
ただし本書刊行に至った著者の思いは別儀だ。
言論統制で思うままの評論・記事の寄稿ができなかった中、明治の元勲の事績を史料ママで開示するという方法で世に出せることを強く企図していた。
そして、「命を懸け、また譲るべき点は譲り、目的達成後は速やかに兵を引いた」大久保の事績をネタに、例えるならば「偐紫田舎源氏」の如く、当時の頑迷で頃合いを知らない指導部が、戦争での名誉・果実という傾城に国を誤らせてきたことへの批判を意図した書であることは間違いないだろう。
まぁ対米開戦後刊行では初志の実現はほぼ不可能となっていたろうが…。
そういう観点で見ると、感慨深くはある。
ただ、特異な内容は見受けられないので、個人的には難読漢字を調べたり、久々に漢文風の擬古文を音読的に読む練習として利用した(読破に時間はかかったけれど、たまにはいいかな)。詳細をみるコメント0件をすべて表示