高台にある家 (中公文庫 み 42-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122056916

感想・レビュー・書評

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  •  大正、昭和の時代色豊かな絵巻物風ものがたり、出生の謎を解くミステリー風、女の一生、結婚とは?

     おおまかな内容はこのよう。作家水村美苗さんの母節子さんが小説を書いてしまった。しかも娘が書こうとした母の母、祖母の尋常一通りでない「女の一生」ものがたり。

     むかしは案外こういう立場の人(婚外で子供を産まねばならない)がたくさん居たのだろう。現代は未婚の母はむしろ翔んでいるといわれるが。

     「高台にある家」は上昇志向の象徴。これも今では死語かもしれない。富と貧。現代格差が戻ってきたとはいえ、むかしはそれに加えて身分人格まで貶められ、もやもやした羨みは這い上がりたい力を生むと同時に、強烈な個性を加える。

     年老いた母と若い父。たくさんの異父兄姉が登場して、アンバランスな崖下の家のような暮らし。そんななかで育った少女(語り手「私」)は上つ方を志向してもがき、目覚めていく。

     文学性には欠けるが、大正昭和の絵巻物としてもおもしろく、また、横浜、神戸、大阪の風情がうまく描かれていてどこか懐かしい読み物であった。

     田辺聖子さんも誉め(神戸大阪の暮らしが生き生きしているからか?)娘水村美苗さんの手直しも入っているという文章。

  • 昨年末位から、読んで、やっと読み終えた。
    もう、昭和の時代も遠くなったのに、明治・大正時代の事が、描かれている。
    そして、水森節子氏という母親が、70歳を過ぎて、書き留めた自伝小説であり、水森美苗氏が、少し手入れた作品。

    出生の秘密、庶民の暮らし、そして ハイカラ、モボ・モガ、月給取り、置屋など、今、そんな言葉も知らない人の方が多いのでは・・・

    私は、母から、昔々の話も口伝えで、祖先の話を聞いていた。
    この節子氏よりも母は、若いが、いろんな話をしてくれたので、この本の背景が、よくわかる。

    そして、大阪、神戸など、私が、良く知っている場所が、背景と出て来る事で、親近感が深い。

    この自伝で、出て来る節子氏は、私生児であったみたいだが、親戚は、エリートの会社勤めの人や人の面倒見の良い家族が多い。

    そして、この時代は、家族・身内・家柄に結び付けた為に、養子にやったり、養女に貰ったりとして、血族関係を深めて行った時代である。
    長男が、後継ぎで、財産など、全て長男が、遺産を受け継ぐにあたり、兄弟姉妹、そしてその家族迄の面倒をみる責任をも受け継ぐ。

    だから、この本を読んでいて、親族関係の複雑さは、節子氏が、両親の離婚や私生児という事で、沢山の話を聞けなかったのだろうと、推測される。

    高田郁氏の著書で、「あきない世傳 金と銀」だったか、商いをしてる長男に嫁ぎ、長男が亡くなると次男の嫁に・・・と、お店を存続していくために、そこの店の男兄弟の嫁に、なって行く・・・
    これは、血族関係でなく、お家存続のためであるが、昭和の私の時代でさえ、自分の家の名を継いでもらうために、女の子ばかりの家は、養子に来てもらうのが、一般的な時代であった。
    そして、男子たるもの、妻だけでなく、お妾さんがいるのが、金持ちのステータス(?)的な所があったのだろう。
    伊東博文氏、田中角栄氏など、政治家や大手企業の社長など、この当時は、当たりまえであったのだろう。
    女中が何人かいたり、書生さんがいたり、、、、したのもこの時代であり、成績が良くても進学できない学生などに、家の手伝いをさせて、学費や衣食の世話をして時代である。

    私の小さい時は、父が商社マンであったが、女中さんが、2人居た。
    置屋さんで、田舎に小さい弟妹などの多い家庭の姉が、身を置いて可哀相という事で、我が家に来てもらったと、当時言っていたのだが、・・・
    今は、お手伝いさんと、言わないといけないとも教えて貰った覚えがある。
    しかし、我が家に 他人を使用するという事は、なかなか難しいと、私の母は、言っていた事を思い出す。
    貴重品なども、いつの間にか無くなっていたり、買い物へ行かしたら、なかなか帰ってこないとか・・・頭を悩ますことも多かったようだ。

    この節子氏は、手伝いへと身内の伯母の所へ行って、自分の娘のように扱って貰っていたのだから、躾も出来て、家事も出来るようになったのだから、言う事はない。

    そして、娘時代嫌悪してたのに、やはり、母と一緒に過ごせたのは、良かったと、思いながらも、少し、最後が、尻切れた感じで終わっているように思えた。

    遠い昔の話のように思えるが、私も母から聞いた話などが、かぶさるようで、楽しめた。

  • あとがき? 水村美苗による「祖母と母と私」を読んで驚いた。文章教室に通って習って書いた作品だとは。

    水村美苗「母の遺産 新聞小説」での人間関係が何とも分かりにくく、行きつ戻りつしながら読んだお陰なのか、或いは母・節子の描写が的確だったからなのか、この複雑に入り組んだ人間関係に余り苦労することなく読み進むことができた。

  • 小説家水村美苗氏の実母である水村節子氏によるデビュー小説。小説と言っても、自伝に限りなく近いと思われる。1921年生まれの著者の半生を綴る書であるが、中心となるのは著者の母親の話である。
    著者は、自分の母親の下品な行動や身なりに子どもながら辟易し、恥じている。そして自分はとても若い父と年老いた母に生まれた私生児であることに気づき、コンプレックスに思う。母の複雑な人間関係から、自分は一人っ子ではないらしいと気づく。女学生時代、そしてお嫁に行き、ある決心をするまでの赤裸々な私小説である。
    最初の2章は冗長で投げ出しかかったものの、強烈な母が登場してからは釘付けになった。文体が娘の美苗氏に似ている。この類いの女性の一生を描いた書は様々読んだが、時代背景もあり、なかなか面白かった。昔の人が家族に対して抱いた思い、若くて結婚すること、兄弟の数が多かった時代に思いを馳せる。70代になって小説を書き始めた著者のバイタリティも凄い。オススメの一冊。

  • 読了

  • 自伝はすきじゃないのに、読めた。しかも結構引き込まれた。

  • 『母の遺産』で我儘で娘を翻弄する「母」がここでは娘として自分の母を語っている。
    節子さんは美人だったと美苗さんも書いてたけど、すらりとして、華やかで勝気で、それでいて翳のある若き節子さんはさぞや魅力的であったろう。
    文章は引き締まって、感傷を排し、美苗さんと変わらぬ(彼女が手を入れたせいもあるだろうけど)素晴らしいものとなっている。

    それにしても、「私」の「母」の人生には胸が痛む。
    私生児として生まれ、教育はほとんど受けず、置屋にいられれば男とおかみの勝手で水揚げされ、妾にされ・・・。
    「私」の父との駈け落ちが唯一の恋愛だったかもしれない。
    しかし、老いて捨てられてしまう。

    「父」もしてはいけない恋愛をしたがために、裕福な家に生まれながら、一生うらぶれて過ごしたわけで、その鬱屈はすさまじかっただろうなと思う。

    三代目の美苗氏が小説家になったことで、この人たちの思いも多少報われたのかもしれないな。

    完成していなくても「続編」がぜひ読んでみたい。

  • 本の帯に目が止まった。
    「ママ、いったいいつになったら死んでくれるの?」
    実はこの本でなく著者のベストセラー「母の遺産ー新聞小説」のことらしい。しかし、この本が見当たらなかったため、続編の著者の母が主人公の「高台にある家」を先に読み始めた。少女が自分の出生の秘密が明らかになり、同時に成長していく様は生々しく最後まで一気に読み切った。明治から昭和まで女性の人生ほど私の印象にのこるものはない。それは私の身近なところにも密やかにあるからだろうか。他人の家を覗きこんでいるような何とも言えない気持ちがある。ここまでかける事が凄い。

  • 大正に生まれ、庶子として育ち、
    冷めた目と強烈な自意識と強いあこがれを持ち
    昭和を生きた女性の私小説。

    小説として面白いか、を問われれば間違いなく否なのだけど、
    時代の空気感はやたら生々しく、
    構成は下手でも文章は美しい。

    自意識の高さを正直に描き出す姿勢は真摯で、
    その上主人公に共感するところが多々あったわたしは
    つまらない、つまらないと思いながら時間をかけて
    じっくり読んでしまいました。
    娘・美苗さんの著作を読めばまた印象は変わるのかもしれません。

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