橘外男日本怪談集-蒲団 (中公文庫 た 19-5)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122072312

作品紹介・あらすじ

「日本最凶」の古典怪談、ここに甦る……。

ある地方の古着屋が入手した、青海波模様の縮緬布団。以来、その周囲では血塗れの美女が出現する怪現象が続発し、ついに死人まで――読む者を虚実のあわいに引きずり込む、独特の恐怖世界。日本怪談史上屈指の名作として読み継がれる表題作ほか、現代ホラー界の先駆的存在である著者初の怪談ベスト・セレクション全七篇。

【目次】
 Ⅰ
蒲団(1937)
棚田裁判長の怪死(1953)
棺前結婚(1952)
 Ⅱ
生不動(1937)
逗子物語(1937)
雨傘の女(1956)
帰らぬ子(1958)

〈解説〉朝宮運河

感想・レビュー・書評

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  • “日本怪談最恐”の一篇と名高い表題作や恐怖と哀切を湛えたマスターピース「逗子物語」の代表作2篇他、「棚田裁判長の怪死」「雨傘の女」「帰らぬ子」など虚実のあわいを描いたバラエティ豊かな怪談7篇を収録。

    ・とにかく“怖い”と有名な「蒲団」だが、実際なぜこの話はそこまで怖いのか。現れる女の幽霊の描写か、敷布団の中に隠されたものから想起する猟奇性か、はたまた因果も何も関係なくその蒲団に関わった者に祟る凄まじいまでの怨念か……恐らくはそれらが揃ったが故のこの無類の怖さ、なんだろう。
    ・先祖の受けた恨みが子孫に仇を為す体の「棚田裁判長の怪死」は不条理といえば不条理譚。ピアノ曲の演奏に合わせて尺八や風の音、怒号や叫声が現われるシーンは、短いけれどもここだけで1つの音楽怪談になるんじゃないかというくらいの迫力。
    ・優秀だが気弱で世事に疎い青年医師と彼に嫁いだ令嬢「棺前結婚」はもどかしさとやりきれなさばかりが残る。最後に棺を開けなかったことで物悲しくも美しく物語が終わった、ような。

    ・旅行先で目撃した炎に包まれる3人の人々「生不動」。解説にある通り著者本人の過去の心象風景か。
    ・妻を喪い失意のまま逗子に逗留する“私”が従者2人を伴った美しい少年と出会う「逗子物語」。“ジェントル・ゴースト・ストーリー”の範疇になるのだろうけど、後半の哀切→恐慌状態→親愛の情、という“私”の感情の極端な起伏が、逆にリアル。
    ・掌編「雨傘の女」。傘が“どうせ一つ余りましたから”という女の言葉の意味は、その後妻から聞いた事実によって悲しく哀れなものとわかるのだけれど、傘を渡すべき亭主についての言及がその後何もないことを踏まえると、別の……厭な解釈も成り立つわけで。
    ・幼い頃から難病を患い僅か7歳で逝った長男が20年後《足音だけ》帰って来る「帰らぬ子」。我が子を喪った父親の悲嘆と救済―というとクーンツ「黎明」等、心に沁みる作品はいくつもあるが、これは幼くして亡くなった長男と、健康に成長した次男、2人の子供への親心が描かれているのが特色。前半、長くは生きられぬと覚悟しつつも息子の成長と病状に一喜一憂する両親の姿は微笑ましく哀切極まりない。後半は長男の死後生れた次男が健やかに成長した姿と、奥座敷の外に聞こえる小さな足音に長男を感じる描写が並行する。山岳部に入った次男の登山を必死に反対する母親の姿は、幾つになっても変わらぬ親心というものなんだろう。

    我が子を看取った親の悲痛さを身近で具に見ているが故に、未だ父親となっていない自分ですらも、この作品は胸を衝くものがある。

  • 好きなホラー作家が新しくできた!
    岡本綺堂作品が好きであればこちらも好きなのでは。私は情景描写から怪異のあらわれ方がとても頭の中に映像として現れる。
    昔の話になるが、読んでいるうちに、自分が見たかのような映像が浮かんでくるほどの怪談はなかなかない。
    あと、ホラー というより怪談、の方がしっくりくる。
    蒲団 定番の怪談という感じだが、湿気の感じるような雰囲気がよい。
    逗子物語 映画を見ているようで、坊ちゃん一行の映像が浮かぶ。
    帰らぬ子 胸に迫る前半、後半の信彦に対する感情の起伏があたたかくも時にコミカルにも感じた。

  • 『逗子物語』は以前『怪異十三』で読んだことがあったけど、それ以外は今回初めて読んだ。

    表題作の『蒲団』が一番良かった。
    怖さはそんなにはないけど話として面白かった。
    他の話は盛り上がるポイントがぼんやりしていたりして冗長に感じてしまった。

  •  橘外男の日本を舞台とした怪奇小説を集めたもの。執筆は1937(昭和12)年から1957(昭和32)年。
     初めて聞く名前の作家で、全然知らなかったのだが、江戸川乱歩と生年が同じらしい。
     巻頭の『蒲団』を読んで衝撃を受けた。昭和12年の作品などとは信じられない、実に素晴らしく、傑出したホラー短編なのだ。これこそが名作というものだろう。
     感動しつつ、2つめの「棚田裁判長の怪死」を読んでみるとこちらは私には面白くなく、良くなかった。しかし他はなかなか良く、長めの「棺前結婚」「逗子物語」は面白かった。これらに出てくる幽霊は人を取り殺すような悪意の存在ではなく、「善い霊」なので、恐怖メインではないが、なにがしかの感情を喚起する優れた幻想小説だった。
     文章は完璧というには遠く、ときどきひっかかる部分もあるものの、「語り」は実に上手く、読者を巧みに物語ストリームに乗せてゆく。人物像や台詞、情景等にはそれなりにリアリティがあり、何から何まで人工臭があってあからさまに作り物めいた江戸川乱歩の世界とは一線を画し、勝れている。
     橘外男はこのような怪異小説をを中心にたくさん書いた小説家らしく、これからちょっとこの作家の本を(古書で)集めようと思う。

  • 読みづらい……表題作はまあまあ怖かったですが、そのあとの短編は「それで?」という印象しか残らなかったです。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50294894

  • 古典

  • 橘外男の怪談を集めた文庫オリジナルの短編集。
    表題作の「蒲団」は格安で手に入れた蒲団に纏わる話。よく出来た怪談ではあるが、今読むとまとまり過ぎな印象。
    印象的だったのは「棚田裁判長の怪死」と「棺前結婚」の2作。
    「棚田裁判長の怪死」ははっきりした説明も解決もない実話怪談の先駆けともいえるような話。「棺前結婚」は純愛ホラー。ホラーというより変格物?

  • 「”日本最凶”の古典怪談、ここに甦る」とオビに書かれた短編集。確かにどの短編も怪談ではありますが、訥々とした語りや、静謐な風景描写、死者と生者の気持ちの通い合いなどがなんとも心地よく、怖いとか最凶という感じは全くしませんでした。最後に収められた晩年の短編『帰らぬ子』は、なぜ著者が自作のなかに死者たちを登場させ続けてきたのか、その理由が吐露されたような作品。

  • 虚実のあわいに読者を引きずり込む、独特の恐怖世界――日本怪談史上屈指の名作である表題作他全七篇を収録した、著者初の怪談傑作選。〈解説〉朝宮運河

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著者プロフィール

橘外男
一八九四年、石川県に生まれる。厳格な軍人の家庭に育ったが中学を退学、札幌の叔父に預けられる。その後、医療器機店、書籍配給会社などの職を転々。一九二二年、有島武郎の推挽を受けた『太陽の沈みゆく時』でデビューし、ベストセラーとなる。三六年「酒場ルーレット紛擾記」で『文藝春秋』の実話募集に入選し再デビュー。三八年「ナリン殿下への回想」で第七回直木賞を受賞。五九年死去。作品に『陰獣トリステサ』『青白き裸女群像』『私は前科者である』等がある。

「2023年 『橘外男海外伝奇集 人を呼ぶ湖』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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