外交 (UP選書)

  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130050166

作品紹介・あらすじ

参考文献: 262-263p

感想・レビュー・書評

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  • 日経新聞のコラムで紹介のあった外交に関しての古典であります。外交官に向いていないのは、狂信的な宗教者、そして 法律家、らしい。善、悪の二元論では対応が難しいのが、外交。 この本は、外交官を目指す若い方々にには、必読の一冊かも知れません。また、著者ニコルソンが参考にしている、元ネタが、幕末の日本で活躍した、英国の外交官`アーネスト・サトウ`が書いた一冊というのが、面白い。 時代は変われど、外交官に求められる美徳は、変わらないようです。

  • 年末の大掃除をしていたら学生時代の課題図書が出てきた。古典なので、外交=欧州の上流階級の社交といった部分も多く読み返す必要はあまりない印象だったが、「理想的な外交官」の章に関しては仕事をするすべての人、とくに交渉を職責とする人にとって今も有効ではと思う。

    1、 誠実。「(欺瞞による勝利は)敗北した側に、憤怒の感情と、復讐の欲望と怨恨を残す」。相手が不正直であればこちらも同様であってよい、とのマキャヴェリの見解に同意してはならない。「他人はそうであるかもしれないが、お前はそうであってはならない」(“Aliis licet: tibi non licet”)を肝に銘ずべき。
    2、 正確さ。「職業外交官は、『知的不正確』を持ち合わすことはまれであるが、『道徳的不正確』にはきわめて陥りやすい」。
    3、 平静と忍耐。「機嫌よくしていなければならず、あるいは少なくとも不機嫌を完全に抑えていることができなければならない。そして忍耐強くなければならない」。「忍耐は交渉者が成功するための不可欠な資質である。風は時々逆風とならざるをえない。そのとき港に入るためには、進路を転じなければならない」。
    4、 謙虚さ。「自惚れの結果、・・・ある問題について、交渉者自身より長い経験を有するかもしれない人々の意見を無視しがちになる。また、現に交渉している相手からの御追従や攻撃に反応しやすくなる」。
    5、 忠誠。国家への忠誠は、外交官としてはもちろん必須だろう。ビジネスパーソンとしても顧客忠実義務の履行なくしてよい仕事はできないだろう。

    遠い道のりですなあ。
    ちなみにさらに昔はギリシア哲学やラテン語の素養が大事だったらしい。それはまあいいってことで。

  • 第三版
    5/29課題

  • 著者がイギリス人なので、イギリス外交について多く語られている。
    外交がどのように形を変えてきたのか歴史についても詳しい。
    ちょっと古い内容もあるけれど、望ましい外交官の資質などは不変かと。
    この本、作り方がいい。著者が第一章の頭で「この本で何をするか」を非常に明確に書いてくれている。各章の扉ページに、その章でのキーワードが羅列してある。
    (それでも、それを手がかりに追いきれなかったのが私の読解力と記憶力の限界……)

    p5
    外交という言葉が、いくつかのまったく異なった事柄を意味するものとされているので、わかりづらい。
    対外政策……「均等におけるイギリスの外交は活気を欠いていた」
    交渉……「問題はおそらく外交によって解決しうるものである」
    交渉が行われる過程、機構
    外交官食の一部門
    抽象的な能力あるいは才能、最良の意味では国家間の交渉行為における技倆を意味し、最悪の意味では狡猾な駆引の才能を意味する

    外交が、政策と交渉どちらの意味で使われているかという区分、それを提示されて、物事がすごく明確になった気がした。一瞬だけだったけど。
    対話などにおいて、使っている言葉の定義が明確であることがもっとも重要というのを示された印象。

    p9のあたり
    外交慣行がどうして、なぜ人間社会に生じたか……というのを推察。
    ネアンデルタール人でも、死者の弔いや負傷者の手当などで、たまには戦闘停止の申し入れをし、その使者は、伝言を伝え届けないうちには相手から危害を与えられなかっただろう。
    というようなことが書かれているけれど、古代中国では使者は命がけだったよなあ、などと思う。
    このあと、原始社会では異邦人が危険であると同時に不浄であったことから、彼らのもたらす災厄を避けるために、斎戒の手段を経てから面会が許されたことが書かれていておもしろい。

    p18
    外交は、伝令→弁士(とにかく素晴らしい演説をしてくることが、優秀な外交員の条件だった)→職業外交官と発達

    外交diplomacy は、「折りたたむこと」を意味するギリシャ語の動詞"diploun"に由来。
    「ローマ帝国の時代には、すべての通行券、帝国道路の旅券および運送上は、二重の金属板に捺印され、折り畳まれ、そして特別な仕方で縫い合わされていた。これらの金属旅券が"diplomas"と呼ばれていたのである。」

    p77
    1918にウィルソン大統領が公表した十四ヵ条宣言の第一条で、彼は将来「後悔で達せられた公開の平和規約」があるべきであり、「それ以後いかなる種類の秘密の国際的諒解もあってはならない」
    この一年足らずのうちに、ヴェルサイユ条約。もっとも秘密で神秘的な交渉といっても過言ではない。
    ドイツとその同盟国が条約の討議に加われなかっただけではなく、専門の外交官も加われなかった。
    アメリカ海兵が銃剣をつけ、アメリカ使節団中の大統領自身の同僚も含めて、すべての専門家、外交官、全権が入ってくるのを阻止して見張りしている中で、ウィルソン大統領、イギリス代表ロイド・ジョージ、フランス代表クレマンソーが自己の書斎に閉じこもって交渉した。
    どれだけ理想を解いても、政策と実際の交渉との間には、天地の懸隔がある。

    p79
    対外政策の統制権は、国民の代表者に与えられていたわけではない。
    ドイツを戦争に引きずり込んだのがまさに、1882年の三国同盟の条項であったにも関わらず、その正確な性質は、ドイツ、オーストリア、イタリアの民衆には秘密にされていた。
    1893の仏露同盟の条項は、両国民を戦争や国家的背信の危険にさらしたにも関わらず、ロシア国民にもフランス国民にも知らされてはいなかった。
    イギリスの外相グレイ卿ですら、国民、上下両院、内閣の多数にも知らせずに約定を結び約束をなすことを悪いことだと思っていなかった。

    この事態を再発させないために、国際連盟規約の第十八条として
    「連盟加盟国が将来締結するすべての条約または国際約定んは、ただちに連盟事務局に登録せられ、事務局はできるだけ速かにこれを公表しなければならない。このような登録の終るまでに右のいかなる条約または国際約定もその拘束力を生じるものではない」

    ヨーロッパ諸国では当時、全権による署名によって「批准」がなされると、それは絶対と見なされた。批准の拒否は、政権の不信任とみなされ、内閣総辞職となる。
    が、アメリカの慣行では大統領が批准権を持つけれども、上院の三分の二の多数の「助言と同意を得」て与えられるものだったので、上院議員が条約の批准を拒否するよう主張することもしばしばあった。
    これはイギリスなどから異常な行いだと言われてきたが、アメリカではこの慣行に固執。大統領が署名し、取り決めた条約の批准を、上院が拒否した例が、ヴェルサイユ条約。
    が、これが民主的統制の解決策だということになって、イギリスでも、批准前に院内に提出すべしとの規則が出来る。

    p95
    外交は、政治家個人ではなく職業外交官に任せろとある。
    「外交とは会話の術ではない。外交は、正確な、確認しうる形で合意を取り決める術である。…略…駐在国政府の外務省を職業外交官が訪問したところで、とくに公衆の何か特別な期待を惹き起こすわけでもなく、新聞の無分別な行動を促すこともなく、そしてかりに成果があがらなくとも、公衆を失望に導くこともない。…略…(職業外交官は)交渉の全段階と結果とを綿密に文書に記録することが出来る。」
    『消えた130億ドル』を思い出したよ。政治家橋本が個人の資質や、個人の対人関係で外交に望んで、円建てかドル建てかも決めずに戦費の負担額を決めた……あの失敗は、この基本原則だ……

    p105
    交渉者は、誠実でなければならない。相手が不正直であればこちら側も不正直であってよいというマキァヴェリの見解に同意してはならない。
    1918イタリア外相ソンニーノ男爵は、自己の書斎のマントルピースの上に
    "Aliis licet: tibi non licet"
    「他人はそうであるかもしれないが、お前はそうであってはならない」というモットーを彫らせていた。

    外交官は、口や演技がうまく狡猾であることが優秀なのではなく、誠実、正確、平静、忍耐、よい機嫌、謙虚および忠誠が、理想的外交の資質。
    これは、どの分野にいる人にも通じる話だなあ。

    p164
    第一次大戦前までは、他国民がまったく偽りであると悟るような公けの発表を自国民に行うことは、政治家にとって不適切であり不賢明だと考えられていた。
    しかし第一次大戦で、宣伝は硬度に組織された制度となり、大衆扇動の武器となった。
    ラジオの発明が、政策手段としての宣伝に大きなはずみを与えた。
    (そういえば、『獣たちの庭園』ジェフリー・ディーヴァーで、ヒロインが「毎日ヒトラーのラジオを聞かされる」とかうんざりしてた)

    ヒトラーは研究し、自己の結論を『我が闘争』の最初の部分で述べる。
    p164
    彼は、大衆が他のどのような伝達様式によってよりも、人間の声によって動かされやすいという公理を確認する。けれどもラジオによる宣伝が成功するためには、それは若干の原則を認めなければならない。第一に――とヒットラーはわれわれに確言する――それは、最下等なタイプの精神を相手としなければならない。それは知的な考慮をいっさい避け、ただ感情のみを喚起するよう努めなければならない。その方法は、「狂信、時には病的興奮をかき立てる」ものでなければならない。反対の側もいくらかは正しいというようなことはけっして言ってはならない。ニュアンスとか留保とかはあってはならず、「ただ肯定か否定、愛か憎しみ、正か邪、真実か嘘があるのみで、けっして生半可などっちづかずがあってはならない。」そしてとりわけ嘘は大嘘でなければならない、とヒットラーはいう。彼の見解に従えば、小さな嘘を吐くのは無駄なことである。虚偽を宣伝する場合には、とてもそんな大嘘は捏造されるわけがないと聴き手が思うほど、大々的なものでなければならない。」

    ヒトラーは無学だったので、大量の偏読で知識を蓄えたそうだけど、こういうことを思いついて、実行出来るあたりは、カリスマというものが凄まじかったんだね

  • やっと読み終わりました。
    業務的に関連した仕事に就いたので、アマゾンで取り寄せてちょこちょこ読んでました。

    外交理論の古典です。
    主に外交自体の歴史と、外交官の歴史と、そこから導き出される帰納法的な教訓について書かれています。外務省の人とか、商社で海外駐在してビジネス立ち上げる人には有用だと思いますが、自分には時期尚早だったなーと。

    根本にある概念は、現代の外交を「技術的側面/交渉的側面」と「政策的側面」に分けて考える必要があり、前者は外交官の専売特許ですが、そもそも国家として・組織として何をするのか?という政策的側面は、国民や代表する政治家・議会を以て方向性を決定しなければならない(翻って旧世代の外交は、両者とも絶対君主や外交官・貴族等、一部分のエスタブリッシュが担っていた)という前提が根本にはあり、著書では前者の面に絞って様々な歴史・経験から帰納法的に法則を抽出して外交と外交官というものを記述していました。

    その他、個別で印象に残ったのは、「…駐在国とぴったり同化する必要もないし、実際同化してはならないのだ…」という部分で、これが現場重視の考え方とそれを諌める考え方を両者内包していて、一般的な業務にも引用できる考え方だなと思いました。

  • 外交とは何か?外交官とはどうあるべきか?に関して歴史的に書かれた本。カリエールの『外交談判法』と同じく外交官にとって最も重要なものは「誠実さ」であると述べている

  •  外交官という職業が成立するまでの経緯と外交官の仕事を、主にイギリスの例を通じて説明している。初版が第二次大戦前なので、若干、内容が古い気もするが、歴史的経緯や当時の外交官の振る舞い、求められる資質など、参考になる部分も多々あると思う。…素人なので正しい認識かどうかは定かでないが。

     直接外交とは関係がないが、ちょっとびっくりすることは、当時の日本が五大国のひとつに数えられていること。明治維新から半世紀程度で世界のトップに登りつめるなんて、いったいどんな無茶なことを当時の日本はやらかしたのだろうかと、本当に感心させられると同時に空恐ろしくもなる。
     優秀な外交官を得るために、試行錯誤が繰り返されてきた歴史はひとつの教訓にもなると思う。なぜなら、現代でも優秀な外交官というのは希少な存在だろうから。

  •  対外政策と外交交渉の違いなど、今の日本が煮詰まってしまっている諸分野に当てはまる話も多い。
     有名な外交官の7つの資質もそうだが、民主的外交の記述も今の世の中を見事に言い表している。曰く「将来、経験不足のため、対外政策に関し、感情的なあるいは感傷的な見解をとる外相や首相が現れることは起こりうることである」
     古めかしいし、西欧至上主義が鼻につくが、それでいて、本書の指摘は的の中心をとらえて外さない。

  • 外交論の古典。まず外交と対外政策の区別をし、両者を違うものとするところから議論が始まっている。
    個人的にぐっと来たところは外交は専門家が行うことであるため、それの訓練を受けてきた、あるいは専門の人が従事すべきというところであり、ここの記述が現在の日本外交にかなりの不安を覚えた。
    外交の特質を述べており、外交に興味がある人は必読と言えるのではないか。

  • 19C終わり~20C初頭にかけて、ヨーロッパ諸国では大衆民主主義の発展に伴い、戦争と外交の形態が大きく変容した。それまで極一部のエリートに握られていた外交の主導権は徐々に民衆の手へとシフトしていく。

    本書はそんな変革期にイギリス外交官として活躍したHarold Nicolsonによる外交論であり、1939年の初版に加筆修正を加えた第三版(1961)の邦訳である。

    ニコルソンはギリシャ以来の「外交」の成立過程を概説するとともに、第一次大戦を分岐点として外交を「旧外交」と「新外交」とに区分する。そして新外交のあり方に警鐘を鳴らしたうえで理想的な外交官像、ヨーロッパ各国の外交姿勢の特徴を描き出し、新たな外交のかたちを模索する。

    個人的には交通・通信技術がいくら発達しようとも、新聞社や企業が国外に支社を設置するように外交官が必要であるというニコルソンの主張にしっくりきた。やはり最後は生身の人間同士のコミュニケーションと信頼関係が歴史を動かすのだろうか。

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