細胞内共生説の謎: 隠された歴史とポストゲノム時代における新展開

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130602365

作品紹介・あらすじ

なぜ細胞内共生説は自明とされ,マーギュリスは創始者と名乗れたのか.その経緯について文献を読み解きながら明らかにし,ゲノム解析技術が発達した現在における新知見を紹介しながら,細胞内共生説をどのようにとらえ直すべきかを提案する.

感想・レビュー・書評

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  •  細胞内共生説とは、細胞小器官(オルガネラ)である葉緑体、ミトコンドリアの由来が、共生生物を取り込んだ結果であるとする生物学上の学説である。私は学校で生物を学んでいないので、どの程度常識なのかは知らないが、高等学校の教科書にも出ているらしい。
     生物学(生物科学)に共通することとして、「どうしてそんなことがいえるのか?」という疑問に答えるような言説が少なく、そういう意味で「なぜ」「不思議」に応える態度が浅いように思えてならない。これは、以前、『生物科学の歴史』を読んだときも感じたし、過去の評というか、感想めいたメモにも述べたとおりである。
     本書は、細胞内共生説の起源とされているメレシコフスキー、マーギュリスらの論説をもとに、細胞内共生説の根拠と、どのように提唱されてきたかをたどるものである。特に、29歳で提唱したマーギュリスが著した文献を詳細に調査し、ポイントを抑えて批判的に検討している。
     さらに、それまで「博物学の延長」とみなされつつあった生物の分類が、分子生物学、バイオインフォマティクスの興隆によって、生物の分化や起源をたどっていく有効な科学となっている状況が示されており、少なくとも生物系統を示すための「どうして?」に応えられる素地がある。残念ながら当該箇所は生化学的な知見で述べられており、3割も理解できていないが、勉強して理解したいと思う。
     批判的な論点としては、バイオインフォマティクスに関する詳細が全く触れられていないところにある。ソフトウェア環境について紹介程度に述べられているが、これでは数理的な結果を「無批判に」取り込んで分析作業することだけが研究になってしまうととらえられかねない。数字の説明もあるが、何がどうなのかにも触れ、参考文献に付してほしかったと思う。
     細胞内共生説の立証には、生物の系統樹を網羅する必要がある。系統樹は、見方が変われば大きくものであるが、現在知られている生物種は何十万、何百万もあるのだろう。未知の生物もある、変異が環境に適応し新たな種も生まれるだろう、海底地層からこれまでの知見を覆すような化石が出てくるかもしれない。まだ「一部」しか知られていない生物種から、何か学説を立証することは並大抵の活動ではない。要は、学説が「権威」に裏付けられなければ具体的な検討に動けるような状態じゃないような気がしている。
     本書を読んで、権威ある学説でなければ検証に着手できないのが生物学を取り巻く「人の世界」であるような気がしてきた。観察して「似ている」という状況から楽しむ科学の世界とは程遠いのかもしれない。

  • 実は意外に脆弱な根拠。

  • 請求記号 463.2/Sa 87

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著者プロフィール

日本医科大学循環器内科教授

「2018年 『高血圧の毎日ごはん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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