- Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
- / ISBN・EAN: 9784130800327
感想・レビュー・書評
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『古事記』研究において「作品論」という立場を確立し、従来の研究では明確に問題として把握されていなかったさまざまなテーマを独自の観点から考察している著者の論文集です。
著者は従来において支配的だと考えられる『古事記』研究の方法を、「成立論」と呼んでいます。これは、『古事記』を構成しているさまざまな要素をとり出すとともに、それらが『古事記』として結実するプロセスを把握することをめざしています。これに対して著者は、さまざまな要素が先行していたこと自体は否定しないものの、それらが『古事記』という作品としてまとめられることで、いったいなにが「達成」されることになったのかという問いを立てます。
著者は、「ムスヒ」と呼ばれる生成のエネルギーが働くことで、神代の一連の「歴史」が実現されていくことに注目します。そして、これこそが「作品」としての『古事記』において「達成」されることになった、歴史的意識の自覚化だと主張します。また、中国の「礼」の思想を援用することで、「言向け」という方法によって高天原の神が地上を「王化」するという、王権のイデオロギーが明確に示されていると主張し、このようなしかたで体系化された秩序を語っている点にも、「作品」としての『古事記』の意義を見ようとしています。
記紀歌謡についての考察では、高木市之助から土橋寛へと受け継がれた研究に対して異議を提出し、貴族文化との結びつきのなかで理解するという態度をとっています。ただしその議論は、制度論的な観点からの考察として展開されるのではなく、あくまで文字テクストとしての『古事記』が到達した地点に定位されています。この点で著者の立場は、益田勝実の成立論的な立場からの主張とも、明確に区別されるべきものです。
専門的な内容も含まれており、個人的に難解に感じたところもありましたが、全体を通じて刺激的な内容だったように思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示