平成大停滞と昭和恐慌~プラクティカル経済学入門 (NHKブックス 978)

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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140019788

作品紹介・あらすじ

泥沼化するデフレ不況。その真因と脱却のための方途はどこにあるのか。基本的なマクロ経済学の考え方を日本の実情に合わせて適用するプラクティカル経済学の視点から、平成不況と昭和恐慌の比較を行い、リフレーション政策の必然性と、政府の決然とした政策転換の必要性を説く。気鋭のエコノミストによる、現実を直視した実践的な経済学の提言の書。

感想・レビュー・書評

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  • 本書では、昭和恐慌と平成デフレ不況の比較・検討を行っており、昨今のデフレ不況を克服するのに、リフレ政策(「インフレターゲット付き長期国債買い切りオペによる量的緩和政策」)が提唱されている。高橋亀吉、石橋湛山、福田徳三といった昭和恐慌時の言論活動や第六章の日本型雇用体型を述べた論考、第七章での各種データは今でも読む価値がある。しかしながら、第三章と第四章で述べられている高橋財政とニューディール政策の評価については、本書が発行された15年後の2018年時点から評価すると大いに疑問を感じざるをえない。

    本書では、高橋是清による「高橋財政」において、主に効果があったのは、日本銀行の長期国債引き受けを伴った金融政策であり、飽くまで財政政策は副次的な役割しか果たしてないと結論づけている。金本位制離脱と日本銀行の長期国債引き受けによる金融政策の「二段階レジームチェンジ」によって、昭和恐慌を克服したと論じているが、その後の鎮目雅人氏による研究によって、インフレ期待を形成するのに、一段回目の金本位制離脱によるレジームチェンジは確かにあったが、二段階目の日銀の直接引き受けによるレジームチェンジは効果が薄かったと反駁されている。(鎮目雅人「世界恐慌と経済政策」日本経済新聞社)。また、当時の日本銀行の直接引受によって市中に供給されたベースマネーの9割近くはその後、回収されており、量的緩和による金融政策とは、とても云えないであろう。金本位制離脱による平価切下げの通貨政策、日銀引き受けによって、大幅に財政赤字を拡大させた財政政策が功を奏したと言えるのではないか?

    大恐慌時のアメリカの消費者物価上昇率と財政収支の推移を示したP.88の図表4-4の解釈においては、向井文雄氏によって詳細に反駁されており、正しい図とは言えない。(「日本国債のパラドックスと財政出動の経済学」新評論)。世界金融危機以降のクリスティーナ・ローマ-などによる研究では、財政政策の役割は従来の研究と比較して大きかったと報告されており、金融政策によって大恐慌を脱出したという筆者たちの見解は時代遅れのものとなっている。(もっとも本書が出たのは2003年で、その後の研究から評価するのは後出しジャンケンであるが)。

    ここまで書評してきたように、本書はデータの分析において大きな瑕疵があり、これから昭和恐慌を知るには、些か古びていると言えよう。

    評点:5点 / 10点

  • デフレ終焉後
    株価上昇:造船/鉱業/海運/化学
    株価低迷:鉄道/ガス/紡績

  •  かなり突っ込んだ「リフレ策」の妥当性の経済解説本である。データに裏打ちされた、安達誠司の昭和恐慌と現在のデフレ脱却への解説は歴史的な視野を持ったものにもなっており、厚みのある歴史物ともなっている。安達はクレディー・スイスファーストボストン証券ののエコノミストであるが、エコノミストにありがちな「マクロ経済」の基本無視の論述はないので、分析に信頼が置ける。■田中秀臣が推奨する高橋亀吉という経済評論家や石橋湛山の経済の見方の正当性など、戦前の理論家の紹介もあって戦前の経済論戦が偲べるところもあって、「人」の厚み、多元性さえ思わせてくれる評論でもあった。■財政出動によって、150兆にも及ぶデフレギャプを解消でききるかが論じられているが、それは不可能なところまで財政はきている。経済回復も、実効性のある構造改革も日銀の政策転換に懸かっていることが、歴史的に論証されているので、説得力がある。

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著者プロフィール

上武大学ビジネス情報学部教授、経済学者。専門は日本経済思想史、日本経済論。「リフレ派」経済学者の代表的な論客として、各メディアで積極的な発言を続けている。サブカルチャーにも造詣が深い。『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社)で第47回日経・経済図書文化賞受賞。『脱GHQ史観の経済学』(PHP新書)、『日本経済再起動』(共著、かや書房)、『増税亡者を名指しで糺す! 』(悟空出版)、『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)、『不謹慎な経済学』(講談社)、『経済政策を歴史に学ぶ』(ソフトバンク新書)、『エコノミスト・ミシュラン』(共著、太田出版)等、著書訳書多数。

「2022年 『田中秀臣・森永康平の Nippon学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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