帰れないヨッパライたちへ 生きるための深層心理学 (NHK出版新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140883846

作品紹介・あらすじ

外に向かって勝負せず、内向きの足の引っ張り合いに終始する現代日本。その根元に潜むもの-精神的にいまだ「母‐子」の二者関係が支配する「天国」にとどまり、父親的なライバルが出現する「母‐子‐父」の三角関係をこなしきれない心のあり方を問いかける。私たちが真に自立して生きる道筋はどこにあるのか。きたやま深層心理学の集大成にして最適の入門書。

感想・レビュー・書評

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  •  きたやまおさむとはもちろん、作詞家・ミュージシャン・精神科医の北山修のこと。一般向けの本を著す際などに、きたやまおさむ名義にしているらしい。

     タイトルは、北山が加藤和彦らと組んでいたザ・フォーク・クルセダーズのミリオンセラー・ヒット「帰って来たヨッパライ」をふまえたもの。
     ……なのだが、「帰って来たヨッパライ」なんていまの若い人は知らないだろうし、多くの人には意味不明のタイトルだよなあ。

     きたやまおさむの本といえば、私は以前『ビートルズ』(講談社現代新書/1987年)に感銘を受けたことがある。これは、私が読んだビートルズ本の中でも五指に入る名著。
     ただ、そのあとで手を伸ばした『人形遊び――複製人形論序説』はなんだかよくわからない内容だったし、精神分析関連の著作はこれまで読んだことがなかった。

     本書は「きたやま深層心理学の集大成にして最適の入門書」なのだと、カバーそでの惹句にはある。
     「きたやま深層心理学の集大成」と言い得るかどうかは私にはわからないが、精神分析入門としては面白く読めた。

     著者は、父・母・子の「三角関係」と嫉妬を軸に精神分析学のエッセンスをわかりやすく伝え、同時に、それを日本人にあてはめた独自の日本文化論を展開する。

     日本文化論としても、また、嫉妬の肯定的側面に光を当てた書としても、傾聴に値する卓見がちりばめられている。たとえば――。

    《革命にも破壊的嫉妬が必要です。持たざる者が持てる者に嫉妬することで、それまでの体制を転覆させるわけです。これまでのいろいろな政治的革命は王や王妃に対する嫉妬をはらんいでいたと見ることができます。嫉妬が社会を悪くするかというと、必ずしもそうではなくて、嫉妬こそが改革の原動力となるのです。破壊的嫉妬ではあるけれど、その破壊は「創造的破壊」にもなり得るのです。嫉妬そのものを全否定するのではなく、嫉妬する構造は社会変革にとってもとても大事な心理であることをまず確認する必要があります。》

     本書を、岸田秀の『嫉妬の時代』と読み比べてみるのも一興だろう。

     それにしても、精神分析学というのはよくも悪くも非常に「文学的」な学問だなあと、本書を読んで改めて思った(フロイトはもともと作家志望だったそうだ)。たとえば、次のような一節がある。

    《自分の人生を物語にして語ることは、精神療法的で、まさに精神分析が「言語的治療」と呼ばれるゆえんだと思います。フロイトはそれを「再構成」と呼びますが、自分の人生を言語的に構成していくと、いろいろな過去の手掛かりを素材にして、自分の人生がどのように、これまで繰り返され、展開されてきたのかを読み取っていくことができるようになります。(中略)
     言語によって物語として自分の人生を紡ぎ出すことができれば、自分の「心の台本」を読むことで人生について洞察を深めたり、深く噛みしめたり、味わったりすることが可能になり、場合によっては、自分の台本を修正して生きることもできます。》

  • 嫉妬。「 ヨッパライ 」。日本人。

  • 先日日本サイコセラピー学会で北山先生の講義を拝聴することができた。
    感動した。
    昔話の例えで日本人独特の心理を鋭く説明されていた。
    声と物腰がまた素敵すぎ。

    嫉妬と羨望。
    二者関係と三者関係について。
    私の言葉にならないもやもやとした日常の感情を腑に落ちる体験へ導いてくれた。
    また読まなくちゃ。

  • フォーククセルセイダースの
    帰ってきたヨッパライは
    けっこう日本人の心理を描写していました。
    自分ときれいなねいちゃんと神様。
    日本人の心理をよくとたえていました。

  • 物事を言葉で説明することで割り切れないものが出てくるとあり、逆に説明しなければ「そんなもの」で済ませてしまうことも可能なのかとも解釈する。「世の中はそんなもんじゃないんだ」などの最近あまり聞かない言葉はそういう処世術か?

    怒りのもととしての嫉妬、ならば嫉妬を常に持つ自分を意識するのが仏教でそのはけ口を探すのが精神医学なのだろうか?どちらがより楽で、楽になれるのであろうか?

  • 加藤和彦への痛切なオマージュ、として読んでしまう。

  • 北山先生らしい饒舌さと、読みやすさと、そしてこの深さはどこから来るかといえば、北山先生の心の遍歴の一部が描かれているからだと。

  • 日本の昔話などの考察に基づく深層心理学の本。
    きたやまおさむ氏があの北山修氏であることに読み始めるまで全く気付かなかった。
    内容は、なかなか難しく、頭を整理しながら読まないと考察の流れが掴みにくいかもしれない。

  • きたやまさんが自切俳人の名前を使ってパーソナリティをされていたラジオ番組の熱心なリスナーだった。おそらく、私の意識の一部には彼の話していたことが組み込まれているのではないだろうかと思う。

    「嫉妬」認めるのは怖いけど、確かにそれは心のどこかを支配している。

  •   本学卒業生、きたやまおさむ(ザ・フォーク・クルセダーズの元メンバー)の近著「帰れないヨッパライたちへ」(NHK出版新書 2012)を面白く読んだ。ヨッパライの俺と、きれいな姉ちゃんと、こわ~い神様との三角関係を例えにして、家族における三者関係に言及しているところは、ナルホドと頷ける。
      きたやまは作詞家としても名を成したが、「戦争を知らない子供たち」や「あの素晴らしい愛をもう一度」は、何度口ずさんだことか・・・
     ロンドンで精神分析を受けて、自ら精神科医となった著者の人となりも伺える好著だ!

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著者プロフィール

精神科医、臨床心理士、作詞家。
1946年淡路島生まれ。65年京都府立医科大学在学中にザ・フォーク・クルセイダーズ結成に参加、67年「帰って来たヨッパライ」でデビュー。グループ解散後は作詞家として活動。71年「戦争を知らない子供たち」で日本レコード大賞作詞賞を受賞。九州大学教授を経て現在白鷗大学学長。
著書『コブのない駱駝』『良い加減に生きる』他多数

「2021年 『「こころの旅」を歌いながら』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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