「就活」と日本社会 平等幻想を超えて (NHKブックス)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140912270

作品紹介・あらすじ

偽りの「自由競争」と就活格差の実態!不透明な採用基準と選考プロセス、学歴差別の実態など、日本の「就活」の論点をデータ・ファクトから再検証、「平等幻想」からの解放を説く。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F開架:377.9A/Ts77s//K

  • 読みやすかった。日本の就活の現状や問題点を知ることができた

  •  本書は主に「なぜ採用基準が不透明なるのか?」「実際の企業による選抜システムはどのようなものか?」という二つの問いに答えようとする本である。
     著者も言うようにアカデミックとジャーナリスティックな書き物の中間ぐらいな所にあり、すらすら読めるけれど判然としない書き方をしている部分もあり、あまり洗礼されていない感じがする。ただし、先行研究のまとめや就活の概要をデータを引っ張て来て逐一説明してくれるため、就活に対して詳しくない人でも読める、悪くない本である。
     序章では就職の始まりは明治だとか云々から始まり、先行研究に触れこの本の意義を説く。今までの研究に足りなかったことは、企業側のデータに基づく研究が少ない、入学難易度が低位の大学に関する就職の研究が少ない、中小企業を対象とした研究が少ない、就職ナビ等の大学生の環境変化を捉えられていないこと、などだとする。本書は、著者の中小企業での参与観察などから、竹内洋(1995)「日本のメリトクラシー」と小山治(2010)「なぜ企業の採用基準は不明確になるのか――大卒事務系総合職の面接に着目して」(本田由紀・苅部剛彦編「大卒就職の社会学」東京大学出版会に収録)の先行研究を補完する形で最初の問いに応えつつ、先行研究の問題点を補おうとする。
     第一章「新卒一括採用」の特徴では、データを用いてそのデータの読み方の注意点にも配慮しつつ、誤解されがちな就職の現状把握をする。高卒の職業の減少に伴い大学生数・大学の増加、大卒無業者数は、卒業者数に対して10~20%存在、企業の大学への要望の高水準化、国際比較(卒業前就職がほぼ9割にたいして、ヨーロッパはだいたい4割前後。)、卒業したら本当に就職が難しいのか?(まったく相手にされないという訳ではない。応募受付を7割の企業がしているという調査も。)、高偏差値の大学ほど大企業・公務員になる、などである。
     第二章 採用基準はなぜ不透明になるのか、では、選考基準が変動するために、学生に伝えられない、などという事情があることを示唆する。実際、選考基準や過去の採用実績などを公開している企業は半分以下である。採用基準がなぜ変動するのかというと、その基準では他の学生との差がつかず意味がないために基準が下げられる、または上げられることや、採用人数が確保していくにしたがって、残りの採用枠の人物を多様性を持たせるべく、従来では落されていた人間が採用される、などということがおきる。「おとなしい人だらけなので、ブチぎれた人が欲しい」などである。
     第三章では、選抜システムのモデルを竹中(1995)に従って説明する。このモデルでは、選抜を大きく二段階に分ける。それは補充原理と選抜原理に従って選抜される。補充原理では、選抜に先立ってその候補者の境界を設定する。その時、学歴フィルターなどで狭めるか(閉鎖性)狭めず広く候補者を取るか(開放性)という二種類がある。また選抜原理では、候補者をそのまま競争させるか(普遍主義)、候補者をさらに分けてそれぞれのグループで競争させるか(分断主義)という違いがあり、補充原理(2種類)×分断主義(2種類)で計4種類の選抜システムの類型が存在することになる。分断主義というのは、具体的には、あの学校からは何人、というふうに学校ごとに人数枠を作り、同じ大学の生徒どうしで競争させ、バランスよく採るというようなシステムである。多くの企業は閉鎖的・分断主義的な選抜システムを取っていると予想されるが、それを隠して開放的・普遍的な選抜システムをとっているという平等幻想が存在する。
     第四章では、それに加えて、就活ナビによってその平等幻想が強調されているとする。また、就活の問題点は卒業前の学業の阻害だけでなく、こういった「平等幻想」によって採用されないような企業に就職しようと頑張りすぎてしまう人間が出てきてしまうことなのではないかと指摘する。すなわち、身の丈に合った就職をした方が不幸は生まれないよ、と言う。ではどのように身の丈を合わせるか?大学の就職課・キャリアセンターに行き、可能な限り長いスパンで、この大学からどの業界・企業に進んでいるか、業界・企業名と人数、分布などを分析すること。さらに年度ごとの分析を行う。リクルートワークス研究所が発表する有効求人倍率、「学校基本調査」から分かる大学卒業者に対する就職者数の割合、文部科学省・厚生労働省が発表するその年度の内定率を確認する。そして、これらとその年度ごとの就職先の顔ぶれを比較する。売り手市場のときと、買い手市場のときとで、入れる企業が変わるのかを見る。(一般に、売り手市場の時は閉鎖性が緩む)。「会社四季報」「就職四季報」を数年度分読む。女子・中小企業版も存在する。三年以内の離職率、採用実績校が見られることがある。これらをすれば良いのだという。
     長々と書いてきたが、就職活動を学生の側だけでなく企業の側からも見る視点を持ち、就職活動の全体像を描くにはもってこいの本なのではないか?と思った。よくまとまっている。

  • 2015.01.04 著者ブログより

  • 確かに平等でないことを学生側が意識してないことが最大の問題なんだけれど。
    200ページからの学生向けハウツーが結論なのかなあ。
    大学の就職課キャリアセンターに行き可能な限り長いスパンでどの業界・企業に進んでいるか業界企業名と人数分布を分析する。企業の選抜基準に入っている可能性が高い。年度ごとの分析を行う。有効求人倍率、内定率から売り手の年買い手の年を確認、売り手の年は上記以外も就職四季報で確認。

  •  常見陽平が修論を加筆し書籍化。日本の就活の現状と課題を述べる。

     専門家らしく丁寧に丁寧に積み重ねて自論を展開していく。
     この本を読むまで知らなかったのだが、なんと7割の大企業が数年の既卒者に対して新卒と同じく応募可能にしているのだ。これは驚いた。
     今の就活の問題点は新卒一括採用という定義のあいまいなシステムの問題ではなく平等幻想にあると筆者は語る。この主張には大いに頷かされた。

     就活を巡る議論をする前に必ず読みたい良書。
     

  • 就活については、もはや受ける側ではなく、採用する側に近い立場にありますが、この本の内容には納得です。

    学歴フィルターの話は置いておいても、採用基準の変化は、すごく納得できます。
    社外環境や社内環境の変化、採用の途中経過が、採用基準の変化に影響する可能性は否定できません。
    もちろん、採用基準の核となる部分は、変わりませんが。

    また、大学新卒者の一括採用について、デメリットも抑えた上で、メリットについて堂々と語っている点も素晴らしいと思います。

    いろんな意味で、就活に対して、バランスの取れた見方を示した本だと思います。
    おそらく、社会学は、こういう姿勢で取り組むべき学問なんでしょうね。

  • 論文調

  • 途中の章は、いつもの著者の文章とは違うので違和感あった。
    ただ後書きで、「新卒一括採用は必要悪だが、就活はほぼ悪である」という主張を見て、ようやく腹落ちした次第。偽装された自由や平等だらけの世の中に、敢然と異を唱える心意気が伝わってきた。
    一点、大学側の人となられた著者は、大学教育における職業的レリバンスについて、どのような見解を持っているのか気になった。大学教育は純粋な学問的見地は必要なのは当然だが、大多数の学生にとって、大学教育に職業的レリバンスは必要だと思うのだが。

  • 【メモ】
    ・NHK出版
    https://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00912272015

    ・常見陽平公式サイト(のエントリ)
    http://www.yo-hey.com/archives/55087521.html

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著者プロフィール

千葉商科大学准教授

「2021年 『POSSE vol.49』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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