ブルーバード、ブルーバード (ハヤカワ・ミステリ 1938)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150019389

作品紹介・あらすじ

ハイウェイ沿いの田舎町で白人女性と黒人男性の死体が発見される。人種差別が根深く絡む事件に、黒人のテキサス・レンジャーが捜査に乗り出すが──。その衝撃的な内容が高く評価され、米書評界で絶賛された話題のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作

感想・レビュー・書評

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  • テキサス州の田舎町で、ふたつの殺人が起こる。
    都会からの黒人男性弁護士と、地元白人女性の遺体がバイユーから発見される。

    停職処分中の黒人テキサス・レンジャー、ダレンは、FBIに所属する友人から、事件の周辺を探ってほしいと頼まれて現地に赴く。

    そんな感じで始まる物語だけど、KKKよりあくどい集団のABT(アーリアン・ブラザーフッド・オブ・テキサス)の存在とかヘイトクライム殺人とかが疑われる。

    地元保安官事務所との確執や主導権争い、被害者の妻との協力など悪戦苦闘しつつも、最後には無事解決に導く。


    主人公のダレンに感情移入が出来くて、イマイチ読んでてワクワク感が無かった。

    何かと酒飲んで、お前若いくせにアル中か?とか、自分の家族の軋轢とかを引きずってアレコレ悩む。

    ここは仕事に集中しろよと思う処で、なんか余計なことで脱線する。物語的な破綻があるわけじゃないけど、ちょっと違和感がある。

    まあ黒人にとって生き難い所なんだねテキサスって、と同情するが、もうちっと上手くやるなり、感情と折り合い付けた方が良くね?と思う。

    ま余計なお世話だよな。

  • テキサスの片田舎、肌の色を無視せずにはいられない文化的背景がある町で、黒人の男、白人の女が相次いで殺される。

    強盗による襲撃で夫の命を奪われた町のシンボル的軽食堂の女主人ジェニーヴァをルーツにもつれ絡み合う人間模様。

    プチアル中の誇り高き黒人テキサスレンジャーダレンが、ともするとヘイトクライムに分類されかねない事件の真相を探る過程で見えてくるきな臭いサイドストーリー。

    物語始めのトラブルの結末と、作品全体で主張している黒人への不当な扱いへの訴え、正義の追求との対比がなんとも心憎い結び。

  • シカゴから来た男が運んできたのは、ギブソンのレスポールだった。

    輸入盤で手に入れたミシシッピ・ジョン・ハートのレコードを擦り切れるまで聴いてフィンガー・ピッキングをコピーしていた頃を思い出した。『ブルーバード、ブルーバード』というタイトルは、ブルースの名曲から採られている。事実、文中にはライトニン・ホプキンスやジョン・リー・フッカーの名前がたびたび出てくるし、主要な舞台となる、ラークというテキサスの田舎町にある掘っ立て小屋みたいなカフェ<ジェニーヴァ・スイーツ・スイーツ>では、いつもブルースがかかっている。

    面白いのは、ハイウェイ五九号線を挟んだ向かいには、プア・ホワイトが集まってくる<ジェフの酒場>があり、そこでは、カントリー・ミュージックがガンガンかかっているというところだ。つまり、道路をはさんで黒人が安心して足を運べる店とレイシストの巣になっている白人専用の酒場とがにらみ合っている構図だ。奇妙なのは、<ジェフの酒場>のオーナーであるウォリーが、毎日のようにジェニーヴァの店に顔を出すことだ。店を売れというのが名目だが、どうやらそれだけでもなさそうに見える。

    テキサス・レンジャーのダレンは、家の管理を任せている老人が絡む殺人事件の裁判に巻き込まれ、レンジャーを停職中。レンジャーの仕事を快く思っていない妻のリサとも別居中である。そんなとき、友人でFBIヒューストン支局の捜査官グレッグから、ラークで起きた事件の捜査を内密に依頼される。道路沿いのカフェの裏に広がるアトヤック・バイユーで立て続けに黒人男と白人女の死体が見つかった。グレッグの話では人種がらみの事件らしい。ダレンは愛用のピック・アップ・トラックをシェルビー郡まで走らせる。

    オバマ大統領が誕生した時には、これで人種差別も解消に向かうかと希望を持った人々もいたが、トランプ政権発足により、事態は逆戻り。地方では、白人至上主義者の活動が活発化し、人種間の軋轢は以前より悪化していた。言い忘れたが、ダレンをはじめ主たる登場人物は黒人である。テキサス・レンジャーに黒人はめずらしいが、ダレンの伯父がその道を切り拓いた。ロー・スクール出身のダレンはもともと弁護士を目指していたが、ある事件をきっかけにレンジャー入りを決めた。リサとの不和はそれが原因になっていた。

    白人の勢力が強いテキサスだが、自分たちの力で商売をしたり、農園を経営したりして成功した黒人は、その地にとどまり続けた。一方で、才覚のない貧乏白人たちは、地道に働いて資産を得た黒人層を嫉み、執拗な嫌がらせをすることで、鬱憤を晴らしていた。それが、今では白人至上主義者がギャング団を組織するところまで来ており、ダレンは気を揉んでいた。黒人男と白人女の相次ぐ死には、黒人男が白人女とつきあうことを憎む者たちの仕業を匂わすものがあった。ただ、男の死体が先に発見されるのは異例で、それが気になった。

    ブルースとカントリー、黒人と白人という図式的な対比の構図をとりながら、妻に拒否される夫と夫に拒否される妻、という相似的な構図が用意されている。黒人の被害者マイケルは、シカゴで弁護士をしていた。その死を知って駆けつけたランディは有名な写真家で、家を空けてばかりいることが原因で夫との関係が壊れていた。ダレンとランディは置かれた立場こそ違え、冷えた夫婦関係を作った元凶という似通った境遇にある。事件を追う中で共に行動することで二人の関係がどうなるのかというロマンスの観点も加味されている。

    必ずしもフーダニットが主眼ではなく、謎を追うダレンの前に、もつれにもつれ、からまりあう黒人と白人をともに包む大きな憎悪を孕む人間関係の相関図が広がってくる。現在の事件は単独で解決されるものではなく、その裏に隠されていた過去の未解決の事件が浮かび上がってくる。互いに敵対視し、憎悪しあう間柄であっても、男女間には愛が芽生えることもある。周囲に歓迎されることのない愛ではあっても、愛し合えば子どももできる。

    白人と黒人の間にある桎梏と、そんなものに左右されることのない愛の交歓とが亀裂を生み、やがては殺人に至る原因となる。人を殺すことが、単に憎悪からではなく愛ゆえに起きることがあるのは知っている。人の感情というものはそんなに単純なものではない。それが悲劇の連鎖を生むのだ。夫と息子の墓参りをするジェニーヴァの場面からはじまるのには訳があった。若いジェニーヴァと、ひとりのブルース・ギタリストとの恋が、幾人もの人々の人生を狂わせてしまう契機になっている。

    ハイウェイ五九号線に沿って延びるバイユー・カントリーを舞台に、黒人と白人との愛と憎悪の相剋を、ブルースの名曲をバックに、鎮魂の曲を奏でる『ブルーバード、ブルーバード』。安っぽい正義感や、男の生き様などというありきたりな解釈を寄せ付けない異人種間の熾烈な愛憎劇を犯罪捜査にからませながら、人間という存在のどうしようもない哀しさと、それでもなお愛するに足る姿を、上滑りすることなく真摯に追い求めたミステリ、というより、アメリカで黒人として生きることの緊張感を鋭く見つめた、読ませる小説である。

  • 「ジョーがまずギターを取り出した。沢山の人々の--ジョーの、次いでマイケルの、そして今やランディとダレンの--運命を変えたギブソン・レスポール」

     伝説のギターマン、ジョー・スウィート。彼のギターをシカゴから追いけかけてきたマイケル・ライトの遺体がバイユーで発見された。ついで白人女性の死体が同じバイユーの少し下流で。

     東テキサス、シェルビー郡。人口178人の小さな田舎町。法律家になる道を妻や叔父に強く促されながらも、テキサス・レンジャーとして生きているダレン・マシューズを主人公に、人種間偏見と暴力が容認されるアメリカ南部の田舎町に起こる葛藤をいくつも重ねたように描いて、世の複雑さと人間と人間が向き合い、対立し、また憎み、愛する姿を、これでもかとばかりに描いてみせるその筆力に脱帽したくなるような一冊である。

     自らの人種差別と性差別に無頓着なトランプだったら顔をしかめそうな黒人女性作家アッティカ・ロックの、デビュー後4作目にしてアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞・英国推理作家協会賞スティールダガー賞・アソニー賞長編賞と英米の文学賞三冠を達成した優秀作。

     しかし日本人読者が好んで手に取るようなミステリー色は強くない。偏見によるヘイトクライムに包まれた町では、はっきりと右と左に陣営が分かれるからだ。この小説の舞台は小さな田舎町。道路が一本。道路沿いには二軒の店がある。片側は白人男性が集まる酒場で、もう一方は黒人女性ジェニーヴァの経営する食堂だ。白人の中には、ABTのメンバーもいる。KKKをさらにラディカルにしたような暴力的なほどの秘密結社アーリアン・ブラザーフッド・オブ・テキサス。この存在は本作で初めて知った。

     黒人のテキサス・レンジャーであるダレンのトラックの運転台には血まみれのキツネの死体が投げ込まれるし、ジェニーヴァの店は銃撃の威嚇を受ける。小さな町で死体が二つ、さらに暴力、ここに迷い込んでプロ・デビューを予定していたのにヒューストンにまで到達できなかったギターマン・ジョーの伝説。

     そして物語のかしこに鳴り渡るブルースの数々。本書のタイトルは、ジョン・リー・フッカーの曲『ブルーバード』から取ったもの。どろっと濃い南部の熱気の流れる町、別居中の妻と転職とに悩むダレンが目にするアメリカの真実がここに込められている。どの人物像も半端じゃなく描かれており、深い。シリーズ化されるとしたらその前段は十分に語られたと思う。期待したい。

     ちなみにアッティカ・ロックには、2009年にデビュー作として邦訳もされている『黒き水のうねり』という作品もあり。ヒューストンのわけありの黒人弁護士が主人公だそうだ。ううむ、これも読まねばなるまいな。

  • 書評七福神の十二月度ベスト! | 翻訳ミステリー大賞シンジケート
    http://honyakumystery.jp/9981

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  • アメリカの人種差別が描かれているけれどそれだけではなく愛とか憎しみ、家族、住む場所とさまざまなことが重なり起きた事件。絶えることなく繰り返されてきた黒人に対する差別。そこから生まれる憎しみ、怒りの連鎖。そして殺人。人種問題だけではなくて政治、力、財産、土地とたくさんのものが絡んでくる。こういうものだからと諦めたり正そうとしたり。正しいこととは何かと考え向き合い続ける男の物語でもある。

  • 混迷を深める白人ナショナリズムと根深い白人至上主義によるアメリカ社会の暗部を背景に、黒人のテキサス・レンジャ—(停職処分中)が、テキサス州の田舎町で起きた連続殺人事件の調査を依頼される。黒人の殺害は当然の報いであるが、被害者が白人となると黒人が真っ先に被疑者となる社会に対して、正義の信念で立ち向かう黒人警官の愛と葛藤に苦悩する姿を、重厚な文面で切々と謳いあげた社会派ミステリ-の秀作。現代社会が抱える深刻な問題は、人間の深層心理を傷めつけてやまず、真犯人の犯行動機もまた差別社会の弊害の故であろうか。

  •  アメリカの法執行機関は複雑だ。警察官がいて、保安官がおり、連邦捜査官もいる。本作品の主人公は法執行機関の一つ、テキサスレンジャーだ。より誇り高い存在だ。

     これが現代のアメリカなのかと疑うほど、人種差別が厳然と残る中で、黒人テキサスレンジャーとして事件に自ら切込んでいく。小説に出てくる事件は、人種間のヘイトクライムとして進行するが、実は愛の裏返しであることがわかる。また、本格的なミステリーとして十分なストーリーだ。紙幅のない最終局面で、新たな展開を匂わせるシーンで終わるので、続編が待たれる作品だ。

  • 想像以上に読みやすく面白かった
    人種問題を絡めながらもそれ以前の人間関係の問題、そして全てが綺麗に解決する訳ではない展開なのが良かった。主人公は決してスーパーマンじゃない。読みやすかった

  • 旅先三重の本屋さんで、たまたま出会った本。
    誰が二人を殺したのかという謎を追いながら、白人社会と黒人社会の複雑な関係を描き出す。
    既得権益、とは簡単に言えるが、あいつらがいなければ…という行き場のない怒りは普遍的であり、避けて通れない。

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