- Amazon.co.jp ・本 (513ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150106744
作品紹介・あらすじ
恒星タウ・セティをめぐる二重惑星アナレスとウラス-だが、この姉妹星には共通点はほとんどない。ウラスが長い歴史を誇り生命にあふれた豊かな世界なら、アナレスは2世紀たらず前に植民されたばかりの荒涼とした惑星であった。オドー主義者と称する政治亡命者たちがウラスを離れ、アナレスを切り開いたのだ。そしていま、一人の男がアナレスを離れウラスへと旅立とうとしていた。やがて全宇宙をつなぐ架け橋となる一般時間理論を完成するために、そして、ウラスとアナレスの間に存在する壁をうちこわすために…。ヒューゴー賞ネビュラ賞両賞受賞の栄誉に輝く傑作巨篇。
感想・レビュー・書評
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SF小説の必読書と言われる本書。SFファンとしては読まずにはいられない!ということで読んでみた。
果たして、必読かと問われれば、微妙かもしれない。SFファンとしてはそれなりに楽しめたけれども、人に勧められる自信があまりない。
何しろ長い。560ページだ。しかも本書の構成は少しトリッキーで、過去と現在が交互に描かれる。
主人公がアナレスという星で暮らしていた過去と、ウラスという星にやってきた現在は、各々数十ページの文量を割いて交互に登場する。
そんな構成のせいか、個人的に面白いと感じ始めたのが400ページ辺りからだったw
しかも、さすがのル・グィン。文化描写に余念が無い。人々の生活や思想の説明がこれでもかと描かれるので、苦手な人は苦手だと思われる。
そんな本書の最大の特徴が何かと問われれば、「文化の越境」かもしれない。
(長くなってしまうので省略。続きは書評ブログに書きましたのでそちらでどうぞ)
https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%96%87%E5%8C%96%E4%BA%BA%E9%A1%9ESF%E3%81%AE%E6%9C%80%E9%AB%98%E5%B3%B0_%E6%89%80%E6%9C%89%E3%81%9B%E3%81%96%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%80%85_%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%82%A3%E3%83%B3詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み終わってしばし呆然。ずっしりと重い課題と、ひとかけらの希望を飲み込んだような気分。SFという括りを超えた名作だと思う。
ウラスとアナレスの双子星が舞台。ウラスは自然豊かで長い人類の歴史を持つけれど、競争主義社会で貧富の差がどうしようもなく広がっている。対するアナレスは荒涼とした植民星で、人々は協力し合い、飢えと闘いながら必死で生きている。一見すると共産主義礼賛のように捉えられてしまうのか、発表当時は作者の政治的思想に対して様々な批判があったらしい。私には、現代の政治的イデオロギーなどを超えた、普遍的な問題提起だと感じた。もっとも作者は、問題提起など全く意図していなかったらしいけれど。
主人公が述べた、「誰かが飢えている一方で、他の誰かが腹一杯食べているということはあり得ない」というアナレス星を表した言葉が心に残る。今、世界は「ウラス的」な方向に向かいつつあるのではないか。人類にとってのユートピアとは?それを実現するために、人間の「所有する」欲望をどのように扱っていくのか?作者の意図を超えて読み手に様々な課題を突きつける、希有な本だと思う。 -
小説とは人間を描くものである、というル・グィンの言葉通りの本。
主人公シュヴェックを語るためにアナレスとウラスという二つの世界があり、本書が存在する。
個人的には彼の親友であるベダップが凄く印象的でした。終始一貫してシュヴェックの視点で語られる物語において、例外的にべダップが語る場面が存在するからでしょうか。
彼が持ち得ない(という言い方はこの本だと不適切ですが)「それ」に対する気持ちにシンクロしてしまってしょうがなかったです。彼の話が読みたい。
あと姉妹短編の「革命前夜」も読み返さなきゃ。 -
理想の社会構造ものって言っていいのか
貨幣なし世界だとどうなんだろうと思うけど、その1つのあり様が描かれた作品
お金のことを考えないとどこまでできるのかと言うのは考えたことはあるけど、この作品はソ連みたいな社会主義の顛末を念頭に置いたものっぽい。
プロジェクトヘイルメアリーや機本伸司さんの僕たちの終末みたいにお金のこと考えないと凄いことできるみたいな可能性じゃなくて、継続的な生活が描かれていた。
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なんだろうこれは。すごいものを読んでしまったのに、この本の世界は、私たちのいる現実であってまったくの異世界でもある。
この本の「人間」というものが、わたしたちと同じ形をしているかもわからないのに、悩んだりそして(まやかしであっても)解決策を見つけようとしたり、他を上と見たり下と見たり、またはそういう上下関係が全ていやになったりすることは普遍的な問題であって、それが描かれているために、異世界の話なのに妙に身近な問題の手ざわりがする。
集会シーンは、ハクスリーのすばらしい新世界のオマージュかなと思った。 -
最初はなかなか慣れず、アナレスとウラスのセクションの時間軸が今ひとつわからなかった。最後まで到達してようやく理解でき、読み終わった直後にもう一度読み直した。
『闇の左手』にも記載したが、そもそもル=グィンのハイニッシュシリーズはSFというジャンルなのだろうか。
確かに異星の物語で近未来という意味ではSFだが、文化や人に焦点が当てられていることを考えると、異星というのはただの舞台に過ぎないように感じる。
ル・グィンの素晴らしい点は、やはりその精密な世界構築だ。描く世界の文化や気質、時には歴史など、説得力のある世界を描く。今回は一般に資本主義の象徴のように語られるウラスと、共産主義のアナレスという2つの世界だ。
もちろんフィクションなので、これら2つの世界はある意味極端で、それをもとに現実の世界を語ることはできない。思考実験的な要素もあるのかな、と思う。
ただ、どちらの世界にも理想と現実があり完全ではない描写は、物事を二元論で語りがちな私達には少し立ち止まって考えさせるきっかけになるのではないだろうか。
描かれるアナレスとウラスは、ハイニッシュ・ユニバースの中では比較的文化的発展途上にあるようだ。作中にはおそらく地球であるテラという星が登場するが、テラは若干発展しているようで(西暦2300年らしいが、地球人はあと300年でここまで成熟できるだろうか?)、むしろアナレスとウラスに現在の地球の世界を投影してしまう。ナショナリズム的思想が強くなっている現在はなおさらだ。
さて、主人公シェヴェックはアナレスとウラスの両世界を知ることによって、本当の、そしてこの世界で唯一のアナーキストになったわけだが、彼はこれからどう世界に影響を及ぼすのだろうか。
改めて作品だが、異なる時間軸の2つの世界を交互に描くという手法は、もしかしたら読者に混乱をもたらすかもしれない(少なくとも私は混乱した)が、最後にここに到達するのか、という種明かし的効果があり、クライマックスを盛り上げる方法としては素晴らしいと思う。なるほど、と頷くラストだ。
主人公は、私には少々偏屈な人物に思え感情移入は難しいが、ウラスに向かう、あるいはウラスで貧困層を探しに出かけるためには必要なキャラクターだったのだろう。
とても素晴らしい作品だとは思うが、若干私には難しく心を動かすまでには至らなかったので、私的には★4。
私にもう少し賢さがあれば★5だったかも。 -
所有を悪とする国は既に地上にあるのでSFでない
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人間にとっての理想郷はどこにあるのか? この小説の主人公であるシュヴェックとともに、読者である自分もそんなことを考えていました。
経済の繁栄した自由主義・資本主義的な惑星のウラス、自由や平等をモットーに荒廃した惑星を切り開いてきた、共産主義的な惑星のアナレス。
歴史、政治、文化、言語……、回想と現在を行ったり来たりし、二つの惑星の違いを丹念に浮かび上がらせていく、その詳細さは、本当に二つの世界があるように思わされます。
シュヴェックは共産主義的な惑星のアナレス出身。そんな彼は、経済や文明が繁栄しているウラスの光、そして闇も先入観なく見つめます。時間や仕事に囚われ、芸術にすら価値をつけ、自由なはずなのに資本を所有し、拡大させることを生まれながら義務づけられたウラスの人々。
シュヴェックのウラスの人々に感じる疑問は、そのまま今の世界を生きる自分たちの矛盾点をついてきます。
しかし平等や共有を謳い「所有せざる」ことを美徳としてきたウラスも、その理想通りにいかない現実があることが、シュヴェックの回想から徐々に浮かび上がってきます。それは気高い理想を持ちながらも、保身や欲から逃れられない人間の限界を示しているように思います。
では結局、理想郷は無理なのか。僕個人的には悲観的なのですが、でも物語の結末を見ていると、こういう人たちが一人でも多く増えれば夢ではない。そんな風に希望のボールを読者に委ねる、そんなラストだったように思います。