ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150118099

感想・レビュー・書評

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  • ずーーっと気になってた作品。
    印象的な装丁と期待高まる表題(これは春樹の「ねじまき鳥クロニクル」が好きだからでもあるが)で、一体どんな作品なんだろうと思いつつ、以前読んだ著者の短編がそこまでヒットしなかったので長らく見送っていた作品でした。
    古本屋で上下巻が売られていたという不純な動機で読み始めた本書ですが、これがなかなか面白い。

    舞台は未来のタイ・バンコク。この時点でワクワクさせられるのですが、本書はもっと刺激的。環境破壊で海面が上昇し、ニューヨークなど世界各地の沿岸都市は水没。石油が枯渇し、伝染病が蔓延し、遺伝子組み換え作物しか栽培されない世界。バンコクでは伝染病の広がりを防ぐ環境省配下の白シャツ隊が権力を振るう一方、海外との貿易により富を稼ぐ通産省が躍進を遂げ、両省は一触即発の状況にあった。そこに日本国製造の「ねじまき少女」エミコが思わぬ形で関与し、タイは未曾有の事態に陥ってしまう…

    発展途上国の政権争いが物語のメインストリームですが、結果的に誰も得しないブルーな結末にションボリ。しかし、登場人物のそれぞれが苦境の中でなんとか幸運を掴もうと足掻く様はなんだか今の自分にはないハングリーさを感じられて、ちょっと思うところがありました。
    それにしても、おもしろいSF作品の特徴は確たる世界観を構築していることですよね。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、キャンベル記念賞と名だたる賞を総なめにした本書もまたその例に漏れません。

  •  2010年SF賞総なめの作品。邦題はオタク受けを狙って『ねじまき少女』なのかと思いきや、原題もきっちりThe Windup Girl。
     
     化石燃料が枯渇し、遺伝子改変動物を使役して生み出す力学的エネルギーを小型高性能のゼンマイにため込むというのが、この時代のエネルギー事情だ。よってすべてのエネルギーの源は家畜が食べる飼料のカロリーにたどり着くことになり、農業こそがが最重要産業なのだが、バイオテクによって生じた疫病や害虫で植物もまた壊滅的となっている。
     舞台はタイ王国。農作物の遺伝情報を握るカロリー企業の支配に屈せず独自の繁栄を築いている。物語はアニメ風のねじまき少女の冒険ではない。この起こりそうな暗い未来における群像劇である。

     タイでエネルギー工場を営むアンダースン。実はタイの種子バンクの情報を狙っているらしい。そして植物遺伝子にまつわる重要な情報をみぎっているらしいギ・ブ・センないしギボンズという男を捜している。
     アンダースンの側近として働く、中国難民の老人ホク・セン。かつて大企業主であった彼は、再起を図って、アンダースンを出しぬき、地元のギャング「糞の王」と接触する。
     ねじまき少女エミコ。遺伝子操作で作られた「新人類」。人間と区別するため、わざとぎこちない動きをするように作られていて「ねじまき」と蔑まれているが、ゼンマイで動いているわけではないようだ。日本で作られ、日本の企業家の秘書兼愛人としてタイに連れてこられたが、主人が帰国する際、経済的理由から捨てられ、見世物小屋で働く。
     タイの繁栄を守っているのが環境省、通称、白シャツだが、役人は賄賂を取り、腐敗している。賄賂を取らず、不正を暴く、環境省の役人ジェイディーはやり過ぎてしまい、政争に巻き込まれる。

     章ごとに別の登場人物の視点に切り替えつつ進む語りは、ひとりの登場人物への感情移入を妨げつつ、全体的な状況をゆっくりと明らかにしていくが、それは登場人物たちみながそこから駆け出すことができるように、慎重にゼンマイのねじを巻いているかのようだ。

  • なかなか固有名詞が覚えられず前半はきつかったが、後半から世界観に入り込めた。舞台が近未来のタイというのは新鮮。

  • 世界観が好き。カタストロフィも。アンダースン、エミコ、ギブソン、マイ、ジェイミー、カニヤ。みんなキャラが良いね。

  • 上巻読み終わり。この世界がようやく分かり始めて、楽しくなってきた。
    本当は嫌いなキャラであるはずのホク・センを応援してしまうのはなぜ?

  • さすがに賞を総なめしているだけはある。希望はないが、非常に現実味のある設定と、それを読ませる筆致がすごい。遺伝子操作が行くつく先はこれなのかと暗くなってしまうが、なんとかならないのか、という一縷の希望を持ちながら読んでいる。

  • 遺伝子組み換へなんとかが世界を席巻し、象が頑張る世界の、タイで、なんか「原種の果実」とかが出るので、それを調査するコーカソイドの人とか、お国を守るためにがんばるをっさんとか、マレーシアで地獄を見た支那のぢぢいとか、温帯専用の人造人間が、いろいろする。
     作者のご両親はヒッピーで、先生は支那へ行っていろいろやってたさうであるが、遺伝子組み換への品種で「近所の雑草を枯らすイネ」と言ふのが出てくる。
     アメリカはどうだったか忘れたが、ヨーロッパでは除草とかにウェイトかけないので、かう言ふのは欧州では異常に見えさう。

  • 遺伝子組換SFで前半は分かりにくいが後半の展開は早くすべてはエピローグのためにある
    表紙   8点鈴木 康士  田中 一江・金子 浩訳
    展開   7点2009年著作
    文章   7点
    内容 690点
    合計 712点

  • 近未来のバンコクを舞台にした物語ですが、現在私たちが映像などで知っているバンコクとあまり違わないように思えます。違うのは、市場にありとあらゆる遺伝子組み換え植物が並んでいたり、象を組み替えた動物がいたり、日本で作られたアンドロイドが出てくるところでしょうか。遺伝子組み換え植物は新たな病気をもたらし、人間には対抗策がありません。しかしアンドロイドなどつくられた生き物たちは、そうした病気と無縁です。必要から生まれたアンドロイドのエミコは、日本では大切に扱われていたものの、ここバンコクでは敬意を払われず、蔑まれています。主人(持ち主)に服従することを教育されているため、不満があっても逆らうことはありません。このあたり、日本の女性が置かれた社会的環境を示唆しているようです。バンコクには不穏な空気が満ちており、その中で登場人物たちは思い思いに行動します。エミコは課せられた拘束を解き、自由になりたいと思っていますが、上巻ではまだ答えは出ていません。

  • SFというジャンルを教えてもらいながら、読み進めている。
    それでいて、飽きさせない謎というアクセントが面白い。

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