零號琴 下 (ハヤカワ文庫 JA ト 5-5)

著者 :
  • 早川書房
4.28
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本棚登録 : 197
感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150314972

作品紹介・あらすじ

惑星美縟の巨大埋蔵楽器が五百年ぶりに奏でる秘曲・零號琴。大假面劇上演の夜、その音が暴く美縟の真実とは? 傑作ついに文庫化

感想・レビュー・書評

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  • 「グラン・ヴァカンス:廃園の天使」以来の第2長編とのこと。
    遅筆遅筆とはいいながらも確実に作を重ねている作家で、情けないことに9年前に読んだ「グラン・ヴァカンス」の思い出に酔うばかりで他の著作に手を伸ばせずにいた。
    ハードカバー版をチラ見して、重厚そうだなと感じていたが、なに、読み始めれば娯楽そのもの。
    キャラクターは丁寧に描き分けられ、漫画やアニメに親和性が高そう、と冒頭十数ページで、容易に軌道に乗れた(萩尾望都の絵柄で脳内再生)。
    ところがなんと漫画っぽいとかアニメっぽいという印象を越えて、そのまんまポップカルチャー諸々を取り入れた作りだと判り、断然面白くなった。
    あー「プリキュア」ね。そして「まどかマギカ」。てか「ゴレンジャー」って。「ジョジョ」の石仮面かな。手塚治虫「どろろ」じゃん。いや「火の鳥」のムーピー(思えば籘真千歳「スワロウテイル人工少女販売処」の視肉も)。「ナウシカ」の巨神兵というかまあ「エヴァ」かな。
    と元ネタを想起できる仕組みが、まず面白い。
    しかも後半に行くにつれて、作品を愉しむとはどういうことか、創作物で感情が動かされるとはどういうことか、二次創作とはどういう現象なのか、といった創作論・物語論に斬り込んでいく。
    ここが凄い。なのに凄さを言語化できない。
    それ以前に後半、どこで何が起き世界がどうなっているのか、よくわからない。混沌。
    わからないのに立ち上がってくる圧倒的な抒情。
    あ、やっぱり「グラン・ヴァカンス」の作家なのだな、と。
    ネットで探しても見つからなかったからレポート用紙3枚で用語集を作りながら読んだというのに、この体たらく。
    すごいものを読みました、ゴーグルなしにVR・ARを経験するなら本書に尽きる、ということだけ書き残して、数年後数十年後の再読に賭けたい。
    読後ネットで感想などなど漁ったが、作者自身がツイッターで「本作に限らず自作の多くは自罰的心性の産物」と語っていたのが印象深い。
    自分向けメモだが、「少女歌劇レヴュースタァライト」特に劇場版と併せて読むのもアリかもしれない。
    最後に、「想像しえぬものが、想像された」という帯を考えた編集者? にも喝采を。

  • SF的想像力
    理解しようとしてはいけない
    音で感じる。

    読み方の難しい漢字も勝手にイメージで読んでしまう度胸が大切。

    「音」とは波動であり「空気の揺らぎ」である。人は脳を通じて「音」を認識する。

    ドタバタ的アクションSF物語なので、そのものでも忙しく楽しい。
    か、「SF的想像力」を駆使して深読みすると、なかなか難物となる。
    あとがきの解説には助けられた。

  • 楽器?をモチーフにしたSFに対し、あらすじを読んだだけでは面白さがわかりませんでした。

    しかし、読み進めるにつれ物語に強烈に引き込まれました。
    想像は無限であり、凄まじい力です。

  • 凄まじい本だった。豊富で繊細な言葉が、こっちの想像力の枠を押し広げていくかんじがする。詩的な文章、色や質感を表す無数の語彙、文体が好きだし、上巻のアヴァンタイトルでもう参ってしまった。それでも作者のいわんとすることに私の貧困な想像力が追いついた気はしなくて、特に下巻の仮劇本番なんか、全然仔細に理解出来ていないんだろうな。一気読みしたこともあって体力すら追いついていないし…疲れた…笑
    〈行ってしまった人たち〉の未知なる力によって支えられた世界観や魅力的なキャラクター、何よりストーリーを夢中で追っていたら、最後の最後で物語は時間を遡り、陰鬱で恥辱にまみれ、だからこそ隠されていた「初め」を明かす。SFの最高のカタルシスだし、それを味わえてとても幸せ。でも欲を言うならセルジゥの活躍をもっと見たかったし、パウルやクレオパトラの鼻を明かす痛快さも味わいたかった。笑 とにかく続きが読みたい。せめてセルジゥがもう少し身体のパーツを取り戻すところが読みたい…。

    作者がノートで述べていた通り「お気楽な読み物」だと思って読んでいたから、解説で「それだけじゃない」可能性の一端を知って目を剥いてしまった。買ったのがずいぶん前なので帯付きの本だったんだけど、帯の煽り文句「それは日本SFの呪いか、それとも希望か」ってそういうことか。そういう読み方もあるのか。
    かつて一度だけ鳴った零號琴は原爆のメタファーでその余韻は今現在も続いている。その上で、私達(SFファン?戦後日本SFそのもの?)は梦卑ではないだろうか。原爆によって焼きついてしまい、同じ仮劇を何度も繰り返すことで自らを想像している。その目を覚まさせることに作者の企みがあると、解説はいう。
    〈亜童〉はアトム、〈牛頭〉はゴジラ、……多分〈鉄靭〉は鉄人だよね。〈守倭〉はウルトラマン? あとはなんだろう…。〈鋳衣〉〈孤空〉〈ぼう藍〉…うーん。

    ⚫︎あらすじ
    想像しえぬものが、想像された。 著者デビュー40周年記念刊行
    はるかな未来、特種楽器技芸士のセルジゥ・トロムボノクと相棒シェリュバンは、大富豪パウル・フェアフーフェンの誘いで惑星美縟を訪れた。そこでは首都磐記全体に配置された古の巨大楽器〈美玉鐘〉が五百年ぶりに再建されるのを記念し、首都の全住民が参加する假面劇の準備が進んでいた。だが案内役の咩鷺、菜綵とともに劇を観ていたトロムボノクらは、突如何者かの襲撃を受け――規格外の想像力に彩られた著者第二長篇
    (ハヤカワオンラインより引用)

  • 本当はハードカバーを書いたかったのですが、収納場所の兼ね合いで断念したことを後悔しています。どうにか場所を作ります。

  • 2023-04-17
    連載で読んでいたのとはかなり印象が違った。もちろん推敲されていることも大きいのだろうけど、一気読みすることでより祝祭感が際立ったように思う。
    モデルというか元ネタもじわじわ迫ってくる。言葉による幻惑を堪能した。

  • 大假面劇に向け再建が進む美玉鐘の演奏を任されたトロムボノク、劇作家ワンダにより主役に抜擢されたシェリュバンは、徐々に〈美縟のサーガ〉の成り立ちに迫っていく。咩鷺、菜綵、美縟芸能の目付け役〈班団〉、そして大富豪パウルーー。仕組まれた運命とそれぞれの思惑が絡み合いやがて迎えた上演の夜、秘曲〈零號琴〉が暴く惑星美縟の真実とは? 現実と虚構のはざまで物語を希うヒトの想像力を徹底的に描ききった傑作
    (2018年)
    — 目次 —
    第三部(承前)
    第四部
    無番
    第五部
    エピローグII
    エピローグI
    ノート
    解説ーー銀河を外から見るために/山崎聡

  • ひたすらエンターテイメント。細かい内容は気にせず、世界観と勢いを楽しむ。

  • 物語のための物語

  • 架空のアニメのストーリーになぞらえた展開に、いったい何を読まされているんだと思ってしまう(元ネタのアニメを観たことがないせいか、この部分はあまり入り込めなかった)。ただ、明かされる真相のスケールの大きさと、物語としての圧の強さは良い。

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著者プロフィール

1960年島根県生まれ。島根大学卒。第1回三省堂SFストーリーコンテスト入選。『象られた力』で第26回日本SF大賞、『自生の夢』で第38回同賞を受賞。著書に『グラン・ヴァカンス』『ラギッド・ガール』。

「2019年 『自生の夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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