ありふれた祈り (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 22-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (491ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151823510

作品紹介・あらすじ

フランクは少年時代のできごとを回想する。思いがけない悲劇が彼の家族を襲い、やがて明らかになるのは……ひと夏の事件を静かに描く感動のミステリ。解説/北上次郎

感想・レビュー・書評

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  • この読了感だ。

    思考が宙に浮いたような、静寂の水面に落ちる一滴の雫になったような気持ち。周囲に広がる波紋のように、僅かに風景が波打って、四方の壁とさえ物語の終わりに立ち会えた喜びを分かち合えるような。そんな読書になった。


    以下、ネタバレあり。(備忘録)


    最後の一文に救われたのは私だけだろうか。
    綺麗すぎるまとめ方に関心しつつ、否定することのできない単純なこと。
    まずはその一文を記しておきたい。
    『彼らは私たちの心の中に、意識の上にいつもいる。とどのつまり、彼らと私たちをへだてているのは、ほんの一息、最後の一呼吸にすぎない』

    戦後のアメリカ。退役した軍人たちはそれぞれの戦争を記憶に留め、互いに傷を舐めあいながら、無かったことにはできない死を想っていたんだろう。
    牧師の父も例外ではなかった。
    芸術家の母、音楽の才能を開花させようとしていた姉、フランク、末っ子のジェイク。平穏な日々に見えた。確かに闇はあった。それでも家族は幸せだったと思う。

    アメリカに根深く残るネイティブアメリカンとの歴史問題も垣間見える。

    フランク少年の視点で回想される物語。
    フランク少年とジェイク少年の活劇といってもいいかもしれない。大人との関わりも見所の一つである。家族も含め、少年たちは大人たちとの関わりの中で、大きな出来事の中で思案しながら複雑な感情を抱くことになる。

    戦争が父を弁護士から聖教者へと変えた。そんなはずじゃなかったと卑屈になる母。母の元恋人である盲目のエミール・ブラント、エミールに師事する姉アリエル、聾唖のリーゼ、父の友人ガス、警察官のドイル、ブラント家の若者カール・ブラント、ネイティブアメリカンのレッドストーン。
    様々な登場人物が兄弟の夏に登場する。差別や偏見が何を思わせたか。誰かの死が、
    少年の死が、男の死が、姉の死が何を別つことになったのか。

    家族愛、父の生き様。
    彼らの母はただただ平凡だったのかもしれない。

    許すことや、怒りとの決別は私には縁がないものだとは思う。
    でもフランクの回想を通して『そんな世界もあるのかもしれない』と、ちょっとくらいは素直に考えることになった。

    良い読書だった。
    読了。

  • 読み終わったあと心の奥に深いものが残る。ミステリだけど、それよりも少年の成長と家族の絆の物語だ。読み終わった後に心地良い余韻が残る。

  • 主人公であるフランクとジェイクの子供心ながらの思いと行動は、大人の考え方とは自ずと異なるのだが、どちらの考え方が正しいのか、物語が進むにつれて読者は問われることになる。
    世界は大人の判断によって動いて行くのは必然だが、子供の判断も侮ってはいけないのではと思わせる。
    先住民への差別、同性愛者への当時の意識、貧富の大きな差などが色濃く存在する時代、フランクとジェイクは子供ながらにこれらの矛盾点や社会問題に否応なく接することになる。
    そしてそれらの問題に加えて多くの死が重なり、事故、病死、殺人、自殺に伴う謎の噂として地域に拡がってしまう。
    これら大人社会の問題を投影しながら、兄弟は神を信じながらも死への恐怖に慄き、神を信じるべきなのか、神の救いは存在するのか、神に対しての葛藤が生じる。
    父親は神父という立場から、常に神の存在を主張しながら子供たちと接する。
    母親は神の存在やその意義を否定とまではいかないまでも、一途の信仰心は持ち合わせていない。
    この両親の間で、兄弟は複雑な思いを抱きながら成長していく過程が綴られる物語だ。
    40年の時を経て、少年期に遭遇した過酷な悲しみにより、フランクとジェイクが得たものはなんだったのか⋯
    フランクが少年期に、先住民から掛けられた言葉がこの物語の主題となっているような気がする。
    40年経ってからフランクが理解し、心に沁みたその言葉とは⋯
    『死者はわたしたちからそんなに遠くないところにいるのだ。
    彼らはわたしたちの心の中に、意識の上にいつもいる。
    とどのつまり、彼らとわたしたちをへだてているのは、ほんのひと息、最後の一呼吸にすぎない。』

  • あとがきにもあるように、前半は何も起こらない。
    何か起こりそうな雰囲気があるけど、後半に向けての長い前フリのような感じ。主人公フランクの家庭環境とか、町の住人を丁寧に説明。
    戦争へ行って変わった父親。アメリカの小説で、「戦争へ行って変わった人間」はよく出てくるけど、この父親はあまり遭遇したことのない感じだった。自分が読んできた本で、「戦争へ行って変わった人間」は大抵サイコパスになっているから。
    吃音症の弟の優しい感じとか、非白人の余所者に対する町の男たちの反応とか、少し前の年代で流行った雰囲気がある。

    起きた事件の真相・理由は、多感な少年(主人公)からすると結構えぐいのに、静かな印象がある。

    あまりにも事件が起きないので一回読むの止めようとしたけど、あとがき読んで気になったので再挑戦した。ミステリー度は低めで、ネトフリで映画化しそう。

  • 本当に素晴らしい小説だった

    前半は腕白な主人公と兄について回っている吃音症の弟の身の回りで起こる出来事が描かれる
    不幸な子供の死亡事故や、友達の叔父さんで先住民族の男性との出会い、不良少年との喧嘩、父親の過去についての会話など、あくまで13才の少年の視点での日常風景といった体で物語が進んでいく

    しかし、後半に入って、主人公の姉が亡くなると主人公一家の生活は一変してしまう。
    誰が何のために主人公の姉を殺害したのか?が物語の焦点ではあるものの、
    ミステリー小説というジャンルを超えた、家族の崩壊と再生の物語であり、罪と赦し、差別と偏見、少年の成長、奇跡についての物語でもある

  • もはやミステリーというより、カズオ・イシグロのような純文学のジャンルであってもおかしくない作品です。
    特に、語り手である少年の父親の存在は、聖職者とはいえ誰にでも公平で公正、家族にとっては時としてそうした態度が冷たく受け取られ家庭崩壊の危機にまで至るのですが、最後まで人を信じる強さで乗り切っていきます。
    そうした重厚で繊細な人間模様に、ミステリー的要素が絡んでくるといった按配です。
    大きな賞を同時に4つも受賞している力作です。

  • 心に響く物語でした、読み応えのある感慨深い作品であり読んだあとも余韻の残る作品でした、読み始めは単にミステリーとしかとらえていなかったのですが読み進むに従ってそれよりももっと深く考えさせられる内容でミステリー以上のものだと思いました。読んで良かったです。

  • ポケミスで。
    ちょっと類型的だったかな。今ひとつ響かず。

  • アメリカの作家「ウィリアム・ケント・クルーガー」の長篇ミステリ作品『ありふれた祈り(原題:Ordinary Grace)』を読みました。
    ここのところ、アメリカの作家の作品が続いています。

    -----story-------------
    全米4大ミステリで最優秀長篇賞を独占!
    2016年度版「ミステリが読みたい!」(海外篇)第1位

    「北上次郎」氏(文芸評論家)
    読み終えると最後の一文が迫ってくる。
    余韻たっぷりのラストがいい。(本書解説より)

    ●アメリカ4大ミステリ賞受賞!
    ●「ミステリが読みたい!」2016年版〔海外篇〕第1位

    1961年、ミネソタ州の田舎町。
    13歳の「フランク」は、牧師の父と芸術家肌の母、音楽の才能がある姉や聡明な弟とともに暮らしていた。ある夏の日、思いがけない悲劇が家族を襲い穏やかだった日々は一転する。
    悲しみに打ちひしがれる「フランク」は、平凡な日常の裏に秘められていた事実を知ることになり…… エドガー賞をはじめ4大ミステリ賞の最優秀長篇賞を独占し、「ミステリが読みたい!」で第1位に輝いた傑作。
    解説/「北上次郎」
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    2013年(平成25年)に発表された作品で、アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)、バリー賞、マカヴィティ賞、アンソニー賞の最優秀長篇賞を受賞した作品… 2016年(平成28年)に日本で翻訳出版された後は「ミステリが読みたい!」〔海外篇〕第1位にも輝いている作品なので、期待して読みました。


    あの夏のすべての死は、ひとりの子供の死ではじまった―― 1961年(昭和36年)、ミネソタ州の田舎町で厳めしい牧師の父「ネイサン」と芸術家でややエキセントリックな母「ルース」、音楽の才能がある美しい姉「アリエル」、吃音があるが聡明な11歳の弟「ジェイク」とともに暮らす13歳の少年「フランク・ドラム」… だが、ごく平凡だった日々は、思いがけない悲劇によって一転する、、、

    家族それぞれが打ちのめされもがくうちに、「フランク」はそれまで知らずにいた秘密や後悔に満ちた大人の世界を垣間見るが……。


    少年の人生を変えた忘れがたいひと夏を描く、切なさと苦さに満ちたミステリでしたね… 少年モノには弱いんですよねー 「フランク」や「ジェイク」の気持ちになって、感情移入しながら読みました、、、

    序盤から中盤は、「フランク」の目線で、田舎町での人間関係や日常の出来事を通じて、先住民や障碍者への差別、貧富の差、戦争の傷等が色濃く残る地域性が丁寧に描かれているので、やや退屈で冗長な感じがしますが… 殺人事件が発生してから、事件の真相を知るまでの終盤の展開は一気読みでした。

    姉「アリエル」の交際相手が判明した頃から、真犯人はほぼほぼ見当が付きましたが、ラストまで飽きずに読めました… ミステリとしても愉しめますが、主人公とその家族の成長を描く家族小説、青春小説という印象の方が強い作品ですね、、、

    「スティーヴン・キング」の『スタンド・バイ・ミー』や、「ジョン・ハート」の『ラスト・チャイルド』のようなノスタルジックな雰囲気が感じられる好みの作風でした… 少年たちの気持ちにシンクロできるかどうか、心の痛みを感じられるかどうかで、評価が大きく分かれる作品かな。

  • 『このやさしき大地』は良かったが、それ以上にこのお話は良かった。

    牧師の父親ネイサン、芸術家の母親ルース、音楽の才能豊かな姉アリエル、吃音があるけれど洞察力鋭い弟ジェイクとミネソタ州ニューブレーメンに暮らすフランク(13歳)が主人公。

    この本の原書のタイトルは「Ordinary Grace」。「ありふれた祈り」というよりは「ありふれた恵み」。前半はその通り、Ordinaryな、平凡な日常が描写されている。特に何かが起こるわけではない。

    それが後半、思いがけない悲劇が起こり、一気に物語は動く。その悲劇の中で、平凡な日常が崩れかける。その崩れかけた日常を救ったのが「ありふれた祈り」。ありふれた祈りだったけれど、40年経っても、フランクは忘れていないと述懐する。

    ありふれた祈りが、ありふれた恵みを呼び戻した。考えさせられました。


    悲劇の中で牧師である父親の言動、特に教会で語るメッセージが心にしみました。読み終わって、そのメッセージを思い返していると、フランクルの「それでも人生にイエスと言う」言葉が心に迫って来ました。

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