第二幕: ニール・サイモン自伝2

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152083531

作品紹介・あらすじ

愛妻ジョーンの死から現在まで、舞台に映画に成功と挫折を重ねながらピュリツァー賞をきわめた作家人生をユーモラスに赤裸々に描く。「抱腹絶倒のおもしろさにみち、しかも哀切極まりない」と絶賛された『書いては書き直し』第二幕。

感想・レビュー・書評

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  • 『書いては書き直し』に続く自伝の続編である。前作は、戯曲家としてブロードウェイで成功するまでを、今回は、今や押しも押されもしない人気作家が一人の男性として、最愛の妻を亡くした後、どう生きていったかを描いたものと言えるだろう。そういうと、何だか暗い話に聞こえそうだが、とんでもない。そこは、ニール・サイモン、「これって本当かい?ニール」と、声をかけたくなるほどのウェル・メイド・プレイを地で行く展開は息もつかせない。

    それにしても、である。立ち直れないほどのショックを受けた妻の死後一月足らずで、二週間前に会ったばかりの新進女優と結婚してしまう男の神経は、いったいどうなっているんだろう。前妻との間にできた二人の女の子をうまく使い、この顛末を納得させる展開を書く筆の冴えに、超一流の劇作家というものが持つ言葉を操る力を見る思いがする。

    二度目の妻マーシャ・メイソンは、名作『グッバイガール』で、リチャード・ドレイファスと組んで息のあった所を見せてくれたあの女優である。この作品からだ。クレジットで流される脚本や原作を一生懸命探すようになったのは。こいつは面白いぞ、ひょっとしたら、と思ってクレジットを見つめていると、決まってニール・サイモンの名前が出てくるのだった。舞台でヒットした物の映画化であることが多かった。若きロバートレッド・フォードとジェイン・フォンダの『はだしで散歩』やジャック・レモン、ウォルター・マッソーのコンビによる『おかしな二人』に腹を抱えて笑った人は多いだろう。

    「私の芝居の妙な点は、芝居がおかしいときには本物のコメディであり、芝居がドラマティックなときには、深刻な葛藤に直面する市井の人々を扱っていたということだ。多くの劇評家にとって破天荒かつやや迷惑に思われたのは、私が同一の芝居の中で両方をやってのけようとすることだった。」と、本文にある。ニール・サイモンの劇の魅力はそこにつきると言っていいだろう。大笑いした後にふと忍び寄る真実の苦さや重さ。辛辣なユーモアに包んで描かれる人間の持つ弱さと、それゆえの愛しさ。泣いたり笑ったりして見終わった後、心の中を振り返ると片隅に何かあたたかな物がひとかけら残っているといった感覚こそ、ニールサイモンの芝居を見る歓びである。

    人間の心理を的確につかんだ科白が、絶妙の掛け合いで演じられるのが彼の芝居の真骨頂だが、夫婦別れの瀬戸際にマーシャが怒りを込めて語り続ける言葉を聞きながら、「彼女の言葉に迫力があったので芝居に使おうと思った。」という告白には、そこまでやるかと、典型的な芝居バカを見る思いがした。シェイクスピアではないが、プレイ・イズ・シング(芝居こそすべて)という彼の生き方に女性がついていけなくなるのは当然かも知れない。もっとも、この挿話を書く作家の言葉は真摯なもので、別れた妻に寄せる敬愛の念は読者の胸を敲つ。

    結局三人の女性と四度結婚し、一人に死に別れ、二人と三回離婚することになるのだが、懲りない人である。今回の本は一番新しい恋人に捧げられている。

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