- Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152084057
作品紹介・あらすじ
文化大改革の嵐が吹き荒れる1971年、医者を親に持つ僕と羅は、反革命分子の子として再教育のため山奥深くに送りこまれた。僕は17歳、羅は18歳だった。厳しい労働に明け暮れるなか、僕らは村に唯一ある仕立屋の美しい娘、小裁縫に恋をした。あるとき僕らは、いまや禁書となっている西欧の小説を友人が隠し持っていることを知る。壮大な愛や冒険の物語に僕らはすっかり夢中になり、これに刺激を受けた羅は、小裁縫にバルザックの小説を語り聞かせる。二人は次第に親密になっていくが、本によって自分たちの運命が大きく変わってしまうとは知らなかった…。在仏中国人作家が自らの青年時代の体験をもとに綴り、世界30カ国で翻訳された話題作。
感想・レビュー・書評
-
えらく小説的な本であると思った。
難解であるとか、深遠な思想がこめられているとかそういう訳ではない。
文化大革命時代を描いてはいるが、主人公も友人も引き離された家族を心配するでもなく遊んでばかりで暗い風潮とは無縁であり、むしろ牧歌的な雰囲気さえ漂う。
二人の少年と一人の少女(ご多分に漏れず明るい美少女だ)をめぐる、共通の趣味と、師としての本と、冒険と、恋と、別れ。
物語の作り方として、一般的な小説と言うものの類型にこれほど沿っているものがあるだろうか。
まさに筆者は「小説」を書きたかったのだろう。
文化大革命期の中国に生き(そこではあらゆる芸術は貴重だった)、フランス留学の際にそのままヨーロッパに定住することを選んだ作家が自分を見出したのは、プロレタリアートや共産主義の中ではなく、愛や個人主義といったものの中だった。
彼が自らを語るために選んだ言葉は母国語である中国語ではなく、バルザックを生んだ自由の国の言葉フランス語であった。
フランス語でなければ筆者は彼の文革を赤裸々に語ることができなかった、そのことは「解放する言語であるフランス語」のようなものを感じさせる。
これは「クレオール礼賛」(図書館の同じフランス文学コーナーに置かれていたのだ)でヴィジオン・フランセーズとしての「抑圧する言語であるフランス語」について書かれているのとは好対照だ。
おそらく母国で教育され、大人になってから西洋的価値観に触れたか、それともフランス的に教育され、大人になってから母国の文化と向き合うようになったかの違いだろう。
「バルザックと中国のお針子」はあまり分厚い本ではない。
ストーリーは類型的で、特に目新しくもない。
だがその中にはぎゅっと「文学のエッセンス」が詰まっている。
中国人作家の手による、中国を舞台にして書かれた小説ではあるが、私がこれを図書館のフランス文学コーナーで見つけたのは、この本が紛れもないフランス文学の精神を持っているからなのだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
翻訳者の役割と大切さが魔法の玉手箱を開けるようだった。異文化の文学を言葉の壁が取り払うことは想像以上に情操を豊かにし脳細胞が生成される。女性の心身をわが身の痛みと同等かそれ以上に重んじ美しくしなやかに表現されて自由意志が成立している。
-
2022/8/20 時は戦前の話ではない。恐らく文化大革命時代の1966年〜1976年で中国農村部に再教育の名の下に『農村で学べ』と都市から追放された高等教育の子弟が多かった。そんな10代後半の知的好奇心旺盛な2人の青年の日常と偶然にも知り合った少女を巡っての情愛を描く青春小説か。
-
映画を見たい
著者が映画も手がけたそうなので楽しみ -
物語を通して知る文化大革命は学校で習うのもよりもやはり重みが違って感じられました。
-
書物は血となり骨となり、肉となる。
バルザックがもたらした小さなお針子への大きな革命と精神の昇華。
大文化革命期の中国。鳳凰山での再教育中の閃光のような青春。 -
バルザックを読むついでに借りた本。
ちょっと読み始めたらページをめくる手がとまらなくなって、1~2時間ぐらいで一気に読んでしまいました。しかも元々の目的のバルザックより前に。
当時の中国に少し興味があったのもあり、読んで良かったと思えた。
最近読む本はアタリが多いので嬉しいです。