図書館巡礼:「限りなき知の館」への招待

  • 早川書房
3.64
  • (6)
  • (9)
  • (7)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 339
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152098498

作品紹介・あらすじ

知の集積所としての図書館は、生と死、渇望と喪失といったあらゆる人間ドラマの舞台でもある。アレクサンドリア図書館からボドリアン図書館まで、古今の偉大な図書館の魅力を語り、文献の保守・保存・獲得に心血を注いだ「愛書家」たちのエピソードを活写する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 原題は「THE LIBRARY A CATALOGUE OF WONDERS」。
    作家で古書売買史家でもあるスチュアート・ケルズが書いた博覧強記の図書館史と、本、及び本にまつわる人の話。
    1ページの情報量が大変多く、改行が少ないため読みにくい部分はあるが、読み出すととまらない魅力がある。
    心模様の描写はなく、歴史上の人物や出来事に重きをおいているため「随筆」というところか。
    馴染みのない固有名詞が次々に登場し、あまりの造詣の深さに陶然としてくる。

    やや長めの序章のあとの、全15章。
    万人に開かれた図書館が登場するのは、ここ2,3世紀の話に過ぎないという。
    ではそれ以前はというと、古代の「本のない図書館」からスタートしている。
    本が無いとは、まだ筆記法もなく書物としての形が無い頃の話で、口承伝承の時代をさす。
    「どの国にも、書き記されるずっと前から存在している伝説や寓話、判じ物、神話、詠唱などがある」
    複雑な復唱パターンを編み出すなど、いくつものやり方で「口誦」の技術を高めていたらしい。

    その後、メソポタミアやアレクサンドリアに存在した大規模な図書館へと話は移る。
    初めて「司書」を置いたという「アレクサンドリア図書館」ではかなり呆れる話がある。
    巻子本を積んだ船が入港すると図書館で書き写すためと押収したという。
    そして筆写し終えると新たな複製が返却されて、原本は図書館に納められたとか。
    闇業者による海賊版も数多く出回ったが、高値で海外に売られたため、図書館破壊による損失から逃れられたらしい。古典のテキストが現代まで伝わっているのは、海賊版のおかげとも言える。

    そして中世ヨーロッパの修道院図書館。
    近代以降に建設された大学の学術図書館や映画に登場する架空の図書館にまで話が及び、未来の図書館像まで考察している。
    欧米中心で(日本は登場しない)で、やや中世に重きを置きすぎた印象はあるが、各図書館の逸話も盛りだくさんだ。

    各章の終わりにある数ページのコラムも面白い。
    愛書家というより「書物狂」とか「蔵書狂」とでも呼びたいひとが次々に出てくる。
    食事中もナプキンに包んで膝の上に置いたという愛書家から、たちの悪い本泥棒の話、大量の本の上に寝ていた人の話。
    自身は既婚者なのに「本を収集する者は独身でいること」をすすめたひと。
    ウンベルト・エーコは「所有してる本が互いに話している」様を思い浮かべていたという。
    15世紀、トスカーナ地方の秘書官だったというポッジョ・ブラッチョリー二が「滑稽談」というスキャンダラスな本を書いている。
    下世話な笑い話だというがこれが大人気で、かのレオナルド・ダ・ヴィンチも所有していた。
    エーコやレオナルドの話は可愛いのだが、焚書、略奪、破壊の話もかなり多い。
    本好きの立場からすると、胸が痛くなる描写も。

    歴史に名を刻む偉大な司書たちも登場し、グーテンベルグの活版印刷術のみでなく、こういった人たちの尽力で図書館が建設され守られてきたという記述もある。
    本の間に挟まった食べ物のかすや栞代わりのお札やチケット、本棚の後ろに隠された閲覧室、ポッジョが発見したザンクト・ガレン修道院図書館の古典作品の数々、禁書コレクション・・
    図書館には思いも寄らない発見もあり、その話も笑いを誘う。
    本の最初に数ページをさいて載せられたカラー写真は、ハッとするほど美しい図書館建築だ。
    それらすべてを見ることは出来ないが、この本でケルズと共に巡礼の旅をすることは出来る。
    物語性はないものの、まるで重厚な小説を読んだかのような満足感だ。
    本好き、図書館好きな全ての方におすすめ。

  • 古今東西の図書館、司書、愛書家、書籍商等の逸話集です。
    書名から図書館史だろうと思っていましたが、短いマイナーな話題が詰め込まれているものでした。
    一つ一つが丹念に調べ上げられ、どんどん掘り下げられていくマニアックな一冊。

  • 愛書家。。。魅力的な言葉

    早川書房のPR
    ボルヘス、エーコが夢見た「知の集積所」 その蠱惑的なあり方と古今の変遷を鮮やかに描く

    ボルヘス、エーコが夢見た「知の集積所」としての図書館は、生と死、渇望と喪失といったあらゆる人間ドラマの舞台でもある。アレクサンドリア図書館からボドリアン図書館まで、古今の偉大な図書館の魅力を語り、文献の保守・保存・獲得に心血を注いだ「愛書家」たちのエピソードを活写する。
    http://www.hayakawa-online.co.jp/shop/shopdetail.html?brandcode=000000014163&search=%A5%B9%A5%C1%A5%E5%A5%A2%A1%BC%A5%C8%A1%A6%A5%B1%A5%EB%A5%BA&sort=

  • アレキサンドリア図書館から後、欧米を中心に図書館の歴史を渡り歩く一冊。博覧強記。
    個人的に面白かったのは小口絵の話。金色に塗られた小口を見たことはあるが、かなり遠い記憶で、もちろん小口絵など知らなかったから確認もせず、ちょっと残念。古い書庫に眠る文書の匂いだけで、コレラの流行がどこまで広がったか突き止めた医学史家がいたらしいが、確かに本(印刷?)の匂いというのは、紙の読書の楽しみの一つではある。消毒剤、紙や革、接着剤に含まれる揮発性有機化合物は予測可能な速度で分解されるから、年代も判別できるそうだ。
    ザンクト・ガレン修道院のロココ様式の図書館は、行ってみたい場所の一つになった。
    図書館の閉鎖について。学識や文化や市民社会にとって書物がいかに大切かをアレクサンドリアやアテナイは知っていた。図書館の歴史はその大切さが忘れられ、再発見され、再び忘れられていく過程だ、と書く。そうかもしれない。時代に抗っても仕方ないし、個人的には紙と電子書籍を使い分けて楽しんでいるから、デジタル化自体は悪いことではないと思っている。ただ著者も書いているけれど、電子データだけになってしまうと、失われる危険性は紙とたいして変わりないように見えるから、紙データをやはり残してほしいし、「フラクタルで偶発性に富んだ図書館を見て回りさまよい歩く楽しみ」は、紙の本の存在が前提。一つの楽しみ方としてもせめて現状を維持してほしいと思っている。

  • グーテンベルクの悲惨さ

    「図書館とは単に書物が集まる場であることをはるかに超えた文明の拠点であり機関である。」
    しかし入力と出力と成果を対象とした新自由主義に基づく経営上の枠組みにはおさまらない。
    入力は数値化できるが、出力や成果は測れない。図書館のパフォーマンスが適さないように、顧客の分類も適さない

    古典のテキストが現代まで残っているのには、海賊版を作っていた闇業者の影響も多いにある

  • 歴史に名の残る図書館、そこをめぐる人間と本の歴史。

  • ●グーテンベルクの発明。印刷機の出現以前には、ヨーロッパ全土に約50,000点の書物が存在していた。ところが最初に生生印刷した後10年後には、本の数は800万冊を超え、作品数も28000に上った。有能な写字生が6ヶ月かけて完成させる分量を1日で制作できた。
    ●図書館設計に関する18世紀の原則に従えば、来館者が図書館のどこにいても、すべての本が直接見えていなくてはならなかった。壮大な蔵書を一望のもとに展示できるというわけだ。この世紀の偉大な図書館の数々は、視覚を満足させるように設計されていた。
    ●図書館とは、人類の備忘録、人と人が繋がる場であり、「社会資本」が生み出される場所だ。単に書物が集まる場所であることを遥かに超えた、文明の拠点であり機関である。魔法の場所なのだ。

  • 【最終レビュー】

    図書館貸出。

    《図書館+美術館の融合》

    《『知』の『集積所』…『人間ドラマ』》

    映画館鑑賞した、ニューヨーク公共図書館

    との共通項と重なる、上記を含めたキーワードの数々…があったからこそ、既読できたといってもいい。

    究極かつ多種多様な

    [独特の雰囲気・歴史観のひとかけら、ひとかけらが凝縮された『深淵たる世界観』]

    [立場、地域の隔たりのない『魅了された空間』]

    世界中の津々浦々に点在している雰囲気が、存分に伝わってきた。

    印象に残った

    『見知ったキーワード』があったり

    『映画・アート・書物にリンクするテーマ』も踏まえられていたり…

    映画館鑑賞以降、こうして少しずつ、理解していくにつれ、一気に残ったページを読み進めていた。

    一括りにはできない

    『あらゆる視点・角度で』捉えられているからこそ

    グッと、先入観なく、溶け込んでいた。

    やはり、普段、行き慣れている分

    この空間の心地よさが、やっぱりいいんだなと…

    今一度、感じ入った内容がありったけに詰まっていた内容と言えます。

    では、ラストに、特に印象に残るキーワードを抜粋しながら、レビューはこの辺りで…

    口誦・愉悦・大英博物館

    装丁・文化遺産・修道院

    ルネサンス・魂の療養所・検閲

    ファースト・フォリオ(シェークスピア)

    アレクサンドリア・赤毛のアン・風と共に去りぬ

    ガリバー旅行記・真夏の夜の夢・創造の核心

    図書館が登場する洋画作品の数々

    ジュリアス・シーザー(阿部寛さん主演で舞台化・故、蜷川幸雄さん演出)

    図書館の文明開化

    知的・文化的・社会的成長

    精神を育む…文化的中継点

    〈偶然の発見!〉

  • ふむ

  • ☆☆☆☆ 古今の愛書家や書物収集家、書籍商、司書が大勢出てきた。個人によって何万冊と集められ、時に秘蔵された写本や稀覯書は、競売に出されたり図書館に寄付されたり所蔵者の名を冠した図書館に収められたりして再び目に触れるようになった。アドモント図書館、ザンクト・ガレン修道院図書館、シェイクスピア関連のフォルジャー図書館は実際にこの目で見てみたいなぁ。ページ数は多くないが読みごたえのある本。一行あたりの情報量が多く、話のテンポも早いので、消化に時間を要した。それでもやっぱり面白かったし、世界中の図書館をもっと知りたいと思った。ボルヘス、ウンベルト・エーコ、アルベルト・マングェルなど気になる作家の本からも引用されていて読みたくなった。

    p55
    アレクサンドリアの危険な歓楽街のほど近くに、書店がにぎやかに立ち並ぶ商業地区があった。(中略)彼らの生活はいくつかの悪事のうえに成り立っていたが、そのひとつに、司書を買収して所蔵されている巻子本を持ち出させるというやり方があった。持ち出された巻子本は書き写され、業者はそうした海賊版を国内外で販売した。

    p58
    原因が何であれ、アレクサンドリア図書館の巻子本は、ほぼすべてが失われた。ギリシャの戯曲だけでも、その損失は壊滅的だった。アイスキュロスの九〇作のうち八三作が、エウリピデスの八〇作品のうち六二作、ソポクレスの一二〇作のうちの一一三とともに失われた。だが、ひそかに作られた海賊版を含む一部の書物は、ギリシャやレヴァント地方、とりわけコンスタンティノープルのコレクションに行き着いた、アレクサンドリアから今日まで伝わる文献は、かなりの割合で書籍商の製作した海賊版である。

    p59
    一四五三年に、コンスタンティノープルはオスマントルコの手に落ちた。ボスポラス海峡沿岸に学びの場を設けていたギリシャの学者たちの多くは、
    イタリアへ逃れた。と同時に、イタリアからは書物を手に入れようとする人々が沿岸に駆けつけた。

    コンスタンティノープルから持ち出された書物や文献は、海路や陸路で、交易路や巡礼路を通って、ヴァチカンの教皇庁図書館かやアンブロジアーナ図書館、ラウレンツィアーナ図書館をはじめ、東西の修道院や公共図書館、あるいは個人のコレクションに加わることになった。ビザンツ帝国の崩壊は、ローマやミラノ、フィレンツェを古典研究の中心地に押し上げた。また、ヴェネチアがギリシャ語写本の主要な取引市場となる要因にもなった。その影響は、より遠方の新興の図書館、さらには後世の図書館、たとえばボドリアン図書館、ケーニヒスベルグ、ヴォルフェンビュッテルのような図書館にまでも及んだ。コンスタンティノープルから流出した書物や文献は最終的に、世界を豊かにしたのだった。

    p67
    「リンディスファーン福音書」の名で知られる七世紀の写本は、中世から伝わる素晴らしい彩飾写本のなかでも指折りの傑作だ。ルカによる福音書の冒頭のページには、鉛丹(訳注 赤色顔料の一種)で一万六〇〇もの点が打たれている。

    p68
    ボッビオ修道院は、ウンベルト・エーコの小説で映画化もされた『薔薇の名前』に登場する修道院のモデルとされる

    p94
    宗教改革のまっただなかにあった一五五〇年、六〇〇点以上の写本を含む図書館のすべての蔵書が、ヴェラムや羊皮紙として製本業者や商人に売却された。

    p107
    バロック様式で建てられたドイツのヴィブリンゲン修道院図書館では、トロンプ・ルイユ効果は絶大で、訪問者は建築要素のどれが本物でとれが錯覚なのかを見分けるのに苦労するほどだ。

    ザンクト・ガレンの図書館では、天井はロココ様式のスタッコ装飾によって区切られており、ヴァネンマッハーはそこに最初の四回の公会議-カルケドン、コンスタンティノポリス、エフェソス、ニカイア-を描きあげた。立体に見える錯視効果は、大広間の端から眺めたときに最大になる。

    p112
    印刷術がイギリスにもたらされたのは、ウィリアム・キャクストンがウェストミンスターに印刷所を設立した一四七六年のことだった。

    p213
    ウィリアム・ユワート・グラッドストンが言うように、ほかの文化的所産と同じく、書物は「民族の絆あるいは鋲」であり、ある文化を破壊しようとすれば、その書物を破壊するに勝る方法はない。

    p248
    ドメニカ・ディ・カルタ(訳注 イタリア文化省が主導するイベントで、多くの図書館が一般に開放される)

    p271
    フォルジャー図書館に一歩足を踏み入れると、きわめて現代的な美から近代初期の美へとまたたくまに劇的に転換することに、来館者たちは目を見張る。ヘンリーとエミリーは、「挿絵入りのファースト・フォリオ」を具現化しようと、この内装を考案したのだった。

    p293
    図書館はこの作品の中心で、プロットの要だ。この図書館を描くために、エーコは図書館や修道院の図面、鏡の回廊、
    迷宮を-ギリシャ風のものかり根茎のように網状につながったもの、型どおりのものや想像上のものまで-何百も研究し、絵に描いた。ランスにある大聖堂の迷宮は特に参考になったもののひとつだ。今日では図面と絵画でしかわからないが、この迷宮は八角形で、それぞれこ角にも尖塔に似た形の小さな八角形があった(中略)。ほかにも、ダラム大聖堂、イェール大学のスターリング記念図書館、ボッビオ修道院、ピエモンテ州の山岳地帯にあるスーザ渓谷に建つ堅牢な
    聖ミカエル修道院、理想の修道院と図書館を描いたザンクト・ガレン修道院の九世紀の図面などは、とくに大きな発想の源となった。

    p311
    古代ローマには多くの公共図書館があった。トラヤヌス帝が建設したいくつかの図書館のなかには、五世紀まで存続していた、ウルピウス図書館という大規模なものもあった。アウグストゥス帝も素晴らしい公共図書館を建設した。ローマ初期の公共図書館は皮肉なことに、ギリシャ方式をそっくり模倣し、略奪したギリシャ写本など、おもに戦利品をもとに建設されていた。
    公共図書館の伝統はルネサンス期のヨーロッパで復活した。一六世紀にニュルンベルク市の有力者たちが市立図書館を建て、一五五〇年代には手書きや印刷の書籍が四〇〇〇冊程度収蔵されていた。続く数世紀のあいだ、ヨーロッパ各国は誰もが利用できるようにとの志から、国立や市立などいろいろなレベルで図書館を設立していった。

全12件中 1 - 10件を表示

スチュアート・ケルズの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×