狼の幸せ

  • 早川書房
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本棚登録 : 230
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152102270

作品紹介・あらすじ

人生に疲れた40歳のファウストは、長年暮らしたミラノを離れてイタリアンアルプス近くのレストランで働き始める。山に囲まれ次第に人間らしさをとりもどしていたとき、狼たちが山からおりてきていた――。ストレーガ賞受賞作家が描く、人生やり直し山岳小説。

感想・レビュー・書評

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  • ミラノ生まれの作家、パオロ・コニェッティは子どもの頃から夏になると一九〇〇メートル級の山地にあるホテルを拠点にして登山や山歩きを楽しんできた。三十歳を過ぎた今も、モンテ・ローザ山麓にあるフォンターネという村に小屋を借り、その土地で目にした自然と生き物の様子やそこに生きる人々の飾らない暮らしぶりをノートに書き留めては創作の糧にしてきた。デビュー作『帰れない山』以来、作家本人を思わせる一人の男の目を通して、山で生きる厳しさと愉しさを描いてきたが、今回は四人の男女の視点を借り、山で生きる男と女の関係に迫っている。

    小説はフォンターナ・フレッダのほぼ一年を扱っている。四季の移ろいとそこに暮らす人々の暮らしぶり、狼をはじめ、鳥や動物の生きるための工夫にも事欠かない。

    ミラノに住む作家ファウストは四十歳。結婚まで考えていた十年来のパートナーと別れ、人生をやり直すため、フォンターナ・フレッダに戻ってきた。部屋を借り、山道を歩き薪を拾い、九月、十月、十一月と自由の喜びと孤独の悲しみをかみしめながら暮らしてきたが、切り詰めた暮らしにも限度があった。ミラノに帰れば仕事の伝手はあったが、別れた女性との間に残された種々の問題解決に時間を取られることは確実だった。

    彼は村でたった一つの社交場である『バベットの晩餐会』というレストランの経営者バベットに自分が苦境にあることを打ち明けた。彼女は料理ができるならコックとして店で働けばいいと言う。こうしてクリスマスの季節も、フライパンを振ることになったファウストはその店で住み込みで働くシルヴィアという若い娘と出会う。彼女もまたよそ者で、何かから逃げるようにここに来ていた。二人が愛し合うようになるのはある意味で必然的だった。

    フォンターナ・フレッダにはスキー・ゲレンデもあった。一年の三か月間、山男たちはリフトの切符売り、圧雪車の運転手や救助隊員に姿を変える。サントルソもその一人だ。仕事終わりにはバベットの晩餐会に集まってはグラッパを飲んで皆でわいわいやるのが常だった。話好きの山男と、自分の知らないことを聞くのが好きな新米コックはすぐに仲良くなる。

    中篇小説といっていい本作は三十六プラス一章で構成されている。小説のなかにも出てくる北斎の『富岳三十六景』になぞらえてのことだ。ファウストの視点が中心だが、シルヴィア、バベット、サントルソの視点で語られる章も多い。視点が変わることで山に対する思いも人に対する思いも人それぞれであることがよく分かる。それぞれの人物にはそれぞれの人生があって、それが今の自分につながっている。一篇の小説を読みながら、四人の人物を主人公にした四篇の短篇小説を読んでいるような気になった。

  • 訳者です。コロナ禍でひととの触れ合いが難しい日々に執筆していたため、互いに寄りそい、触れ合う人々の優しさ・温かさを「狼」では描きたくなった、そんなことを作者はどこかのインタビューで答えていました。だから本作はいわば「帰りたい山」への郷愁の物語なのかもしれません。

    早川のnoteで訳者あとがきを公開しています。

  • イタリアンアルプスのふもとにあるフォンターナ・フレッダという小さな町を舞台に、そこに生きる人々や自然を活写した作品。
    作家でパートナーと別れたばかりのファウスト、唯一のレストランを営むバベット、そこでウェイトレスをすることになったシルヴィア、山で働くことを何より楽しんでいるサントルソの4人が主要な登場人物だ。36篇の短篇で構成された作品で、この数字は北斎の『富嶽三十六景』にちなんでいる。
    タイトル通り狼も登場するが、恐怖の対象でもなければ駆除されるわけでもない。自然界に生きる仲間として認められている。この距離感が好みだった。

  • モンテ・ローザの麓フォンターナ・ブレッダを舞台にミラノから離婚してやってきた作家ファウストと彼を雇ってくれたバベット、元森林警備隊員のサントルソとウェイトレスのシルヴィア。この4人が関係を築き影響を与えあいながら変化していく。自然描写の息を呑むような美しさと綺麗事だけではないトイレ事情などの生活面での厳しさ。一年を山や森林の変化と狼の見え隠れする存在感で満たした文章の美しさ、ディネーセンに捧げられたよう気がしました。また北斎を意識した36章仕立て、富士山ならぬモンテ・ローザを背景に人間たちの営みが描かれユーモアにも優れています。

  • 大きな話ではないんだけれど、読んでいる間この山にいられることが心地よい。

    とにかく出てくるお料理が皆美味しそう。

  • 帰れない山をずっと前に読んでいた。北イタリアの人は、何か爽やかな透明感がある。若い時、熱中していたパペーゼをおもいだす。短い章立てが良い。出て来る四人の人柄が好ましい。

  • 山はええなあ。
    魂が磨きなおされる。

  • 自然の描写が綺麗なパオロ・コエニッティの山岳小説。掌編をつないでいるので読みやすい。

  •  

  • 前2作(帰れない山、フォンターネ)よりも薄い感じ。
    山や山での暮らしの描写は変わらず生き生きとしていたが、薄いと感じたのはなぜだろう。
    時間をおいて、もう一度読み返してみたい。

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