焔と雪 京都探偵物語

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 386
感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152102645

作品紹介・あらすじ

探偵・鯉城は「失恋から自らに火をつけた男」には他に楽な自死手段があったことを知る。それを聞いた露木はあまりに不可思議な、だが論理の通った真相を開陳し……男と女、愛と欲――大正の京都に蠢く情念に、露木と鯉城が二人の結びつきで挑む連作集

感想・レビュー・書評

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  • 大正時代の京都で起こる奇妙な事件、かつての時代にタイムスリップさせてくれる探偵ミステリー #焔と雪

    ■あらすじ
    大正時代の京都。元警察官であった主人公、鯉城は探偵業を営んでいた。能力も人脈もあった彼のもとには、様々な事件や調査の依頼が舞い込んでくる。華族でありながらも病弱であった友人、露木とともに難題な謎に取り組んでいく。

    ■きっと読みたくなるレビュー
    コージーミステリーかなと思って読み始めましたが、各章ごとにつぎつぎと放火や殺人事件が発生する、しっかりとした探偵ものです。書き下ろしですが連作短編の構成になっており、全五編の気の利いたミステリーを楽しめる作品。

    大正時代の社会や世の中が見えてくるし、文章の表現もレトロ調で素敵。かつての日本にタイムスリップさせてくれるんです。

    本作は主人公の探偵鯉城と友人露木、この二人の関係性や掛け合いが面白い。まさにテレビドラマの相棒を見ているかのようで、信用信頼だけではない、ちょっと風変わりな繋がりが魅力。

    謎解きも思った以上にハッとするものがあって、なかなかスゴイ。特に後半からの展開は二人の距離感や価値観にも関連してきて、作品としてもぐぐっとレベルアップしていきますね。
    そして大正時代の出来事にも関わらず、裏にある動機は現代的だったりするんです。でも、行動としては前時代的なの。これが奇妙で興味深い、上手に組みあわせたなぁと感心しちゃいました。

    ミステリーでありながら、大正時代の文化や社会を体験することができる、時代文芸作品としても味わい深い作品でした。

    ■ぜっさん推しポイント
    本作、メインの二人の描写が素晴らしいのですが、事件に巻き込まれる登場人物たちにも引き込まれてしまう。当時の社会や環境、時代背景のなかで、彼らはどんな思いで生活をしていたのか。

    いつの世も男と女、金と欲…、不満や欲望を抱える我々人間社会。周りの人々を幸せにするために、できることは今も昔も変わらないような気がしますね。

  •  伊吹氏の過去2作品には、実在の人物が登場したが今回は誰もいない。
    主人公鯉城武史は元刑事で、ある理由から警察官を退職した。

     露木という人物から声をかけられ、探偵事務所を開き共同経営をしている。屋号は、鯉城探偵事務所という。なぜか露木の名前が入っていない。物語を読み進めると、探偵の依頼を鯉城が受け、実際の調査活動も鯉城が遣っているからなのだろうと推測していた。

     露木は、事務所にも出勤していない。判断に困る案件があった時だけ、鯉城は露木の家を訪れ相談をしている。事件があっても現場には赴かず、主に鯉城から状況説明や資料を基に推理に徹している安楽椅子探偵なのだ。

     目次は以下の通り
     第一話 うわん
     第二話 火中の蓮華
     第三話 西陣の暗い夜
     第四話 いとしい人へ
     第五話 青空の行方

     鯉城と露木の関係は、唯一無二の幼友達とだけ伝えておこう。そして出生の秘密がある。
     彼の推理は、いつも鯉城を呻らせる。しかし探偵事務所は、犯人を逮捕する必要がないのだ。露木の推理がどんなに素晴らしくともそれが真実とは限らない。
    鯉城の推理は、自分にとって都合のいい物語を創った。
    露木が反論「真実が人を救うとは限らないじゃないか」

     〈ときに熱く ときに冷たく きみと謎解くいとしさよ〉(帯より抜粋)
     過去の作品の中で、この作品が一番面白いと感じた。
     読書は楽しい

  • せつない一冊。

    大正時代、京都、探偵のワードに惹かれて手にした作品は病弱な露木と元警察官のアクティブな探偵、鯉城、この二人がさまざまな謎を独自に解き明かす五話からなる連作ミステリ。

    露木の目から鱗の謎解きはハッとするほどの見せられ感。

    この安楽椅子探偵の鮮やかな謎解きが、ある意味単調さが続くのかと思いきや、ある時点でガラッと色味が変わる。
    まさにせつなさ色にせつない吐息。

    秘め事ほど心キュッとくるものはない。

    降り積もる雪はまるで一変する景色、胸の内を隠し何かを隠す象徴のよう。

    こういうテイスト好き。また会いたい二人。

  • 大正時代の京都が舞台の探偵モノ。

    寺町二条に事務所を構える元警官の探偵・鯉城と、事務所の共同経営者で伯爵の血筋である露木が、様々な謎を解いていく連作五話が収録されております。

    京都の風情と、各々の事件の背景に渦巻く“人の業”といった“陰”の気配が絶妙にマッチして、全体的に薄暗いけどしっとりとした雰囲気が漂う物語。
    で、この雰囲気自体は結構好きなのですが、これは文体との個人的な相性だとは思うのだけど、ちょっと読みにくかったかな・・というのはありました。
    さて本書は、外で探偵業務をする鯉城に対して、蒲柳の質で家から出れない露木が、鯉城から事件の情報を聞いて安楽椅子探偵ばりに推理をするという流れなのですが、いわゆる“事件解決”的なものではなくて、あくまで露木の“考察”というか持論的なものを述べている感じなので、その辺りが一般的なミステリとは違って独特な印象を受けました。
    なので、第一話から第三話までは露木の推理に対して“仮説”っぽさがぬぐえず、特に第二話「火中の蓮華」での、執着していた女性の家に付け火をしたという疑いを持たれた男が焼死した理由については、もはや推理ではなく露木の妄想では?と、モヤっていたのですが、第四話「いとしい人へ」で語られる、露木の生い立ちと彼の鯉城への想いを読むと、露木が真相云々より“鯉城の為に”謎解きをしていることが判ってくるのですよね。
    その辺を理解すると“なるほどねー・・”と腑に落ちると共に何とも切ない気持ちになった次第です。
    そして、第五話「青空の行方」では鯉城も露木的なスタンスで“ある人の為の謎解き”をしていましたね。

    事件内容が痴情の縺れが絡んだものが多かったという事もあるかもしれませんが、真相を解明するだけではない、人の心情をくんだ“謎解き”というのもある意味アリなのかな・・と思わせて頂いた内容でした。

    因みに、鯉城と露木の友情(バディっぷり)も勿論良いのですが、個人的に気になったキャラは、露木家の家令・溝呂木さんが有能&いぶし銀で好きでした~。

  • 京都近代バディもの。
    鯉城(りじょう)は豆腐屋の息子として生まれ、警官となったが、事情があって職を辞し、今は探偵として働いている。
    彼のパートナーでもあり、ある種パトロンでもあるのが露木。伯爵の血を継ぐ庶子で、本家には嫌われている。病弱な彼は鯉城のようには動けないが、思慮深く、頭脳明晰で、鯉城に何くれとなくアドバイスする。安楽椅子探偵型ホームズといったところである。
    舞台は大正時代の京都。浪漫漂う世界で繰り広げられる事件には、生臭い情念が渦巻く。
    鹿ヶ谷の別荘に正体不明の化け物の叫び声がする。そこに残されたのは異様に顔が腫れた男の死体。男は化け物に取り殺されたのか?
    聚楽第の娘にかなわぬ恋をした男は娘の家に付け火をする。それに留まらず、自ら油をかぶって焼死する。いったいなぜそんな死に方を?
    西陣の老舗機屋で、男女3人の死体が見つかる。社長夫妻とその弟。これは不倫の代償なのか?
    いずれも混み入った事件。鯉城はそれぞれ、結論にたどり着くのだが、露木はもう一歩、踏み込んだ「解」へと鯉城を導く。

    全5話の連作集。第4話のみ、露木の語りとなり、あとは鯉城の視点で事件が描かれる。
    通常のミステリと少々違うのは、露木の示す「解」にある種の裏事情があることだ。これはなかなか目新しい試みかもしれない。起きた事柄は1つでも、視点を変えればさまざまな見方が「出来得る」というところだろうか。

    正直なところ、個々の事件の筋は混み入り過ぎで、キレも弱い。事件解決の爽快感は得られにくい。現実世界で起こる事件もあるいはこのくらい割り切れぬものもあるのかもしれないが、それにしてもカタルシスは薄い。
    読みどころとなるのは、大正京都の濃い目の仄暗い情感と、2人の探偵の関係性だろう。
    一風変わったブロマンス。「焔(ほむら)」は直情的で頑強な鯉城、「雪」ははかなく怜悧な露木だろうが、表紙では鯉城が雪の中におり、露木は暖かな(おそらく暖炉のある)部屋にいる。いずれにしろ、対照的な2人である。
    さて、この2人、さらなる事件に挑むことはあるだろうか。

  • 大正時代京都が舞台のバディもの
    安楽椅子探偵でしょ?と思って読み進めると……⁉︎

    誰のためなのか、何のためなのか考えさせられる作品でした。
    舞台となっている大正時代の京都が文章から
    伝わってくる美しさ素敵でした。

    読み終わった後に帯を見て納得
    “ときに熱くときに冷たくきみと謎解くいとしさよ”
    この作品が2024年初読みでよかったです
    続編希望!!

  • 鯉城探偵事務所は主に依頼人との接触、事件現場の調査をメインとする鯉城と、あらゆる情報を元に推理・解決へと導く露木2人から成る。
    鯉城が「動」なら露木は「静」、これには各々の持つ役割と素性に起因している故もあるのだが。
    洞察力とコミニケーション能力の長けた鯉城に頭脳明晰であらゆる視点から俯瞰する露木は最高のパートナーで、章を追う毎にその推理力にうなる。

    生来の性格もあるのだろうがイケメンひとたらしで魅力的な鯉城。
    生い立ちと儚さからは伺いしれない露木が秘めた想い。
    そして読者は予想もしなかった「解」がある事に唖然とするだろう。

    自身を焼き尽くさんばかりの炎は群れとなり焔となる。
    その手が離れないように、雪は熱を隠す。



  • 最初は文体が合わなくて読みづらかったけど、3話くらいからするっと入ってくるようになった。
    変な言い方だけど良質なBLの香りを感じたので手に取ったのですが、なんとも良い感じのBLでした。表紙の通りの焔と雪っぷりよ。
    妖怪シリーズを読んでる最中に読んだこともあって、割とあっさりな書き方だなあと思ってしまったけど、あっちが極端に執拗なだけでこのくらいが普通なのだと思う。
    帯に「驚愕の火種は最後に燃え上がる」って書いてあって確かにその通りではあるのだけれど、ちょっとネタバレというかそこまで煽らなくてもというかこちらの感情を帯で左右しないでくれとちょっとしょんぼりしました。

  • 元刑事の探偵鯉城が遭った事件を幼馴染の露木が安楽椅子探偵となって謎を解く・・・という流れの連作短編。

    なんというか・・・露木があかす真相がどれもそんなに意外性がなくてパッとしないな・・と思っていたら露木が語り部となりさらなる真相が。でもなんだろうな、いまいちピンとこなかったかな。真相を隠す露木の心情みたいなものが。あっと驚く真相!というほどでもなかったし・・・むしろイヤミスよりですらあった・・このあたりは好みの問題ですけども。

  • バディものの結局そういう設定にはもうゲップが出るのだが…雰囲気はよかったかな。謎解きは、ううむ。

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著者プロフィール

ミステリ作家。1991年、愛知県生まれ。同志社大学ミステリ研究会出身。「監獄舎の殺人」でミステリーズ!新人賞を最年少受賞。2018年に同作を収録した『刀と傘 明治京洛推理帖』(東京創元社)で単行本デビューし、翌年に本格ミステリ大賞を受賞した。このほか著作に、『刀と傘』の前日譚となる『雨と短銃』(東京創元社)、『幻月と探偵』(KADOKAWA)がある。

「2022年 『京都陰陽寮謎解き滅妖帖』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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