人間はどこまで家畜か: 現代人の精神構造 (ハヤカワ新書)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153400191

感想・レビュー・書評

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  • SNSで目に入った書評を見てきっとおもしろいと思って、さっそく入手。
    人はこれまでにいろいろな動物を家畜化してきたというのはわかっていたが、自らも家畜化しているという視点はなかった。でもたしかに、自然から切り離された、清潔で計画的で道徳的な生き方は"家畜化"なのだなぁ…。「社畜」のような表現もなかなか的を射ているということか。
    この本では、自己家畜化を必ずしも悪いこととはきめつけず、ゆるやかな進化の過程としてはある意味当然の変化だととらえつつ、社会や文化の設計がこのゆっくりした変容がおいつかないこと急なことで生じる問題などを検討している。

    そこらに置いといたら、教育実習のため帰ってきている大学四年生の娘が興味を持ち、ざっと最後まで読み終えた、おもしろかったとのこと。

  • 『人間はどこまで家畜か』もうタイトルにぎょっとする
    ここでいう人間の家畜化というのは、現代の人間はより穏やかで安全な文化に適応して生活しているのだけれど、
    この文化がより高度なもの、より礼儀正しく感情を荒げることなく他者と協力的なコミュニケーションを取れることを人間に求めるようになってくると
    不適応を起こし、文明からこぼれ落ちていく人間が増えていくばかりではないかという懸念ともっと動物としての人間にやさしい未来を考えるべきではないかという警鐘を鳴らす本であった。
    たしかに現時点で精神疾患が学生だと不登校、発達障害なんかも増えており、そういった判断や治療が行き届くこと自体は喜ばしいことだけれど、
    結果的にふるい落とされた人を排除していることにならないかという指摘には頷いたし、こういった生産性を希求する姿勢そのものがもう限界にきていると思った
    熊代氏の言うように高度な文明に生きる人間というよりも、もっと動物的な部分にフォーカスする未来のほうが大人も子どもものびのびと過ごせるのではないかなと思う

  • 人類は自己家畜化を図ることで社会の豊かさや清潔さを求めてきたが、それに伴い動物的な側面は切り捨てられている。

    例えるなら、ドラえもんでいうのび太(授業に集中できない子供)やジャイアン(暴力をはたらく子供)は治療や排他の対象になった。

    過剰な自己家畜化とそれに取り残される人々という現状把握。
    更にそこからの未来予測。

  • 【書誌情報】
    『人間はどこまで家畜か――現代人の精神構造』
    著者:熊代 亨[くましろ・とおる] (精神科医、評論家)
    出版社:早川書房
    レーベル:ハヤカワ新書
    価格:1,078円(税込)
    製造元:09759781
    ISBN:9784153400191

    ◆精神科医が「自己家畜化」をキーワードに読み解く、現代の人間疎外
     清潔な都市環境、健康と生産性の徹底した管理など、人間の「自己家畜化」を促す文化的な圧力がかつてなく強まる現代。だがそれは疎外をも生み出し、そのひずみはすでに「発達障害」や「社交不安症」といった形で表れている。この先に待つのはいかなる未来か
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015735

    【簡易目次】
    はじめに
    序章 動物としての人間
    第1章 自己家畜化とは何か―進化生物学の最前線
    第2章 私たちはいつまで野蛮で、いつから文明的なのか―自己家畜化の歴史
    第3章 内面化される家畜精神―人生はコスパか?
    第4章 「家畜」になれない者たち
    第5章 これからの生、これからの家畜人
    あとがき──人間の未来を思う、未来を取り戻す

  • ホモ・サピエンスのビッグヒストリーの中で「自己家畜化」をキーワードの現代社会の成立過程とその影について、哲学、精神医療に触れながら述べられている。本書は自己家畜化というワードに対して善悪の断罪を行うことなく、これまでの影響とこの先の未来について描いていた。

  • 人間は生物学的な進化の過程で家畜化してきたが、文化・文明的な意味でも自らを家畜化してきた。しかし今に至って、現代社会が人間を家畜化しようとする圧力は、動物としての人間の首を絞め始めたのではないか?という考察をした一冊。

    一章では、人間の生物学的な家畜化がどのようなものかを説明し、二章では近代までの文化による家畜化を、三章では現代文化による家畜化を、四章では現代社会の家畜化圧力による弊害を説明している。最終章である五章では、現代社会の家畜化圧力から導き出される未来像を描いて、その未来を憂慮している。

    脳科学者や心理学者、精神科医のおもしろい話には気を付けなければならない。胡散臭い人の顔も思い浮かぶ。この本にしても、引用している文献を恣意的に解釈しているのではないか?という疑いを持つ必要はある。

    という警戒は必要だが、著者の見方には概ね同意する。日頃、著者のツイッターやブログは見ているし、「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」も既読なので、このような内容になることの予想はついていた。著者も言及している通り「健康的で清潔で・・・」を踏まえた上で、自己家畜化というキーワードによって考察を深めた一冊だろう。

    些末なことだが、猫が家畜化された動物だという話に違和感がある。あいつらは本当に家畜なのだろうか?犬は家畜だと思うが、猫は簡単に野生に戻れるイメージがある。野生のヤマネコと見た目も大して違わない。その点、犬はチワワからブルドックまでめちゃくちゃだ。

    平たい顔族の一員としては、家畜化された種は野生種より顔が平面的になる、という話には思うところがあった。東アジアの人間は動物的特性が弱いのだろうか。

    この本では触れられていないが、文化や社会が人間の家畜化を進めた要因として、死刑は大きいと思う。死刑は、野生の狂暴な遺伝子を持った個体が遺伝子を子孫に残すことを難しくしたに違いない。

    ところで、私が本書を読む前に密かに期待していたことがある。それはリベラル・ポリコレ批判のための外堀を埋めることだ。リベラル・ポリコレはそろそろ生物学的な人間の対応できる一線を越えようとしている気がする。リベラル原理主義者は人間が動物であることを認めないのではないか。自分自身は10年前だったら、リベラルですよ、と言えた。しかし今は口ごもってしまう。そろそろついて行けなくなっている。なんならマイルドな保守かもしれない。自分はおそらく昭和のリベラルなのだ。真・家畜人失格だ。

    だが、リベラルは基本的に、理性的で論理的で倫理的に正しい。そこに異議を唱えるのは難しい。なぜか。その異議は、非理性的で非倫理的で非論理的な動物的な正しさに基づいているからだろう。動物的な正しさは、理性や倫理や論理とは関係がない。論理的な「言語」を舞台に両者が相対した場合、リベラルが勝利するのは当然だ。ただ著者はバランス感覚に優れているらしく、リベラル批判という言質を取られそうなことは書いていない。

    急進的なリベラル・ポリコレの動きにブレーキをかけるという意味では、ネトウヨや陰謀論者にも果たす役割があるのかもしれない。彼らはリベラルである真・家畜人より動物的特性が強いのだと思う。ただやはり言論という場に立つと、理性的で倫理的で論理的なリベラルには勝てない。

    五章に書かれた未来予測はSFで描かれるディストピアのように感じた。ある程度リアリティもある。しかし本当にそのようになるのだろうか?生物学的にも内面的にも家畜的特性を備えた真・家畜人は、あまり子供を産まないだろう。その一方で、生物学的にも内面的にも家畜的でない特性を持った人々、動物的特性の強い人々、雑にいうとヤンキー素養のある人々は子供を産むだろう。その結果、家畜的特性の強い真・家畜人は絶滅するのではなかろうか?

    経済的な側面からも似たようなことを考えてしまう。これから日本は更に没落していくことが予想される。その世界でお行儀の良い真・家畜人は生き残れるだろうか?戦後間もない頃、ヤミ米に手を付けずに死んだ裁判官がいたことを思い出す。健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会は社会的経済的に安定していることが前提だ。それが崩れた時、真・家畜人は葛藤に引き裂かれるだろう。それでも真・家畜人でいられるだろうか?その時生き残るのは、すぐ怒鳴る、殴る、約束を守らない、略奪する動物的な特性を備えたヤンキーではないか?それはそれで嫌なディストピアだが。

  • 犬や猫は自己家畜化した動物。自ら家畜になった。人間も同じ。
    動物園の動物に似ている。動物園の動物は繁殖ができない。ホッキョクグマは、半年以上生きられたのは122頭中16頭。
    自己家畜化とは、人工的な環境でより穏やかで協力的な性質に自らを変化させること。
    『暴力の人類史』によれば、人間の暴力性や衝動性が減ってきている。
    現代人は理性的で合理的、感情が安定しているように強制されている。それができない人が精神病になるのではないか。
    アナール学派=社会が変わるとルールや生活習慣だけでなく感情や感性まで変わる。

    家畜化したギンギツネの実験。攻撃性が少ないキツネを交配することで、13代でペットとして買えるほどになった。
    その特徴は、小型化する、顔が平面的になり前面への突出が小さくなる、犬歯など歯は小さくなり顎が小さくなる。性差が小さくなる。角が小さくなる、脳が小さくなる、繁殖周期の変化。
    ホルモンの変化で攻撃性が少なくなる。白い斑点ができるのはホルモンのせい。色素を作るメラノサイトが端まで移動できず、尾の先端や足の体毛が白くなる。副腎の大きさも機能も小さくなり、感情的情動的反応が穏やかになる。象牙芽細胞が少なくなり歯が小さくなる。脳の成長が遅れて小さくなる。性ホルモンが変化し、発情期や生殖サイクルが変わる。
    人間にも自己家畜化が進んだ。歯、口、顎のサイズが時代とともに小さくなる。人類は火をあやつることで大きな脳を持てるようになった。消化率がよくなった。ホモサピエンスはネアンデルタール人より脳が小さくなった。脳の使い方が変化した。攻撃性が減って野生動物としての感情的な反応が低下した=穏やかな感情を身につけた。野性的な脳から家畜的な脳へ変わった。文化がヒトを進化させた。動物と穀物を養うと同時に人間も家畜化されたのではないか。
    人類は唯一の耐火種である=火を見て温かい気持ちになるおは人間だけ。
    攻撃性は反応的攻撃性と能動的攻撃性がある。セロトニンのおかげで、反応性は減ったが、能動性は減っていないため戦争はなくならない。

    子どもは「7つ前までは神のうち」死亡率が高い。
    かつてはいつ死ぬかわからないという死生観を持つしかなかった。飼いならされた死。

    資本主義の定着で、社会契約の遵守が重要になった。
    いつ死ぬかわからない死生観では、資本主義は成り立たない。社会契約の中で資本主義や個人主義という思想通りに生きることを余儀なくされている=新自己家畜化。

    現代の精神を病む人たちは中世では英雄だったのではないか。
    ADHDやASDはスペクトラム的な疾患概念なのため、境目ははっきりしない。有病率は3%、4%とされている。
    文化的な自己家畜化についていけない人が精神医療にかかる。
    ナチスドイツは、向精神薬で恩恵を受けて、最後は弊害とともに崩壊した。
    成功同意書は、性行為の領域に功利主義や社会契約のロジックを導入するツール。自由を尊重するようにみえて、自由を管理させるものではないか。
    自己家畜化はゆっくりした変化だったが、文化的な自己家畜化は急速で、恩恵のほかに疎外を生み出している。

  • 時代によってまともな人、社会不適合な人の基準は変わってくるというのは言われてみればその通りだな。

    戦国の世なら活躍できた人でも令和の世なら犯罪者かもしれないし、令和の世でそれなりに成功しているインフルエンサーも江戸時代に生まれたら口先だけの人として誰からも相手にされないかもしれない。

    ”人間が作り出した人工的な社会・文化・環境のもとで、より穏やかで協力的な性質をよう自ら進化してきた、そのような生物学的な変化のこと”という意味である(本書ではこう定義すると14ページにはかかれていた)自己家畜化について、もっと知りたくなった。

    新書なので触りにしか過ぎないだろうが、入門としてはピッタリなのだろう。

  • 人間が衝動的な暴力を集団的な暴力によって排除抑圧し秩序を保つことで、統計学的な生存率を高めるという生存戦略を取ってきたとする進化生物学の自己家畜化の議論から始まる。しかし、本書の中心的なテーマは生物学的自己家畜化ではなく、文化的な自己家畜化と筆者が呼ぶものだ。生権力の議論を自己家畜化という言葉で語り直していると言える。

  • 2024-03-30
    思っていたのとは逆に、家畜になれないものを家畜にならず主体的である方向の議論が読みたかった。どうすれば家畜になれるか、を模索した内容。たぶん家畜という言葉のイメージ(使役者がいる)のせいで、どうもスッキリしない。提示される未来予想図も両極端。
    どうせなら、自己家畜化をおしすすめてなお

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著者プロフィール

1975 年生まれ。信州大学医学部卒業。精神科医。地域精神医療に従事する傍ら、ブ
ログ『シロクマの屑籠』にて現代人の社会適応やサブカルチャー領域について発信
している。
著書『ロスジェネ心理学』(花伝社)、『「いいね!」時代の繋がり』(エレファントブッ
クス新書)、『「若作りうつ」社会』(講談社現代新書)

「2014年 『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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