メディアの興亡

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (676ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163406404

感想・レビュー・書評

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  • 題名の「メディアの興亡」に含まれる「メディア」は新聞社のことだ。
    昭和40年代を主な舞台にして、朝日・読売・毎日の三大紙と新興の日経というメディア各紙の興亡を描いたノンフィクション。私は単行本で読んだ。670ページを超える大部の書であったが、全く飽きずに読まされた。
    物語は、当時、日経新聞が進めていた、新聞発行のコンピューター化、および、毎日新聞の経営危機を中心に進められる。
    日経新聞の新聞発行のコンピューター化の構想は現在につながるものである。もともとの発想は、現物の新聞を印刷するのに、ものすごい労力がかかっていたものを省力化・コストダウンするというものであったが、当時の日経の経営者は、新聞づくりのコンピューター化を、それだけにとどめない発想をした。新聞記者が集めて来た情報のうち、実際に紙面を飾るのはほんの一部である。使われなかった情報の中にも、重要な、興味を惹く情報は沢山ある。特に当時の新聞は(日経新聞ですら)、個別の企業、個別の業界の情報を記事にすることは少なかった。それをコンピューターの中にデータとして取り込み、また、印刷時間の短縮を活用して、新しい新聞、「日経産業新聞」をつくること。更には、コンピューターにデータベースとして取り込まれたものを、データ提供サービスとして商品化すること、これらが経営者が考えた、新聞づくりのコンピューター化であった。それは、「日経産業新聞」ばかりではなく、おそらく、後の、日経各誌(例えば日経ビジネスとか)の発刊につながったのだと思う。これは成功例。興亡の「興」の方だ。しかし、これらを実現するために、どのような苦労とドラマがあったか。その物語をノンフィクション作品で描いて見せるというのは、すごいことだと思う。
    一方で、興亡の「亡」は毎日新聞の経営危機だ。筆者があとがきに書いているが、新聞社というのは、もともと、新聞をつくることに職人的に特化した組織であり、実は、金銭面ではどんぶり勘定、あまり企業としての体をなしていない組織であったらしい。ところが、昭和40年代というのは、新聞が広告媒体としてトップの座をテレビに奪われ、また、新聞自体が各家庭に行き渡り、需要が飽和してしまった時期であった。そのような中で、新聞間の競争は激しさを増し、上記のようなコンピューター化によるコストダウンとか、あるいは、販売競争とか、紙面のクオリティだけではない部分で、新聞社の収益力が左右される時代、すなわち、企業としての競争力が問われる時代になってきたのである。ところが、毎日新聞は、良くも悪くも「新聞屋」であり、「職人集団」であった。放漫経営を続け、赤字は銀行からの借金で埋め合わせることをずっと続けた結果、経営が破綻しかけたのである。それでも、毎日新聞の社内では、内部抗争が続き、経営危機を一体で乗り越えようという気運は生まれなかった。その様子を筆者は描いている。誰が見ても経営的に危ないことは明らかなのに、これまでつぶれなかったのだから大丈夫と考えて、昨日と同じことをし、果ては内部抗争に明け暮れる。今の時代から、このような物語として読むと、「何をやってるんだ」と思うが、実際の現場では、なかなか変われないのが人間であり組織であることが描かれている。

    筆者の杉山隆男は、大学卒業後、短期間であるが、読売新聞で記者を務めていたということである。そういうこともあって、リアリティのある物語が描けたのだろう。この「メディアの興亡」は、ノンフィクションの名作として名高いのであるが、なにせボリュームに圧倒されて、これまで手に取らなかった。今回、思い切って、読んでみて良かった。ノンフィクションの面白さがつまった本だと思う。

  • この本、大好きです。

  • 鉛の活字による新聞をコンピュータによる新聞づくりへと技術開発を進める日経新聞の“コンピュータ化の苦闘”を軸に、スクープ記事を続発するものの、部数低迷、借金膨張にあえぐ毎日新聞の経営をめぐる“社内抗争”、同様にIBMとシステム化を進める朝日、渡邉恒雄という”ドン”となる政治記者が頭角をあらわした読売を含めた1960年代後半から70年代前半の新聞界を描いたノンフィクションである。
    日経新聞のコンピュータは、アネックスと呼ばれ、米国IBMが開発した。宇宙開発や軍事システムなどの技術を使っているが、重要なのはスペック(仕様書)づくり。日本独特の新聞づくりの方法を理解してもらうこと、IBMから出てきた仕様書を理解すること、がプロジェクトの中でも一番困難を極めた。

  • 印刷を速く行なうことによるニュースの鮮度を高めた大新聞の興隆。それは日中戦争のニュースで迫力を増し、朝日・毎日2大新聞はシェアを高める。また、昭和32年にはファクシミリという技術を導入して北海道に殴りこみをかけた朝日と毎日の闘い。渡辺恒雄が若い費に大野伴睦、鳩山一郎、中曽根康弘らの政治家と結びついて行ったか。人物の面白さでおじん殺しと呼ばれた記者生活。そして、経営トップにまで。大阪進出に反対した正力とオーナーを説得し、大阪進出を実現した務台。この判断が一年遅れると、読売は今でも全国紙でありえなかった。一方、ベトナム報道で名を挙げたスター記者大森が毎日で孤立し、退職せざるをえなくなるまで。また3流紙・日経の社運をかけたコンピュータ製版導入とIBMとの折衝。今の各社の位置が昭和20年以降のドラマによるものだ、それも「人」によるところが大きいということを知り、感動を覚えます。そして合併する住友海上と三井海上の2つの会社を合わせて考えざるをえません。毎日の大会社にあぐらをかいて累積赤字を重ね、没落していく様子は迫力満点。

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著者プロフィール

1952年、東京生まれ。一橋大学社会学部卒業後、

読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に

新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興

亡』(文春文庫)で大宅壮一ノンフィクション

賞を受賞。1996年、『兵士に聞け』(小学館文

庫)で新潮学芸賞を受賞。以後、『兵士を見よ』

『兵士を追え』(共に小学館文庫)『兵士は起つ

 自衛隊史上最大の作戦』(扶桑社新書)と続く

「兵士シリーズ」を刊行。7作目『兵士に聞け 

最終章』(新潮文庫)で一旦完結。その後、2019

年より月刊『MAMOR』で、「兵士シリーズ令和

伝 女性自衛官たち」の連載を開始。ほかに小説

『汐留川』『言問橋』(共に文藝春秋)、『デルタ

 陸自「影」の兵士たち』(新潮社)、

『OKI囚われの国』(扶桑社)など著書多数。

「2022年 『私は自衛官 九つの彼女たちの物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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