目標は撃墜された: 大韓航空機事件の真実

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163411507

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  • オホーツク海でイカ漁をしていた日本人漁師たちの頭上で
    突如、爆発音が轟いた。降り注ぐジェット燃料。そして、
    火の塊が海面に激突した。

    ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港を飛び立った
    大韓航空007便ボーイング747型機はアンカレッジでの補給
    を終え、最終到着地である韓国・ソウルを目指した。

    しかし、機は金浦空港へ到着することはなかった。本来の
    航路を大きく外れた007便はサハリン上空でソ連防空軍に
    よって撃墜された。

    1983年9月1日未明に起きた大韓航空機撃墜事件を、
    アメリカを代表する調査報道記者である著者が2年の取材
    期間を経て書き上げたのが本書だ。

    時はソ連を「悪の帝国」と呼んだレーガン政権時代。翌年に
    控えた大統領再選では分が悪く、ヨーロッパへのミサイル配備
    も難航していた政権にとって、ソ連による民間機撃墜は願って
    もないチャンスの到来だった。

    「ソ連は民間機と分かっていて、警告も与えず撃墜した。
    極悪非道な行為である」。反ソ連キャンペーンは政権の
    人気回復の、また政権内部での権力闘争の手段となった。

    しかし、事故発生後、早期に提出されたアメリカ空軍情報部
    の報告には一方的にソ連を責めることの出来ない材料があった。
    撃墜された大韓航空機の航路は、日常的にソ連領空を侵犯して
    いたアメリカ軍の偵察機とほぼ同じ航路だったことだ。

    ブラック・ボックスの内容が公開されていなかった時点で、
    入手できる通信傍受記録や事故報告書を綿密に調査し、
    アメリカ政府が何を握り潰し、時の政権に都合のいいこと
    だけを公表して来たかが明瞭に記されている。

    「多くの人は見たいと思う現実しか見ない」と言ったのは
    ユリウス・カエサルだったか。この時のアメリカ政府が
    正にそうだったのだろう。

    未明の空で民間機と偵察機の区別が難しく、普段ならさっと
    領空内に入ってさっと出て行くはずの機影が、徐々にソ連
    本土へと迫って来た。

    撃墜したパイロットも普段通りにロック・オンした。ロック・
    オンするだけで、ミサイル発射はしない。そう思っていた
    ところへ「撃破せよ」の指示が出た。「くそっ、なんてこった」
    と呟こうってものだ。

    勿論、民間機であることを確認せずに撃墜したソ連の罪は重い。
    だが、加工され、歪曲された情報に基づいて世界をリードした
    アメリカにも罪はあるのではないか。

    尚、007便が本来の飛行経路から大きく外れた理由については
    いくつかの説が存在するらしいのだが、本書が大きく紙数を
    割いているハロルド・ユーイングによる検証が一番真相に
    近いのかもしれない。現実味もあって興味深く読めた。

    尚、アメリカ政治、情報機関、航空機等の知識がなくても
    細かい注釈が随所に入っているので無理なく読める。翻訳
    も読みやすいのがいい。

    しかし、当事者である韓国の陰がさっぱり見えない点は
    気になる。

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