- Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163709000
作品紹介・あらすじ
ニュートリノ観測でノーベル賞を確実視されていた物理学者が、最期の11ヵ月に綴った病状の観察と死に対する率直な心境。
感想・レビュー・書評
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カミオカンデやスーパーカミオカンデにおける素粒子観測研究を率いて、ニュートリノに質量があることを発見したことで有名な物理科学者である著者のがん闘病を綴ったブログを立花隆が編纂したものです。
印象的なのは、自分の病状の数値記録をグラフ化して分析している点でしょう。その分析や提言にも説得力があります。物理科学者からすると医学はよほど非科学的に感じるのでしょう。
一方、死への怖れというものも冷静に語られています。それは怖れというよりも、生への畏れでもありうる。
・自分の命が消滅した後でも世界は何事もなく進んでいく
・自分が存在したことは、この時間とともに進む世界で何の痕跡も残さずに消えていく
・自分が消滅した後の世界を垣間見ることは絶対にできない
著者の中では、宗教や神に支えられた死後の世界の役割は、科学的な諦観・達観が不完全ながらもその役割を果たしているようです。
また、「本などに没頭していると、限られた有限の時間を無限のように感じるのです」と書かれているように、気を紛らわせることの希求が感じられます。
私の父はもう15年以上前にがんで亡くなっているのですが、おそらくそのときも抗がん剤などを使っていたかと思います。離れて暮らしていたのですが、つらそうでした。母はがんの事実を父には告知していないと言っていました。本人はさすがに知っていたと思うのですが、直接言われなかったのは幸せであったのかどうか。
遺伝的にも私もがんに罹る可能性が高いんだと思っています。ただ、自動車事故や脳溢血や心筋梗塞などで突然に死ぬよりも、告知されたがんで徐々に死んでいきたいものだと思うのです。この本を読んでさらに強くそう思ったのですが、他の方はどうなのでしょうね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ニュートリノの質量を観察で発見した物理科学者による自身のがん観察のログブック
科学、人生、自然、仏教等に関する考察
自分が死に近付いてることを観察する
科学者としての生き様が格好いい -
序文 立花隆
The First Three-Months
The Second Three-Months
The Third Three-Months
The Fourth Three-Months
対談「がん宣告『余命十九ヵ月の記録』」戸塚洋二×立花隆
巻末註
略年表 -
8/16 大阪紀伊国特設コーナー
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ノーベル賞に一番近い日本人といわれた物理学者 戸塚洋二氏の闘病記録をまとめたもの。闘病記録は、本人がブログで発表していたもので、世界の頂点に立つ科学者らしくデータや治療薬名と投薬量、副作用の状況に至るまで、詳細な記録が示されている。また、著者のすごいところは、自分の専門と癌のことだけではなく、草木のこと、仏教のことなど他分野に関しても学者級の知識を持っていることだ。優秀な科学者の探求心、好奇心の高さに感嘆させられた。立花隆氏の視点から、とてもよくまとめられた良書である。
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いつか人は死ぬ。どんな死に方をするのか、死を目前にして私はどうするのか。死が間近になっていく年齢になって、こういう本ばかり読んでいる。
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遺書代わりのブログ
科学者でも量子物理学の摩訶不思議な現象を腹の底から理解しているわけではないのか。。
おもしろかった。。 -
がんで残された命の期間が限られた人は数多いだろうが、それを冷静にとらえて文章化することは難しいと思う。
がんに侵された科学者の「ブログ」をまとめた本書を読んで、これは「一つの知性のありかた」と感嘆した。
もちろん、文章の専門家ではないから、構成がうまいわけではないし、医療データの数値化にしても部外者には興味を持てないかもしれない。
しかし、この著者の「死生感」は見事の一言である。
「わたしにとって、早い死といっても、健常者と比べて10年から20年の差ではないか。みなと一緒だ、恐れるほどのことはない」。
これは、我がものとして、ぜひ見習いたいものであると思えた。 -
物理学者が自分のがんを客観的に分析しながらがん医療への考え(主に愚痴)や日々の生活を記したもの。
実はこの人が亡くなってしまって、ニュートリノ質量発見に関するノーベル賞を誰にあげればよいのか分からなくなってしまったというぐらいすごい方。
面白いのは物理学者の視点で書かれているということ。
表紙の絵は戸塚さんの頭に浮かんだ幻覚のスケッチ。本人いわく、葉っぱのお化けか。
他にも、抗がん剤が腫瘍マーカーの時間変化に及ぼす影響を片対数グラフにして紹介したりしている。
最初はそんな珍しい記録に対する好奇心から読み始めたけれど、読み進めるうちに世界第一線の物理学者が世の中とどう接していて、世界情勢にどういった意見をもっているのかがじかに伝わってきて、同じ物理の道を進むものとしてとても参考になりました。
とくに、医療分野への物理の応用の話や日本のエネルギー安全保障の話など。自分でも少し勉強しようと思いました。
それから、戸塚さんは静岡の方だったんですね。
静岡を訪れた時の記録も割と詳しく書かれていてうれしくなりました。
この本に収められなかった科学の話は『戸塚教授の「科学入門」』となって出版されているのでそちらも読んでみたいと思います。 -
医者はデータと数字に弱い、という実験物理学者ならではの愚痴が面白かった。医師は一人一人違うから、とビッグデータにあまり目を向けないように見えるらしい。
編者の立花隆は戸塚氏を評して「淡々と死を受け入れているように見える」と述べているが、私には「自分にはこれしかない」というやり方で恐怖と戦っているように見えた。