山本五十六の乾坤一擲

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163728605

作品紹介・あらすじ

昭和十六年、開戦までの半年間に起きた出来事のなかには、関係者の日記、覚書、さらに回想録には記されない重大な出来事があった。奈落の底に落ち込もうとする日本を、山本五十六は引き戻そうと試みていた。大作『昭和二十年』を書き継ぐ歴史家によって、いま、その事実の輪郭が浮かび上がる-。

感想・レビュー・書評

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  •  歴史を取り扱った書には物足りないものが多いのだが、本書の歴史検証の詳細さには圧倒される。昭和16年の太平洋戦争開始直前の日本権力層のインナーサークルの動きを追った歴史書としては、白眉と言えるのではないか。 ただ、山本五十六が日米開戦を避けるために、天皇に「聖断」を計画して挫折したとの本書の結論には、賛同しかねる。
     著者の「鳥居民」氏は太平洋戦争の敗戦の経過を描いた「昭和20年」で、その徹底した詳細な歴史著述で名を馳せた人物である。「昭和20年」を読んだだけで日本で昭和20年に何がおこったのかが、重層的に理解できた気がするほどに詳細なものだった。鳥居氏はそれだけの長大な記述を飽きずに読ませるだけの筆力を持った歴史研究家であると思う。
     本書において鳥居氏は、昭和16年の6月から11月の期間に日本の指導層である宮中、陸軍、海軍の中枢層がどのような動きをしていたのかを詳細に追っている。戦後60年以上を経過し、指導層の日記・覚書・記録・回想録などがようやく明らかにされつつあるが、それらの資料を駆使した著述は圧巻である。
     本書のテーマは、日米開戦に至る経過についての日本の権力の奥の院で、何が起こっていたのかの探求だ。日本とアメリカの経済力とその継戦能力を考えると日本の必敗は必然と考える識者は当時も多くいた。宮中は歴史的にも親英米派・国際協調派が多かったし、海軍もアメリカと戦争になって2年以上は戦えないと考える幹部は多かった。それが、なぜ日米戦争へと進行したのか。各指導層の当時の立場と考え方によって事態は戦争へと進むのであるが、戦争への道にブレーキをかける動きとして、本書では、山本五十六が戦争回避を願って天皇の「聖断」を求めたが、それに挫折したと推理している。その論考が関係者の日記や記録に事実が書かれているからではなく、その部分が空白だからこそ、事実はあったのだとの主張となっているところに、ちょっと無理があるのではないかと思う。 
     しかし、山本五十六が日米戦争に反対した政治的な軍人として有名であるし、軍令部や多くの海軍指導部の軍人が反対したバクチである「真珠湾攻撃」に成功したロマンあふれる軍人である。山本五十六が、日米開戦直前に高松宮を通して天皇に直訴と日米開戦に反対する臥薪嘗胆の聖断を求めようとして、失敗したとの歴史の解釈は、無理があるとは思うが、夢があるドラマだと思う。そういう意味で、本書は山本五十六のヒーロー譚であると思う。このようなドラマを通して、昭和10年代を知ることができれば、真実は別として歴史書としては大成功なのではないかと高く評価したい。
     

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著者プロフィール

鳥居 民(とりい・たみ)
1928年(昭和3年)、東京牛込に生まれ、横浜に育つ。水産講習所を経て台湾政治大学へ留学。台湾独立運動に関わる。現代中国史、日本近現代史研究家。代表作であるシリーズ『昭和二十年』(全13巻)は、執筆に1975年ごろから準備し40年ほどを費やした。左翼的な史観にとらわれていた日本の現代史研究に、事実と推論をもって取り組む手法で多大な影響を与える。他の著書に『毛沢東 五つの戦争』『「反日」で生きのびる中国』『原爆を投下するまで日本を降伏させるな』『鳥居民評論集 昭和史を読み解く』(いずれも草思社文庫)などがある。2013年1月急逝。享年八十四。

「2019年 『文庫 山本五十六の乾坤一擲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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