コーランには本当は何が書かれていたか?

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903385

作品紹介・あらすじ

宗教への信仰を持たないアメリカ人女性ジャーナリストが、友人のイスラム教の指導者とともに、コーランを実際に読む。・女性はベールやヒジャーブで身体を覆い、肌を見せてはいけない。・女性に教育を受けさせてはいけない。女性を打擲するのが夫の務めだ。・ムハンマドが9歳の妻を娶っていたことは小児性愛の肯定だ。・ジハードで死ぬと楽園の72人の乙女という報酬を約束されている。コーランには、実はそんなことは一言も書かれていない!子ども時代をイスラム圏で暮らし、今はジャーナリストとして「ニューズウィーク」や「タイム」などに多くの記事を寄稿しているカーラ・パワー。彼女はある日、17年間のキャリアの中で、編集者から一度も「コーランについて書いてほしい」と言われたことがなかったと気がつく。メディアが求めるのは、いつも「イスラム教から生まれた政治」であり、イスラム教そのものではない――。そう感じた彼女は、かつてオックスフォード大学イスラム研究センターで同僚だったイスラム学者のアクラムとともに、1年間にわたってイスラム教の原点、コーランを読み解くことを決意する。女性の権利、ジハード、小児性愛、夫の暴力、イエス・キリスト、そして死後の世界……。コーランの真髄に触れる旅の中で、知られざるイスラム教本来の姿が明らかになる。【目次】■序 章 楽園に72人の乙女はいない死ねば、楽園の72人の乙女たちが待っている。自爆テロ犯はそう信じる。しかし、友人のアクラムとともにコーランを学び始めると、そのようなことは一言も書いていないことがわかる。1年に及ぶその旅路を記そう。第一部 起源を探る■第1章 「不穏」な三行イスラム教徒が毎日17回唱える「開端章」。その最後の3行を、宗教間の敵意を煽るものだと解釈する人がいる。だが、それはその後の章句を無視した、間違った読み方である。イスラム教は協調をこそ重視しているのだ。■第2章 狂信者はどこにいるのか?私がコーランを読むことにしたきっかけに、タリバン政権の高官を取材したときの経験がある。彼らは西洋人と何ら変わらない、〝普通の〟人たちだった。イスラム教徒と西洋人は、決して対峙しあう存在ではないのだ。■第3章 ムハンマドの虚像と実像「歩くコーラン」と呼ばれたムハンマドの言動は、事細かに記録され、広く参照されている。それを読めば、彼がどのように性行為をしたかまでわかるのだ。彼は決して、人々に何かを強制的に信じさせることはなかった。■第4章 マドラサでコーランを学ぶイスラム学を教える学校、マドラサは9・11以降、過激主義者の温床とみなされてきた。私はその現状を知るため、アクラムが建てたマドラサを訪ねた。彼は、誤った伝統を変えるためには、教育が必要だと考えていた。■第5章 ユースフの物語旧約聖書のヨセフに当たるユースフ。コーランにおける彼の物語はあまりにも生々しく、女性がその章を読むことを禁じたイスラム学者さえいるほどだ。だがアクラムは、コーランを読むのに性別の制限はないと喝破する。第二部 女性の闘い■第6章 男と女は違うのか?「預言者ムハンマドは、女性と男性の扱いを変えるような人が好きではない」。ムハンマドは息子を膝のうえに座らせ、娘を地面に座らせた男を厳しく叱責したという。アクラムも自身の六人の娘に熱心に教育を受けさせる。■第7章 歴史に埋もれた9000人の女性たちイスラム教の形成期には、膨大な数の女性学者たちが活躍していた。イスラム教は言わば、女性によって作り上げられた宗教だったのだ。だが、その事実は多くの男たちによって、歴史の片隅に意図的に隠されてきた。■第8章 ムハンマドが最も愛した少女ムハンマドの妻の中でも、わずか9歳でムハンマドと結婚したアーイシャの存在は、イスラム教を誹謗する人たちから小児性愛と攻撃される。が、アクラムはアーイシャが成人したのちに軍をも指揮したことを指摘する。■第9章 イスラム教と性イスラム教においてセックスは祝福であり、前戯の必要性まで説かれている。一方で、同性愛は認められていない。それは一見、時代錯誤にも思えるが、保守的なキリスト教徒もまた、未だ同性愛は認めていないのだ。■第10章 「女性章」を読む「女性章」は、女性に対して暴力を振るうことを認めているとイスラム教を攻撃する人は言う。たしかにこの章は女性を抑圧することに利用されたが、女性の相続を初めて認めるなど、コーランは本来、開明的なのだ。第三部 政治と信仰■第11章 コーランのイエス・キリストイエスは預言者の1人としてコーランに登場する。イスラム教徒もまた、イエスのメッセージに耳を傾けているのだ。だが、彼らにとってイエスは神の子ではなく、十字架にも掛けられていないと考えられている。■第12章 異文化といかに向き合うべきか?そもそもイスラム教は、ユダヤ教やキリスト教との共生を前提にした宗教だった。ムハンマドも異教徒への中傷を厳しく禁じ、彼らとの関係構築に苦心した。最初のイスラム国家でも、宗教間の不可侵は保証されていた。■第13章 イスラム教と正義圧政に対し、イスラム教徒はいかに行動するべきか。クーデターを起こした軍に、兄を拘束された女性。イスラム教徒は正義のためであっても戦ってはならない、と語るアクラムの言葉を、彼女は受け入れられるのか。■第14章 ビン・ラディンも引用した「剣の章句」「多神教徒たちを見出し次第殺せ」と語る一節は、対外戦争を支持するイスラム教徒に利用されてきた。しかし、この章句にはとても重要な続きがある。また、アクラムはジハードを行なうには、2つの条件があると語る。■第15章 死と来世コーランは、不信心者は地獄に堕ちると語る。では、イスラム教徒ではない私は、死後どうなってしまうのか。1年間に及ぶ授業、その最後のテーマは「死」だった。1週間後、私は「母が亡くなった」と知らせを受けた。■終 章 多様性を受け入れるアクラムの視点から世界を眺めたことで、私は自分という人間の輪郭を知ることができた。コーランの根本には、「差異を理解する」という価値観がある。イスラム教徒たちは、そこに繰り返し繰り返し還っていくのだ。

感想・レビュー・書評

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  • この題名には少々裏切りを感じる。フェミニストのユダヤ系アメリカ人女性が、コーランの解釈を研究するインド人、オックッスフォード在住のイスラム原理学者から講義を受け、密着取材をしたもの。非常に個人的な内容で、いわゆる少数派の解釈だ。家庭において男は女を管理し、究極的には打って従わせるとの内容や、多神教徒たちを見出し次第殺す、などとの物騒な記述は確かにあるようだ。これらの文面の解釈や、その後構築されたイスラム法により進化した現代のイスラム教をどう受け止めるかで、大きな幅があるということのようです。

  • ムスリムの思考とその根源であろうコーランの内容を知りたいと思い、購入。

    米国人でジャーナリストでフェミニストで多元主義者である女性(著者)と、保守的でコーラン原理主義的なイスラム教の学者であるアクラム師との対話(ソクラテス・メソッド的なコーランの講読)の記録。
    巻末に簡単な用語集があり,役に立つ。

    アクラム師は,コーランと預言者ムハンマドの言行(ハディース)に忠実であるという意味で,極めて保守的で原理主義的。
    しかし,その原理主義の内容は,コーランやハディースの解釈に際しては,常に,前後の文脈,イスラム教の歴史(とイスラムの教えと単なる地域的な慣習との峻別)を十分に考慮するというもの。
    よって,いわゆる「原理主義者」とは全く異なる結論を採ることがほとんど。

    著者は、フェミニズムとコスモポリタニズムの立場からイスラム教を捉えようと努力し、その多くは成功して、その一部は恣意的な美化であったと自覚して失敗する。

    成功の例は、現代のムスリム(の男性)が主張し実践する女性の自由の抑圧は、実はイスラム教の教義が根拠ではなく、各地の文化・慣習が根拠であるに過ぎないことの多くを確認したこと。
    ニカーブの着用義務(強制)や、女性の礼拝を拒絶するモスクの態度がその一例。

    失敗の例は、当初、少女との婚姻を認める文化を根本的かつ全面的に否定することができなかったこと(しかし、その後、アクラム師が見解を改めるに至る。)や、同性愛を全面的に否定されたこと,そして,イスラム教徒でなければ救われないと言明されたこと。

    アクラム師の態度・教説,神に対して「のみ」服従するというムスリムの基本に基づいている。
    それ故,アクラム師は,旧約聖書に(そしてコーランにも)登場するイブラーヒーム(アブラハム)の神に対する真摯な態度を賞賛する。

    また,アクラム師は,イスラムの教えが悪なのではなく,それを悪用する人間が悪なのだと繰り返し説く。
    ムスリムは神を畏れ,他人への思いやりと正義を重んじなければならない。
    そうした態度が保たれていれば,女性を保護するイスラムのシステムが,女性の自由を剥奪することはないと考える。
    例えば,家庭における財産管理者を男性に限定するイスラムの考えは,それ自体が問題なのではなく,その男性が権限を濫用することが問題なのだ,女性ではなく男性を管理者に指定したことは神の深慮であって理由は不明である,と説明する。

    上述した二カーブ(すなわち,女性)やアブラハムに関する(すなわち,ユダヤ教及びキリスト教に関する)イスラム教的な見方のほか,コーランの立場から見たナザレのイエス(イエス・キリスト),ジハードとそれを行うための条件,多様性に対する考え方など,現在,イスラム教に関して問題とされている事柄を網羅した内容になっている。

    著者は、アクラム師との対話によって自身の思想の多様性・多元性が拡充されたことを喜び、また、イスラム教(ことにコーラン)には多様性を許容する包容力があることを確認できたことを喜ぶ。

    「人々よ、われらはおまえたちを男性と女性から創り、おまえたちを種族や部族となした。おまえたちが互いに知り合うためである。」(コーラン第49章13節)

    最後に、宗教と哲学について。
    アクラム師は,西洋化・近代化の名の下に宗教から宗教的な部分を抜き去って思想・哲学にしてしまう傾向にたいして強い拒絶を示す。
    同様に,宗教が慣習に堕し,精神性を欠く至ったことも強く批判している。
    このことは、「仏教哲学」という言葉が氾濫している仏教において,より大きな問題とされるべきだと思う。

  • 途中まで。
    みんな指摘していることだがタイトル詐欺。「コーランには本当は何が書かれていたか? について」ではなく、「コーランには本当は何が書かれていたか…を私にレクチュアしてくれた善きムスリムについて」の本である。

    で。
    その人自身は善きムスリム・善き男性なのかもしれない。が、英国で一流大学の有名教授として人生を謳歌するその人の姉妹はというと、(比較的)理解のある親や兄弟に恵まれてスタートこそ男子と同様イスラム学校へ通ったものの、相変わらず故郷のインドの田舎…はおろか、そこに建つ生家からすらろくに出られず、目出しのかぶりものを通して、建物に四角く切り取られた中庭の空しか見えない人生を送っていたりする。
    それでいいのか、と問う著者のアメリカ人女性ジャーナリストに対し、お偉い学者様が答えていわく「村から変えることはできない。それはとても難しい。まずは女子によい教育を授け、よい女性教師を育て、彼女になら娘を預けてもよいと親たちに言わしめ…そうしていつか、古き因習は打破されていくだろう」。
    たいへん結構なご高説であるが、ではすでに生まれてしまった女性たちはどうしろと? 「貴女たちには間に合いませんでした、サーセンwww」てなことで、諾々と閉じ込められ、レイプされて死ねと言うのか。

    畢竟これは、形を変えた「Not all men」にすぎない。
    これも大勢の女性たちが何度も何度も言ってきたことだが、「一緒にするな」「心外だ」をなぜ女性に向かって言うのか。
    まずはけしからぬ同胞男性を全力でぶっ叩いてぶっつぶし、しかるがのちに「彼奴らは私どもにて自浄いたしました。どうか、男なるもの全員を不浄と見なすことなきようお願いいたします」だろう。
    男の評判が下がるのは誰のせいなのか? 現にけしからぬ振る舞いをしでかす「一部男性」か、それとも、彼らから日々・現実に被害を受け続けている女性たちなのか。
    そこのところを考えろ、と言いたい。

    「イスラムは悪い教えなんかじゃないんですよー。女性に対するあーんな扱いやこーんな扱いは、ボクらのせいじゃないんですよー。あいつらが無知なだけなんですよー。ま、かといってたしなめも、女性たちを助けもしませんけどねwww けどアンタらは、ボクらを悪く言っちゃメッ☆」
    ふざけんな、だ。
    「悪い」のがイスラムだろうと因習だろうと、虐げられている女性たちには関係ない。まして、それをする男どもの行動原理が、イスラムにあろうと因習にあろうと。
    私たちは宗教にあらず、それを行う者どもを憎む。そこへ「イスラム無罪」と言われようと、「それがどうした」以外に応えようがないのである。
    御託はいいから、私たちを踏みにじるその足をどけろ、だ。

    2019/4/1~中断

  • [大海の中へ]いわゆる世俗的な家庭に生まれ、中東や南アジアの諸都市で育った著者のカーラは、イスラーム古典の卓越した研究者であり、ムスリムでもあるアクラムと出逢う。欧米で吹き荒れるイスラーム批難の声に違和感を覚えた彼女は、イスラームを理解するために、アクラムと1年間にわたって『コーラン』を読み進めるというプロジェクトに乗り出すのだが......。著者は、『ニューズウィーク』紙などに寄稿しているジャーナリストのカーラ・パワー。訳者は、東京大学で宗教を学んだ経験を持つ秋山淑子。原題は、『If the Oceans Were Ink: An Unlikely Friendship and a Journey to the Heart of the Quran』。


    まず本書を読むにあたっては、これは『コーラン』の解説本ではないという点に留意が必要かと。むしろ、著者が「私は一種の文化的な地図の作成者となることを願った」と記しているとおり、二人の(既に強固な思想や価値観を形作っている)人間の思想的なつばぜり合いといった趣きが強い作品かと思います。あまり類書に出会ったこともないためでしょうか、非常にスリリングな読書体験をすることができました。


    ただこの試みを絶望的なまでに「損なっている」のが、イスラーム理解のために禁じ手とカーラ氏が主張する姿勢やものの考え方を、そのまま彼女自身が踏襲してしまっているところ。しかしその「損ない」故に本書が価値のないものになるかと問われればそうではなく、反対にその「損ない」にこそ本書を読む価値が潜んでいる気がします。結果として本書終盤からの下記の抜粋のとおり、このプロジェクトが「カーラ氏のカーラ氏による、(アクラム氏の助けを借りた)カーラ氏のための」ものとなったことに(良い意味でも悪い意味でも)限界があると強く印象付けられました。

    〜アクラムの宗教を勉強することで、私は私自身の宗教を実践することができた。〜

    読書会やゼミの議論に非常に向いた作品だと思います☆5つ

  • 200Pまで読んだ。コーランを体系的に解説するものではない。
    アクラムさんという人が言った内容を紹介するもの。

  • フェミニズムに傾倒し宗教にはほとんど縁のない行動派のアメリカ人女性と、イスラム教の厳格な聖典解釈者が、意外にも意気投合しながら一緒にコーランを読むという本。「女性はベールやヒジャブで体を覆い、肌を見せてはいけない」・「女性に教育を受けさせてはいけない」・「ジハードで死ぬと楽園に72人の乙女という報酬を約束されている」などの通説は実はコーランには一言も書かれていないのだそうです。
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  • インド出身の過激な静寂主義者「アクラム」を通じた、著者によるイスラム教の解釈について記されている。
    著者は、アメリカ人でユダヤ教の家に生まれたが、熱心な信者ではなくどちらかというと無宗教という宗教観の女性。

    コーランに書かれていることには大変興味があるので、本書を読めばそれが分かるようになる、と思ったら間違いでした。
    結局、昔のアラビア語で書かれたコーランは、それをどう解釈するかにより、攻撃的にも融和的にもなりうるのだ、ということを理解出来た。

    また、この世に救いを求めないような宗教観は、まるで仏教も同じではないかと意外な共通点があるものだ、と不思議な感じである。

  • 1年間にわたってイスラム学者からコーランについて解説してもらいながら、ジャーナリストである著者がコーランを読んでいく。その講義を通じて、「イスラム的」とされるものの多くは地域や部族の習慣に過ぎず、コーランに書かれていないことを知る。

    著者にコーランを講義するイスラム学者のアクラムは、非常に敬虔な信仰を持っている。行動だけでなく人格的にもムハンマドに倣おうと考えたアクラムは、非常に穏やかな人柄の人物でもある。「ムハンマドが教友たちに『静かに穏やかに振る舞う』よう助言した」からだ(92ページ)。

    9.11やISのおかげでイスラムにはかなり悪いイメージが付いているが、色々な本やネットの記事を読むと、「あれはイスラムではない」という主張を多く目にする。本書を読むと、やはりあれはイスラムではないなあと(部外者ながら)感じるのだが、それだけではなく、女性を虐げる伝統などイスラムには無かったことが分かる。

    宗教があまり身近ではない日本人には、イスラムについて、どうしてもニュース番組などを通じた過激で偏ったイメージを抱きがちだと思う。ひょっとしたらこの本は逆の方向に偏っているかもしれないが、ぜひ読んでみて欲しい本の一冊。

    ちなみに、本書のタイトルから、コーランの章句を順番に取り上げて、その章句が書かれた文脈や内容を解説するような本かと思えるのだが、そうではないので注意が必要である。その類いの本としては井筒俊彦の『『コーラン』を読む』が良い(岩波現代文庫に収まっている)。

  • おもしろいけど少々長い。エッセンスだけ知りたい人は章目次の一文を読むだけでもよいかもしれない。

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