リップヴァンウィンクルの花嫁

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903774

作品紹介・あらすじ

「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ」 声の小さな皆川七海は、派遣教員の仕事を早々にクビになり、SNSで手に入れた結婚も、浮気の濡れ衣を着せられた。行き場をなくした七海は、月に100万円稼げるというメイドのバイトを引き受ける。 あるじのいない大きな屋敷で待っていたのは、破天荒で自由なもうひとりのメイド、里中真白。 ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出すが……。 岩井俊二が描く現代の噓(ゆめ)と希望と愛の物語。岩井俊二監督作品 映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」2016年3月26日公開 出演 黒木華/綾野剛/Cocco他著者プロフィール・岩井俊二1963年生まれ、宮城県出身。『Love Letter』(95)で劇場用長編監督デビュー。映画監督・小説家・作曲家など活動は多彩。代表作は映画『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』小説『ウォーレスの人魚』『番犬は庭を守る』等。『NewYork, I Love You』『ヴァンパイア』で活動を海外にも広げる。ヘクとパスカルというユニットで音楽活動もする。復興支援ソング『花は咲く』は作詞を手がける。『花とアリス殺人事件』では初のアニメ作品に挑戦、国内外で高い評価を得る。

感想・レビュー・書評

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  • 世間知らずなのに自分をよく見せようとする七海は、SNSで出会った男性とあれよあれよという間に結婚に向かっていく。
    授業をこなせず、派遣教員の職を失ったことも言えない。両親が離婚していることも言えない。結婚式に呼べる親戚や同僚がいないことも言えない。彼に嫌われたくないから七海はすべてをでっちあげることにした。

    両親には離婚していないように演技させ、派遣教員を辞めたことは言えたが結婚式に呼ぶ仕事仲間がいないのはおかしいので、一緒に働いていた同僚役や親戚役として演者を雇った。嘘で塗り固めた結婚式は無事に終わり、七海と彼は結婚生活を始める。

    しっくりこない日々のなか、彼が浮気していると言ってくる男が現れて七海は混乱してしまう。
    それらはすべて罠で、逆に七海が男と一緒にいる現場を写真に撮られてしまい、彼から離婚を告げられる。

    家も仕事もお金もほとんどない七海はどうにかホテル清掃の仕事に辿り着いた。
    清掃が休みの日、今度は七海が結婚式の偽親戚役を演じるアルバイトをした。そこで出会った真白という女性と親しくなるが、彼女はあっさりいなくなってしまう。

    メイドをするよう強引に誘われた七海は、箱根の元レストランで真白と再会した。
    二人の生活は楽しかったが、真白がAV女優で自分に高額な給料を払っているのも彼女だと知った七海は、仕事ではなく、”贅沢しなくていいから二人で暮らそう”と伝える。
    癌に侵されていた真白は七海を残して死んでいく。遺骨を真白の母親に届けた七海は、ホテル清掃の暮らしに戻っていく。

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    たくさんの嘘の話だった。
    七海の結婚式は嫌われないための嘘だったし、安室が七海の混乱させて浮気現場に見える証拠を作ったのも嘘だった。ホテル清掃員のなかにもくだらない嘘で人を貶めようとする人がいたし、安室が七海をホテルから連れ出すときも大袈裟な嘘で周囲を納得させた。
    七海と仲良くなりたかった真白さんも嘘をついたし、癌のことは最期まで言わなかった。

    どれがいい嘘で、どれがよくない嘘なのかはうまく分別できない。安室が善人なのか悪人なのかも、判断が難しい(お金が手に入るなら躊躇なく悪人になれる人、という感じかな)。
    ”どういうふうに生きるか”と”どんな嘘をついていくか”は似ている。そんなふうに思った。

    真白さんは安室のよくない部分にも気づきつつ、それさえも利用していたんじゃないかな。嘘つきを利用する、嘘つき。
    いくつもの嘘を残したまま、嘘みたいに死んでいく真白さんがかっこよかった。全部嘘でもかっこよければいいような気がしてしまうな。

  • 主人公の七海は、なんて迂闊な女の子なのと思う。主婦だけれども、やっぱり女の子。だって少女すぎる。
    帯の「この世界はさ 本当は 幸せだらけ なんだよ」という言葉。それを素直に受け止めて感動できる。それが七海だから。

  • 映画と併せて満点評価。

    個人の事情は誰のものでもない、自分だけのものなんだな。

  • 最初の方は読むのが辛かった。
    こんな事って…。

    でも、真白や安室とのつながりから奇想天外な出来事が続いて。
    安室は最後まで謎だったなぁ。

    SNSやネットでつながる時代。
    現実の世界でのつながりの大切さを再確認した。

    バーチャルではなく現実。

    奇想天外。

  • 映画観るために先に読んだ。読みやすくて一気に読めた。
    人と人との上辺の付き合いの表現と、たまに見える本心の表現が混ざりあって、怖くもあり、あたたかくもある。
    あと一歩踏み込めば相手との壁を越えられるのにそれをせずモヤモヤした世界にとどまるというのはよくある話だと思う。本心や琴線は自分にもわからない。どこに何かの拍子があるかわからない。そんな中でどうやって相手に触れて自分を見せ、相手と繋がっていくのかを考えさせられる作品だった。

  • 映画観る前にどうしても読みたくて。ハードカバーの本を発売日に買うなんていつ以来だろう。

    何につけても消極的で、まじめに生きている皆川七海という女の子が主役の物語。
    仕事も、SNSで手に入れた結婚も、何もかも上手くいかずに壊れてしまい、その後激流に流されるように事態が変わっていく。
    それは七海が元々消極的なせいもあったけれど、結果的に彼女の素直さが彼女自身をとても救っているように思えた。

    流れるようにどんどん進んでいく物語。最近同じ岩井さんの「ウォーレスの人魚」を読んだばかりだけど、全く違うテイストで、現代に生きる若い人たちならたくさん共感できると思う。

    人って経験が浅い頃は大きな幸せを求めがちだけど、悲しかったり辛い経験を積み重ねていくと、特筆することのない日々が本当は一番の幸せなのだと気づくようになっていく。
    身近に転がっているたくさんの幸せに気づけるような人になれたら、人生は大きく変わると思う。

    個人的には、真白の役が映画ではCoccoなのかな?と想像したら、それだけで泣けてくる。壮絶で真摯で美しい真白。今から映画が楽しみ。

  • 最初からずっと嘘ばかりに振り回される
    それもこれもどれもが嘘ばかりで、どれが本当のことなのかと
    SNSなんて、嘘ばっかりですよね
    SNSにこんなに振り回されてるのになんでこんなこと信じるんだろうと不思議でした

    私ならできないかな

    でも嘘ばかりのこの世界が、時に本当になったりするからそれも不思議

    嘘も悪くなかったり?

  • 声の小さな皆川七海は、派遣教員の仕事を早々にクビになり、SNSで手に入れた結婚も、浮気の濡れ衣を着せられた。
    行き場をなくした七海は、月に100万円稼げるというメイドのバイトを引き受ける。
    あるじのいない大きな屋敷で待っていたのは、破天荒で自由なもうひとりのメイド、里中真白。
    ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出すが……。
    (アマゾンより引用)

  • 意外と良かった

  • 岩井俊二監督は小説も書くんだぁと、視覚から入ってこない文字の世界はどんな文章を紡ぐのだろうと読み始めた。奇想天外というキーワードを胸に抱え表題の意味がわからないままに読み進めていくとラスト近くになってびっくりするような答が待っていた。物語は決して共感できるものでもないし、登場人物もみんな不可思議で胡散臭い気がするのに貪るように読み通してしまった。
    生きることのもどかしさや空しさのなかにもひかりがあって漠然としながらも少しずつたくましく生きていこうとする、言葉にしてしまうと味気なくなってしまうがゆったりとした流れのなかでとても素敵なストーリーだった。
    映画化では黒木華さん主演であのCoccoさんまでもが女優として出ていた作品だったとは。岩井俊二さんの他の小説も気になってきた。

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著者プロフィール

映像作家。1963年1月24日仙台市生まれ。横浜国立大学卒業。主な作品に映画『Love Letter』『スワロウテイル』『四月物語』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』『ヴァンパイア』『花とアリス殺人事件』『リップヴァンウィンクルの花嫁』など。ドキュメンタリーに『市川崑物語』『少年たちは花火を横から見たかった』など。「花は咲く」の作詞も手がける。

「2017年 『少年たちは花火を横から見たかった 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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