- Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163912424
作品紹介・あらすじ
まさに鬼才。過激に、独創的に、第一線を走り続けてきた現代美術家、会田誠。その活躍は、いまホットな美術界だけにとどまりません。「とにかく信じられないくらい文章がうまい。ほれぼれしちゃう」と、吉本ばななに言わしめたエッセイ。高橋源一郎、斎藤美奈子らが激賞した処女小説『青春と変態』。そんな会田誠が、最初の構想より30年以上、執筆に4年の歳月を費やした長編小説です。1986年11月。新潟・佐渡の田舎から上京してきた美術予備校生の主人公は、多摩美術大学の学園祭(通称「げいさい」)に出かけ、そこで濃密な一夜を体験します。昭和終盤、主人公らが目指す東京芸大入試はまさに最難関かつ過激、でした。当時を、当事者である筆者が小説の形式で描いた本作は、そのまま現代日本美術界への真摯な問いををはらんでいる、とも思われます。この4年間、フォロー数約10万のツイッターでも、たびたび本作については言及されてきました。そんなファンだけでなく、各界の著名人も待ちわびた待望、渾身の一作です。
感想・レビュー・書評
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まさに青春、という話だった。
てっきり平成令和ごろの美大生のお話かと思いきや、舞台は昭和末期で、主人公は二浪の美大受験生。予備校時代の友人から誘われて多摩美の芸祭にやってきた、そこで繰り広げられるちょっと引くくらい熱く激しくトンチキで、明るくもどこか影を落としてもいる苦酸っぱい青春劇。
細かい描写と時代設定に、ノンフィクションか?と思いそうにもなるし、後から振り返ると何か大がかりな、それでいてチープな芝居でも見ていたのか?と思いそうにもなる、燃焼しきったような、まだくすぶっているような読後感。
今でも美大受験、特に東京藝大はかなりハードだと経験者の体験談を聞いて知ってはいたが、昔も変わらなかったのね…
主人公が二浪するきっかけとなった、藝大二次試験で描いた渾身の一枚を、とても見てみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
身内やまわりに芸術系の大学だった人が多く、その受験たるものや、「自由に」との葛藤などのリアルな部分が気になって図書館より拝借。会田氏の芸術作品から考えるとちょっと意外というか、人物や背景が非常に素直に描かれていたような気がします。自分も教育関連職に携わっているだけに、評価とは何かを考え問い直すことは、芸術系大学入試だけにかかわらず、常に意識すべき課題だと思います。
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あー青春。若いね。
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現代美術家・会田誠による小説。
本業では、過激と見られる作品も多く、何かと物議を醸してもいる。かなり尖った印象である。
個人的には美術家としての著者を本当に理解できるのか心許ないのだが、何となく気にはなっていた。小説なら若干取っつきやすいかと読んでみた。
語り手は「本間二朗」。今ではそれなりに名が通った美術家である。
その彼が、青春時代のある一夜の思い出を軸に、美術家としてのスタート地点を振り返る体裁。
舞台は1986年11月2日から3日にかけて。
その頃、二朗は東京藝大を目指す二浪目の浪人生で、その夜は多摩美術大の芸術祭の夜だった。
多摩美大には友人や喧嘩別れしたままの恋人が進学しており、彼らのパフォーマンスや作品を見に来た。
パフォーマンスを見て、その後、お決まりの飲み会になる。一浪時代の友人や美大の講師・教授陣、謎の大男を交えての論戦や乱痴気騒ぎ、合間には二朗の回想も交え、異様な盛り上がりを見せる一夜の果てに彼が見るものは。
ひとことで言ってしまえば、「あの頃」の香りがする青春群像劇である。
主人公の設定は若干、著者を思わせる部分もあるが、もちろん架空の人物というか、自身や友人を継ぎ接ぎしたような存在である。
熱量があり、進路に迷い、恋愛に悩み、時代の空気に翻弄されながら、突っ走る青春。そういう意味では、これは普遍的な物語でもあって、美術に特に関心がある読者でも受け入れやすい作品だろう。
一方で、これはやはりただの青春小説というだけには終わらない。
背景には、受験美術に対する苛立ちや憤りというのがおそらくあって、その大元を辿ると日本の美術教育の成り立ちに行きつくということなのだろう。
「美術系受験生あるある」と思われるネタ話もおもしろいが、1つの山になっているのは、回想シーンでの、東京藝大の伝説の出題「自由に絵を描きなさい」である。
「自由に」「絵を」「描く」とはどういうことなのか。
おそらく考えすぎてしまった二朗は定石から大きく踏み外す。
一方で、二朗とは一種のライバル関係にあった小早川はスマートに切り抜ける。
この小早川が後で二朗に掛ける言葉がよい。かっこいいな、小早川君。
・・・とはいえ、このスマートすぎる人物が美術家として成功するかといえばそうではないところが美術界のおもしろさ、難しさなのであるのかもしれない。
これを読んだからといって、著者の美術作品の理解につながるかといえば相変わらず心許ないのだが、なかなかおもしろく読んだ。 -
「天才でごめんなさい」と言われても、「本当に天才だから、仕方ないよなあ、そうだよなあ」と思ってしまう現代芸術家、会田誠が数年の構想と執筆期間を経て完成させた長編小説。若き自身を主人公とした青春小説の体を取りながら、本作の素晴らしさは日本の芸術大学に潜む受験システムへの批評として成立している点にある。
主人公は、新潟の佐渡から状況して東京芸大を受験するも失敗し、芸大予備校に通う若き会田誠。二浪に突入した彼が、おなじ予備校出身で多摩美大に進学した仲間たちに会いに訪れた1986年11月の学園祭の3日間を舞台に、バブル崩壊前夜の若き芸術家たちの姿が描かれる。芸術大学の学園祭といいうはちゃめちゃなやり取りと並んで、主人公が芸大予備校で過ごした日々が回想されていく。そのパラレルな語りを通じて、実はこの作品のメインテーマが「日本の芸大受験はお決まりのルールがあり、そのルールをひたすら予備校で修得することで、かえって作家としての大事な魂を削いでしまう」という受験システム、ひいては日本の美術界が明治以来に抱えてきた問題への告発にあるということを知る。
会田誠の文章は非常にクリアでかつリズムに富んでおり、極めて巧みである点にも驚かされた。会田誠に興味がなくても、日本の美術界に興味がある人であればぜひ読んでいただきたい傑作。 -
藝大入学を目指す受験浪人青年のある1日を描いた青春小説。たぶん青春小説だと思う。面白く読んだ。ただし、この小説は青春に焦点を当てているようで、違う感じもする。
藝大受験の葛藤を抱えて迷っている青年の周りには、受験に敗れた者、美術雑誌関係者、大学教員助手などが現れて、この業界の構造的な問題や矛盾、欺瞞を口にする。それは美術業界エッセイとして書けそうな内容だ。でもそれじゃ芸がないし、業界の外には届かない。偉そうな感じにもなるだろう。それを登場人物に語らせて、エンタメ青春小説として書くというのが小説のアイデアなのではないか。結果、知らないことも面白く読めたし、「ヨーゼフ・ボイス」とか「よかちん」で検索してしまった。
「よかちん」はともかくとして、著者も若い頃に藝大受験生として、主人公と似たような経験をしたり葛藤を抱えていて、それらをなんらかの形で定着させたかったのかもしれない。それでもエンディングはとても青春ぽかった。青春は爆発だ。まっとうな青春小説なんてものがあるのかどうか知らないが、やはりこれは青春小説だろう。 -
んー美術に興味がある人には面白いのかな…
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藝大浪人生と多摩美「げいさい」物語。
物語が油絵のように構築され塗り重ねられ、時に逸脱し、また書かれてゆくようで面白かった。
モラトリアムの中、
自由絵画と受験絵画。
概念芸術、社会とのジレンマ。
人生の助走前段階、
赤く青い時期の群像物語。 -
読まなくてもいいと思うよ
という言葉を信じて読まなければよかった… -
受験絵画のために急ごしらえの個性を身につけてしまい枯れていく学生。効率良く採点するための石膏像。これが黒田清輝の始めた日本教育の悪い影響かと、そりゃ藤田嗣治も逃げ出すよな。知識や理屈をあれこれ駆使して精神世界を掘り下げまくったり、正解の見つからない芸術には気がおかしくなるくらいのエネルギーを使う。80年代の美大のエネルギッシュな青春群像劇に、たった一夜の人生の密度に、泥臭さにこそ憧れてしまう。青春とお酒と議論に当てられて、感情の塊になって叫びたい。好きなことだけして、ダラーっと生きるのも憧れるけども。