台北プライベートアイ

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913674

作品紹介・あらすじ

台湾発、私立探偵小説の新たなる傑作が登場!
監視カメラの網の目をかいくぐり、殺人を続ける犯人の正体は?

劇作家で大学教授でもある呉誠(ウ―チェン)は若い頃からパニック障害と鬱病に悩まされてきた。ある日、日頃の鬱憤が爆発して酒席で出席者全員を辛辣に罵倒してしまう。恥じ入った呉誠は芝居も教職もなげうって台北の裏路地・臥龍街に隠遁し、私立探偵の看板を掲げることに。
だが、にわか仕立ての素人探偵が台北中を震撼させる猟奇事件・六張犂(リュウチャンリ)連続殺人事件に巻き込まれ、警察から犯人と疑われる羽目に陥。呉誠は己の冤罪をはらすため、自分の力で真犯人を見つけ出すことを誓う。
監視カメラが路地の隅々まで設置された台北で次々と殺人を行い、あまつさえ呉誠の自宅にまで密かに侵入する謎のシリアルキラー〈六張犂の殺人鬼〉の正体は?

探偵VS犯人のスリリングなストーリー展開と、ハードボイルド小説から受け継いだシニカルなモノローグ、台湾らしい丁々発止の会話。台湾を代表する劇作家が満を持して放った初めての小説は台湾で話題を呼び、台北国際ブックフェア大賞を受賞したほか、フランス、イタリア、トルコ、韓国、タイ、中国語簡体字版が刊行された。

感想・レビュー・書評

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  • kuma0504は、2017年1月3日(火) 台湾旅行最終日の6日目の午前中、当てのない散歩に出かけた。台北駅前から東へ青島東路を歩く。日本統治時代の古そうな家屋を眺めながら、やがて中正区の斎東街を過ぎて昔も今も高級住宅地だったところを過ぎる。文化里の公民館には掲示板があり、「寒冬送暖(お茶会)」や「農民暦・月暦」の無料配布の案内チラシなどが貼られていた。金山南路と仁愛路の交差点を過ぎて、kuma0504は永康街に入った。庶民の台所たる賑やかなところを通り過ぎると、和平路にぶち当たり大安森林公園に入った。公園には時々リスがいるのだが、今日は出会わなかった。南の出口からお粥街に入り永和豆漿店で遅い朝食を食べて、地下鉄大安駅から台北駅に帰った。

    台北の地理に詳しい人が読んだのならば、kuma0504がどのように歩いたのか、手にとるようにわかるだろう。特にあらゆる道路は名前がついているので、どの道とどの道との交差点かを言えば、誰もがその場所を特定できる。台北は台湾という国の首都ではあるが、その中心部の中心地は、このように朝の散歩で一回りできるほどの広さなのである。本書には目次の後に台北市地図がある。それを見ると、終了地点とした大安駅から、もし30分ほど更に東へ足を延ばしたならば、kuma0504は本書の主人公呉誠の散歩コース、臥龍街周辺にたどり着いただろう。そうしたら、それまでは碁盤の目のように道路が交差していたのに、突然迷路のような昔ながらの町の中に入ったに違いない。本書は臥龍街を舞台にして、突然迷路のようなサスペンスが始まる探偵小説である。

    呉誠(ウー・チェン)は、プライベートアイ(私立探偵)ではあるが、一方では台北という新しくて古い街を縦横に歩き回るプライベートアイズ(秘密の目)を持った男であり、その目を通して魅力的な街を散歩した気分になる本でもある。元刑事とか、華々しい迷宮事件を解決したとかの過去があるわけではなく、まぁ離婚したて大学教師辞職したてで、精神病疾患を治すために趣味で探偵業看板を掲げたばっかしの「素人」ではある。でも素人は侮れない、というのも古今東西の真理ではあるだろう。これも立派なハードボイルド探偵小説に入れてもいいんじゃないか。

    台北は、DNA捜査を当たり前にやっているし、日本ばりに監視カメラ社会になっている一方で、文明によって飼い慣らされることを拒否する都市だ。紙銭に火をつけ飛び越えて猪脚麺線(豚足入り煮込み素麺)を食べれば厄落としが出来ると皆んな信じていて、呉誠がある事件に巻き込まれて容疑者になって、なんとか釈放された時には二つの家族が別々にそれを用意していた。事件は起きて解決するのだけど、kuma0504が楽しんだのは、台北プライベート日記だった。←おゝとうとう「事件」の内容は一言も紹介しなかった!

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      台湾文化センターが発行したパンフレット「台湾・文化」によると
      8~9月に全国20軒の書店で台湾関係のブックフェアを行う...
      kuma0504さん
      台湾文化センターが発行したパンフレット「台湾・文化」によると
      8~9月に全国20軒の書店で台湾関係のブックフェアを行うとか、、、

      台湾風景イラストで台湾文化をPR、 台湾のイラストレーター・Tonn Hsu 許彤による台湾文化センターのパンフレット-台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
      https://jp.taiwan.culture.tw/information_34_130233.html
      2021/07/01
    • kuma0504さん
      猫丸さん、
      情報がありがとうございました♪
      猫丸さん、
      情報がありがとうございました♪
      2021/07/01
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      もうひとつ、ご紹介しなきゃって思うのがあるのですが、Amazonでは扱っていないので紐付け先が見つかるまでオアズケ、、...
      kuma0504さん
      もうひとつ、ご紹介しなきゃって思うのがあるのですが、Amazonでは扱っていないので紐付け先が見つかるまでオアズケ、、、
      2021/07/01
  • 台湾産ハードボイルド。

    パニック障害を抱えながら大学で演劇を教えていた呉誠は鳴かず飛ばずの才能、自分を取り巻く世界のあれやこれやに嫌気が差し、一念発起して私立探偵になることに。
    初仕事である尾行、身辺調査を無事にこなし、軌道に乗るかというところ、住居の近隣で発生していた連続殺人事件の容疑者として連行されてしまう。

    出だしは良かった。
    斜に構えた主人公の語り。
    何か裏がありそうな表面的には単純な依頼。
    あぁ自分はやっぱりハードボイルド好きだなぁと、久々の世界観を噛み締めさせてもらった。

    だが、もう一息会話にウィットが足りない。
    また、どこからともなく湧いてきた真犯人とその意図は、まぁこの手の話で求めるものではないから脇に置いておくとしても、全体としてのお友達沢山できて、協力し合って、事件解決っていう”ザ・予定調和”な展開がちょっと。

    めったに出てこない台湾社会の情勢が盛り込まれており新鮮だったり、仏教の考え方が通底音に流れているところなんかも親近感が持てて○だったのに惜しい。

  • 原題は<Private Eyes>。私立探偵を表す「プライベートアイ」はふつう<Private Eye>と単数扱いだ。語り手は別の説を挙げているが、あまり説得力があるとは言えない。小説の終わりに、主人公である呉誠(ウー・チェン)の手助けをするタクシー運転手が、正式に相棒になり、私立探偵の仲間入りをしたことが書かれているので、複数形にした、と考えてもいいだろう。台湾の実質的な首都といえる、台北という魅力的な都市を舞台にした、一風変わったハードボイルド小説、と一口には言えるだろう。

    なぜ語尾を濁すのかといえば、ことはそれほど簡単じゃないからだ。もし、純然たるミステリファンの読者がこの本を読んだら、腹は立てないにしても、何がハードボイルドだ、と呆れるだろう。なにしろ、この呉誠、私立探偵の看板こそ掲げているが、推理小説を読んだだけのズブの素人。もとは大学教授で劇作家。それが五十歳を前にして、突然大学教授の席を投げうち、劇団仲間とも一切関係を断って、修行のやり直しとうそぶき、臥龍街(ウォロンジェ)の洞窟めいた安アパートで隠棲を始めたのだ。

    しばらくは退職金その他で食べていけても、長くは無理。そこで人助けも兼ねて、私立探偵稼業を始めることに。興信所組合に行くと何かと面倒な手続きが必要らしく、組合にも入る気もないので、それはパス。看板と名刺だけを頼りに仕事を開始した。拳銃も持たず、自動車にもバイクにも乗れない、チャリンコ探偵の登場である。はじめのうち、これはハードボイルド小説のパロディかと思って読んでいったのだが、どうやらそうでもないらしい。ちゃんと謎解きもあり、羊頭狗肉の気味はあるもののミステリにはなっている。

    ある女性から夫の素行調査を引き受け、不可解な密会の謎を解き、探偵料も頂戴し、尾行の際に手足となって働くタクシー運転手の添来という仲間も得て、幸先の良い出発をしたはずが、青天の霹靂。マスコミが「六張犁(リョウチャンリ)の殺人鬼」と名づけた連続殺人事件に巻き込まれ、重要参考人として警察で事情聴取される羽目になる。しかも、ことはそれで収まらず、ついには容疑者扱いされ、逮捕されてしまう。著名な演劇人で元大学教授ということもあり、マスコミは大騒ぎ。母や妹にも心配をかけ、呉張は落ち込む。

    瞬く間に街のあちこちに監視カメラが据え付けられ、常時誰かの目が市民の行動を監視しているという、オーウェルの描いた未来社会がいつの間にか常態化していることに今更驚きもしないが、それは台湾も変わらない。警察が収集した監視カメラの映像に、呉張と二人の被害者が偶々一緒に映りこんでいたのだ。そんな偶然が重なるはずがないことは素人にも分かる。どうやら、犯人の狙いは、呉張その人にあるらしい。ところが、呉張が留置されている間に新たな殺人が起こる。犯人がおちょくっているのは警察か、それとも呉張本人なのか?

    羊頭狗肉と言うには訳がある。帯に「台湾生まれのハードボイルド探偵日本初上陸!」と派手派手しく謳っておきながら、主人公にハードボイルド探偵の気迫が感じられない。ハードボイルド探偵といえば、腕と度胸を頼りに、他人を頼らず、権威におもねらず、悪と対峙する孤高のヒーローというイメージがある。ところが、呉張ときたら、妻に見捨てられたせいで酒浸りになって、芝居の打ち上げの夜に泥酔し、海鮮料理店亀山島にいた、ほぼ全員を罵倒したあげく、一切合切を放り出して、臥龍街に逃げ込んだ情けない男。

    おまけに、これは本人の責任ではないが、鬱病やパニック障害のせいで夜は満足に眠ることができず、精神安定剤が欠かせない。それだけでなく高所恐怖症や対称強迫神経症にも悩まされている、病気のデパートみたいな存在だ。しかも、あろうことか事件の捜査に警察の協力を仰ぐとあっては、ハードボイルド探偵の名折れ。いつの間にか警察小説みたいになってしまっている。しかも、犯罪自体はサイコパスによる見立て殺人で、犯人は早くに見当がつき、小説は見立ての意味を探る、ホワイダニットの謎解きミステリとなっている。

    実は、呉張のモデルは作家自身。戯曲がが上手く書けなくて、このままでは駄目だと思いながら、街歩きをしているうちに、推理小説の構想が浮かんできた、と訳者あとがきで紹介されている。「書き終わってみたら(略)実は推理小説の形で、日記を書いていたんだ」とも書かれている。俗にいう「中年の危機」もあったのだろう。ある程度、やるべきことをやり、それなりのところに来ると、自分を高い位置に置き、周囲の至らなさが目に付きはじめ、苛立ちを覚える。それでも何とか抑えつけるが、そのうちそれが手に負えなくなって、いつか爆発する。

    呉張の場合、それが「亀山島事件」だった。それを契機として、自分の人生や台湾人の性向、物の考え方などにもう一度目を向け、再考を始める。その経緯が、この一作に思う存分詰め込まれている。普通ハードボイルド小説は一人称のモノローグだから、作家が自分の思いを吐露するにはうってつけの設定だ。ところが、先にも述べたように、呉張のモデルは大学教授の劇作家だから、所謂インテリ。日本人と台湾人を比較したり、サイコパスとソシオパスのちがいをあげつらったり、およそハードボイルド探偵らしからぬことを喋り散らす。

    この小説の妙味はそこにある。実のところ、正味は全然ミステリなどではないのだ。行列の出きる社会には連続殺人事件が多い。秩序があるからこそ、それを乱す殺人が行われる、などといった比較社会学めいた物言いが随所に展開され、それがいちいちツボにはまって面白い。また、台湾ならではの伝統的な風習や、家族関係はじめ濃厚な人間関係がぎゅう詰めで、台湾好きでなくても一度は現地に行ってみたくなる。それもあって、欧米を舞台にしたミステリや、それを手本にした日本のミステリ、とは一口も二口もちがう、アジアン・テイスト満載の推理小説になっている。

    呉張の棲む「臥龍街」だが、中国に「伏龍鳳雛(ふくりょうほうすう)」という熟語がある。「臥龍(伏龍)」は、池の中に伏して、昇天の機会をねらう龍のこと。そこから、世に知られずにいる大人物を指す言葉だ。ならば、呉張を助ける警官の陳や助手の添来たちは鳳雛(鳳凰の雛)、つまり将来が期待される若者ではないか。原題の<Private Eyes>にはその辺の意図があるのかもしれない。小説の末尾、呉張に新たな事件以来の電話がかかってくる。シリーズ物にする気あり、と見たがどうだろう。

    • kuma0504さん
      こんにちはabraxasさん、
      とても興味深い「探偵小説」で、機会有れば是非読みたいと思うのですが、ひとつ確認したいのは、
      おそらく海鮮料理...
      こんにちはabraxasさん、
      とても興味深い「探偵小説」で、機会有れば是非読みたいと思うのですが、ひとつ確認したいのは、
      おそらく海鮮料理店で「亀山島」というのは至る所にあるのだとは思うのですが、私、台湾好きの友達に誘われて龍山寺隣の屋台の海鮮料理店「亀山島」でしこたま食べて飲んだ経験があるのですが、場所は龍山寺近くになるのでしょうか?
      2021/06/16
    • abraxasさん
      kuma0504さん、こんばんは。
      うわあっ、台湾の「亀山島」に行かれたことがあるんですね。それはすごい。羨ましいです。で、もう一度よく読...
      kuma0504さん、こんばんは。
      うわあっ、台湾の「亀山島」に行かれたことがあるんですね。それはすごい。羨ましいです。で、もう一度よく読んでみました。地図がついているのですが、龍山寺は台北でも西の方になりますね。話に出てくる「亀山島」は、もっと東の、臥龍街や六張犁に近い、安和路(アンホーロー)にある店のようです。同名のちがう店かもしれませんね。楽しいコメントありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
      2021/06/16
  • 事件は3つだけど、一つ目は浮気調査からの詐欺事件。
    二つ目は女性をかどわかす男をボコる。
    三つめが本命の連続殺人事件。
    なかなか長くて読むのが大変だった。


    以下作品紹介・あらすじより------------------------------
    台湾発、私立探偵小説の新たなる傑作が登場!
    監視カメラの網の目をかいくぐり、殺人を続ける犯人の正体は?

    劇作家で大学教授でもある呉誠(ウ―チェン)は若い頃からパニック障害と鬱病に悩まされてきた。ある日、日頃の鬱憤が爆発して酒席で出席者全員を辛辣に罵倒してしまう。恥じ入った呉誠は芝居も教職もなげうって台北の裏路地・臥龍街に隠遁し、私立探偵の看板を掲げることに。
    だが、にわか仕立ての素人探偵が台北中を震撼させる猟奇事件・六張犂(リュウチャンリ)連続殺人事件に巻き込まれ、警察から犯人と疑われる羽目に陥。呉誠は己の冤罪をはらすため、自分の力で真犯人を見つけ出すことを誓う。
    監視カメラが路地の隅々まで設置された台北で次々と殺人を行い、あまつさえ呉誠の自宅にまで密かに侵入する謎のシリアルキラー〈六張犂の殺人鬼〉の正体は?

    探偵VS犯人のスリリングなストーリー展開と、ハードボイルド小説から受け継いだシニカルなモノローグ、台湾らしい丁々発止の会話。台湾を代表する劇作家が満を持して放った初めての小説は台湾で話題を呼び、台北国際ブックフェア大賞を受賞したほか、フランス、イタリア、トルコ、韓国、タイ、中国語簡体字版が刊行された。

  • 上下2段組で、なかなかの分量。これはしんどいかなと思いつつ読み出したが、とてもおもしろく、全然そんなことはなかった。

    主人公の呉誠(ウー・チェン)は著名な劇作家で、大学教授でもあったが、自分の生き方に嫌気がさし、突然全てを投げ出して、私立探偵を生業とし始める。本書は呉が一人称「おれ」で語るもので、ハメットやチャンドラーが確立した、いわゆるハードボイルドに属する。しかし主人公の呉は、タフでもなければ優しくもない。口が悪く、他人には威圧的に喰ってかかる。おまけにパニック障害からくる不安障害と鬱病を患い、抗不安薬や睡眠薬が欠かせない。本書の語りは、ほとんどが彼の不平や不安、批判的独り言で埋め尽くされる。彼は脳内でとてもおしゃべりなのだ。

    物語は彼の初依頼である尾行から始まって、なんと連続殺人事件にまで発展する。それもどうやら、呉自身を中心に事件が動いているようで…。もうページをめくる手が止まらない。

    原書が台湾で刊行されたのは2011年。前年に中国にGDPを抜かれたとはいえ、まだ日本の経済力やプレゼン力は大きく、本書には至るところに日本の文化や日本人論まで飛び出す。それもまた日本人にとっては興味深い。

    実は台湾は日本のミステリ、特に新本格派の人気が高い。島田荘司の名を冠した推理小説賞まであることはよく知られている。台湾ミステリ、台湾の小説の力を存分に堪能した。

  • 主人公呉誠は大学教授辞職後、台北の六張犁で私立探偵を始める。彼は19歳でパニック障害を発症後、常人には見通せないモノを察知できる秘密の目が備わっているのを知り、これを武器に事件解決へ…。と言いたいところだが、本作は謎解き以上に、主人公の懺悔録、比較文化、警察事情、周囲の人間関係の方も興味深い。

    呉誠の初仕事は、ある女性から依頼された彼女の夫に対する尾行だ。この過程で相棒となる凄腕タクシー運転手王添来との出会い、近隣の阿鑫家族や交番勤務の小胖との交流の様子が描かれ、彼らとの語らいは一見ほのぼのとした感じだ。しかし一方で、情緒不安定なときの呉誠が、演劇仲間に対する毒舌のせいで人間関係をこじらせた経緯も描かれ、彼の苦慮する姿が痛々しく映る。

    2件目の連続殺人事件が本作の要で、事件が起こった地点から推察される真相には身が凍る。しかし終盤はほとんどドラマの世界で、映像が頭に浮かぶと怖さも幾分やわらぐ。警察における呉誠の鋭い切り返しは気持ちよく読めた。なお、考えすぎの私は、最初の案件の女性がカギを握っているのでは?と、最後まで思っていたのだった。

    台北の行ったことのある場所がたくさん登場するのも魅力の一つ。今まで通過するだけだった六張犁に、次回はぜひ行ってみたい。訳者のあとがきによれば続編もあるとのこと。出版を楽しみに待つとしよう!

  • 【今週はこれを読め! ミステリー編】台湾ミステリーの最高傑作『台北プライベートアイ』 - 杉江松恋|WEB本の雑誌
    https://www.webdoku.jp/newshz/sugie/2021/06/01/190000.html

    SUNDAY LIBRARY:川本 三郎・評『台北プライベートアイ』紀蔚然/著 | 毎日新聞(有料記事)
    https://mainichi.jp/articles/20210615/org/00m/040/007000d

    『台北プライベートアイ』紀蔚然 舩山むつみ | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913674

  • 大学教授でもある劇作家から私立探偵に転向した主人公が、やがて連続殺人事件に巻き込まれていく。
    ハードボイルドという紹介だったが、ハードボイルドのパロディ、という印象。
    台湾の生活が肌で感じられるのが楽しい。
    登場人物が皆生き生きしていて、主人公の周囲の人々がとても魅力的だった。
    ただちょっと主人公の偏見が強く(作者がそうなのではなくて、そういうキャラクターとして描いているのはわかるのだけど)、読んでいてちょっとウッともなる。
    日本人に関しての言葉は、わかる…それはある…と思うんだけどね…。

  • 少しくどいかなと思ったし、探偵ものとして面白いというよりは、台湾(台北)の空気感や台湾人の生活感が興味深いという感じかなと思った。台湾は一度も行ったことがないが、何人か台湾が好きでコロナ禍前は頻繁に遊びに行っていた友達がいたり、留学中に一時同じクラスだった台湾人の女性が日本語も話せて日本の文化(ドラマや映画、歌手など)をよく知っていたりもしたので、なんとなく身近な感覚がある。
    吉田修一の「路」も好きだけれど、描かれる台湾や台湾人の印象が被るような少し違うような感じがするのも面白い。
    コロナが収束したら行ってみたい場所の一つ。
    続編も楽しみ。

  • 台湾の探偵小説は初めて読んだ。主人公の私立探偵呉誠がかなりややこしい性格で、人生を色々拗らせた挙句に全てを捨てて、下町的な所に引っ越して私立探偵となる。なるといっても免許もなく探偵小説を読んだ知識しかないが、自分には物事の本質をつかむ“秘密の目”があると思い込んでいる。それでも最初の依頼を何とか解決するが、その後大きな事件に巻き込まれる。
    呉誠の一人称で話が進むが、話の筋と関係ない脱線ばかりでそれが面白い。しがらみを捨ててきたはずなのに、いつのまにか仲間ができ助けてもらってる。事件の謎もなかなか凝っていて面白い。続編も楽しみ。

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