若き世代に語る日中戦争 (文春新書 607)

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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166606078

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  • 骨董市で戦陣訓を買った。かの有名な「生きて虜囚の辱めを受けず、死して罪禍の汚名を残すこと勿れ」も読めた。店主曰く幾つか版があるそうだが、昭和16年1月のものだった。実際の戦場に持って行ったものかは判らない。風雨に晒されたのか印字は薄れ、紙も所々触るだけでポロポロと崩れるような状態だ。
    何故か買わなければいけない気がした。

    日中戦争、太平洋戦争を経験する世代は残念ながら減りつつある。特に一兵卒として戦場から帰還された方々は著者のように大正生まれが大半だろう。人間であるから寿命を考えれば当然だと一言で片付ける事もできる。しかしながら当然の人生を送る事が出来ず、戦場で多くの人々が散った。
    本書は日中戦争に兵卒として従軍した筆者がリアルな体験を戦後生まれの文学弟子との対談という形で進められる。対談は我々戦後世代が素朴に感じる疑問に対して、実際の経験者が語るのであるから実態を知るには丁度良いだろう。特に読み物としては、太平洋戦争にフォーカスされたものが多い中、盧溝橋事件に始まる日中戦争が中心となり、大陸中国の内戦背景を含めた複雑な事情が戦局に与える影響(一つの戦闘においても影響する)を忘れてはならない。読み進める中で、本当に最初の1発を打ったのは中共軍なのか日本軍?いやいや蒋介石軍なのでは、と色々考えながら読める。
    歴史は作られる。国家主導で作成された「戦史叢書」、参謀や将官クラスの書いた書物、そして戦友会のメンバーが描いた部隊記録など立場も戦場も戦い方も全て見方・書き方は異なるだろう。
    問題は真実を知る体験者がいつかは居なくなってしまう事だ。様々な検証が行われてはきたが、そこに居た一人一人の感じ方それ自体がリアルであり、以後の世界には未経験者だけ、リアルは失われて全てが伝承となる。
    著者の他の作品も大半は読んでいるが、この本を機に是非美しい文章の中に物悲しさを漂わせ、リアルを伝える作品にも触れてほしい。

  • 日中戦争、戦中世代、日本軍についてやたらと美化する記述が多い。一兵として日中戦争に従軍した著者は、そうでもしないと自分達は浮かばれないとのことである。

  • 日中戦争の経験者が,戦争未経験者と対談して語る本。会話で話が進むので,非常に読み易いです。

    この本で伊藤桂一さんを知りました。小説家なんですね。今度読んでみます。
    この本で語られる日中戦争は,メディアで作られたそれとは違います。人間味あるストーリーだったり,慰安婦や中国の現地民との間柄も,戦後世代が教育されてきたような内容とは一味違います。
    これがすべて真実だったらいいのにな,という気持ちで読みました。きっと伊藤さんの周辺ではこれが真実だったのだと思いますが,他にも色々な書籍やドキュメンタリー映画が出ており,これが必ずしもすべてではないでしょう。(それらも真実とは限りませんが)

    自分が見たもの,聞いたもの,体験したものは絶対的真実として語りたくなるものだと思いますが,「戦中世代は~だ」という言い方にはあまり素直に首肯できませんでした。戦中世代全員がそうとは限らないからです。
    ゆとり世代は敬語が使えない,ゆとり世代は常識がない,と言っても,敬語が使えるゆとり世代が大多数だし,常識があるゆとり世代も多いからです。そういう意味でアバウトというか,この人の周りではそうなんだろうなあ,程度に読み流すのがいいかな,と言う感じでした。

    面白かったのは共産党軍との闘いについて。日中戦については不勉強で,知らなかったことが多かったです。これを足がかりに,もうすこし中国の国内情勢について勉強したいと思いました。
    日本人は日中戦で民間人も巻き込んで非難されていますが,なるほどゲリラとの闘いという側面もあったのですね。決して民間人を巻き込むことは肯定されるべきことではありませんが,ちょっと事情が呑み込めました。
    なかなか勉強になる本でした。

  • 日中戦争当時一兵卒であった伊藤氏が、1960年代生まれの野田氏と対話をしながら、日中戦争当時を振り返りながら語る。
    戦後世代には分からない戦中時の社会状況や、兵士ひとりひとりのエピソードからみえてくる心情などが語られ、当時を知る上で非常に参考になった。
    戦前・戦後ではおなじ国とは思えないくらい大きな隔たりがあり、日本人とは何かを問い直すことの大切さを示唆している。
    また、戦後から今日に至るまで、中国人の日本観を主体とした戦前日本の姿が報道されてきたが、それに対しての否を体験という説得力のある論証で提示しているのも興味深かった。
    当時の中国と日本の関係性や、一兵卒と国民党・共産党軍間におけるエピソードなど、平面的に語られてきた日中戦争当時の状況を、立体的に浮かび上がらせている。
    自虐史観により、日本人の中に凛としたものがなくなって久しいが、本書に触れることで日本的美意識をもう一度再認識したいものだ。

  • [ 内容 ]
    軍隊の常識、戦場の生活、敵との戦闘、生と死。
    戦争とはどんなものなのか?
    中国で戦い、多くの戦記を手がけた小説家/詩人が、愛弟子からの問いに答える形で次世代に語る日中戦争の実相。

    [ 目次 ]
    第1章 気高き慰安婦たち―徴兵から駐屯生活へ(「大東亜戦争」との関連は;弱い八路軍になぜ負けるのか ほか)
    第2章 共産党軍との奇妙な戦い―群雄割拠、百団作戦、宣撫工作(八連隊の合理性;「軍人勅諭」と「戦陣訓」 ほか)
    第3章 底辺の兵士たち―真珠腕攻撃から終戦へ(軍馬とロバと甲斐犬と;底辺の兵隊が戦った戦争 ほか)
    第4章 戦友たちの戦後―戦友会の活動、戦記に込められた想い(軍歌が歌える時代の到来;何を求めて戦友会に集うのか ほか)

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