日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ (文春新書 942)

著者 :
  • 文藝春秋
3.97
  • (25)
  • (40)
  • (21)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 330
感想 : 46
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166609420

作品紹介・あらすじ

「日本の技術力は高い」――何の疑いもなく、世間では、こう言われています。もしそうだとしたら、なぜ半導体業界が壊滅的状態になったのか? あるいは、ソニー、シャープ、パナソニックなどの電機メーカーが大崩壊したのか? 京大大学院から日立に入社し、半導体の凋落とともに学界に転じた著者が、零戦やサムスン、インテル等を例にとりながら日本の「技術力」の問題点を抉るとともに復活再生のための具体的な処方箋を提示していきます。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 少し前にシャープが経営破綻したのは何故かということを調べるために、関連の本を数冊読んだ。シャープの場合には、液晶の事業経営の失敗が会社の破綻に結びついた。本書で取り上げられているのは、同じく電機業界であるが、主に半導体である。
    かつて、日本の電機メーカーは、DRAMの分野で世界シェアの80%を占めていた。メモリーをやっていた会社も、東芝・富士通・NEC・日立・三菱電機と多く、日本の半導体事業はこのまま高収益が続くと考えられていた。
    ところが、今や日本の電機メーカーのDRAMは壊滅状態であり、その後に参入した、別の種類の半導体、SOCでも日本メーカーは存在感を示すことが出来なかった。
    日本の半導体でDRAM分野で負けたのは、DRAMの主な用途がメインフレームコンピューターからPCに変った時である。メインフレームとPCでは、DRAMに求められるものが異なる。メインフレームでは、性能であり、品質で、コストの優先順位は相対的に低い。ところが、PC用のメモリーはコストが最優先となる。日本のメーカーは、メインフレーム時代に製造していた、高品質・高性能、しかし、高コストのDRAMをつくり続け、負けていったのである。
    DRAMから撤退した日本は、SOCという分野の半導体に進出した。これは、ASICと呼ばれる、アプリケーション・用途を特定したカスタムLSIであり、事業に必要なものは、マーケティングとシステム設計力であったが、ここでも、高品質・高性能の半導体づくりにこだわり、結果を出すことが出来なかった。
    こうして考えると、シャープの液晶と同じように、結局は、マーケットの変化を事業に取り込むことが出来なかった、あるいは、もっとひどい言い方をすれば、市場を知らなかったことが敗戦の原因ではないかと思う。韓国のサムスンと、日本メーカーの違いを筆者は、「サムスンがマーケティングを何より大事にして、売れるものをつくるのに対して、日本メーカーはマーケティングを軽視して、つくったものを売る」と書いている。鋭い指摘であり、その通りではないかと思う。

  • 今まで多くの日本脅威論を読んできましたが、その多くは製造業の実態をご存じない方が書いたものであり、一方で、日本のモノづくりがいまだ健在であるという本を読んで自分を安心させてきました。

    特に、ものづくりにおいて、最終製品では外国勢に負けていても、材料や半製品、製造装置のシェアは高く、これが日本の強さであるという論調に私は日本の底力を見ていたつもりです。

    この本は、それらを十分に揺らぐほど衝撃的でした。この本の著者は私より3歳程年上で、日立製作所で半導体研究や製造技術に拘った、中身を良く知った方です。彼がはぜ1980年代には世界一だった半導体行が、現在ではそれを思い出せないほど惨めな姿になってしまったのかを解説しています。

    また半導体製造は、装置を買ってくればすぐにできるような簡単な技術ではなく、韓国・台湾勢が、当初はリストラされた日本人技術者を上手に使って学び改良したということも解説しています。

    著者によれば、今の日本企業の姿は、太平洋戦争時のゼロ戦の栄光と転落と同じだとしています。現在では、日本に残されている優位性のある技術は存在しているものの、かなり少なくなってきているようです。

    最後に日本が甦るための条件を示していますが、パラダイム変換をおこす必要があり、一度何かが起きて、現在の既得権益を握っている人達が退場しない限り難しいなと思いました。現在は、まさに戦争に突入していった頃に似ているようですね。

    以下は気になったポイントです。

    ・世界最高品質、シェア一位の企業が凋落するには共通する原因がある、それは、パラダイムシフトに対応できず「イノベーションのジレンマ」に陥った、つまり、既存顧客の要求に忠実に耳を傾けるあまり、性能や品質に劣るが「安い、小さい、使いやすい」特徴を持った破壊的技術に駆逐されること(p13)

    ・技術力には、高位品質をつくる・高性能をつくる・低コストでつくる・短時間でつくる技術等、様々な評価軸がある、ひとつの評価軸において高いだけで「日本の技術力は高い」というのは大きな間違い(p22)

    ・創造とは「無から有を生み出す」のではない、「2つ以上の事柄を統合する、一種の模倣能力」(p25)

    ・AMAT(アプライドマテリアルズ)は、1992年以降、半導体製造装置で世界一、2013.9.24に世界3位の東京エレクトロンと統合発表した(p32)

    ・オバマ大統領の製造業輸出5倍計画は、再生エネルギーによるグリーン革命は失敗したが、3Dプリンター、ロボティックス、脳科学、サイバーセキュリティ産業は大進歩、シェール・オイル革命も追い風(p33)

    ・半導体製造には、多くの要素技術を精密にすり合わせるインテグレーション技術と、歩留まりを向上させる量産技術が必要である(p58)

    ・日本半導体メーカは、大型コンピュータ用に製造した25年保証の高品質DRAMを、PCに転売したが、明らかに過剰品質であった(p63)

    ・製造工程の洗浄液に互換性がないという事実、これがエルピーダのDRAMシェアを低下させた原因(p70)

    ・日立、NEC出身者のほとんどが「経営、戦略、コストで負けた」と言ったのに対して、三菱出身者は、「安くつくる技術に問題があった」ことを認めていた(p82)

    ・後から考えると、日立が新技術の研究開発を行い、三菱がインテグレーション技術を担当、NECが量産工場の生産技術に専念すれば良かったかもしれない(p86)

    ・サムスン電子では、開発から量産へ、またはその逆がありチームが入れ替わる。最初から量産立ち上げを視野に入れて歩留まりを向上しやすい工程フローを構築する必要がある、日立では、研究所・開発センター・量産工場とヒエラルキーがある(p94)

    ・会社組織では、人間は能力の極限まで出世する、すると有能な平社員も無能な中間管理職となる、こうなるとあらゆる職責を果たせない無能な人間によって占められる。仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われる。ピーターの法則(p101)

    ・東日本大震災の影響を最も受けたのは、トヨタ(特にプリウス)であった。茨城県にある那珂工場が直接被害を受けたから、トヨタのマイコン:ECU(機能の90%を制御)を作っていた(p148)

    ・ルネサスの那珂工場はラインの稼働率を上げるために、利益の出ないECUを作らざるを得なかった(p159)

    ・シュムペーターは、イノベーションとは発明と市場の新結合とした、つまり、爆発的に普及した新製品、普及が大事なのであって、技術が革新的かどうかは一切関係ない、ここが日本人が誤解しているポイント(p170)

    ・サムスンにとって、マーケティングとは「市場創造」である、これも日本では誤解されている、市場統計・市場調査と考えている(p179,180)

    ・インテルは iPhone用プロセッサ製造を断り、韓国サムスン電子が製造することになった、これによりファンドリービジネスで3年間で10位から3位に躍進した(p201)

    ・日本が弱体化した分野には共通要因がある、標準化・プラットフォーム化・モジュール化がしやすい分野(露光装置、ドライエッチング、検査装置、成膜装置)である、一方で、ハードウェアと液体材料の摺合せに必要な部分はドキュメント化ができない暗黙知が多く、標準化・モジュール化が難しい(p217,223)

    ・日本半導体メーカが、微細性・精度を強調するのに対して、韓国・台湾半導体メーカは、スループット(時間当たりウエハ処理数)である(p219)

    ・1台40-50億円もする装置を、導入から9-14日で製造に使うか、40日弱も無駄な性能試験をやるか、この差が高コストにつながる(p223)

    ・新市場の発明をするには、誰かの幸せに役立たなければならない、市場ができる前に、その幸せがイメージ(何をどうかえたいか)できなければならない(p243)

    2013年12月15日作成

  • 2023.08.26 朝活読書サロンで紹介を受ける。

  • エルピーダの話は、いくつかの合併を経験した僕の勤める会社にもあてはまる。異文化の融合って簡単じゃないものだ。日本企業はかつては自分たちも模写を通して成長してきたのに、今や模写される側。自身の強みを理解して、積極的に国際展開しないとダメですね。うちにこもっている場合じゃない。

  • 東2法経図・6F指定:549A/Y98n/Ishii

  • 日本は低コストに作る技術力がない
    問題の発明
    創造的模倣

  • 示唆に富む。
    新規事業の考え方にも似通う。

  • まるで教科書のような転落。イノベーションとマーケティング、つまりは模倣結合と変化対応課題発明。

  • 日本企業のDRAM全盛期時代に日立製作所に入社、その後エルピーダメモリに出向、日本の半導体産業に警鐘を鳴らし続けている湯之上隆氏の著書。

    一言:サムスン強え(いろんな意味で)。ヤクザかよ…。
    おもしろかった。以下学び↓

    ・日本の「イノベーション」=「技術革新」という認識が、イノベーションのジレンマに陥ることにさらに繋がる。
    ・サムスンは「売れるものを作る」。日本企業は「作ったものを売る」。
    ・インテルはイノベーションのジレンマに陥り、iPhoneの市場拡大を見誤り、iPhone用のプロセッサへの投資を断った。

    サムスンは模倣で伸びた企業。NECからDRAM、iPhoneからスマホのノウハウ。そこにはグレーな点もあるが…。

    はじめて知ったんだけど、サムスンとAppleは訴訟沙汰になってたのね。

  • 良書。1990年代以降のDRAM半導体メーカーの凋落、今なお日系メーカーの強い分野とその背景の分析、総じて一番思うことはイノベーションとは技術と市場の結合であって、市場と結合しない独りよがりの技術は淘汰されること。これは多くの人が教訓として心がけ、明日の産業衰退の種にもう2度としないよう決意することだ。

全46件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1949年鹿児島市生まれ。九州大学大学院文学研究科史学専攻博士課程中途退学。博士(文学、九州大学)。現在、静岡大学人文社会科学部教授。

「2014年 『日本中世の地域社会と仏教 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

湯之上隆の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ウォルター・アイ...
リンダ グラット...
佐藤 優
ウォルター・アイ...
ジャレド・ダイア...
クリス・アンダー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×