逆転の大中国史 ユーラシアの視点から (文春文庫 よ 39-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167912529

作品紹介・あらすじ

中華人民共和国「内モンゴル」で生まれ、北京で文化人類学を学んだ著者は、「漢民族」が世界の中心だという中華文明の価値観に、次第に違和感を覚える。日本に留学、梅棹忠夫氏に師事。ユーラシア草原を調査するうち、従来の常識とは全く違う、価値観の逆転した中国史が形成される。それは「中国四千年の歴史」という漢民族中心の一気通巻的な歴史観からの逆転である。ユーラシア草原に勃興した様々な民族こそが「中国史」の主役であり、漢人はそのなかのひとつに過ぎない。従来、日本人は「遊牧民族たちは、豊かな中華を強奪する野蛮人である」と教えられてきた。しかし、現代の中国人がほ文明をひらいた漢民族の子孫であるというのは、実は幻想なのだ、と筆者は説く。黄河に文明が花開いていたころ、北の草原にはまったく別個の独立した文明が存在した。北方の遊牧民と黄河の農耕民は対等の存在であり、漢人がシナを支配して「漢帝国」を称していた時代にすら、北方には別の国家が存在していた。漢人の国家が中国全土を支配していたことはなく、つねにいくつかの帝国が東ユーラシアに並立あるいは鼎立していた。その主役はスキタイ、匈奴、鮮卑、ウイグル、チベット、モンゴルといった周辺の遊牧民族である。我々が漢民族国家の代表、中国の代名詞と考える「唐」ですら、実は鮮卑の王朝である。いわゆる中華の文化が発展するのは、そうした周辺諸民族出身の王朝が世界に開かれた政策を取っていた時期であり、長城をめぐらし「壁の中に閉じこもる」のが習性の漢人によるものではないのだ。現在の中国人は、こうした真実の歴史を覆い隠し、自分たち「漢民族」が世界の支配者であったという幻想にしがみつき、周辺民族を弾圧する。今の中国を解くキーワードは「コンプレックス」だ。正しい中国史を正視しない限り、中国は歴史に復讐されるだろう。

感想・レビュー・書評

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  • 目から鱗の書籍であった。ともすれば、今後人生において中華万歳な見立てで社会を見始めるところに本書を手に取った自身に拍手である。
    中華は我が国が産み出した概念に依拠して語られる仮想であり、虚実であったこと。実は我が国の王朝もユーラシア経由ではないか?と言うことに気付けたことはまさに鱗である。
    ちなみに、ないとは思うが、本書由来の知識で我が国政府の射殺された首相が対中政策に楔を打ち込むために選挙協力以外で某宗教団体を利用していたのだとしたら。と言うありもしない評価を浮かべてしまったのにも驚いたw必読の書籍!いい出会いだ◎

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著者プロフィール

1964年南モンゴル・オルドス高原生まれ。静岡大学人文社会科学部教授。北京第二外国語学院大学日本語学科卒業。専攻は文化人類学。博士(文学)。著書に『「中国」という神話』(文春新書)、『墓標なき草原――内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(岩波書店・司馬遼太郎賞受賞)、『日本陸軍とモンゴル』(中公新書)、『逆転の大中国史』(文藝春秋)など多数。

「2018年 『モンゴル人の中国革命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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