影裏 (文春文庫 ぬ 3-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (169ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167913472

作品紹介・あらすじ

第157回芥川賞受賞作。 大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。 北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、 「あの日」以後、触れることになるのだが……。 樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。芥川賞受賞作に、単行本未収録の「廃屋の眺め」(「文學界」2017年9月号・受賞後第一作)、「陶片」(「文學界」2019年1月号)を併録。綾野剛・松田龍平主演で映画化(大友啓史監督)、2020年初頭に公開予定。

感想・レビュー・書評

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  • 沼田真佑『影裏』文春文庫。

    第157回芥川賞受賞作の『影裏』の他、『廃屋の眺め』『陶片』を収録した短編集。

    味わい深く、様々な思いが心を過る、そんな3編の短編。芥川賞受賞の表題作は見事と言うしかないだろう。『影裏』というタイトルさえも見事である。人間には表と裏があり、光があって影があるのが人生の機微なのかも知れない。

    『影裏』。自分が生まれ育った盛岡、岩手の風景とそこに暮らす優しい人びとが目に浮かぶような短編。後半は一転、まさか東日本大震災が大きな鍵として物語が描かれるとは思わなかった。

    会社の出向で盛岡に移り住んだ主人公は同僚で気の合う釣り仲間の日浅と楽しい日々を謳歌するが、日浅は突然転職し、知人らに借金を重ねた挙げ句に東日本大震災で行方不明となる。そして、主人公が知ることになる日浅の秘密……

    自分の沿岸に住んでいた知人などは東日本大震災のどさくさに紛れ借金を踏み倒し、失踪している。後に少し離れた場所にひっそりと暮らしていたのを債権者により発見されたのだ。苦しみと哀しみ、美談の影で善からぬことを企んだ輩が居たのは事実だ。

    『廃屋の眺め』。50代にして独身を貫く主人公の友だちのつながりから様々な人生模様が描かれる。長く生きていれば本当に色々なことがある。それらの一つ一つを善しと取るか、悪しと取るかでその後の人生は変わって行くのではなかろうか。

    『陶片』。唯一、女性が主人公の短編。主人公の姉の結婚相手の義兄の話かと思えば一転、今の世相を反映するような展開が……

    本体価格550円
    ★★★★★

  • 芥川賞受賞、映画化もされるということで沼田真佑氏の「影裏」を読みました。
    描写表現がとてもきれい。
    文体がとても文学的。
    初めて沼田氏の作品を読んだので、最初はその文体に戸惑いながらなので、頭に内容が残り難かったですが、単独で読むよりも、一緒に収録されている短編二編「廃屋の眺め」、「陶片」を読み終えるジワリと良さが滲みてきます。
    一度だけでなく、何度も読み返す本かもしれません。
    どの様に映画化されるかが楽しみです。

  • 出向で移り住んだ岩手で、慣れない環境に孤独を感じていた今野。唯一心を許した同僚の日浅と、釣りや酒を楽しむ日々。そんな中、日浅は突然仕事を辞め今野の前から姿を消した。
    二度目に日浅が姿を消した後、311で彼が行方不明になっていることを知る。
    それをきっかけに、次々と知らなかった日浅の人柄が暴かれていく....。

    「廃屋の眺め」
    友人の葬儀の席で知り合った、私と佐尾。
    冴えない者同士、三年ほど飲み仲間として過ごしていた。温泉旅行を計画し、佐尾の妻と三人で向かうが、佐尾に急な仕事が入り、佐尾の妻と二人きりで過ごすこととなる。
    混浴に入った私が見たものは、身体中に痣を作った佐尾の妻だった。
    「陶片」
    実家暮らしでアルバイト生活の香生子。
    姉も再婚し、40代の香生子に母親は結婚紹介所の申込書を渡す。そんな中出会った、女優のエム。
    香生子はエムとの官能的な時間を過ごす....。

    テーマは震災だったり、DVや同性愛だったり割りと重めだったが、文章が綺麗で引き込まれた。
    全て結末が、この後が知りたいとなる最後なのでモヤモヤしつつ、後ひく作品だと思う。

  • 影裏 沼田真佑 著

    短編が3編。

    #読書好きな人と繋がりたい

    読み終えたあとに、終わってしまったあとの余韻が少しだけ胸騒ぎする、そして時をかけて鎮まる感じの著書でした。

    1.影裏
    東北が舞台です。地方の静かな空気感、自然の音や香りが行間から溢れてきます。

    転勤で住み慣れない男性とその職場の同僚の物語です。
    釣り、酒、互いに間合いがよいと感じる2人ですが、少しずつずれ始めます。
    同僚の互助会への転職、そして東日本大震災が襲います。

    ある時、同僚が津波で死んだと噂を耳にします。
    本当にそうなのか?

    彼は同僚の足跡を尋ねがら考えたことは?
    読者に解釈を委ねる余韻。

    2.廃屋の眺め
    50代の男性 独身の語り部での展開です。
    非正規で職場を変わりながら生きている男性です。

    同窓が旅したときに出会った心中事件。
    同窓の遺品をきっかけに知り合った男性とその奥様との物語。
    どこかで見聞したことがありそうな内容が展開します。

    読み終えて、タイトルに目がいきます。

    なぜ『廃屋の眺め』?と考えるのです。

    廃屋。
    昔は人が住み、気配があった佇まい。
    いずれかに主をなくし、いまは、ただ風景と化した、人気の無いたたずまい。
    誰も何も施さなければ廃れるだけ。
    ただし、誰かが手を差し伸べれば、また、陽があたり、人の気配も戻るやもしれぬ。

    廃屋の眺め。

    私たち読者は何を見出すのでしょうか?

    読むという行為は、想像と解釈が織りなすから、離し難いのかもしれません。

    3.陶片
    主人公 40代女性独身。
    書店員のアルバイト。

    登場人物は、再婚同士の姉夫婦と主人公のパートナー舞台女優のエム。

    40代になり、夜の長さに戸惑いを覚え、日々やり過ごす彼女。

    気分転換に近所の渚を散歩して、気持ちを和らげてくれるものに出会う。
    それがタイトルの陶片。

    砂浜から、白い陶片のみを集める彼女。
    なぜ、、、?

    パートナー エムと織りなすことで、孤独をひとときだけ消去できる、マイノリティであることを自身で認めて生きている。

    著者は、彼女を通じて問いかけている。
    誰もが、陶片、そう、侘び美しいかけらを世界の中に探していることを。
    それが、己の存在の頼りになることを。









  • 三十代半ばの今野が岩手で出会った唯一の友・日浅の影の裏を知る表題作に加え、五十代の男が見る結婚を介した生と死、四十代の香生子が不意に落ちる恋が語られるこの三編、いずれもこの平常な日常のどこかに存在していそうな物語である。人間は決して単純な感情だけで生きているわけではない。そういうことを言葉少なく、でも豊かに語ってくれる作品は貴重であり、好むと好まざるとに分けずとも興味深く面白い。薄いけど濃密な一冊。

  • この作品を読んで感じたのは、文章から感じる風景描写の美しさ。3つの短編からなる作品なのですが、私がおすすめしたいのは、「陶 片」という作品で、両親と暮らす独身女性の話で、自分の境遇に嫌気を立ち、時折自宅近くの海岸で、陶器品の破片を集めて、心を落ち着かさせるという話で、非常に共感しました。自分に当てはまる所もあったので、是非読んでほしいです。表題作の「影裏」も良かったです。第157回芥川賞受賞作。

  • 第157回芥川賞を受賞した「影裏」と、「廃屋の眺め」「陶片」の3編を収録。いずれも人間関係が不得意な主人公が、周囲の人となんとか付き合っていくという話。その「不得意さ」の描き方が、短くも的確で実に印象的である。また、「影裏」の終盤、日浅という男と父親の関係が明かされるプロセスは、物語の急展開に引きつけられる。それとともに、主人公の友人である日浅もまた、主人公とは異なる人間関係の不得意さをもつことが明かされ、驚く。

  • 岩手出身です。
    他県の人が岩手に移り住んだらこんなイメージなんだ、という感じですね。盛岡を綺麗に描写してくれて嬉しい。方言の使い方も上手。
    人の捉え方は表裏一体。だから影裏。
    映画はまだみてません。映画館通り行きたいなぁ。川徳を冷やかしてフェザンで買い物したい。一階のタリーズはまだあるのかな。

  • 盛岡に転勤になった一人の男、今野。
    そこで知り合った同僚日浅に少しずつ心を開き関係が濃くなっていく。
    二人の関係、あるいは今野の日浅への気持ちのゆらぎが描かれる釣りの場面が印象的。文章を読んで目に浮かぶ美しい場面。映像で見たい。
    二人の男のつかず離れずの心地い関係が、ある日突然終わる。日浅を探し続ける今野。少しずつ明らかになる日浅の裏の顔。同時に見える今野の影。
    震災に巻き込まれたのか。それともどこかで生きているのか。何もわからない。そして何も終わらない。いや、始まってもいなかったのか。
    「廃屋の眺め」「陶片」それぞれに表と裏、光と影が淡々と描かれる。氷の中に閉じ込められた炎のように、外からはわからない熱。わからないけどそこにある。

  • わたしには作品全体の揺らぎについていくのが難しかった。
    人との会話はこの様な展開なのだろう。
    ただ、私も狭い人間関係の中で生きていて、思う事はあった。
    もう一度読んでみるかな…

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