雪のなまえ (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店
3.87
  • (76)
  • (146)
  • (93)
  • (11)
  • (1)
本棚登録 : 1416
感想 : 121
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198652029

作品紹介・あらすじ

つらいことから
どうして逃げちゃいけないの?

【著者からのコメント】
「自分探し」の記憶はあまりありませんが、
「居場所探し」はつい最近まで
くり返してきた気がします。
 心安らげる居場所がないのは不安なことです。
つい、間違ったものに
しがみつきたくなってしまう。
 ここにいていいのだと信じられる場所、
ほんとうの自分を受け容れてもらえる場所さえ
見つかったなら、誰もがもっと生きやすくなるし、
自信を持てるし、
ひとに優しくなれるんじゃないか。
そうした場所を見つけようとして
今までいた場所に別れを告げるのは、
決して〈逃げ〉ではないんじゃないか──。
 今作『雪のなまえ』は、
そんな思いをこめてつづりました。
 時にすれ違っても、みんながお互いのことを
思い合う物語です。
 若い人にも、かつて若かった人にも、ぜひ。

「夢の田舎暮らし」を求めて父が突然会社を辞めた。
いじめにあい登校できなくなった
小学五年生の雪乃は、
父とともに曾祖父母が住む長野で暮らしを始める。
仕事を諦めたくない母は東京に残ることになった。

胸いっぱいに苦しさを抱えていても、
雪乃は思いを吐き出すことができない。
そんな雪乃の凍った心を溶かしてくれたのは、
長野の大自然、地元の人々、
同級生大輝との出会いだった――。

ほんとうの自分を受け容れてくれる場所。
そこを見つけるため、
今いる場所に別れを告げるのは、
決して逃げではない。

【目次】
プロローグ 夢と自由と
第一章 新天地 
第二章 美しい眺め
第三章 人間の学校
第四章 名前
第五章 サイダーの泡
第六章 一人前の仕事
第七章 寄り合いの夜
第八章 訪問者
第九章 起き上がり小法師
エピローグ 雪のなまえ

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • あなたは今までの人生で”自分の居場所がない”、という思いをしたことはないでしょうか?

    人は集団社会の中で生きる生き物です。この世に生を受けて、保育園・幼稚園で初めて他者の存在を知り、小・中・高・大と階段を上がっていく中で、集団社会の中で生きるとはどういうことかを学んでいきます。そして、会社組織に属し、そんな今までの経験を総動員して、その組織の中を生き抜いていかなければなりません。そんなそれぞれの過程の中では思いもよらない壁にぶつかることもあります。例えば義務教育期間に焦点を当てても、直近の文科省の統計では、小学生の144人に一人、中学生では27人に一人という極めて高い割合で不登校の生徒がいるという現実がそれを物語ります。そんなきっかけは『五月のゴールデンウィークが明けて間もないある日のこと、いきなり潮目が変わったかのようにクラスの女子たちから無視されるようになった』と突然の出来事をきっかけに訪れるかもしれません。また、それは大人になって会社組織に入っても同じことです。『私がいてもいなくても、なあんだ、何にも変わらないんだなって思ったら、いろんなことがどうでもよくなってしまった』と『なんだか……むなしくなっちゃってね』という瞬間も、そんなきっかけになる可能性もあります。

    『「自分探し」の記憶はあまりありませんが、「居場所探し」はつい最近までくり返してきた気がします』とおっしゃる村山由佳さん。

    今まで属していた集団の中から弾き飛ばされた感覚、今まで属していた集団の中に自分の”居場所”がない、という感覚。人はそんな瞬間を感じた時、”居場所探し”を始めるのだと思います。

    ここにそんな自分の”居場所”を探し求めることになった家族の物語があります。それは、『今日も一日、いいこといっぱいありますように』と、ゆっくり焦らず一日一日を生きていく、”逃げる”のではなく、”ほんとうの自分を受け容れてもらえる場所”を探し求める主人公・雪乃とその家族の物語です。

    『少なくとも雪乃の記憶にある限り、その朝の両親のいさかいは過去最高に深刻だった』と『議論に夢中になるあまり、娘が家にいることを忘れてしまった』という夫婦。『あなたが考えるほど簡単じゃないんだよ』と諭すように言う母親の英理子は『あの子の中学受験まで、あと一年ちょっとしかない』、『こんな時期に学校を変わったりしたら、ますます勉強が遅れちゃうじゃない』と続けます。『学校を変わる?いったい何の話だろう』と思う主人公の雪乃。そんな雪乃の家、島谷家は『三人家族だが、厳然としたヒエラルキーがあって、そのトップに君臨するのが英理子』という位置付け。航介の主張は『まともに取り合ってもらえないことも多い』という島谷家。『理路整然』と『あらゆる可能性を熟慮した上で』答えを導き出す英理子に対して『深く考えるより先に直感と感情でものを言ってしまう性格』の航介。『やたらとお人よしで、そのせいで家族が迷惑を被ることは多々ある』も、『大好きだからぜんぶ許せる』と思う雪乃。『なんだかんだいって夫婦仲はいいのだ』という二人。『それでもこの日ばかりは特別だった』と引かない航介は『イイ学校へ進むのって、改めて考えたらそんなに大事なことかなあ』と言います。『私を見ればわかるでしょ…ただ大学を出てないっていうだけで』正社員になれないと話す英理子。『それよりも、大事なのは今のことだろう。学校なんてとこ、行きたくないなら行かせなくたっていいのに、無理を続けたおかげであんなに痩せちゃってさ』と返す航介に『いじめられてるのだって、あの子が悪いわけじゃないんだから。自分が悪くもないのに逃げてしまったら、この先もずっと逃げ癖がついちゃうでしょ』と引かない英理子。『あの子が学校へ行けなくなったのは、精いっぱいの悲鳴なんだよ。いっそのこと学校を移ることも視野に入れて、何なら家族みんなで引っ越しして環境を変えるとか』と提案する航介に、『はあ?なに言ってるの?…』と収まらない英理子。そして、そんなところに雪乃が入ってきました。『ふたりとも、そろそろ会社行ったら?遅刻しちゃうよ』と静かに言う雪乃。『ほうっておいてほしい。そっとしておいてほしい』と思う雪乃。ゴールデンウィーク明けからいきなりクラスの女子たちから無視されるようになった雪乃。でもお母さんが『がっかりした顔をする』と思い頑張って通い続けた学校。しかし、学校の正門を見て倒れ込み『それから十日間、家からほとんど一歩も出ていない』という今。『早く学校へ行かないと』と考え『だめだ、息が苦しい』と感じる雪乃。そんな中『三日もたたないうちに』航介が会社に辞表を提出してくるとは英理子も雪乃も予想していませんでした。『さあ、これで自由だ。いよいよ夢を叶えられるぞ』と意気込む航介。そんな航介の退職を起点に雪乃の、そして島谷家の生活が大きく変わっていきます。

    “つらいことから、どうして逃げちゃいけないの?”と本の帯に書かれた言葉がとても印象的なこの作品。『いきなり潮目が変わったかのようにクラスの女子たちから無視されるようになった』ことをきっかけに不登校となってしまった小学五年生の島谷雪乃が父親・航介と共に長野で農業を営む曾祖父母の家に移り住み、そこで農業を経験し、村のコミュニティの面々と接する中で再び前を向いて顔を上げる瞬間へと歩んでいく物語が描かれていきます。

    昨今、”田舎暮らし”に憧れて都会から山村に移り住み農業を始められる方もいらっしゃいます。この作品でも雪乃の父親である航介が雪乃の不登校をきっかけに勤めていた会社を退職し『さあ、これで自由だ。いよいよ夢を叶えられるぞ』と妻の英理子と雪乃に語りかけるところから物語は動き始めます。田舎で生まれ都会へと飛び出していく人がいれば、その逆パターンもある、人にはそれぞれ自分にあった生き方、暮らし方というものは当然にあり、航介の考え方も一つの生き方です。そんな航介は『インスタ映えする』『見たこともない野菜やフルーツ』を育てることで『上を目指せる』というアイデアを披露し、『やる以上は、都会の人から憧れられるくらいの農業を目指したいよね』と極めて前向きです。しかし、曾祖父の茂三から『そんなふうにな、頭で考ぇたとおり簡単にいくなら誰も苦労はしねえだわい』と言われます。農業を全くやったことのない人間が安易な発想だけで、ずっと農業をやってこられた方を簡単に超えられるほど農業が甘いはずはありません。この点この作品でも安直な浮ついた展開はとらず、現実をよく押さえられていると思います。そして、そんな物語は、”田舎暮らし”で間違いなく最大の関門となるであろうポイントをかなりのページ数を割いて押さえていきます。それは『俺、ちょっと甘く見てたかもしれない。田舎で暮らして農業をやる上でいちばん重要なスキルってさ…農作業の知識とかより何より、こういう狭い共同体ならではのしがらみの中で、どうやって憎まれずに立ち回れるかってことに尽きる気がする』と気づく航介。距離という点で言えば田舎よりもずっと近い、同じマンションの隣接戸に住んでいても顔も見たことがない住民通しという薄い人間関係が当たり前の都会の生活。そんな薄い関係性に慣れている人にとっての”田舎暮らし”の最大の落とし穴がこれだと思います。それは『誰に対しても開けっぴろげに、心を打ち割って話すように心がけた』としても『都会のしょうはどうも馴れ馴れしくっておえねえ』と思われるその人間関係の構築の難しさ。『ここの一員だと認めてもらわなくては』ということが如何に難しいか。単に”田舎暮らし”を美化するのではなく、美しい自然に囲まれた人間らしい生活の素晴らしさと表裏一体の田舎ならではのしがらみと向き合うことの難しさがきちんと描かれていたように思いました。

    そんなこの作品ではやはり不登校となった雪乃がどうやって再び前を向いて進んでいくのか、読者がいちばん注目するのはその点だと思います。上記した通り不登校となる小・中学校生の数は非常に多くそのまま引きこもりとなってしまう例も一定数に上ると言います。自分の子供が突然に不登校になってしまったら、あなたならどのように対応するでしょうか?まさか、うちの子に限って…というような言い方は残念ながら通用しません。誰にだっていつやってくるか、それは誰にもわからないことです。この作品では雪乃の不登校という現実を前にして『英理子の意見はいつも正しい。あらゆる可能性を熟慮した上で導き出された答えを理路整然と述べられたら、つけいる隙などない』という母親・英理子と、『深く考えるより先に直感と感情で(つまり思いつきと気分で)ものを言ってしまう性格』という父親・航介の意見が大きく対立します。『自分が悪くもないのに逃げてしまったら、この先もずっと逃げ癖がついちゃう』と考える英理子と、『学校なんてとこ、行きたくないなら行かなくたっていい』と全く対照的に事象を捉える航介。ここまで両極端な発想がぶつかり合うと、一致点を見い出だす方が奇跡とも言えます。果たしてあなたなら、どちらの考え方が正しいと考えるでしょうか?私だったら…と考える時、航介の考えは確かに素晴らしいと思いますが、自分の子にそう言えるかと言えば正直なところ自信がありません。では、それはどうしてか?学校に行かなかったら何が起こるのか?これは学校というものにその人が何を求めているかによっても異なってくると思います。しかし、そんな航介の考えの中にひとつ大切な視点があることにも気付きます。『大事なのは、今のことだろう』という『今』を見やるその視点。そんな今起きている不登校とはなんなのでしょうか?

    『心安らげる居場所がないのは不安なことです』と語る村山さん。不登校というのは、学校という場に自分の”居場所”がなくなった、と子ども自身が感じるところから始まるのではないかと思います。大人であろうが、子どもであろうが誰だって、全ての人が自分の”居場所”というものを持っていると思います。それは”心安らげる場所”とも言いかえられるものです。そんな場所があるからこそ、人は頑張れる、前に進めるのだと思います。でも、そんな”居場所”がもしなくなったのであれば、新しい自分の”居場所”を求めるのは当然の気持ちです。無理強いしたって解決するものでもありません。『ここにいていいのだと信じられる場所、ほんとうの自分を受け容れてもらえる場所さえ見つかったなら、誰もがもっと生きやすくなるし、自信を持てるし、ひとに優しくなれるんじゃないか』と続けられる村山さんは、『そうした場所を見つけようとして今までいた場所に別れを告げるのは、決して〈逃げ〉ではない』とおっしゃいます。私たちは、”レールを外れる”ことを極端に恐れます。”レール”から外れさえしなければいつか道は晴れる、そんな風に考えることもあると思います。でも、それは誰にもわかりません。”レール”の先に続く人生だけが全てではありません。特に雪乃のような小学生であればその未来は無限の可能性に満ち溢れています。今までいた場所から違う場所へ移ることで、自分の”居場所”が見つかるのであれば、その選択を応援してあげたい、見守ってあげたい。そんな航介のような考え方に容易に立てるとは思いませんが、それでもその考え方は否定したくはありません。しかし一方で、現実はそう単純ではなく、新しい”居場所”がそう簡単に見つかるはずもありません。いくらフィクションと言ったって、”田舎暮らし”をしたら全てが上手くいきました!なんて安易な展開の物語は誰の心にも残らないでしょうし、村上さんがそんな安易な決着をされるはずがありません。単行本380ページの物語は、『起き上がり小法師とおんなじだ。てっくりけえったら、ほー、何べんだって起き上がンねえと』といったヒントを村の人たちにもらいながら『今の自分を好きになれないからと言って、ただぐずぐず悩んでいては何ひとつ変わらない。ずっとこの場所で立ちつくしているのが嫌なら、少しずつでも努力して、自分が変わっていくしかないんだ』、と雪乃が自ら気づいていくその瞬間までをじっくりと時間をかけて描いていきます。それはきっと、あなたの心にストンと落ちる物語。その瞬間、あなたもこの物語からきっと何かを手にすることができるはずです。

    『「バイバイ、また明日なー」って手ぇ振る時、その明日が早く来ればいいのにな、って思うかどうかなんじゃねえの?楽しいとは、また明日、の明日が早く来ればいいと思うこと』という明日を期待し、明日が来るのを楽しみにできる人生。それは、自分の”居場所”があって、そこに安らぎを感じられる、その前提の先にあるものなのだと思います。

    この世の中には色んな考えの人がいます。『誰かの頭の中にある考えを、こちらがぜんぶ理解できるとは限らない。無理やり変えさせることもできない』、それも現実です。心安らげる自分の”居場所”をそんな誰かに期待したって始まりません。”逃げる”んじゃなくて、自分の”居場所”は自分で見つけていく。そのためには、自分なら変わることだってできる、そう考えるところから始まるのが人生なのだと思います。

    「雪のなまえ」という書名のとても優しい響きに心惹かれるこの作品。それは、”居場所”がなくなったと感じ、新たな”居場所”を探し求める全ての人々のための物語。美しい長野の自然の中に、力強く生きる人々の優しい微笑みを通して、自分の”居場所”というものを考えるきっかけをくれた、そんな作品でした。

  • 学校での"いじめ"がもとで引きこもってしまった主人公・島谷雪乃は、父親の実家に転居する。その場所でまわりの人々に支えられ、回復と成長をして行く物語。
    保守的な土地の人たちに心ない言葉を浴びせられるが、身近な人々に守られ強く成長する雪乃の姿がとても良かった。

  • 雪乃ちゃんが小5なので、自分が小5~中学の頃のことを
    思い出しました。
    イジメはバリバリありました。
    今の時代、変わっていませんね。
    だからこの先もなくならないだろうなと。

    ちょっと前に週刊文春の見出しで「小室圭さんのイジメ」があり、「そんなこと書かれちゃうんだ」と同情しました。
    いえ、決してイジメを容認しているわけではありません!
    ただ、その年頃って皆、未熟だから、10年も経って今頃、
    いくら眞子さまの婚約者だからって、そこまで晒すのもどうかと思っていたのです。

    話を元に戻して、とにかく未熟な者同士なので
    イジメ撲滅は当分ムリだと思います。

    イジメられている子が絶対やってはいけないのは自殺。
    ひきこもりも、無理して通うのもお薦めしません。
    この本にあるように、転校が今のところベストではないでしょうか。

    逃げているのではない。
    違う環境に身を置くのが、とても良いことだと思います。
    今イジメにあって悩んでいる子がいたら
    ぜひ読んでみてほしいです。

  • 学校へ行けない子、過去に学校に行けなかった人、あと、学校に行けない子を持つ親御さんにぜひ読んでほしい。

    すごく自分と重なる本だった。
    不登校だった!
    舞台になってる県に住んでる!
    今は農家もやってる!!笑

    都会から仕事を辞めた父と田舎の曾祖父母の元へ引っ越してきた主人公雪乃。
    この田舎が私が今住んでる県だから、作中の田舎モンの訛ってる話し方や方言も自分にはすごい馴染む。笑
    それが私にはすごく良かったけど、この訛りや方言が読みにくさに繋がる人もいるのかなあ…とちょっと思ったり。

    それとお子さんを持つ方にぜひ読んでほしいなと思った理由が、私自身が不登校になったことで親との関係は最悪な物になって、そのせいで私は今も苦しい。
    不登校が悪いとか、良いとかじゃなく、この本の雪乃の心理描写って本当に上手に書かれている。
    それを考え方は正反対でもなんとか理解しようとしてくれる両親。羨ましいなあと思った笑

    場所が変われば変わるとか、そんな簡単な話じゃないと思う。
    実際ここに書かれてる田舎の嫌なとこはまさに現実でも同じような感じだし、そんなうまくいくもんじゃない。

    学校に行けない子。本人はすごく悩んでる。
    何でいけないんだ。どうしたらこの子のためか。
    親もすごく苦しいと思う。
    この本の夫婦、親子の在り方って、いいな。と思う。
    こうだったら良かったなと思う。
    親だから子だからじゃなくて、1人の人間。1個体として相手を尊重するのって大事だと思う。

    学校に行けない?意味がわかない。
    そんな人でも、相手の気持ちが理解出来なくても、理解しようとすることはできる。
    この本は行けない苦しさが上手に書いてあると思う。
    興味があったら手に取ってみてほしい。

  • 学校でのイジメが原因で心身ともに傷つき学校に行けなくなった雪乃は、会社を辞めて農業を始める父と共に、曾祖父母の住む長野へと移住する。
    自分の仕事を捨てられない母を東京に残して。

    田舎の自然、農業、周囲の人々、みんな良いが、正反対なタイプの両親が、ぶつかりながらもお互いを大切に思い、雪乃を愛している姿がとても良かった。

    都会で傷ついた女の子が、田舎に行き、再生する物語。
    そんな何度も読んだことのある系の話なのだが、その女の子は小学五年生。この年齢が、絶妙で良かった。

    田舎で少しずつ心を癒しながらも、どうしても学校に行けない雪乃。
    そう簡単には、めでたしめでたしとならない展開も、幼い雪乃だからこそ、素直に感情移入できた。

    今、学校に行けない児童・生徒たちが読んで何かを感じてくれたらいいなと思う作品でした。

  • 雪乃がまた歩き出すことができて良かった。

  • 村山由佳さんは友人から昔借りて読んだが
    恋愛小説のイメージが強い

    「雪のなまえ」は
    不登校の雪乃を支える家族、友人
    新参者が新しい地で奮闘する姿
    が描かれている

    仕事を辞めて祖父母のもとにいくことを決めた父の航平
    家族と離れて編集の仕事をする母英理子
    昔気質の厳しい祖父
    穏やかな優しい祖母
    航平の幼なじみで協力してくれる広志と息子

    都会からきて学校もいかない娘と新しいことを成し遂げようとして反対される父
    快く思わない人々

    子のため白い目を向けながらも
    家族のこと、夫の仕事のことを話しながら頭を下げる英理子の姿に目頭があつくなる

    新しいことに挑戦や古傷と向き合うことは容易ではない
    でも前にすすむためには必要なこと

    大切なことをこの本は教えてくれる

  • クラスでのいじめが原因で学校に通えなくなってしまった小学5年生の雪乃は、父親と共に東京を離れて、曽祖父の暮らす田舎へ移住する。長野と山梨の県境にほど近いその町で、農業を継ぎながら新生活を始めるつもりが、なかなか思うようにはいかず……。

    ”逃げ癖”。こわい言葉だと思う。雪乃がまわりから言われる言葉。
    でもつらいことから逃げるのって、責められるほど悪いことなんだろうか。そもそも、逃げるってなんだろう?
    子供にとっては学校生活が世界の大半を占めていて、そこがうまくいかなくなるとそれこそ生きているのが苦しくなるほど辛かった記憶が私自身にも山ほどある。
    だから学校に行かなくなることを、逃げる、とはあまり言いたくない。
    世界がそこ以外にもあることを知り、守ってくれる人、味方になってくれる人は大勢いて、自分が生きやすいと思える環境を新たに探すことなんだと主張したい。
    逃げじゃない。甘えじゃない。あくまでも選択肢を増やす、世界を広げることとして捉えたい。学校は用意されていても、無理して通い続けることだけが必ずしも正しいわけじゃないよね。
    大人になるとその苦しさがどうも薄れて忘れられてしまうようなので、もし娘が壁にぶつかったときには広く選択肢を示せるように肝に命じて心がけていたい。

    曽祖母であるヨシ江の、
    「婆やんはな、雪ちゃん。無理に学校行けって言ってるんではねえよ。そこんとこは、お父さんお母さんの意見もよーく聞いて、自分で考えて決めたらいいだ。ただな、時々、ちょこっと考えてみてほしいだよ。今の自分は、何をどれだけ辛抱してるかなあ、ってな。畑仕事を教わりたい気持ちは本当でも、それはもしかしたら、したくねえことから目を背けてるだけなんじゃねえかな、ってな」
    という言葉と、
    「だからね、なーんも気にすることはねえに。今のうちに、めた失敗しとけばいいだ。迷子になっとけばいいだよ。あっちこっちうろうろして、電信柱におでこぶっつけたり、穴ぼこにはまったりして、ちょっとくれえ怪我したっていいに。いっくらでもやり直せるだから、な」
    という両方の言葉を大切にしたい。
    それに子供だけじゃない、大人だって同じだから。柔軟に、しなやかに変わろう。たくさんの姿に名前をかえる雪のように。

  • 良かった。
    登場人物が心の温かい人々ばかりで救われる。
    重松清氏の中学受験の文章になりそうな感じ…

    東京の小学校である日、お友達を庇ったことからイジメの標的に。心を病んで不登校になる雪乃。パパの実家の田舎へ2人で移り住み曽祖父母と一緒に生活を始め、雄大な自然や畑仕事、新しく始めるカフェの手伝いをし、学校へは通わないながらに社会と通じながら生活していく。ママとの関係も離れて暮らすことで雪乃は人を思いやること、周りにどれだけ助けてもらい守ってもらっているのかを痛感する。

    少しずつパパの友達の息子、大輝を通じて同級生たちと仲良くなり学校へも最後は通えるように。


    子どもの発する言葉がストレートなのと、田舎特有の狭い世界での密度の濃い人間関係との描写が秀逸。

    途中から一気読み。面白かった。小中学生にオススメな一冊。他作品も読んでみたい!


    畑をただ引き継いで耕すだけじゃなく…外様だからこそわかるこの土地の良さを、価値を、ここに住む人たちにも気づいてもらいたいんだよ。 p. 80

    井戸水がいくら温かいといったって、何度も雑巾を絞れば指先は痛くなる。それでも繰り返し洗っては拭くにつれて古い家の中が清々しくなってゆく過程を目の当たりにすると、雪乃は背筋が伸びるのを感じだ。家と一緒に、心の内側まで整ってゆく気がするのだった。 p.82

    畑をを良くするのが、野良仕事、っつうわけだわ
    p. 266

    そういう地道で真面目な態度って、少しずつでも積み重ねていったらすぐこの気持ちいいと思うんだよね。身の回りの全部が清々しくなってってさ。p.338


  • 今まで読んだ純愛や官能小説とは違って主人公の
    ゆきのを中心にその家族の成長の物語で田舎の
    風景描写や納屋を皆んなが憩うカフェへと変貌
    していく様子が綺麗で面白かった。
    小学生のゆきのが本当に小学生なのかという発言
    には驚いたけど、其れも両親譲りなんだろうと
    思った。

全121件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

村山由佳
1964年、東京都生まれ。立教大学卒。93年『天使の卵――エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞をトリプル受賞。『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞受賞。著書多数。近著に『雪のなまえ』『星屑』がある。Twitter公式アカウント @yukamurayama710

「2022年 『ロマンチック・ポルノグラフィー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村山由佳の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×